第20話【戦場集会】
荷支度を済ませて、玄関のドアを開けると――あまりの驚きに声も出なかった。
「……スミカ。てめェには今日一日――」
「ッスポーン!? ななななんでここに!! ってか家知ってんの怖ない!?」
仁王立ちスタイルのスポーン。まだ寒い日が続いていると言うのに、黒のタンクトップを着こなしている。首にも腰にも身に着けたチェーンネックレスをじゃらつかせながら、厳つい口元を歪ませていた。
「黙れ! 今から俺の言うことをよく聞けこらァ!」
「怖いって!!」
溢れ出す筋肉。踊る筋肉。何と言ったら良いのか、ボディビルダーほどの爆発筋肉ではなく、かと言って痩せマッチョなどとは到底言えない。スポーンはスタイルこそ良いものの、傍から見て明らかな筋肉質な狼さんなのだ。
しばしギャイギャイと騒ぎ、息切れした。
「ハァッ、ハァッ、てめェスミカこの野郎」
「はぁっ、はぁっ、野郎じゃ……ないっつーの」
まだ家の扉を開けただけなのに、一体何の騒ぎだろうか。
はて? 冷静に考えると、スポーンは私に何の用事があって来たのだろう?
「聴け。今、俺たち『ビースト』は狙われている。今日はてめェのお守をしてやる。もちろんケンタや先生にも護衛をつけた」
「あ、ニッタのことはちゃんと先生って呼ぶんだ」
頭に怒りのマークが浮かんだスポーン。面白いなぁ、段々慣れてきた。
「……で、ニュース観ただろ。あれが原因だ」
さっきパパが慌てて飛び出した原因でもあるニュース。なにやら著名な議員とかが不審死したっていう――それと何か関係があるってこと?
「ニュースでは報じられなかったが、早朝にケーボーが直接現場で確認したそうだ」
「な、何を?」
開いたままのドアに腕をもたれて、私の顔をじっと覗き込む。
「『DARK』の文字だ。わざわざオーラで遺体に刻んでやがった。日本人を中心に拉致被害を出している暗躍グループ、つまり狭間で事件を起こせる敵対組織のことだ」
「!?!?!?」
「あァ、何も知らないって面してんな。先日スミカが襲撃にあった奴らを覚えてるか?」
勿論覚えている。なんか大人のイケメンと、暗い雰囲気のイケメンのことだろう。
私は若干笑顔になりながら首を縦にブンブン振って頷く。
「……まぁいい。とにかくそいつらが去り際に、こう言ってやがったんだ」
『――近々、名乗ります。それまで怯えていてください』
冷たい風が通る。雲った朝空を眺めながら、不穏さだけを感じ取った。
「じゃあ、そのダークって言うのが……」
「多分それが名乗りだ。いつどこで、誰が襲われるかわからねェ。だから陰から守ってやるっつってんだよ」
私が昨晩寝ている間に色々な出来事があったのだろう。
世間的には私たちのような超能力者の存在は当たり前には知られていないし、狭間のことも誰も知らない。でも、突如として人が消える事件、獣の傷跡のようなものが付いた遺体が見つかった事件は、私も以前からネットやテレビで知っていた。
これからの世の中は一体どうなってしまうのだろうか。
「物思いにふけってねェで、さっさと学校に行ってきやがれ。視界には入らないようにしてやるからよ」
この狼、何だかんだ言って優しいのよね。勿論大好きな推しの一人にこう言われる日が来るなんてーー
「……ありがとう、スポーン。頼りにしてるよ」
何も起きない、そうであって欲しいな。
――【都立AP学院 渡り廊下】
都内で起きた事件ということもあり、緊急で全校集会が体育館で行われるらしい。熊の出没もあってか、最近は学校内も騒めいている。
渡り廊下を歩きながら制服のスカートを揺らす。次々と生徒達が体育館へと吸い込まれていくのだ。ちょっとしたダンジョンに突撃しているみたい。
変な考えが頭を過ったその時、後ろから黒髪の見知ったイケメンが通過する。
「あ、ケンタ――」
彼は私をチラッと見て、そして真剣な眼差しでコクッと頷く。いや、もうちょっと何か会話とかあるでしょ。アイコンタクトのみで気を付けろとでも言いたいのか。イケメンは素早く体育館へ吸い込まれた。
――【都立AP学院 体育館】
――【2028年 3月1日 AM8:34】
暫くして、全校集会は始まった。私は2年生ということもあり、丁度体育館の中央付近で、ただボケっとつっ立っていた。隣にはマホがいるから謎の安心感があるのだ。
教師陣は両サイドに位置し、担任のニッタもそこに並んでいる。私はチラチラとニッタを見ていたけど、普段通りの様子だった。
眼鏡を掛けて赤いジャージを着て、腕組しながら目を瞑り、それだけでも可愛さが際立つのにサラッとした長い茶髪もまた絵になっている。
「――えー、生徒の皆さんが安全に過ごせるように、地域社会と連携し、我々教師も一丸となって取り組む所存です。また、昨今の不況にも影響している――」
校長挨拶は、なぜ途轍もなく長く感じるのだろうか。きっとまだ2、3分しか経過していないのに、もう飽きている私がいる。体感時間は現実に流れる時間とは別次元なのだろう。きっとそうだ。
「ねぇ、スミちゃ」
私の後ろにいたマホが声を掛けてきた。
「なんか言葉にするのがムズなんだけど、スミちゃここ最近何かあった? 性格というか、何というか雰囲気も変わったような」
「あー……」
妖魔のことやノバフラとの件は内緒中の内緒。もちろん大切な友達のマホにも言えないんだけど、万が一襲撃に巻き込まれるようなことがあったら白状するしかないよなぁ。
「んとね、ほら、成長期!」
つい誤魔化してしまった。本当は嘘を吐くのも嫌いなのに、マホを巻き込みたくない一心で答えたけど……。
「スミちゃ感受性たかー!」
小声での会話は、私たち以外にもあちらこちらに聞こえた。それだけ校長の話が長いってことだね。
「ーー皆さんが大人になった頃には今の日本は……ん? 誰だねキミは?」
それは一瞬の出来事だった。
校長の右隣に、瞬きより速くこの人は現れた。
「……」
パーマ頭の長身の人物。スラッとした細身のスタイルに似合うデニムジャケットに薄茶色のカーゴパンツ。タイトなマフラーを巻きつけ、カジュアルな印象が強い。
不思議と、私の感覚では人に危害を加えるような人物には見えなかった。でもーー
ビキッ!!
ーー来た。体育館の全ての窓が黒く染まり、唯一の出入口だった先も、まるで底の見えない穴のような漆黒になる。
狭間への強制空間転移。しかも体育館全体を。
間違いない、私たちの敵対組織『ダーク』の一人……。
館内が騒めきだす直前、その人物は校長が使っていたスタンドマイクに向かってーー
「皆さんそのままお静かに。動かないで。初めまして、ボクは怪しい者です。今から彼の言うことをよく聴いて下さい」
なに!? 何なの!?
再び驚愕が支配する。校長の左隣にもう一人の人物が瞬時に現れた。
どこかで見たことあるような、カラフルな帽子を被った背の低い少年。中学生くらいに見えるその姿は、シンプルな紐付きパーカーとジーンズで纏まっていた。
「……ッ!?」
えっ、嘘でしょ、声が出ない。なんで?
周りの皆も同じように動揺している。しかも、脚も動かせない……ッ!!
「どーもー。校長せんせーを僕らでサンドイッチのように挟んでますけどもー、今からやるのは漫才ではありませーん」
まるで緊張感のない台詞なのに、状況が相まって段々と恐怖に駆られる。
校長は目を見開いたまま、汗を流していた。
「これより『ゲーム』を始めまーす。その名も『嘘つきは誰だ』ゲーーーーム。今回の特別ゲストは、間も無く登場しまーす」
少年のやる気の無い声と同時に、動ける者たちがいた。
それは獣の被り物を装着し、勇ましさと度胸を兼ね備えた男ーー
「おいスミカ。てめェ動けねェのか?」
スポーン♡♡♡
ナイスタイミング!!
「(なんかよくわからないけど動けないし声も出ないのよ!!)」
あかーん! 私の背後から超カッコ良く登場したスポーンに何の想いも伝えられん!!
そして壇上の両端にはーー
「ちょっとボクちゃんたち、今は全校集会中よ?」
「ゲームは自分も好きっスけど、空気読んでくれないと」
テラ&ジータス♡♡♡
やはりニッタとケンタのバックアップで来てくれていたのね!!
臨戦体勢ではなく、腰に手を当てて呆れるように中央の彼らに声を掛けた。安心感が段違い。
そして、動ける者たちだけが余裕のある発言と行動が許されているようだった。
「はい、今登場したのはゲストの皆さんでーす。クソめんどくせぇけど、今回のターゲットは、彼らだけではありませーん」
「生徒の皆さんは安心してください。彼らの死を確認したら、ちゃんと解放する予定です。一部の生徒と先生を除いてね」
理由は一切わからない。でも彼らは私たちを襲撃してくる。私も一緒に闘わないと、ただ無駄に命を落とすだけだ。
パーマ頭が右腕をスッと正面に伸ばし、指を弾いて音を鳴らす。
「さっそく始めましょう。ゲームの参加者は、今動けない生徒の皆さんと先生方です。ゲストの皆さんは、そこで大人しく観戦していてください」
大人しくなんてしないでしょ。こっちには、あの喧しいスポーンがいるんだよ。
私のすぐ隣にまで来たスポーンを横目で見ると、思わず噴き出しそうになった。
「(てめェこの野郎! 動けねェぞコラァ!)」
めっちゃプルプルしてる。産まれたての小鹿のように。
同様に、テラとジータスもなんかプルプルしている。産まれたての小鹿のように。
「(あれ? これ非常にまずくない?)」
音咲スミカです。音が咲くってステキな苗字だと思いませんか?
思いません? 思いませんかー……。
そんな良し悪しも、ぜひ声を届けてください。
感想、評価などお待ちしています。ってことを我らがノバフラリーダーことケーボーイ様も願っています。さぁ信者共よ、集え我がリーダーの元に。元気の源ノバフラを推して参ろうではないか! さぁ!
「てめェこの野郎ッ! NGだ!!」




