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はみだしパラドックス  作者: 御実ダン


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18/21

第18話【胸いっぱいの自己中心主義】



 ――【2028年 2月29日 PM10:14】


 ――【東京都 目黒区 ???のアジト】


「……ん」


 ガリブルが目覚めそうだ。何が起きるかわからない人間関係、僕は同胞達を信用していない。

 さもすれば、いつ命を狙われても不思議ではないのだ。


 人を殺せる。妖魔(デーモン)も殺せる。

 それだけの力を、このメンバーの誰もが持っている。


 僕は膝をついてガリブルの上体を支えていた。


「ここ……は……」


 薄っすらと眼を開く彼女を視認しつつ、僕は警戒を怠らない。


「――アジトだ。無理に動かなくていい」


 任務に支障をきたした人物を、こいつらの内一人でも許さないとなれば、処刑は容易に想像できる。

 自分でも納得のいかない、そんな理由で僕は彼女を支えていた。


「……(ヤマイ)さ――」


「静かに」


 シッと人差し指を彼女の口に当てる。意識が戻ったばかりの顔は、やや熱そうだ。

 ヘアゴムを失った蜜柑(みかん)色の髪が、重力に従っていた。


(ヤマイ)殿、ガリブル殿は大丈夫であるか?」


「……あぁ、多分な」


 いち早くガリブルの意識回復を察知した信仰(シンコウ)が近寄ってきた。

 夜を照らす月の輝きが、薄っすらと窓から入り込んでいる。男の顔は、心配と安堵だった。


「良かった。(それがし)、仲間が傷付くのは辛い……心苦しいのだ」


 どの口が言う。お前も人殺しの一員だろう。……と、以前の僕なら思っただろうな。

 感情的で、若干涙目の信仰(しんこう)を見ると、とてもそうは思えなくなっていた。


「……ユタカさん」


 抱きつくように、僕の胸に顔を埋めるガリブル。


「怖かったんです」


 そう一言だけ。僕はその言葉の意味をまだ理解できない。


「思考が……流れてきました。まるでわたしの記憶のように、ユタカさんの記憶が」


「ちょっと待て。もう一度言うが、ここはアジトだ」


 まずいな。僕の名を呼ばれる危険性を彼女はまだ――


「へぇ、あなたユタカって言うのね。可愛い名前じゃない」


「ッ!!」


 ――僕は視野を広げて全員の動向を把握していたつもりだった。それなのに、瞬間移動にも思える速さで認知の外から目の前に現れた。


「サイコパス殿!」


「ッちょっと信仰(シンコウ)! バカみたいにフルで呼ぶのやめてよ!? サイコって略されるのも嫌なのに!」


 僕にナイフを投げてきた例の女だが、こいつも癖が強いのか。


「ねぇ、ちょっといいかしら」


 ほんの少し、僕は腕をマフラーのようにしてガリブルを包む。


「その()、名前は何ていうの?」


「……目的はなんだ」


 ガリブルが言葉を発する前に先制を取る。状況が重く、危険だ。

 サイコのもつ潜在オーラが僕と同等か、それ以上に感じていた。


「わたしね、能力をマックスまで高めるためには『()()()()()()()()()()』が絶対条件なの。この()を助けたいんでしょ?」


 胸元のスリットが大きく開いている。

 前屈みになるその姿は、まるでサキュバスのように誘惑しているようだ。


 そして、今のサイコには殺意がない。

 それを察したのか、ガリブルが口を開く。


「斉藤……マフユです」


(それがし)は『尼寺(アマデラ)コウタロウ』である」


 思わずサイコは「あんたも名乗るの!?」と首を振り向ける。もちろん僕も信仰(シンコウ)を凝視した。

 そして即無視を決め込む。


「いい()ねマフユちゃん。わたしは『上霧(カミキリ)マイ』よ。今からあなたの体内に宿るオーラの巡りを良くするから、リラックスして」


 そう言うとサイコこと上霧(カミキリ)マイは、マフユの胸に両手を当てて、能力を発動した。

 なるほど……不思議な能力だ。青いオーラがマフユの蜜柑色のオーラと繋がり、その循環スピードを瞬時に高めているのが視える。


 血の巡りが良くなるような、そんな高揚がマフユの体内で発生していた。

 彼女たちのオーラが美しくすらある。


「……すごい、すごいです上霧(カミキリ)さん!」


「うふっ、マイって呼んでいいのよマフユちゃん」


 混じり合うオーラが、およそ最大値まで達した頃、マフユは元気を取り戻した。

 活力を得た眼が、生き生きと上霧を視ている。


「……さぁて。次はユタカくんよ」


「なにッ?」


 しゃがみ込み、マフユの上半身を支えていたせいで、僕は一瞬の隙を突かれた。

 首に腕を回され、マフユごと抱き着かれる。


「ま、マイしゃん……胸がっ……おっき……むぎゅっ」


「おい、離れ――」


(はむっ)


 耳たぶを噛まれた。そしてその体勢のまま、先と同様に僕のオーラを勝手にかき混ぜて……



 グググググググン――



「こっ、これは――」


 心底驚いた。正常の状態だというのに、僕の覚醒した時の赤いオーラが、通常の黒いオーラと混ざりあっていた。


 体内で起こった変化は、溢れそうなほど強力なオーラを再び宿した。


「ユタカくん、あなた……嘘吐きじゃないみたいね」


 僕もマフユも、すっかり回復した。これだけで上霧を信用するのは軽率だが、真意は一体。


「サイコ殿、某にもお頼み申す!」


「えっ、嫌だわ。ちょっとまだ話続いてるからあっち行ってて」


「!?」


 なぜか信仰(シンコウ)こと尼寺コウタロウは端折られた。

 寂しそうな背中で、頭を掻きながら去って行く。


 ――立ち上がった僕とマフユは、上霧の言葉を待つ。


「ふたりとも身体はどう?」


「はい、おかげで元気になりました! ありがとうございます!」


「……」


 僕はまだ様々な疑問が浮かんでいる。まだ、上霧の言葉を待つ。


「ユタカくんさ、上位妖魔(グレーターデーモン)の更に上の存在を倒したって言ったじゃない?」


「……奴は『妖魔神(デーモンマスター)』と名乗っていた」


 上霧は腕を組んだが、その勢いで胸が持ち上がっている。抜群のスタイルのようだが、なぜかマフユも同じポーズを無理やりとっていた。


「なぜわたしがマフユちゃんとユタカくんを回復させたのかと言うとね――」


 ゆっくりと距離を詰め、僕とマフユの顔を舐めるように視てから答える。


「わたしね、たぶんそろそろ殺されると思うのよ。だから助けてほしくって」


「「ッ!?」」


 両手を合わせて拝むように、はにかむその笑顔には騙されている気がしてしまう。


「近日中ってところかしら。ね、お願い♡ 協力して」


「マイさんが殺される!? そんなのダメです、『わたしがマイさんを守ります』!」


「おい、勝手にそんな――あぁ、信じたヒトの眼をしている……」


 手遅れ感満載の、そんなマフユを見て僕は諦めた。


「力をくれたことには感謝する。だが、どういうことなのか説明しろ。僕が納得しないうちは協力しないぞ」


「もうっ、ユタカさん疑り深い」


 マフユはそもそも歪みの原因が『騙されやすい(ガリブル)』イコール『信じやすい』だからなあ。


「いいわ。ちょっとだけ耳を貸して」


「いや、その距離で十分聞こえる」


 僕の言葉を無視して、また耳元に近づく上霧。


()()()は、リーダーの『万杯(バンザイ)ユウ』よ。あなたと彼女に入れた妖魔の血は、わたしたちとは違うわ」


 なんだって? どういうことだ。


「さっきまでのユタカくんとマフユちゃんは、わたしと同等の力を持っていた。同胞なら皆わかっていたことよ。その人のオーラを視れば強さはわかる、でも私の能力は()()()()()()()


 まだ耳元に張り付いている上霧。殺意がないとはいえ、正直迷惑している。

 一々、吐息がくすぐったいんだよ。


「わたしの歪みは『サイコパス』。そしてその意味は『反社会性パーソナリティ障害』。わたしは社会の遅い動きに疲れていたの」


 社会に溶け込めない自己中心主義か。そしてその能力は――


「わたしはね、名前のついた物なら何でも速く動かせるの。物質でも何でも、妖魔の血でも」


「僕の身体(ナカ)に赤いオーラが視えたのか?」


 ようやく離れてくれた。マフユが若干不機嫌になっている気がする。


「えぇ。オーラは速く動かせばより練度が増すの。そして人間の血と妖魔の血が完全に混ざれば、そのポテンシャルは最大化する」


「そこまでして助けて欲しいのか?」


 一瞬驚いたように、反応する上霧。


「うふふ、ユタカくんって面白い。人間は死にたがらない生き物よ。生きるためだったら何でもする。面白いことに、自分さえ良ければ他人なんてどうでもいい、そう思うのが人間よ」


 特に言い返す言葉もない。僕だってそう思うからな。

 他人なんてどうでもいいが、僕が他人と違うのは、生に執着などないということだ。


「でも、わたしはサイコパス。他人の命もわたしが好きにしたいの。いいでしょ?」


「マイさん、わたしは助けてもらったら恩返ししたいタイプですよ」


 マフユも納得したか。いや、最初からか。


「……わかったよ、上霧マイーー僕を利用してみろ」


 遠くで、腰に手を当てている大柄な男、尼寺コウタロウ。

 彼は今、もの凄く寂しそうな小さな器でこちらを眺めていた。






某、尼寺コウタロウと申す。『信仰』の名で活動している者だ。

いいね・ブックマーク・☆評価・レビューなど、足跡を残してもらいたい。

遥かなる旅路の軌跡を、其方と共に歩みたいのだ。

期待しておるぞ。

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