第16話【神】
僕は今、高揚している。
「……」
全身から溢れ出る狂気の赤いオーラが、僕の身体の内側から外へと発せられているのが分かる。
この変化を受け入れた時点で、グレーターデーモンのおおよその戦力が把握出来た。それは即ち、絶対に倒せるという自負心へと繋がっている。
「……貴様ら妖魔に分かるか。僕の痛みが」
両手の親指と小指をつけたまま、照準を巨大な対象へと向けた。
前に突き出した両手を横に構え、牙の如く、浮いた6本の指でググッと噛みつくようにオーラを込める。
「――『闇の牙』」
ズガァッッ――!!
「「グボォッッ!?」」
およそ800メートルは離れているだろう長距離の一撃。グレーターデーモンの左肩から腰にかけて大きな風穴が空いた。
「「な……何が……何が起きた!?」」
紫色の大きな巨体は轟音と共に膝をつく。
まるで地震のような揺れが発生するほどの巨体だ。
斜め前方に、微かに命の鼓動を知覚――ガリブル、まだ息はあるようだ。
地面の硬さもわからない空間を、一歩ずつ歩き出す。
「「ぬぅっ、再生できん……あのヤマイとかいう小僧がやったのか……?」」
何とも不思議な奴だ。人間なら心臓を貫かれた時点で命が尽きるというのに、忌々しいほどの存在感を出していやがる。
「……憎い」
僕がデーモンだとするならば、これほどの同族嫌悪はない。絶対に仕留める。
眼前に、ピクリとも動かないガリブルが横たわっていた。
僕と同じように、かなり吹き飛ばされたようだな。
そっとしゃがみ込み、首元に手をあてがう。か細くではあるが、脈はあるようだ。
先の鋭く尖った爪で傷つけないように、そっと上半身を起こす。
「おい」
「……」
「おい、眼を開けろ」
気絶している。意識さえ戻れば、ガリブルの能力でどうとでも復帰できそうなものだが。
ゆっくりと彼女をこの場に寝かせ、グレーターデーモンを見据える。
そうこうしている内に、奴の様子に変化が現れた。
「「グゥゥ……オオオォォ……」」
何かしようとしているな。今のうちに息の根を止めてやる。
闇の衣を纏った小烏丸が、奴の足元に転がっていたはずだ。その刀のオーラを辿るように、超高速で移動する。
チャキッと音を立て、僕の右手に収まると同時に、縦に一線――
ズバッッ!!!!
「「ッガ……」」
巨大な身体を真っ二つにするも、深刻なダメージを与えた手応えがない。轟音を鳴らして地面に崩れたはずが、奴の覆っている闇のオーラはまだ活き活きとしている。
なるほど、コイツはつまり。
「……心臓を貫こうが、身体を引き裂こうが、どこか余裕がある。おまえの実体は、闇のオーラそのものだな?」
「「ック、クハハ……」」
ドロっと融解する巨体が、地面へと吸い込まれるように消えていく。纏わりついていた闇のオーラが再び凝縮されると、形を有さないまま声だけが響き渡った。
「よく気付いたな、小僧」
邪悪な紫色のオーラは、より禍々しさを強め、人の形をとりはじめる。澄んだ声は、先の者とはまた別の何か。
「どうだ、まだ答えを聞いていなかったが、我らの仲間にならぬか?」
「……」
全身が紫色で人の形を成した何か。ただのグレーターデーモンであれば、それは一個体としての存在のはずだが、これは更に上位の存在ということなのだろう。
「小僧も我々と同じだろう? その赤いオーラはどこか懐かしい。おそらく――」
僕は接近戦を試みる。赤いオーラを纏わせた小烏丸で切り崩すが、ただ貫通するだけ。
「クククッ、対話は不要か」
瞬間、大木のような太い拳が足元から生えるのを察知。バク転で切り返すが、連続して地面から突き上げてくる。轟音が続く。
「よく避けおる……やるな小僧」
10発は避けた頃、正面から拳の壁が豪速で迫った。身を捩り、手の中の小烏丸を奴に投げつけ、同時に発動――広げた右手をグッと閉じる。
「『猛毒散布』」
大爆発を巻き起こす。
広範囲の空気を瞬間的に圧縮し、僕の生成した可燃性の猛毒を小烏丸を中心に起爆。これならどうだ?
粉塵が巻き起こるが、奴の姿は僕の眼が捉えている。あまり効いた様子はない、か。
刹那、視界が闇に染まる。
「これは……」
身体を覆われた? いや、闇を圧縮したオーラに囲まれたか。
「クククッ、喰らえ小僧」
ズバババババババッッ!!!!
四方八方から迫る闇の斬撃。だがこの程度の威力なら僕のオーラで防げる。防げるが、反射毒は奴を弱らせるには至らない。
舞い散る粉塵は霧散し、視界が開ける。
「チィッ、効かぬか……はっ!?」
実体が無いに等しい奴にダメージを与えるなら、僕のオーラを直接奴に流し込むしかない。
両手を横向きに合わせ、再び牙を剥く。
「消えろーー『闇の牙』」
ズガガガガガガガッッ!!!!
粉々になるまで喰らいつく。先に放ったものとは別格の、圧縮された僕の斬撃は更に威力を増す。
人の形をした何かは、ただの塵と化した。
……はずだった、直後――
「無駄よ、無駄ァ」
背後に奴の気配が現れた。
だが次の瞬間、奴は僕ではない、更に後方に身体を背ける。
「あの小娘、まだ生きておるのだろう?」
「ッ!?」
奴がドロッと地面に溶けるのを見て、僕は地を蹴りガリブルの元へと飛ぶ。間に合うか!?
「……うっ」
首を片手で捕まれ、持ち上がる身体。苦痛に顔を歪めるガリブルだが、まだ意識は戻っていないように見える。
「さて、小僧よ。我らの仲間にならぬというのであらば、此奴の首をこのまま潰すぞ」
……下衆め。くだらない策に辟易する。だが一つ、奴の言葉で気になることがある。
「教えてくれ。なぜ僕を仲間にしようと?」
ほんの僅か、数秒の沈黙の後、奴は言葉を発した。
「クククッ……この世に神が存在しないように、我々の世にも神はいない。だから、小僧のような悪魔も目指すべきなのだ」
「目指す?」
掴んだ首を解放することなく、空いた手を大きく広げるパフォーマンス。
「人間の言葉で言うならば『魔神』か。世界を支配する我らの象徴だ。小僧らは我を妖魔と呼んでいたな? さすれば我と同様、『妖魔神』とでも言おうその神の素養が小僧にはあるのだ」
何とも迷惑な話だ。神を目指せだと?
何一つ根拠のない奴の言葉だが、なぜか心が騒めく。僕の身体に流れる妖魔の血が滾っているのか。
「話は理解した。だが、納得がいかない。おまえ自身が神を目指すのならまだ分かるが、ライバルを増やす意味なんて無いだろ」
するとこの個体は、顔に手を当て再び笑い出す。
「クククッ、そうだな、我らの血と人間の血が混ざる小僧にはまだわかるまい」
ガリブルを眼前に突き出し、声を張り上げる。
「神は何体いてもいい! 多ければ多いほど、破滅の日は近くなる! ヤマイよ、人間を滅ぼせ! 人間は悪だ、悪の根源などこの世にいらぬ! 我らこそ正義!」
僕は大きなため息を吐いた。奴の口から正義ときたか。
「もういい、黙れ」
ゆらゆらと漂う赤いオーラがピンッと張り詰め、僕の身体を覆い尽くす。
原動力は怒りか、悲しみか。最早それすら自分でも感じられないほど、強い想いが止まらない。
「……おまえに言われなくても悪は滅ぼしてやる。神でも何でも悪なら全てだ」
逆立つ赤髪、釣り上がった眼。衣のように纏った僕のオーラを、目にも止まらぬ速さで奴の伸びた腕に絡ませる。
「ッ!!」
ブチィッ!!
単純なことだった。こいつは悪のオーラの塊。ならばそれを上回るオーラで包み、圧縮するだけで消し飛ばせる。
狭間の地へ横たわるガリブル。僕は悪だ、闘いが終わるまで彼女を支えることなど出来やしない。
「……クッ、クククッ。ヤマイ、殺すには惜しい男よ。神を目指さぬ妖魔など、存在意義も価値も無い! 死ねッ!」
体積は減ったものの、奴は更なる形態変化を魅せる。オブシディアンのような漆黒にしては、随分と穢らわしい。鋭い多角形の棘、ただの闇の塊だ。
風を切るような音を立て、激しく回転しながら僕目掛けて突進する。しかし――
「……とっくに決着は着いている。おまえの敗因はオーラ総量、質の読み間違いだ」
僕の眼には止まって視える。両腕を伸ばし、毒々しい赤のオーラで奴を球体状に捕獲。
「ッ!?」
「僕の瘴気で弱体化していることに気付かなかったようだな」
尖った爪の先を見据え、指に力を込める。
「――『瘴気圧縮』」
グシャッッーーーー!!!!
「ターゲット、始末完了」
こいつは我々と言った。
闘いは始まったばかりだ――
ヤマイだ。⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価・ブックマーク・いいね・感想・レビューなど、反応を示せ。
僕には視える。この闘いは始まったばかりだ。
「病、意味がわかりません。テイク2いきますよ」
これもダメなのか?




