第13話【ようこそ永田町へ】
――【2028年 2月29日 PM8:42】
――【東京都 千代田区 永田町】
スマホを取り出し、情報を確認する。
ターゲットは『桝田金吉』と『柳橋富録』。
共に70代の男で、見た目はごく普通の健康な高齢者といった雰囲気だ。胸には議員バッヂが付けられているが、現時点での服装は最新版として更新されている。
どうやら『プログラム』という仲間は優秀らしい。
僕とガリブルは、予定された現場付近、ビルの屋上で待機中。もちろん無人で、監視カメラから外れた場所から料亭『神家飯盒』を見下ろしている。
――そして、支給されていた無線イヤホンから音声が届く。
「あーあー、マイクテスト、マイクテスト♪ こちらプログラム。みんな元気ぃー? さあ始まります今夜のヒットキル。これから一人ずつ通信チェックをするぞぉ~! 呼ばれたら返事はしなくていいから耳に手を当てまっショウ! おじさん視てるからねぇ~? ヨォ、チェケラッ♪」
男の声は若々しいが、何となく法則よりも年上そうな雰囲気を感じる。30代だろう。
なんてテンションの高い奴だ……。
メインアタッカー:『病』『ガリブル』
サブアタッカー:『信仰』『偽善』『サイコパス』『大喰い』
バックアップ:『法則』『ゲーム』『BOT』
「オオォーッケェーイ!! 準備万端オレ簡単♪ あ、別にラップは得意じゃないぜイェー♪」
なんだこいつ。
「もしぃ? なにかぁ? はぷはぷハプニンッが発生したらぁ? イヤホン横のスイッチを押してオレっちを呼んでねー! グッドラック!! アデュゥ~!!」
通信が終わって直ぐに無線が入る。
「ねぇ今の奴なに? なんかムカついたんだけど」
「わたし生理的に苦手だなぁ~」
遮るように再度無線が。
「ヘイヘイヘイ、サイコちゃんにオオグイちゃーん!! キミたち、無線飛ばすなら最初にコードネーム言ってから発言しよ!? 頼むぜレイディー!! あと任務終わったら俺と夜の東京デートしよヒャアウッ!!」
緊張感が無い。隣のガリブルも怪訝な顔をしている。
こういうのは苦手か。納得だ。僕もだ。
「大喰いでーす。キモイでーす」
「こちらサイコ。こいつ後で殺すわ」
皆、何を考えているのか。まぁお手並み拝見だな。
そしてようやく我らのリーダーが声を発する。
「法則です。お遊びはここまでにしましょう。――皆、集まってくれて感謝していますよ。現状、予定通りターゲットらは移動を開始しています。全体で18名のボディガード、及びターゲット2名、複数の議員と料亭内の人間は既に『ゲーム』が支配中のため、我々は視認されません。サブアタッカーの4人は任務達成後に追加で来るであろう応援部隊や、こちらに気付いた人間を無力化してください。全員、くれぐれもターゲット以外は殺さないように、慎重にお願いしますね」
冬の最後は肌寒い。レザージャケットが風で靡いていた。
ガリブルは僕の隣で真剣な目つきになっている。良い兆候だ。
「送られた情報で確認していると思いますが、今回のインナーミッションは世間への見せしめです。病、ガリブル、準備はいいですか?」
国の重要人物が消される事実。汚職にまみれ、世を汚している張本人が誰なのかはっきりさせる。
僕たちの目的は、ただの復讐――ではない。
無線イヤホンに手を伸ばす。
「こちら病。準備オーケーです」
ガリブルもそっと手を耳に当て、応答する。
「こちらガリブル。世直し頑張ります」
それぞれがそれぞれの暗い過去を断ち切った。後は進むだけだ。
「――では、21時丁度にミッション開始です。プランAが進行不可になり次第、プランBへ移行してくださいね。緊急事態発生時は初めからプランCを決行してください。以上」
――【2028年 2月29日 PM9:00】
――【料亭 神家飯盒 入口前】
――ブゥンッ!
入り口の前には屈強そうなボディガードが4人立っていたが、突然目の前に現れた僕らに気付いていないのか、反応を示さない。これはゲームの支配する能力だな。視認できないのであれば暗殺は容易い。
僕とガリブルは同時に中へ入る。頭に叩き込んだ料亭内の地図、最奥の部屋にターゲットが固まっているはずだ。
ここまで何も問題は発生していない。筋力を上げた瞬足を駆使し、スピードを意識して現場へ直行する。
通路には何名か料亭の人間がいたが、こちらもまた僕らの存在に気付けないでいた。
と、ここで大きな乾杯の音頭。
どうやら会合が始まったようだな。ガリブルも僕の隣を余裕でついてきている。
既に開かれていた障子襖の前に立つと、ターゲットの姿を視認できた。
すかさず通信を入れる。ここまで数秒しか経過していない。
「こちら病、ターゲット確認」
「同じくガリブル、ターゲット確認」
ふと、ここで小さな違和感があった。ほんの小さな違和感だ。
会場にいる大勢の議員たちが飲み始めている最中、ターゲットの一人である桝田金吉が僕を視たような気がした。腰の低い長テーブルを挟んだ、その先で。
「こちら法則。了解、実行してください」
その音を聴いて瞬時にターゲットへと飛ぶガリブル。僕は必殺の構えをとる。
親指と小指だけを突き出し、グッと噛みつく。
「――『死の蠍』」
「――『わたしの手は何でも切れる刃』!」
笑っていた。
僕じゃない、桝田が……だ。
ギイィィィン!!
凄まじい金属音が鳴り響くが、柳橋の懐へ飛び込んだ筈のガリブルの腕が、まさかそのターゲットに片手で掴まれている。
「……良い音ですなぁ」
「――ようこそ永田町へ」
心臓の奥底に響くような、耳障りな重低音。
同時に展開された空間転移――フィールドは狭間へと強制移行された。
――【次元の狭間】
桝田は座ったまま何の変化もなく、握ったビールジョッキを傾け、美味しそうに音を立てて喉に流し込む。
暗い空間だ。相手の姿は僕には視えるが、周囲には何もない。漆黒の闇。
……効かなかった。致死性の猛毒、即死のはずだったのに。
「ッ病さん!!」
そして腕を柳橋に掴まれたまま、座り込むガリブル。そうか、視えていないんだな。
ゆっくりと立ち上がる老人は、掛けていた眼鏡をクイッと直す。
「キミはヤマイと言うのか? まだ若造じゃの」
腕の痛みに顔を歪ませるガリブルに対し、僕はつい変なことを考えてしまった。
――ギャドッ!!
「ぬっ」
間合いなど有って無いようなもの。豪快な飛び蹴りと同時にガリブルの腕を掴み返すと、彼女を庇うように片腕で抱きかかえ、距離をとる。僕らしくない。
そうこうしているうちに、桝田は飛ばされた柳橋の隣に並び立つ。自身の後頭部を撫で、桝田は凍てつく笑顔を向けてくる。
「キミたちはぁ……あれかね」
柳橋はノーダメージか。
「我々の、仲間ではないのかね?」
「!?」
どうなっているんだ。見た目はただの爺さん二人だが、明らかに何かしらの策を講じている。
質問の意図は恐らく僕らの『血』を感じ取ったからか。
僕はメンバー加入時に、通過儀礼で妖魔の血を体内に取り込んでいる。
それが、仲間だと錯覚させたのだろう。そういう認知か、こいつらは。
一先ず、抱えているガリブルに声を掛ける。
「――緊急事態だ。プランCで行くぞ」
「あぁ~病さん凄く良い匂いがする……この距離感、包容力、落ちない女なんていないのでは?」
抱きかかえていない方の手で頭に拳骨をくれてやる。
「痛ッ!? ごめんなさいわたしが悪かったです……」
「じゃあ行くぞ――」
狭間から脱出しようとしたその時、妙な感覚が身体を刺激する。一瞬身体が振動したかと思うと、口の端から血が零れた。
激しい痛みが全身を襲ってきたが、これはなんだ?
プランCは全ての作戦中止、即刻退避もしくはーーの手筈だったが、まずいな。
「だ、大丈夫ですか!?」
「……だめだ、この狭間に閉じ込められている。アイツら、おそらく棘のある障壁のようなもので空間を保管している。狭間の主導権はあっちだ」
脱出しようと試みるも、脳から全身にダメージ信号が発せられた。
残る手段は限られている。
「おっとぉ、失礼だよキミぃ。柳橋さんが『仲間か』と聴いているではないか」
ああ、なるほど、こいつら――
口内の血をペッと吐き出し、応えてやる。
「悪いな。お前ら妖魔と違って、僕らは人間なんだ。どうせなら正体を見せてみろよ?」
静かに喉を鳴らしたかと思うと、徐々に高笑いへと変化する桝田。
柳橋の肩をポンと叩いて合図している。
「ハハハハ、よかろう、その勇気に免じて魅せてあげよう」
「……ただ死にたいだけじゃろうて」
――ググググ……ググググアアアアァァア!!!!
「ぐ、グレーターデーモン!?」
「……そうみたいだな」
変身を終えたその姿形は悪魔的で、二体とも禍々しい双角が生えている。全長は5メートルくらいだろうか。それでも奴らの中では小型に分類されるであろう妖魔の上位種、グレーターデーモンは、薄気味悪い笑い声を発している。
「ハハアアァ……つまりぃ、我らの敵ということで良いのだな?」
視界の左半分に紫色の空間が広がる。身体が青いデーモンが元桝田。
そして――
「答えなぞ決まっておろう……」
右半分が緑色の空間に染まる。こっちは赤いデーモン、元柳橋。
「だいぶ視やすくなったんじゃないか?」
「そうですね、汚いけどだいぶ明るくなりました。わたし、本気出しますよ。病さんを殺そうとするヤツなんて許しませんから」
さて、裏プランC『緊急事態につき、襲撃対象を撃破・殲滅』だ。
イヨォ!! チェケラッ
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価・ブックマーク・いいね・感想・レビューゥゥゥ!! ンヒャアアアアア!!!!
オレっちの名前はプログラム♪
魅力全開立ちくらむ♪
リスナーのみんな元気ィ!?
さぁ今夜のヒットナンバーはーー
「録画止めろ止めろ、つまみ出せ!」




