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はみだしパラドックス  作者: 御実ダン


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12/21

第12話【思い込みの力】



 ――【2028年 2月29日 PM2:13】


 ――【東京都 渋谷区 原宿ストリート】


「いいか、街中では絶対にコードネームは言うな」


 不貞腐れながらも、隣を歩くことを許してしまった。

 目的地もなく、ただ人混みに紛れているだけ。


「はっ、はい」


 周囲は人に溢れ、アパレルのビルや飲食店などの商業施設が目立っている。

 主に若者たちが闊歩しているこの街に、僕らは溶け込めているのだろうか。


「その……何て呼んだらいいですか? お名前……」


 ついさっき、ガリブルは僕に本名を暴露したばかり。この場で偽名を伝えたところで、後々ヘタな小細工が仇となる可能性がある。


 本名、斉藤マフユ。決めつけは良くないが、まあまあこいつはポンコツだ。


「……ユタカ。山木(ヤマキ)ユタカ」


「あ、ユタカさんですね。わかりましたユタカさんっ」


 なぜこうも嬉しそうにニコニコしているのだろう。理解が及ばない。

 僕には喜怒哀楽の感情が欠けてしまったということなのか?


「ねえユタカさん。わたしのことはマフユって呼んでください」


 ずっと視線を合わせずにいたが、初めて眼を直視してしまった。そして一考する。


「……なるほど、偽造か」


「偽造!? あっ、カップル!? いえそんな別にカップルのふりをするとか手を繋いだりとかハグしたりだとかチューとかそんな――チュー!? やだ、もぉ~」


 頬に手を当て僕の反対方向を向いたまま、謎の照れから放たれる平手打ち。

 それを僕は、顔を後ろに下げてヒョイッと避ける。


 マフユの無意識な攻撃は、最早どうでもいい。

 他人を信じることに抵抗のある僕が今すべきことは、マフユを知ることだ。


 それはあくまで、今夜のインナーミッションを完璧にこなしたいがため。マフユ自体には興味はない。


「ユタカさんはいまおいくつですか?」


「……18だ。春には19になる」


「じゃあ、わたしの一個下ですね。わたしも春には20歳になります」


 心底どうでもいい。が、夜にはこのマフユと共に殺しをやる。足を引っ張るなよ?

 なぜこんな奴を相棒(バディ)にしたんだ、法則(ホウソク)……。


 他愛もない会話など何年もしていない。僕が13歳の時の事件以来、心の扉をこじ開けてきた法則(ホウソク)を除いて、こいつが二人目だ。


 なるべく僕の情報は与えたくはない。


「あ、ユタカさんお腹空きましたよね。ご飯食べませんか?」


「……マフユが決めろ」


「えっ、わたし決められないです。ユタカさんが決めてください」


 周囲を見渡し、ファーストインスピレーションで沿道の店を指す。


「あのカフェでいいか」


「はいっ!」


 ――ぎゅ。ぎゅっぎゅっ。ぎゅー。


「……」


「ん~これは偽造です。よりソレっぽくしないといけないのです」


 身体を寄せ、ほぼ密着するように腕に絡みつかれる。しかも満面の笑顔で。

 あぁ、これは引き剥がすほうが悪目立ちするやつだ。


 どうやら僕の瘴気には耐性があるらしいし。

 内心嫌だが仕方がない。諦めが肝心……か?



 ――【原宿 カフェ『マグ・カップル』】


「んんんっ、美味しいッ!」


 運ばれてきたのは……パンケーキをはじめ、たらこパスタにシーザーサラダ、ミニサイズのピザ。


「……」


 そして食後にはパフェが待ち構えている。


「お腹……空いていたのか?」


 一心不乱に口に貪るその様子から、言わなくとも分かるけれど。


「すっ、すいません、昨晩から何も食べていなくて……なんか恥ずかしいです。ユタカさんは食べないんですか?」


「僕はこれで十分」


 熱々の珈琲が全身を温め、集中力を研ぎ澄ましてくれる。

 あまり意識したことはないが、どうやら僕は黒が好みのようだ。頭の毛先から足のつま先まで、全身黒。


「……黒がお好きなんですね」


 笑顔を向けられて、少々困惑している。


「マフユ。僕にあまり干渉するな。慣れ合いは死を招く」


 その言葉を聴いて、いや聴こえていないフリを必死に繕ってモグモグと食事に集中するマフユ。


 ーーしばらく食事の時間が続いた。


 会話らしい会話もなく、僕のカップも底が見えている。

 そんな時だ――巨大な物体が目の前に現れた。


「お待たせ致しました~! 冬の味覚盛り合わせフルーツビッグパフェでございます~!」


 ふざけているのかってくらいにデカい。高さ30センチはありそうだ。

 余程の甘党でもない限り、このパフェは完食不可能ではないか。


 思わず女性店員に視線を向けてしまい、瞳が彼女を捉えてしまった。


「ひっ! ……あぁっ!」


 今まさにテーブルに着座しようとしていたパフェが、ぐらりと傾く。



 ピタッ。グググッ……。



「!?」


 僕の眼がおかしくなった訳じゃない。ピサの斜塔の緩い角度とは段違いに傾いたパフェの大きな容器が、その場でピタリと静止している。


 なぜだ。なぜ倒れない?


「うわ~! 美味しそうです~!」


 何事もなかったようにマフユの両手は容器を捉え、手元に引き寄せられた。


「えっ? あっ、失礼しました、こちら専用スプーンになります」


 不思議そうな顔を残したまま店員は足早に去っていった。さて。


「……マフユ。おまえの能力か?」


 さっそく頬張ろうと口を開けたマフユだが、視線を僕に向け、一旦手が止まる。


「えっとですね、わたしは騙されやすい女だってことはお伝えしましたよね?」


「あぁ」


「それを言い換えるなら、わたしは『信じ込みやすい』んです。わたしはわたしの思い通りになるんです」


 笑顔を絶やさないマフユは、パフェを頬張り幸せそうにする。

 なるほど、これは厄介な能力だ。


「思い込みの力って言うんですかね。わたしが思えば病気にもならないし、このパフェも絶対食べるって決めたら口に入るまでは必ず形を保ってくれます」


 持っていたスプーンは、特に何もしていないのにグニャグニャと曲がる。


「ただ……わたしは……騙されてもいいから、幸せになりたいんです」


「……そうか」


「そうかって……まあいいです。ユタカさんはどうやらわたしの能力の適応範囲外のようですし、ちょっとずつ好きになって貰えたらそれでいいです」


 マフユにもきっと壮絶な過去があるから、今こうして僕らのメンバーに加わっているのだろう。

 でも、人に好かれたい気持ちは、僕にはまだ理解できない。


 僕は別に幸せになりたくはない。


 ――こうして結局、陽が落ちるまで街をぶらぶらしたり、ウインドショッピングをして時間を潰した。決行の時は近づいている。もう他に用事などない。


 人気のない路地裏で、周囲の目を気にしながら心を無にする。


「マフユ、僕につかまれ」


「は、はいっ」



 ――ブゥンッ!



 空間を瞬時に移動する技術【幻想転移(イマジンワープ)】は、法則(ホウソク)から教わった。


 目的地を鮮明にイメージした状態で、一瞬だけ狭間を挟む。

 ただそれだけのことだ。これは現実世界でのみ使用可能だが、慣れが必要だった。


 今、僕たちは、とあるビルの屋上にいる。

 今夜、僕たちは人を殺す。躊躇なく。


「準備はいいか、()()()()


「……はい。(ヤマイ)さん」


 冷たい夜風は、残酷に、平等に、全てに吹いていた。






わ、わたしはガリブルと申します。⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価・ブックマーク・いいね・感想・レビューがくると信じています。

思い込みの力です。Xもやっていますのでよろしくお願いします。

@after_0gold


続きは日付の変わる0時頃に更新予定です。パフェ美味しかったです。

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