2-3 城壁都市を抜けて
検索したところ、このアンミュンの町には約10万人もの人口がいるらしい。地上の街並みを見る限りではそこまで多くの人が住める街には見えないが、地下が発展している影響でその人口を抱擁できるようだ。
城壁内には小さめの池があるくらいだが、水は昔から地下経由で取れたらしく、城壁から数kmほど離れた場所に川もあるようで水源には困っていないようだった。僕は役割を終えた城壁を眺めながら全世界の平和を願っていた。僕は城壁の内側に戻り、そしてホテルまで戻る。調べごとしたり散歩しながら、土曜日を過ごした。といっても今の段階で調べられることには大したものがなかった。
都市伝説曰く、アンミュンの国には自分と同じような体験をした人が集まるという施設があるらしいが、探してみてもそれらしいものは発見できなかった。もしかしたら地下にあるのかもしれないがわからない。ただ、3つの小学校、2つの中学高校(一貫校)、そして大学もあるようだった。大学を置くには若干城壁の面積が狭いようにも感じるが、それでも10万人近くの人間を抱擁することができるほどには発展しているようだ。
残念ながら日本語を話している人も発見できなかった。これは仕方ないだろう。今は日曜日の19時だ。明日は6時に早起きするプランである。僕は夜ご飯として店に売っていたカップ麺を食べ、必要なことを検索した後、明日の朝に向けて21時には睡眠を取ることにした。
もしかしたらこの間にもっと東に進めていたルートがあったのかもしれない。しかし、アッサード国の北にあるアムジャム王国の首都であるマークランチェのパラナマーイ空港からもバンダの国への直行便は出ていないようだった。アッサード国は三方を海に囲まれたような地形をしているので、それよりさらに遠くに行くとなると今以上に時間がかかるだろう。自分のルートが最善だと言えるかまではわからないが、そこまで悪いものではないと思っている。
僕はそんなことを考えながら眠りについた。土日は観光で時間を潰すことができたが明日からはちゃんと動き出さなければならない。僕は、ベッドで眠りに落ちた。
朝起きると5時半だった。予定より少し早い時間に起きることができた。僕は顔を洗い、シャワーを浴びてトイレに行った。トイレも元いた世界と同じ形状で助かっている。僕は朝食を近くのコンビニで買って食べた後、朝のボトルコーヒーを買い、7時になったら地下の駅まで向かって行った。
電車は7時12分に来る。日本にある電車と同じような形状だ。僕はその電車に乗り込み、さらに東の方へと向かった。地下鉄で窓の外の景色が何も見えないので、目的地のアリト市について調べることにした。
アリト市のショッピングモールの写真を見る限り、現実世界の日本にあるようなショッピングモールと大差ない。アリト市のサイェバン駅前にはロータリーがあり、バスが結構な頻度で来ているようだ。ショッピングモールの奥の方に見えるバスのロータリーの奥の方には住宅街と思われる街並みが広がっているように見える。
少し楽しみになってきた。正直、この世界に対する姿勢として観光気分という一面があるのは否めない。指定された場所で誰かに会った後どうなるのかは一切聞かされていない。ただ、夢ではないという謎の自信だけはあった。
自分は電車に揺られながら調べ物をしていた。電車は長いトンネルの中を通っていくが、しばらくすると電車が地上に出たようで外が明るくなる。木が多い山の中にある街といった印象の場所に出た。いくつかマンションや建物と思しき建物が林立しているが、ショッピングモールのような建物は見えなかった。そしてしばらくすると田んぼが多い場所に出た。日本にもありそうな田園風景だが、ところどころに風車が立っているのが印象的だった。
田んぼの中には白い服を着せたカカシのようなものが立っている。すべてのカカシの上に風車が乗っていた。どこかで見たことがあるが思い出せないカカシだった。
気が付くと眠ってしまっていた。目を覚ますとクワルテ空港まであと20分とのことだ。車窓から外を見てみると様々な建物が見える都会になっていた。遠くには山が見える。中華風の都市といった印象だ。たまに高層ビルの中に穴が開いているものがあった。
調べてみると、どうやら運気の流れが関係しているようだ。運気は伝説の山脈であるイトトウリ山から風に乗って流れて来るが、高層ビルがあると遮られてしまう。そのため高層ビルに穴をあけて運気が建物の向こうまで届くようにしているらしい。具体的な運気が流れてくる方向・その量は星の動きや曜日・気候・干支など様々な要因によって変わり、結婚式をあげるのは運が高い日などと、冠婚葬祭の日時も決定時の運気をもとに決定するのが一般的のようだ。運量は実際の行事の日ではなく、予定を決めた日のものが大事らしい。行動を起こそうとした段階で結果は決まっているという思想に基づくようだった。
元いた世界ではいわゆる「風水」というものだろう。僕としてもそこまで詳しいわけではない。クワルテの人は昔から風水をもとに行動を決めており、近年ではメディアやテレビなどでも報じられるほど生活に密着している概念のようだった。