8-7 音のない世界
彼女は、特に何もなかったと思う、といっていた。自分は未だに音のないあの世界が気になっている。
「そっちが書いてたことを覚えてるかはわからないけど、自分は東工大で目を覚ます前に変な世界を経由してたんだよね」
彼女は真剣に僕の話を聞いてくれた。青がかった音のない世界で謎の女性に声をかけられ、女性が電話でどこかに何かを話した後、自分に10秒カウントさせて目が覚めたらこっちの世界に戻ってきたということを伝えた。
「時空のおっさんみたいだね、あっちの世界で話したの覚えてる?」
自分は、何となく覚えていると伝えた。ただ自分の場合はおっさんではなくお姉さんと言った感じの人だった。
「顔覚えてる?」
ゆーまはそう聞いた。思い出してみると驚くように思い出せない。顔にモヤがかかった感覚だ。
「誰かが言ってたんだけど、時空のおっさんの世界はセーフモードみたいなもので世界観の緩衝材みたいな役割らしいよ、迷い込んだ人を返すための」
彼女はそう言った。あの装置で自分は緩衝材の世界に戻されたのだろう。肉体ごと来ているならばそう言うこともあるのかもしれない。当然納得できているわけではないが自分はそう思うようになっていた。
お互い異世界の話で盛り上がる。こっちの世界に戻ってきてから、自分もい世界について様々なオカルトの話を読んだ。似た体験をしている人はいたが、全く同じ体験をしている人はいなかったと思う。
「話してると楽しい」
ゆーまはそういってくれた。異世界で出会わなければ確実に今は合っていないだろう。僕は、ありがとう、と伝えた。
「この後アルバイトがあるから、私は15時くらいで抜けるけど、また何かあったらDMしてね」
彼女はそういった。今は14時半だ。
「あと30分ね」
僕は軽く伸びをした。あの時の立ちくらみが再来する。ただ今回は意識が戻ってきた。シンプルに貧血なのかもしれないが、あの日以来立ちくらみ恐怖症になっている。自分は鉄分のサプリでも取ろうかなと考えた。
「大丈夫?」
ゆーまはそう言ってくれた。交通事故で異世界に行ったゆーまは立ちくらみ自体は怖くないようだ。
「貧血?」
自分はそう言った。男子で貧血って珍しいとゆーまはいっていた。
「大丈夫ならいいんだけど」
ゆーまはそういった。少しばかり鉄分が足りていない気がするが、そこまで体調に異変はない。
「でも,だいぶ話したいこと話せてよかった」
僕はゆーまにそう言った。彼女は、こちらこそ、と言ってくれた。




