8-3 再会
「え……」
僕も彼女もびっくりしていた。伊藤さんを近くで見てみるとゆーまの面影が残っている。実際の記憶のゆーまとは当然異なっているが兄弟くらいには似ていた。
「伊藤悠茉さんですよね、記憶とは違いますが面影が残っているのでそうなのかな?と思いました」
彼女は、ゆーまです、と返事してくれた。話し方を聞くとゆーまの話し方を少し思い出す。僕も、お久しぶりです、と返した。
「私が想像していた加藤さんと全く同じ人でした」
「この世界で女性だったらわからないかもしれないと思っていましたが、面影残っている気がします」
改めて僕たちは驚いていることを伝える。
「とりあえず、ドトールで話し合いましょ」
彼女はそう提案した。僕は、駅前の通り左手にあるドトールまで向かった。人が多いがそんなことが気にならないくらい彼女のことが気になっている。店の中は暖房が効いていて暖かい。明るいジャズの音楽が流れている。
僕はとりあえずMサイズのアイスコーヒーを注文した。彼女は、じゃあ私もそれで、と話した。2人分のコーヒーが運ばれる。僕は、店の奥の方にある、椅子が2つある席に座った。
僕はアイスコーヒーに何も入れずに飲むのが好きで、ストローを指して一口飲んだ。彼女はガムシロップを入れてマドラーで中身をかき混ぜながら話した。
「何から話します?」
確かにいろいろ話し合いたいことが多すぎる。僕は、とりあえずあの文章のことについて話すことにした。
「文章送りましたけど、あれ読んでどう思いました?」
僕は彼女に聞いて見た。彼女は答えてくれた。
「あーあれね、読んでてびっくりしましたね。本当に2人が同じ経験を共有していることに。交通事故中に経験した臨死体験的なものだと思ってました」
僕もそれについてびっくりだ。彼女は話す。
「実際集合的無意識?的なやつなのかもしれないけどね、やっぱり現実にいると知るとびっくりしますね」
彼女はそう言った。そして、僕に質問をした。
「私はあなたの文章を読んで確信しましたけど、あなたは何がきっかけで私が同じ体験をしていると確信しましたか?」
彼女はそう言って、一口コーヒーを飲んだ。僕も一口飲んでから答える。
「DMのメッセージで『別の世界で会いましたよね?』って聞かれたときでしたね、普通そんなこと聞かないと思って」
彼女は笑いながら話を聞いてくれた。彼女としても、メッセージを送るとき文面を10回以上推敲したようだ。
「いきなり『異世界で旅しましたよね?』と聞いてもなんだこいつと思われないかなと思ってあんな文面になったんですよね」
彼女はそう付け加えた。実際は同じ経験をしていない人だったり人違いだったら確実にやばい人扱いされることを加味したらしい。僕は話した。
「正直あなたじゃない人が僕のパソコンをハッキングして名前を騙って書いてるのかなとか一瞬思いましたけど、それはそれでって感じだったので。僕が想定している『ゆーま』ではない人(一緒に異世界を旅した人ではない人)が来る可能性は0ではないと思っていましたけど、その時はその時でって楽観視してましたね。送っている人が誰なのかについては、100%『ゆーま』だと確信はできていませんでしたが、『ゆーま』じゃなかったら誰が来るのかは気になってました」
彼女は笑いながら聞いてくれた。話し方のくせや笑い方、話すときの仕草などが完全に記憶の"彼"と同じだ。僕は異世界でゆーまとどう話していたかを思い出した。女子と話すことにそこまで慣れていない僕だが、ゆーまとはあの時と同じノリで話せる気がする。
「本当にあなたで良かった」
彼女も僕が思い出したことを察したようで、あのときの調子で話してくれた。
「私も、初めてDM送るときめちゃくちゃ緊張しちゃって。人違いではないかとか、人違いじゃないにしても自分と同じ経験をしているかどうかとか。何言ってんだこいつって思われないように文面を1文字1文字選びながらメッセージ送ってたけど、それでも大丈夫かなと何回も推敲してましたね」
僕としては同じ経験をしているという示唆の文章だけでゆーまである可能性が高いと確信した。結局同じ人だったので問題なしだ。彼女は、僕が書いた文章にコメントしてくれた。
「あと文章読んで思ったけど、初めて会ったときのこと『整っている』とか『綺麗』って書いてあって嬉しかった!」
「え、残ってた!?」
基本的に彼女に送った文章は彼女(彼)に対する外見的な記述は取り除いていたつもりだが見落としがあったようだ。僕は急に怖くなってしまった。ただ、悪いことは書いていないはずだ。
「ごめん」
僕はそういった。彼女は、大丈夫、と笑ってくれた。向こうの彼は笑顔が爽やかな好少年だったが、目の前にいるゆーまは話を聞いてくれている時も話をしてくれている時もずっと可愛いイメージだ。
「正直、あの世界なんだったと思う?」
彼女は僕に聞いてきた。僕は、今でもただの夢だった可能性を捨て切れていないが、こうやって実際に話している以上、自分の脳が勝手に作り上げたもの以上の何かがある可能性を否定できずにいた。
「なるほど......」
彼女は相槌を打つ。逆に聞き返してみたが、わからないという反応だった。僕は、夢じゃなかったらいいねと返事をした。そして、僕はあることを思い出した。
「そういえばさ、10月ごろに幼稚園アルバム見てたらさ、ゆーまの名前があったんだけど」
当時は連絡する手段がなかったが、今ならこうやって話せる。僕は、幼稚園名を伝えて反応を見た。
「みずほ幼稚園じゃない?」
僕は彼女に聞いてみる。彼女は、そう!と話してくれた。
「初めて会ったとき、『どこかで会ったことない?』って思ったけど、否定されてこっちも記憶違いかなと思ってたけど、本当に会ってたんだ!」
僕としては、会ったことないと思っていたというよりは、実際に会っていないと思う。実際にゆーまを目の前にしてもあった記憶がない。正直、彼女の顔に見覚えを感じなかった。
僕は全く覚えていなかった。彼女の話を聞きながら、僕はコーヒーを少しずつ飲んでいく。




