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8-1 冬が終わる頃

 2026/3/7。


 僕は2年半ぶりにこの文章の続きを書いている。一応続きとするが、どこで終わるかはわからない。

 

 あの夏に経験した出来事もすっかり忘れていた頃だ。忘れたと言っても思い出す機会がなかっただけで、経験したことすら忘れていたわけではない。記憶の1つとして脳内に定着していた感じだった。


 最終章に「僕はこの夏に経験してきたことをすぐに忘れてしまうのではないかと恐れはじめてきていた」的なことを書いた記憶がある。実際、あの文章がなければ特に思い出すことなくゆーまの名前は忘れてしまっていたかもしれない。しかし、書いたおかげなのかどうかはわからないが、実際そこまで忘れずに済んでいる。この心配が杞憂だったかまではわからないが……。


 先ほど、いつも通りSNSを見ていると、伊藤悠茉という名前をフルネームでユーザー名に設定しているアカウントがおすすめユーザー欄に出てきた。アイコンは初期アイコンのままだった。なんだろうと思ってプロフィール欄を見てみたが何も書いていない。アカウント開設は2024年の2月(2年前)だった。


 個人情報がわかるツイートは何もしていなかったが、返信欄に「(懸賞のツイートに対して)よろしくお願いします」だったりとか、「ファミリーマートのフラペチーノが抽選で当たる」的な内容のツイートや、「このツイートをフォロー・リツイートした人の中から抽選で1名にギフトカードプレゼント」的な内容をリツイートしていた。いいね欄を覗いてみると、6日前にYouTuberの懸賞やゲームのギフトプレゼント企画をいいねしていた。


 フォロー数は3桁でフォロワーは2桁だった。内訳を見て見たが、フォロー欄はYouTuberや有名なクリエイターさんが多く、フォロワー欄はほとんど初期アイコンの人だったが、1人だけオムツを履いている二足歩行のピンクのうさぎのような動物をアイコンを設定している人がいた。


 僕は本名を設定しているアカウントで、そのアカウントをフォローした。すると数時間後、彼女(現実世界の「ゆーま」は女性なので、ここでは「彼女」表記を用いています)からフォローバック及びDMが来た。


「突然のDM失礼します。私は神奈川県在住の伊藤悠茉と申します。SNSの通知を見ていると、あなたの名前が目に留まりました。同姓同名の方でしたら申し訳ないのですが、東京に在住しており、現在東京工業大学情報理工学院の大学3年生(新4年生)の方でしょうか?」


 この文章を読む限り、僕が知っている伊藤さんで間違いなさそうだった。SNS上には書いていない、向こうで彼女と話した学歴や出身情報が書かれている。続いてメッセージが届いた。


「もしそうでしたら、少しばかり話したいことがあるのですがよいでしょうか? もし人違いでしたら申し訳ありませんが、スルーしてください」


 僕は文面を考えて返信した。


「はい、私は神奈川県在住で、現在科学大(2024年に東工大から名前が変わりました)の情報理工学院に所属している大学3年生(新4年生)の加藤と申します。」


 すると向こうから返信が来た。


「ありがとうございます。私が想定している加藤さんで間違いないようです。私は慶應大学の理系学部に通っている女子大学生です。お時間よろしいでしょうか?」


 僕は、大丈夫です、と話した。彼女は続ける。入力中の吹き出しが出てくるがなかなか届かない。文章が長いか、表現を考えているか、あるいはその両方かで時間がかかっているのだろう。タイムラインを見ながら時間を潰しているとメッセージが送られてきた。


「私は2023年の8月4日、交通事故に遭い、そこから1ヶ月ほど病院で寝ていました。ある日、目を覚ましたとき、私は病院で寝ていました。病院で目を覚ましたときに、何故か頭の中にあなたの名前が強く印象に残っていました。知らない人物ではありましたが、一応気になったので書き留めて検索しました。ただどうしてもありきたりな名前なのでなかなか「これだ!」って人がヒットしなくて......。すっかり忘れかけていたのですが、フォロワー通知を見てあなたの名前を思い出したので連絡させていただきました。何かわかりますか?」


 文面だけ見ればかなり怪しく見えるが、自分が通っている大学を当てたという点で本人だと確信していた。僕は、異世界?で経験したことを除いて、単に現実世界で何があったかについて記憶に残る限り正確なことを話した。


「私もその日に交通事故に遭いました。私も行方不明になっていて、私は目が覚めるとなぜか公園のベンチで寝ていました。日付は確か8月11日でした。私としてもすっかり忘れかけていたのですが、あなたの名前がおすすめ欄に出てきてふと思い出したのでフォローしました。」


 文面を考えているのか、メッセージの吹き出しが出ては消えてを繰り返す。約5分後、彼女は返信した。


「返信ありがとうございます。今から2年半ほど前の出来事ということで私としても鮮明に覚えているわけではありません。ただ、少し気になっていることがあるのですがいいでしょうか? もし私がおかしいことを言っていると思ったらスルー・ブロックしてもらって構いません。」


 僕は、数分考えたのち、わかりました、と返信した。

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