1-2 移動開始
朝食はビュッフェ形式であり、様々な食材が置かれていた。主食は小麦粉に野菜由来のパウダーをこねて発酵した食べ物クァドファのようだ。僕は1つ取った。
他にも、クァドファとともに食される大豆サラダ・スープに加え、コーヒーもあるようだ。箸の上がリングで止められたような形状をしている食器と、フォーク・スプーンをトレーの上に乗せ、僕は運んできた料理を席に持っていった。
食べ方はよくわからないが、食器の形状を踏まえてもそこまで違うとは思えない。僕は手を合わせた後、クァドファをちぎって食べた。パンに似ているが、野菜の風味が絶妙に調和していて美味しい。僕は、奥の方に座っていた男性がしていたように、クァドファをスープにつけて食べてみた。これも違う感じで美味であった。
大豆サラダを食べ、最後にコーヒーを飲む。日本で飲んだことのあるコーヒーと若干違うような気がするが説明できない。問題なく飲める味だ。僕はこれでお腹いっぱいになったため、ホテルの部屋まで戻って行った。
さて、目的のBanda国までどう行くかが問題だ。僕は大型のデバイスで移動方法を検索した。端末自体の使い勝手は元いた世界と変わらない。様々な移動手段がヒットするが、飛行機を使うのが一番楽そうだ。しかし、1つの壁にぶちあたった。
「空港まで遠いな」
ここから一番近いムスティ空港まで600kmほどある。直線距離で言えばもう少し近いらしいが、死の砂漠と呼ばれる広大な土地をぐるっと回るように行くしかないらしい。1日では移動できない可能性が高い距離だろう。
また、ムスティ空港からエマアの直行便は出ていないらしい。一度アカル・ティ空港と呼ばれる途中の国にある空港を経由し、そこから600kmほど移動した先の空港でエマアの国まで向かわなければならないようだった。
とりあえず行くしかないと考えた僕は、早速ホテルをチェックアウトして、スーツケースとリュックサックを持って最寄りのフィルハータ駅まで移動した。
荷物はそこまで重くなく、湿度も高くないからなのかわからないがそこまで汗はかかない。そうはいっても喉は乾く。僕は、近くにあったコンビニエンスストアで2Lのミントティーを買った。1口飲むだけで喉が潤うのを感じる。
僕は列車に乗り込んだ。そこまで混んでおらず座ることができた。窓の外には砂漠が広がっている。電車に揺られながら外の景色を観察する。
どこまでも砂漠が続いている。岩石や砂に覆われた世界だ。何もなくて退屈になりそうだ。外の景色が全く代わり映えしない。そんな悠久とも思える砂漠が続いていたが、しばらくすると緑が広がっている森のようなエリアにたどり着いた。僕は、そのまま2時間ほどかけてウェルバイ市駅まで向かった。3時間で100kmほど移動したことになる。
「次の駅はウェルバイ市駅です。お出口は右側です」
電車内のアナウンスがウェルバイ市駅に着いたことを伝える。僕はその駅で降りて昼食を取ることにした。
降車時に切符を出して電車から降りる。緑が広がる大地といった印象だ。森のおかげかどうかわからないが思ったよりも涼しい。僕は駅構内から外に出て、駅前にあったベンチに座った。
昼食として気になる食べ物はいくつもある。自分はWebサイトで検索し、何を食べるかについて考えた。麺類が好きな自分は、小麦粉からできた麺だというジリナ・ヤマズという伝統料理を食べることにした。写真で見たかぎりうどんに似たような食べ物だ。
その専門店はここから300mほど歩いたところにあるらしい。僕は歩いてそこまで向かった。車が多く走っているし、信号の色も元いた世界と変わらないようだった。
専門店にたどり着く。特に入りにくい雰囲気も入りやすい雰囲気もなかった。僕は中に入った。ジャズのような音楽が流れている。
「いらっしゃいませ!」
ウェルバイの人も自分が旅行者という事はわかっていたが、僕がアッサード語を理解できることがわかり安心していたようだ。
「こちらにおかけください」
店員は自分をカウンター席に案内してくれた。自分は持ち物を床においた。
「何かおすすめはありますか?」
自分は聞いてみる。彼は、ジリナ・ヤマズ定食がおすすめだと教えてくれた。僕は、じゃあそれでお願いします、と伝えた。アッサード国は現実世界で中東に相当するような場所だが、ここは現実世界で中東と聞いてイメージするような場所ではない。
「お待たせしました」
十数分後、注文した麺ジリナ・ヤマズとスープ、そして魚を揚げたようなものと野菜が盛り付けられた定食が提供された。僕は箸のような形状をした食器を取った。箸はプラスチック製で上が輪っかで留められているのが印象的だった。麺を一口食べてみた。