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7 終わりに

 大学生の夏休みの1週間が潰れたのは悲しいが、逆にいえばそれくらいで済んだとも言える。この時期はアルバイトもしていなかった(夏休みから始めるつもりだった)ので、何か損失が生じたということはない。単に貴重な夏休みが潰れただけで、学業には支障をきたしていなかったのが唯一の救いだ。


 そしてなぜかはわからないが、お盆休みの期間に入ってすぐ、僕はこの夏に経験してきたことをすぐに忘れてしまうのではないかと恐れはじめてきていた。僕はこの文章を書かなければいけないような気がしていた。箇条書きで書けばいいと思うかもしれないし、実際そうなのかもしれない。しかし、何故か僕はまとまった文章として書きたい、書かなければならない、と思ってしまった。


 印象的だった地名や場所の名前は覚えているが、もしかしたら微妙に発音が違うかもしれない。アッサード語もの言葉も、アンミュン・クワルテ含めたアスフィラン国の言葉も、ワンダの国そしてサジの国の言葉もあまり覚えていない。いくつかの文法的・発音的な特徴は覚えているが、話せるかと言われたらNoだ。この文章には記憶に残る限り正確なことを書いたつもりだが、どうしても現実と違うことがある可能性は否定できない。話の内容も印象的だったものを書いている。他にたわいもない話をしたりもしたが、覚えていない部分は省略した。


 記憶にある会話の内容も一言一句覚えているわけではないので、なんとなくこんな体験をしたというものを文章としてまとめたものだと思って欲しい。ただし、この文章には意図的に入れたフェイクは存在しない。大雑把な流れや、登場した人物の名前、地名など、できるだけ覚えているものは正確に記したつもりだ。

 

 僕は覚えていることをおよそ1ヶ月程度で書ききることができた。今後は推敲の時間になる。自分がこの夏経験したこととしてデータ上に残しておきたい。その一心だった。


 ここまでに書いた内容は自分の記憶をもとに書いている。そのため、実際と異なる部分が存在しているかもしれない。その点を除けば、話の内容が現実かどうかは別として、実際にこのようなことを経験したと認識している。夢落ちと言われれば否定できないかもしれないが、自分としてはこの記憶は夢ではないという謎の確信がある。


 僕は書ききった文章を眺め、思ったより長くなったことに驚いた。そして僕はそれをプリントアウトした。想像以上の分厚さだった。僕は左上をホチキスで止めた。

 

 少しばかり話は変わるが、先日執筆の暇つぶしに卒業アルバムを見ていると、幼稚園のものに伊藤悠茉さんの名前と顔の写真があった。女性だったが、どこか彼の面影を残していた。ただ、幼稚園の頃の写真を見たところで、それがあの「ゆーま」と同一人物かについての確証は持てないし、連絡先も持っていないので話すこともできない。しかしふと、「ゆーま」に初めて会った時言われたことを思い出した。


「どこかで会ったことないですか? 気のせいだったらすみません」


 当時の僕としても頑張って思い出そうとしていたが、どうしても思い付かず、心当たりありません、と答えた記憶がある。幼稚園生だった頃、僕とゆーまがどういう関係にあったかは覚えていない。こう書くと悪いかもしれないが、名前を聞いたときにデジャヴュ(デジャエクテ?)感がなかった以上、あまり関わりはなかったのかなという印象だ。


 考えてみると、ゆーまは外見が男性になっていたと言っていたので、それが事実なのであれば、仮に会ったことがあったとしてもわからないのが当然だろう。向こうとしても「どこかで会ったことがある」程度の認識で、実際に幼稚園が同じだったということまで覚えていたわけではないようだ。


 僕はこの夏に経験したことを忘れることがないようにこの文章を書き留めた。書いている途中、匿名掲示板やSNSにこの話を投稿しようかなとも思ったが、この話は自分の中だけに留めておき、誰にも話さないことにした。もちろん個人情報といった問題もあるが、1番の理由はこの出来事があったことを覚えているうちに書いておくこと自体に意味があると思ったからだ。


 誰かに見てほしいというよりかは同じ経験をした人に見てほしい。ゆーまもそうだし、徳島県在住の高校生にもできれば見てほしいと思っている。


 ゆーまにはもう1度会いたいと思っているが、叶う事はないだろう。もしどこかに存在しているのならば会ってみたい。そのときには、元の世界に戻ったら伝えたいと言っていたことについても聞いてみたいと思っている。いずれにせよ、いつになるかはわからない。


 文章は大きな転換点や移動先が変わった場所で区切り、この章を含めて7章で書くことにした。この文章はWordで書いているが、紙にも印刷し、机の右の引き出しの中にしまっておいた。


 上で公表はしないと書いたにもかかわらずプリントしたものを引き出しの中においておいたのは、万が一自分がいなくなった場合に、誰かこれを手に取って読んでくれる人がいればいいなと思ったからだ。実際は読まれずに処分されてしまうかもしれないし、プリントしたものが火事や水没といった原因でなくなってしまうかもしれない。それでも、遺言・遺書と言うわけではないが、自分がいなくなった後読まれて欲しいと思っている。もしこの文章を見つけた方でゆーまについて心当たりがある方がいれば、ゆーまに連絡してほしい。


 彼(彼女)はどこで何をしているのだろうか気になる。僕はこの章を最終章とし、ここで筆をくことにする。また何か進展があればこの文章の続きを書くかもしれない。


 2023年10月1日 加藤友樹

「終わりに」とありますが,この話が最終回というわけではありません.

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