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6-3 元の世界へ帰る

 装置が小刻みに揺れる。その瞬間頭が痛くなり吐き気とめまいが同時に訪れた。しかし、なぜかその症状に恐ろしさは感じなかった。眠い空気に安堵さえ覚える。心地よいとも、落ち着くともいえる空気だった。僕は装置の中で一瞬で寝てしまった。


 次の瞬間、今までの人生で見た景色が走馬灯のように遠く去っていくのが見えた。ただ、自分はなぜか怖くはなく、むしろ「ここから新しい未来が始まる」と楽観的に捉えていた。走馬灯は過去の記憶が多く入っていたが、無数の謎の塔が遠くにそびえ立つ砂漠に一人だけ立っている謎の女性や、森の中で巨大な動物を追いかけている狩猟民族(?)、そして雪が降り積もる街の道を荷物を持ってゆっくり歩いている少年といった知らない光景もあった。しかし、その時の自分はなぜか、それを知っていると思っていた。


 しばらくすると走馬灯が終わり、遠くに光が見えた。自分は動けることに気がついた。一心不乱に光の方向に走っていくと目の前が急に眩しくなり、意識を失ってしまった。再び意識を取り戻すと真っ暗な空間の中だった。


「……ファルデ…………ト……アリ…」


 どこかから知らない言葉が聞こえてくる。元いた世界の言葉でも、あっちの世界の言葉でもないとなぜか自分は頭では理解した上、自分はなぜかその言葉を知っていると思っていた。疑問文で何かを聞かれたと理解した自分は、とっさに「はい、お願いします」と念じていた。脳は理解していないが、深層意識が理解しているような感覚だった。もしかしたら、人類が最初に話していた言語なのかもしれない。全く根拠はないがそう言った人類の意識奥深くに語りかけられるような感覚だった。


 言葉の主がその声に反応するかのように目の前が再び光った。その光は輝きを増して行く。目を閉じても貫いてくる光だった。自分は、もう終わりか、と直感的に悟った後に、体がフワッと空中に浮く感覚を感じた。どこか心地よかったのが印象的だった。そのまま意識がフェードアウトしていった。


 気付いたら幼少の頃に通っていた幼稚園の前の公園にいた。全体的に青味がかかったような世界で、一切の音が存在していなかった。ただ、なぜかは分からないが、怖いとか不気味だという感情の前に、懐かしいという感情が湧き上がってきた。


 公園は記憶とあまり変わっていなかったが、見覚えのないオブジェが中央の時計の上に置かれていた。風車のようなオブジェだった記憶があるが、はっきりとは覚えていない。


 あたりを彷徨っていると、公園の奥にある、消防署に続く長い坂の下の方から、作業服を着た若い女性が近づいてきているのが見えた。彼女は僕を認識して、お久しぶりです、どうしてここにいるんですか、と声をかけてくれた。知らない女性だったが、不思議と声自体は初めて聞いた気がしなかった。


「お久しぶりですとは何のことですか?」


 自分は彼女に聞いてみる。彼女は、それを説明している時間はないと言っていた。


 彼女は顔も見た目も余り覚えていないが、落ち着いた話し方だったのは覚えている。彼女は右のズボンに入っているポケットからスマートフォンのようなものを取り出し、どこかに電話をかけた。


「イットルバ(?)が確認されました。フレッグ抗体値(?)が基準値を下回っています。すぐに基準をバルル(?)に繋ぎ、歪度(?)をソウレイ調整(?)してください。その後XXX(日本語・英語ではない謎の言語で数秒話す)」


 彼女は綺麗な日本語に所々謎の言葉を混ぜて話す。個人的にだが、焦ってはいるもののできるだけ平静を装っているように見えた。そして電話を切った後、僕に対してこう伝えた。


「もう大丈夫です。今から10秒数えるので、その間目を瞑っていてください」


 僕は目を瞑る。彼女はおとなしい声で10数えてくれた。そして7あたりで彼女の声が消えた。すると急に額に熱を感じた。目を開けてみると太陽の光が眩しい。


 気が付いたら東工大キャンパスの屋外のベンチに座っていた。世界の青味もない。元の世界に戻ってきた。夢ではないし、今までのような不気味な世界でもなく、正真正銘元いた世界だ。あの世界から元いた世界に帰ってこれた。自分は直感的にそう思った。


 横には荷物が置いてある。こっちの世界の荷物だった。鞄の中にはこっちの世界で使っていたスマートフォンが入っていた。充電は30%代で、時間は8/13の午前9時13分だった。来ている服は普段持っている服であったが、カバンの中にはあっちの世界に行く直前に着ていた服が入っていた。どうやら着替えたことになっているようだった。


 キャンパスには人がいるが、知らない人だった。ただ、自分がいることに対して驚いたような反応を見せてはいなかったので、突然ここに現れたというわけでもないようだ。


 スマートフォンには通知が溜まっていたが、多くはGmailにおけるTwitterのプロモーションだった。昨日の夜にLINEが来ていたが、「寝てた」で通る時間帯だったのでこれは今から返信すれば良いだろう。


 事故を起こしたのは8/4なので、向こうの世界で経験した9日ほど、この世界では自分がどこにいたかわからないことになる。ただ、あの記憶が夢だとは思えない。確かに自分が体験したこととして、自分の脳裏に焼き付いている。


 僕はとりあえず家に戻った。もちろん、もう1度転ぶことのないように、慎重に歩いた。今回はめまいの感覚も起きず、無事に戻ってくることができた。


 一人暮らしなので特に親や同居人に不在の理由を報告する必要がないのは救いだ。ゆーまは今どこでどうしているのだろうか。ゆーまの連絡先を持っていないので会いたくても会えないのがつらい。本名で一応調べてみたが、FacebookでもTwitterでもGoogleでも、そして新たにインストールしたインスタグラムでも、特に彼と関係がありそうな連絡先の情報が何も出てこなかったのですぐ検索を諦めてしまった。


 Googleでは宮城県の陸上部の女子大会の情報が出てきていたが、その子は2019年度現在で中学2年生(今は高3?)であり、ゆーまとは特に関係はなさそうだった。他にもいくつか陸上に関係ありそうな情報はあったが、どれも無関係の同姓同名の別人と思える情報しか出なかった。


 家のPCで同じような体験をした人がいないか調べてみたが、似たような話は経験している人がいたものの、基本的に掲示板で書き込まれている話なのでスレ主に連絡をとって確認することはできなかった。似た話も共通点がある程度で、全く同じような流れではなかった。


 ただ書き込み当時高1の男子が交通事故中に非常に似通った経験をしたというスレッドはあった。書き込まれた日は2022年12月であるが、2〜3ヶ月ほど前に体験した出来事とあるので、去年の10月に体験した話となる。実話かどうかは不明だが、吉子さんっぽい描写がされている人が出てきていたのが印象的だった。彼は病院で目が覚めたら約2週間ほど経っていたらしい。


 彼は徳島県在住の高校生のようだ。僕はそのスレッドをブックマークした。実際に調べてみたところ、その時期に徳島県で高1の男性が事故に巻き込まれて入院したというツイートが出てきた。この高1の男性がスレ主と同一人物であるのかどうかが気になるところだ。


 僕はベッドで寝っ転がって、あの世界で経験したことを振り返った。今思うと、あの幼稚園前の公園で出会った女性が時空のおっさんだったのかもしれない。向こうの世界では時空のおっさんは男性とは限らないが便宜上そういう名前で呼ばれているとか言っていた気がする。


 何もない天井を仰ぎ、自分は思いを馳せた。

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