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6-2 ゆーまの言葉


「私、実はこの世界に来るまえ、肉体が女だったんだよね」


 僕は驚きすぎてコメントができなかった。彼は、落ち着いて、といってくれた。っそいて、僕の様子をみながら続けた。


「肉体が男性になってもそこまで違和感なかったというか、男性として生活していく知識がこの体にインプット?されているのかはわからないけど、そこまで大変ってほどではなかったけど……」


 ゆーまはそう付け加えた。にわかに信じがたい話だが、精神ごと来ていると考えればあり得なくもない話なのかもしれない。そもそも、世界の間を超えるという非日常の下敷きが敷かれている状況である。「そんなわけないでしょ」で一蹴できないだろうという直感を自分は感じ取っていた。


 代名詞は結局何が正解なのかわからない。日本語の彼は本来ジェンダーニュートラルな代名詞だったようで、便宜上ここでは「彼」を使うこととするが、それが正解なのかもわからない。最初「彼女」と書いていたが、途中で書き換えた。もし誰かがこの文章を頭から読んだ場合、読解に困難をきたすと考えたためだ。


「変なこと言ってごめん」


 彼はそう言った。僕は、大丈夫、と伝えた。


「ここに来たとき、井上さんと2人で話してたのって、もしかしてそのこと?」


 僕は彼に聞いてみる。彼は、そうだと言っていた。


「私としてもにわかに信じられないけど、性別が変わるのは10人に1人くらいの割合であることらしくて。精神だけ来ている人は、この世界に来たときに外見が変わることがあるのが特徴だって言ってた。元の世界に戻るときには元の姿に戻ってるって言われたけど、この体はこの体でいいなって思ってるから使い分けたいなとは思う」


 彼は笑いながら話す。


「この姿が何かっていうと、自分が男性として存在していた時の姿らしくて、外見とかには面影は特にないけどこんな外見になってたんだって思って」


 彼はそう付け加えた。高校の頃、主人公の性別が何らかの原因で変わってしまうフィクション作品をよく読んでいたことをふと思い出す。僕としても彼のいうことを完全に信じ切れているわけではないが、彼が嘘をつく必要性も特に感じない。


「僕はこの世界に来るまでもこの姿だったから、そんなのがあるって想像もしてなかった」


 僕は外見が変わっていないので、おそらく肉体ごと来ているのだろうと思っている。ゆーまは話す。


「一人称が私って男子もいるから、別に違和感なかったかもしれないけど、自分の一人称が私なのは自分が普段慣れた喋り方で喋ってるからなんだよね」


 話し方自体にも、男性らしさや女性らしさは特に感じない。僕としても、ゆーまがこの世界に来る前に女性だったなんて本気では一度も考えなかった。強いて言えば、「悠茉」という名前の漢字くらいだ。ただ名前の響きが男性的なので、男性名でもなくはないのかなぁとも思っていた。名前自体は変わっていないようだった。


「名前の由来は音で決めたらしくて、男女どっちでも同じ名前にするつもりだったらしい。茉悠って名前にしようって意見も出たっぽいけど、最後の母音が『あ』で終わっている方が響きがいいからだって」


 彼はそう言った。僕の名前の由来も確かそんな感じだった。自分は女子だったら「ゆず」という名前になっていたらしい。


 僕たちは最後の時間で話した。


「なんで伝えようと思ったの?」


 自分は最後に思ったことを聞いてみる。彼は、元いた世界でもう1度出会った時、同一人物であると認識できない可能性を鑑みて事前に伝えておくべきだと思ったとのことだった。僕の外見は全く変わっていないことも伝えた。


「なるほどね」


 彼が言っていることが本当であれば、これは彼が男子として過ごした最初で最後の9日間だろう。


「昨日の夜言っていた、元の世界に帰れたら伝えたいことって何?」


 自分は彼に聞いてみたが、それは本当に元の世界に戻った後にまた出会ったら伝えたいことだと言っていた。あまり言いたくなさそうだったので追及はしないことにした。彼は最後に挨拶してくれた。


「5日間ありがとう、また機会があれば会いたいね」

 

 彼はそう言ってくれた。僕も彼に礼を告げる。僕は彼がもともとどんな人だったのか気になってしまった。いつか会える日が来ると信じたい。僕は、また会いましょうと答えた。僕は彼の手を握り、いつかまた、と話した。彼も僕の手を握り返してくれた。気づいたらタリス15分前になっていた。僕たちは、装置がある部屋に戻った。井上さんは話す。

 

「後15分でタリス開始です。準備はいいですね?」

「はい、お願いします」


 そう言って僕たちはそれぞれ別の装置の中に入る。装置は向かい合っており、装置の正面が透明で相手の表情が見える。


「ボタンを押したら装置が稼働します。少しばかり気分が悪くなるかもしれませんが、死ぬことはありません。覚悟ができたらボタンを押してください。もし怖気付いてしまった場合、また半年後にチャンスはあります」


 井上さんはそう言った。僕はゆーまの目を見てうなずく。ゆーまも僕の目を見てうなずいてくれた。まだ出会ってから約5日しか経っていないのにもかかわらず、もう会えなくなることが悲しかった。


 僕たちは軽く微笑んだ後、ほぼ同時に軽くボタンを押した。

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