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6-1 最後の朝

 目を覚ます。この世界で最後の朝だが、特段悲しいとか寂しいとかいう感情はなかった。いつも通りの朝だという感覚だ。


 自分はいつも通り顔を洗って歯を磨いた。そして、この世界のことについて考えていた。


 考えてみると、自分が異世界に来たことを心の底からは理解できていないからなのかもしれない。頭では理解できているが、それが実感に追いついていない感覚だ。夢でも幻覚でもない何かを見せられているような気分になる。例えるなら、五感で体感できるような未来のVRのゲームを遊んでいるような感覚だ。


 元いた世界にはまだそう言った技術はなかったので当然遊んだことはない。ただ夢とは違うような世界にいる気分(実際そうなのだが)だ。それを異世界であると心の底からは実感できていないことが原因だろう。


「でもさ、ここは異世界です!って言われて、すぐに完全に納得できるかって言われたら多分無理だよね」


 ゆーまは話す。確かにそれもそうだ。我々は異世界と言われるまで約1週間の間ほぼ何も説明されずにサジの国へと向かっていたので、ここが元いた世界と異なる世界であると言われたときは頭では理解していた。ただ、実感を伴っているかで言えばNoだ。


 頭では理解できるが心の底から理解できているかと言えば怪しい。ある意味、そう言った経験もよくあることなのだろう。理不尽な現実を突きつけられたとき、そこから逃避したいがために脳が理解を拒んでしまうことがあると聞いたことがある。一種の防衛本能のようなものなんだろうと思っている。僕はそんな話をしているとき、ふとある疑問が浮かんだ。


「ずっと異世界とか元いた世界って言ってるけど、この世界に名前ってあるのかな」


 僕はふとつぶやいてみる。ゆーまはそれに対して答えた。


「ないんじゃないかな」


 僕は、なぜそう思うのか?と聞いてみる。ゆーまは話した。


「確か井上さんさ、『この世界の住民もほとんどは異世界の存在を知らない』って言ってたじゃん? 見てきた感じ科学技術とか文明の発展も元いた世界とそんな大差ないし、まぁ同じような世界だと考えると、我々の世界にも世界の名前がないようにこの世界にも名前なんてないんじゃないかなって」


 ゆーまは話を続ける。


「そもそも名前って基本的に区別をつけるために付けられるものだから、わざわざ区別する必要ないものに名前をつけることってあんまりないんじゃないかなぁ」


 自分は彼の話しぶりに納得した。確かに我々の世界の名前が何かと聞かれたら困る。何も知らない異世界の人が聞いたら日本語の「この世界」や英語の「the world」を世界の名前だと誤解してしまうかもしれない。


「なるほどね」


 僕は相槌を打った。彼はうなずいていた。


「でもさ、私たちがいた世界にも井上さんみたいなことしてる人っているのかもね」


 ゆーまはそう言った。もしそうであればかなり面白い話だ。もしかしたら、元いた世界でも結構時空に関する研究が進んでいるのかもしれない。かなりオカルトっぽい話になるが、もしかしたらオカルトではないのかもしれない。


 謎は隠されているから謎なのだろう。当たり前のことに聞こえるかもしれないが、本気でそう思うことがある。知りたいという感情は知らないことが存在しているから浮かんでくるものであり、知ってしまえばふーんとなってしまうようなこともあるだろう。


 かつて、地球上には様々な未知が存在していた。それが今は深海を除いてほとんどの部分が判明している。それを決して悪いことであると言い切ることはできないし、少なくとも自分はそうは思わない。昔の人にとって冒険とは命がけのものであっただろうし、その昔の人がいるから今の自分たちが存在しているという現実もあるからだ。


 もっとも、宇宙はいまだに謎として残り続ける。我々は現在測量可能な宇宙の10の何百乗だとか何千乗分の1も探索できていないのだろう。宇宙は広すぎて手に負えない。それは少し近い未来でも変わっていないだろう。


 それが異世界ともなれば指数部分が4桁増えるレベルでの謎だ。ただ人類の技術も指数関数的に進歩している。もしかしたらそこまで遠くない未来、この世界と元いた世界が関わることもあるのかもしれない。


 僕はそんなことはを考えながら空に思いを馳せた。この世界ともといた世界は繋がっていなくても、何かしら関係があるのかもしれない。僕は伸びをして、眠気を覚ました。

 

 そして今日がタリスとのことだ。僕たちは井上さんの場所まで向かって行った。ゆーまは最後に伝えたいことがあるようだ。


 「最後2人で話したいことがあるんですけど、いいですか?」


 ゆーまは井上さんにそう伝える。彼女は、わかりました、と言って部屋を去っていった。彼は、今まで伝えられずにいたけど最後に伝えたいことがある、といって、2人きりの部屋で話し始めた。


「私、ずっとともくんに伝えるかどうか悩んでることがあったんだけど、残り時間も少ないし話さなきゃなって思って」


 彼は、今までずっと悩んでました、という風に話し始めた。


「信じてもらえないかもしれないけど、本気で言ってるからね」


 彼は予防線を大量に張った。僕は、覚悟してるから大丈夫だよ、と伝えた。彼は、それでも緊張しているようで、口を開けては閉じてを4度ほど繰り返した。彼はついに覚悟を決めたようで、声を出して話した。


「実は、私がこの世界に来てからなんだけど、」


 彼はここまでいったにもかかわらず勇気が出ないようだ。彼は全力で勇気を振り絞っているようだった。沈黙の時間が過ぎて言った。実際には数十秒だっただろうが、僕にとっては10分近くに感じられた。ついに彼は話し始めた。

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