5-6 残された2日
ゆーまはそう言って遊園地を見せてくれた。1日約2000円で全種のアトラクションが乗り放題らしい。ここから30分程度で着く場所にあるとのことだった。僕は、面白そうと思った。
僕は様々なアトラクションで時間を潰した。ゆーまが絶叫系好きなのが意外だった。その後ホテルに戻り、近所のレストランで夜ご飯を食べて眠りについた。
目が覚めると6時過ぎだった。太陽はまだ登っていないが、ほんの少しだけ空が明るくなっていた。明日が元の世界に戻れる日だ。
僕は歯を磨き、朝の温泉に入ることにした。まだ誰も入っていない。僕は空が明るくなってゆくのを眺めながら露天のお湯に浸かっていた。
程よく暖かいお湯の温度と少し冷たい外気の気温が絶妙に調和していて心地よい。僕は完全に陽がのぼったのをみてからサウナのほうに向かった。
サウナに入り腰掛ける。時計の針は6時20分を指している。今更だがふと、この世界の"1秒"と元いた世界の1秒が同じなのか気になった。
この世界でも、1日を24時間にわけ、その1時間を60分に分け、1分を60秒に分けているのは変わらない。1日の1/86400が1秒であることはこっちの世界でも同じようだった。しかし、「1日」というのは惑星の自転周期によって定まるものであり、これの長さが違えば必然的に1秒の長さも異なってくるはずだ。そして、惑星の自転周期は人間の意思が介在せずに定まるので、1日の長さは人間に依存しないはずだ。
とは言っても調べようがない……どうやって調べようかを考えてみたところ、1秒の定義がどうなっているかを調べれば良いというアイデアにたどり着いた。僕はサウナに入っている間これを忘れないように頭の中で何回も唱えた。
サウナを出た後水風呂に浸かる。その後調べることを忘れないように脳内で暗唱しながら服を着て部屋に戻り調べてみると、こっちの世界でも1秒の長さでは元いた世界と同じようにセシウムに関する定義が用いられているようだ。正確な値は覚えていないが元いた世界の9,192,631,770とあまり変わらない数だったように思う。時計を見た感覚でも、明らかに1秒が短いとか長いとかはなかった。同じくらいの長さなんだろうと勝手に思うようにしている。
1mもほぼ同じ定義のようだった。これも正確な値は覚えていないが光が真空を1秒(異世界秒)に進む距離の何分の1と定義されており、1秒の長さはそこまで変わらなかったので1メートルの長さも変わらないはずだ。もしかしたら厳密には少し違う値なのかもしれないが、少なくとも気付くほどは変わっていなかった。
おそらくキログラムも気付くほどは変わっていないだろう。少なくとも一般的な人なら気がつかない程度だ。測量を本職にしていて少しのズレでも問題が発生する世界に住んでいる人にとってはまた別なのだろうが……。
僕は再びベッドで横になった。また眠ってしまった。7時半になり、ゆーまが部屋をノックする。朝ごはんを食べようと言ってくれた。
「よく寝た?」
ゆーまは話す。僕は6時くらいに起きて朝風呂に入っていたことを伝えた。今は全く眠くない。
「いいな、誘って欲しかった」
僕は、ごめん、と伝えた。彼は、大丈夫、と言ってくれた。そのまま朝食の会場まで向かう。朝のコーヒーとパン、卵を取り、僕は適当な席を選んだ。ゆーまはサラダとかヨーグルト・紅茶をとっていた。
「いただきます」
僕たちはそう言ってそれぞれのペースで食べ進めていった。僕は足りなかったので、パンの他にクロワッサンのようなパンをとった。
僕は食べ切ってしまった。ゆーまも同じくらいのタイミングで食べ終わったようだ。僕たちは食器を返却棚に戻し、自分の部屋まで戻っていった。
時刻は8時だ。部屋で1時間ほど休憩したいが、特に何かすることがあるわけではないので、自分は少し外を散歩することにした。僕はゆーまの部屋に向かいノックした。
「散歩でもしない?」
彼は、いいね、と言ってくれた。暑すぎもせず寒すぎもせず歩きやすい。車が多い道のりを歩いて行くのはかなり心地いい。道中コンビニエンスストアがあったので僕たちはどんなものが売っているか眺めてみることにした。
エナジードリンクやアルコール類を含めた様々な飲み物や、アイス、カップ麺など多種多様なものが売られている。「スパークリングエナジー」という名前のエナジードリンクが売ってあった。465mLとかなり中途半端な量だが、これは国際単位系が普及する前主流だった計量の単位が元になっているということだ。
この世界では国際単位系が広く普及しており、いくつかの国を除きほぼ全ての国が国際単位系条約に批准しているとのことだ。例外的に新マライ共和国を含めたいくつかの国では統一された単位系が用いられているらしい。
元いた世界でも、アメリカ(ヤードポンド法)を含めたいくつかの国以外は国際単位系を使っていたはずだ。
「不便だよね、マイルとか」
ゆーまは話す。自分は彼の言葉に同意した。
「昔#アメリカはヤードポンド法をやめろ みたいなタグで毎日呟いてたけど、飽きちゃったな。想いは変わってないけどね」
どこの世界でも国際的でない単位系を用いている国があるようだ。歴史や文化的なものがあるのだろうが、命にかかわる問題となりうる場合は流石に文化だの歴史だの言ってられないだろう。
とにかくこのサジの国では国際的な単位系が使われているようだった。僕は、スパークリングエナジーを1本購入した。
「どう?」
一口飲んだのを見た僕に対して、ゆーまは味についての評価を求めた。サイダーに砂糖で味付けされているような味だった。ただ、成分を見る限りではそこまで砂糖が多いわけでもないらしい。それにしてはやけに甘ったるい。まずいというわけではないが、もう1度飲みたいかと言われたらNoだ。
僕はそのまま道を歩き続けた。様々なブランドの店やスーパー、服屋さん、家電量販店と言った店が並んでいる。道中「熊に注意」という張り紙があったのが印象的だった。僕たちはそのままホテルまで戻った。
「疲れた」
最近何もしていないのに疲れたと感じることがある。何かする気分でもない。ゆーまも同じように感じていたようなので、僕はゆーまを僕の部屋に誘い、オカルト系の話をしてもらうことにした。
「私、やっぱりオカルト系の異世界ものの話が好きなんだよね」
ゆーまはそう言った。異界駅の話や時空系の異常の話は謎が多くて面白いということらしい。私は彼が話すのを聞いていた。
「こないだ話したけど時空の話って多くは変な世界に迷い込んで返してもらうのが多いって言ったじゃん? あれとは別にちょっと違う世界に返されるパターンもあるってことで、」
ゆーまは話す。
「一例で言うと、バスの中で変な紳士のような人が爆弾のようなものを抱えて、それを爆発させちゃって気付いたらこの世界にいたみたいな話かな」
確かYouTubeのオカルトチャンネルで見た記憶がある。爆発した瞬間家で目を覚まし、気がついたら周りの人物に違和感があったような話だったはずだ。
「そうそれ!」
ゆーまは僕がその話をしていることにテンションが上がっていたようだ。ゆーまはかなり楽しそうに面白い話をしてくれた。彼がずっと話し続けているラジオがあったら聞いてみたいくらいだった。
「こんな話しているYouTuberとかいた気がするけど、そういうのやってたりする?ってくらい詳しいね」
僕は素直に思ったことを言った。ゆーまは、やっていないと言っていた。
「あったらみてみようと思ったのに」
彼は、元いた世界に戻ったら始めて見るかもしれないと言っていた。
話で盛り上がっているともう12時だ。僕たちは昼ごはんを食べに、近くのハンバーガーショップのような店に向かって行った。




