5-5 残り2日
システムは食券制らしい。同じものを食べたいということで、僕たちは中盛りのラーメンを食べることにした。ゆーまはさらにレモンサワーも飲むようだった。僕も練習で飲んでみることにした。
「乾杯!」
ゆーまはそういって乾杯してくれた。僕は一緒にお酒を飲んだ。かなり飲みやすいが、少しずつ飲んでいくことにした。ゆーまもゆっくりにしているようだった。
注文から10分後、ラーメンが届く。家系ラーメンのようなスープの見た目をしているが、ほうれん草の代わりにメンマが載っていた。僕はスープを1口飲んでみた。
「美味しい!」
家系ラーメンに似た想像通りの味で元いた世界が恋しくなってきた。大学の人たちは今何をしているのだろうかと考える。ニンニクや胡椒のトッピングを入れながら、元いた世界について思いを馳せた。
「家族はどうしてるのかな」
ゆーまも同じことを考えていたようだった。ゆーまは一人暮らしではなく実家だ。もしかしたら家族が一生懸命探しているかもしれない。
「行方不明になっていて捜索届が出されていたらどうしようかな、まあ考えても意味ないだろうけど」
ゆーまはそう言ってレモンサワーを一気飲みしていた。僕はラーメンをゆっくり食べながら自分のペースでレモンサワーを飲んでいった。
二人とも同じくらいのタイミングで食べ終わった。僕は残ったお酒を飲み干した。もうお腹がいっぱいだ。僕はゆーまに聞いてみた。
「酔ってる?」
彼は、まだ大丈夫だと思う、と言っていた。自分も酔っているような気がするが、まだ何とか大丈夫だ。気づいたら20時になっていた。
「元いた世界に戻ったらまた会いたいね」
ゆーまはそう言った。僕も、また会いたいと伝えた。
「あ、そうだ、明日どうする?」
僕は思い出したように聞いてみる。
「午前はそれぞれの時間にしない? 午後はまた明日考えよう、どうせ何かしなきゃいけないことがあるわけじゃないし」
僕は、わかったと伝えた。そして、僕たちはそれぞれホテルの部屋まで向かっていった。
「じゃあ、また明日ね」
そう言って僕は自分の部屋に入った。かなり広々としていて良さそうな部屋だった。ベッドやケトルが備え付けられている上、歯ブラシやタオルといった必要なアイテムも存在している。僕はとりあえず歯を磨くことにした。
歯を磨いた後、ふとお茶が飲みたくなった。僕はケトルでお湯を沸かし、近くにあった紅茶を注いだ。普段紅茶は飲まないが、こういうところに備え付けてあるものは飲みたくなる。僕は紅茶を口にした。あまり好みの味ではなかったが、飲めないこともなかった。僕は一気に飲み干した。
ちゃんと見てみると、他にもジャスミンティーや緑茶などがあった。自分はやっぱり緑茶が好きだ。タブレットで音楽を聴きながら自分はそんなことを考えていた。
何もすることがないので、僕は風呂に行くことにした。僕はタオルを持って、ホテルにある温泉のほうに向かっていった。
ちょうどゆーまが温泉を出たところのようだ。彼は、湯船に浮かんでいるシトラスがいい匂いだったと言っていた。僕は走って温泉まで向かって行った。
脱衣所で着物を脱いで湯船に浸かる。5つの大きな湯船と、サウナが存在していた。サウナはこの世界では主に「マディェパ(蒸し風呂)」という名称で呼ばれているらしく、世界各地に似たようなものが多数存在しているらしい。僕は全身を洗ったのちサウナのほうに向かって行った。
サウナの仕組み自体は元いた世界とあまり変わらないようだ。中には音楽を流しているスピーカーのようなものがある。弦楽器のみで演奏される民族音楽風のbgmが印象的だった。しばらく座ってくると体が熱くなってくるのを感じる。僕は、5分ほどサウナに入ったのち部屋を出て、水風呂に全身を浸かった。
僕は体が冷えていくうちに頭の中身が透明になっていくような感覚を感じる。これが話題になっている「整う」というものらしいが、あまり整ってる感がない。僕は少しの間水風呂につかったのち、他の湯船を見て回った。
彼が言っていたようにゆずのような果実が湯船に浮かんでいた。柑橘系の芳香が浴槽に漂っている。僕は湯船に体を浸けた。このハングラン市のアダカル地域は昔から温泉街として知られているようで、今では全世界の人が訪れるほどの街のようだった。
温泉で栄えた町と聞くと個人的にロマンを感じる。他にもワイン風呂や温度のみを変えた源泉風呂もあるようだった。詳しくはないが硫黄や様々なイオンが溶けているようで、腰痛や肩こりの予防に効くらしい。
僕は数十分ほど温泉に入っていると体が芯から温まるのを感じた。僕は温泉を上がった。部屋に戻ると眠くなってきた。僕は歯を磨いてすぐ眠ってしまった。
次の日目が覚めると7時だった。非常によく寝た気がする。日はもう昇っていた。僕は歯を磨き、外に出られる服に着替えた。朝食はこのホテルで出されるらしい。僕はゆーまの部屋に向かい、扉をノックした。
「起きてる?」
ゆーまは目を覚ましたところらしい。彼には朝起きてからのルーティーンがあるようだ。僕は、準備ができたらきてね、と伝えて自分の部屋に戻った。
十数分後、彼が僕の部屋の扉をノックしてくれた。
「じゃあ行こうか」
僕はそう言って、朝食が出される会場まで向かって行った。ビュッフェ形式で様々な食事が提供されている。味噌汁のような「和風」のものから、パンやとうもろこし、果てには生地の上に野菜が乗った謎の食べ物などの様々な食事が並んでいた。僕は気になったものを取り、そして飲み物のところからコーヒーをいれて飲むことにした。
1杯のコーヒーを飲むと朝が始まった気がする。生活習慣が乱れていたときは高校生の頃から毎日飲んでいた。仮面浪人生のときも、今の大学生になってからもほぼ毎日飲んでいる。
食事も味が濃すぎずに食べやすい。僕たちは軽く朝食を食べたのち、それぞれ自分の部屋まで戻っていった。
元の世界に戻るまで後2日だ。今日の午前は特に何も予定がない。午後も今のところは何もない。とりあえず、僕は布団で寝っ転がった。
窓の外を眺めているとどの世界でも同じような毎日が繰り返されているのだなと感じることがある。
どこまでも続いているように見える青空には雲が浮かんでいる。いつだったか見た雲の形と似ているような似ていないような雲だった。似ていようが似ていまいが、あの雲とは違うものだろうし、あの世界の雲がこっちの世界に来ているというわけではないだろう。
僕はそんなことを考えながらストレッチしたり、調べ物したりして時間が過ぎるをのまった。そして、12時になる。ゆーまが扉をノックしてくれた。僕は彼を部屋の中に入れた。
「ここでも行ってみない?」
ゆーまはそう言って遊園地を見せてくれた。1日約2000円で全種のアトラクションが乗り放題らしい。ここから30分程度で着く場所にあるとのことだった。僕は、面白そうと思った。




