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5-4 残された3日

彼はその居酒屋を予約してくれた。元の世界に戻る日の前日だ。この世界にいるのも残る3日だ。僕は、どうしようかといったことをゆーまと話した。


「この国でどっか旅行とか食事でもいく?」


 自分は、行きたい、と伝えた。ただどこがいいかはわからない。そもそもこの辺りに何があるのかさえわかっていないのだ。自分は調べてみた。その間、彼も調べてくれた。


「んー、なんかあるかなぁ」


 彼もめぼしいものが見つからずに悩んでいるようだ。僕は泊まる場所を探していた。


「泊まる場所だけど、ここの2室でいいよね?」


 僕はここから歩いていける範囲内に綺麗なホテルを見つけた。彼は、別にどこでもいいと言っていた。風呂やシャワーもあり朝食も出るということで自分はそこに決定した。僕はオンラインで予約した。


「このガマリアフダのアリュン博物館とかどう?」


 予約が終わると、彼は観光場所として博物館を提案してくれた。ここから汽車で1時間程度で着くらしい。調べてみたが面白そうだ。自分は、今日はここに行こう、と提案した。


「とりあえず、荷物邪魔だから1回そのホテルの部屋に置かない?」


 彼はそう提案する。僕はホテルに向かい荷物をおいた。そして、汽車でアリュン博物館まで向かって行った。


「なんか想像と違う」


 自分は木造の建物を見てそういった。なんとなくだが、コンクリートでできた建物を想像していたからだ。とりあえず中に入ってみる。入り口でお金を払い、博物館内部に進んで行った。


 中にはガマリア・フダの様々な資料や食事などの文化が展示されていた。はるか東の大陸の冒険家・航海士であるアグジア・オルマージャさんがこの大陸を発見するはるか前から、先住民族としてこの地にいた「フルパバン」という民族および、その民族と大きな交流のあった別の民族は当時から天文や測量の技術に長けていたらしく、数千年前の段階から地球の重さをおよそ誤差1パーセントの精度で正しく計算していたということが最近の研究により判明したようだ。


「遺跡から発掘された2000年前の資料からは当時の人が1年=372日ということを理解していたことがわかっています。また、当時の人は円周率を22/7=3.142...として計算しており,これは当時における最先端の精度でした」


 1年の日数が元いた世界と微妙に違うが、それは人類が恣意的に決めるものではない。自分は異世界に来たことをこの1文で改めて実感した。


 他にも年始に正面に立つと太陽の光が開けられた穴を突き抜ける建築だとか、古代文明に宇宙人の寄与があったことを信じてしまいそうなほど当時の文明が進歩していたという事実がわかっているようだ。

 

 僕たちは、どの世界でも人類は同じような歴史を辿るのか、と話し合った。現在の価値観で言えばコロンブスは「悪」とされることもあるという。しかし、それを「悪」と断じられるのは現代の価値観を持っているからなのかもしれない。


 当然だが、当時の人々は我々が「現代の価値観」と呼ぶ価値観を持っているわけではない。仮に現代からその価値観を過去に持ち込むことができたとしても、当時の価値観を持つ人から見れば「おかしな人」と映るだろう。仮に未来がどのようなものとなっていても、我々は現代の価値観でものを見るしかないのかなと考えることがある。


「100年後とかどうなってるんだろうね」


 ゆーまは話す。生きて見てみたい気もするが、まず不可能な話だ。


 この世界は我々がいた世界と似たような外観を持つ世界だ。井上さんのことを考えるとこの世界が進んでいると思える気もするが、少なくとも表面上の技術において圧倒的にこちらが進んでいるとか元いた世界が進んでいるとかはない。


「知りたいと思う?」


 自分はゆーまに聞いてみる。彼は、知りたい気もするが、ネタバレを見せられているような気もしてしまうといっていた。


「でもさ、映画でいきなり最後のシーンだけ見せられても訳わからないじゃん? こういう着地をするという結末だけ知っても、それまでの過程が気になっちゃうっていうのかな? そういう意味では気になるかも」


 ゆーまはそう答えた。なんとなく言いたいことがわかる気がする。当然だが、ある時代というのはそれより以前の歴史が積み重なってできている。その中の1コマだけ見せられても、そのコマまでにどういうシーンを挟んで辿り着くのかはわからないだろう。自分はそう思っていた。


 ゆーまは、歩いている途中に目にとまった掲示を指さした。僕たちはそれを読んだ。


 本来フルパバンが住んでいた地域では熊が多く存在していたらしく、神が依代としている動物として神聖視されていたらしい。熊に好かれると死ぬだとか、熊を攻撃したものは祟りを受けるだとか、そういった伝説が存在していたようだ。現代の立場から考えると非科学的に感じるが、これは「熊にちょっかいをかけては行けない」という教訓として存在していたということがわかっているという。言語的にも「熊」を意味する単語に「神」といったパーツが含まれるらしい。


 シアターや資料、および当時の生活を再現した模型といった様々な形式で当時の生活習慣や歴史的なものが想像できる気がする。オルマージャさんがこの大陸を"発見"していなければ今の技術革新は起きていなかったという現実もあるかもしれないので「悪」と言い切れるかまではわからないが、今の価値観から見れば否定的になってしまうのも仕方ないだろう。


 当時は若い生贄が捧げられていたらしい。21世紀の現代の我々から見ると野蛮に見えてしまうが、当時としては仕方なかったのだろう。僕たちは違う世界の過去について思いを馳せた。歴史は全く詳しくないが、どこの世界も人類は同じような歴史を辿って行くのだと感じることがある。


 僕たちは博物館から出た。日が沈んでいくのが見える。時間は17時45分だった。


「お腹空いてきたな」


 ゆーまはそういった。とはいっても極度の空腹ではない。僕たちは、汽車でホテルの方まで向かっていった。レストランが近くにある。ワンダの国発祥のフードコートがこの近くにあるようだ。我々が「ラーメン」と呼ぶ食べ物も存在しているらしい。僕たちは、その店にしよう、といって、そのまま中に入っていった。

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