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4-2 夜空の星々


「なんかさ、こういう体験をしていると昔読んだきさらぎ駅の話思い出す」


 彼は今までの非日常的な体験を有名な都市伝説に重ねているようだ。きさらぎ駅とは20年近く前からある都市伝説である。静岡県のとある路線の電車に乗り込んだ女性が、気づいたら知らない駅に迷い込んだという話だ。


 あの話自体は、鉄道に詳しい人たちの調査によると、路線や電車のダイヤグラム的に「釣り(注目を集めるための嘘)」である可能性が高いと判明しているらしい。ただ、現代風怪談の1つとして、後世の創作やフィクションに大きな影響を与えた話であることは間違い無いだろう。


「あれやっぱり釣りだったんだ」


 彼は相槌を打つ。僕としても詳しくは無いが、書き込みの内容と実際に乗り込んだと思われる路線の時刻表を比較すると辻褄が合わない(記述が実際の運行情報と矛盾する)部分があるらしい。彼は、僕の話を聞いてくれた。


「なるほどね、でもよく調べるよね」


 彼はそう言っていた。自分としても検証するのはすごいと思っている。僕であれば検証しようという発想にさえ至らないだろう。


「本人が何らかの幻覚とかをみている可能性とかもあるから、そこまでいくとわからないけどね」


 僕は付け加えた。客観的に見れば創作でも、本人が実際に経験していると勘違いしている可能性まで考えればあり得ないとは言えない。ただ、そこまで検証するのは非常に困難だろう。もしかしたら統合失調症といった症状を罹患している人が何かしら見たと認識しているものは本当にあるのかもしれない。


 僕は、ネットで語られる都市伝説の話をして汽車内で列車を潰した。よくわからない現象に遭遇した時、昔に読んだ話を思い出して重ねるのは人間として自然な行動だろう。


 今日は途中のタータル駅までしか行けなさそうだ。そこからハングラン市中央通り駅までは次の日になる。僕は、タータル駅付属のホテルを2室予約した。


「ここ予約したよ!」


 ゆーまは、ありがとう、と言ってくれた。汽車は進んでいく。しばらくするとレンガの家が並ぶ街まできた。レンガというと地震に弱いイメージがあるが、この辺はそこまで地震が多いわけでは無いのでこれで大丈夫だったようだ。


「地震が少ない国の建築って、日本で言う震度3とか4で壊れちゃうらしいよ」


 ゆーまはそう言った。驚きといえば驚きだが、当然と言えば当然かもしれない。外国には竜巻が多いため、シェルターが普通にある家が多いところもあるようだが、日本では竜巻被害なんて想像しないだろう。


 駄弁りながら2時間後、タータル駅までたどり着く。実際にはこの先も線路は続いているのだが、宿泊施設がないという問題がある。そのため途中のここで降りることにしていた。


 空を見上げると、そこには満天の星空が広がっていた。元いた世界では見たことのないような星空だった。数え切ることなど絶対にさせないと伝えるほどだった。天の川のようなきれいな川も見えている。ゆーまも空を見上げて、すごいと息を漏らしているようだった。


「日本でもこんなに星が見えたらいいのにね」


 彼はそう話す。


「日本だったら冬でもオリオン座くらいしか見えないからね」


 空気が澄み渡っている冬の空にはいくつか星が見えるが、自分としても詳しくないのでオリオン座くらいしかわからない。夏場はほとんどと言っていいくらい星が見えない。ここから見える夜空を眺めていると、非常に数が多い様が「星の数ほど」と形容される理由がわかってくる気がする。自分はふと、ゆーまに星について聞いてみた。


「そういえばさ、ここから見える星が地球と同じかどうかってわかる?」

「ごめん、わかんないや」


 もし同じだったらここは異世界ではなくパラレルワールドということになるかもしれない。月もあるし太陽もあるが、他の星がどうなのかは不明だ。ただ、地球に似たような星である以上、そこまで天体間の位置関係が違うということもないだろう。僕はそう思ったことを伝えた。


 昔の人は惑星が通常の恒星とは違う挙動をしていることには気がついていたらしい。惑星が漢字で「惑う星」と書くのは、通常の星は北極星を中心として回転するのに対し,惑星はそこから逸れて奇妙な動きをするからだという話を聞いたことがある。Planetも「彷徨うもの」という意味らしい。


 僕たちは近くの草原に寝っ転がった。無数の星を眺めていると、あの中のどれか1つには生命体がいてもおかしくないと感じる。数十分後、僕たちはそれぞれの部屋にいき、シャワーを浴びて歯を磨き、明日に備えて眠りについた。


 ベッドの横には「睡眠中に悪魔が体に乗ってきたときのため」としている石でできた大きめの人形のようなものがある。日本の言葉で言えば「金縛り」らしい。金縛りは当時は悪魔の仕業だと考えられていたようだ。この国では金縛りにあったときのために身代わりになるお守りを持っておくのが一般的な習慣らしい。このエリアではどこの寝室にもほとんどそう言ったオブジェがあるようだ。


 金縛りは昔からよく心霊現象として扱われる。僕の場合、金縛りになったことはあるが目が開かないので、部屋の様子が見えたことは一度もない。僕はそんなことを考えながら眠りについた。

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