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4-1 新天地

「たまにお客様の中に、着陸中や離陸中で高度が変わっているときに気圧の変化の影響で頭が痛くなるという方がいらっしゃいます。機内では気圧調整ができる耳栓を販売しておりますがいかがでしょう? 高度下降開始の直前に耳につけていただければ軽減されるかと思います」


 値段は約1000円相当のようだ。安くはないかもしれないが、あの頭痛に効果があるのならば買う価値はある。僕はお金を払って買った。彼は買わないようだ。


「ごめんかっこ悪いところ見せて」

「大丈夫」


 彼は励ましてくれた。それにしてもすごい痛みだった。十数分後、朝食が運ばれてくる。そうめん・野菜・フルーツ・魚とオレンジジュースだった。僕たちはお腹が空いていたので、同じくらいのペースで食べ終わった。


 流石にお腹いっぱいになる量ではないが満足だ。僕はリュックサックの中に入っているコーヒーを飲んだ。飛行機は今日の15時半にクマティティ空港に着くらしい。少しばかり遅くはあるが、昼食はそこで降りて食べることになるだろう。飛行機内で飲み物が出されるらしい。僕はオレンジジュースを注文した。


 彼は音楽を聴きながらのんびりしているようだ。飛行機に揺られているとなぜか心地よい感覚になる。僕は睡眠不足のせいなのか眠ってしまった。


 「着いたよ!」


 ゆーまが肩を叩く。目が覚めると着陸していたようだ。窓の外には山と海が見える。僕はシートベルトを外し、上にある荷物を取り出した。


 サジの国の首都・クマティティ市のハヴュクァヅァ空港で降りる。気温は涼しいが、寒いというほどではないらしい。ハヴュクァヅァとはネイティヴの地名で「山が(ハ)見える(ヴュクァ)ヅァ」という意味で、かなり発音が難しいが先住民の言語由来の地名のようだ。名前の通り空港の1番出口から出た右手には大海原が広がっており、左の方には森が広がっている。空港のエントランスには、偶像を模したような木製オブジェが2柱建てられていた。


 説明には、ガマリア・フダと呼ばれる先住民ネイティヴ・アメリカンのようなものだろうが儀式や祭事・あるいは日常生活において作るオブジェだと記されている。どこかで似たようなものを見たことがあるなと思っていると、伊藤さんが話してくれた。

 

「我々の世界でいうトーテムポールみたいなものなのかな、カナダの細長い人形みたいなやつ」


 トーテムポールとはカナダの先住民がたてた目印のようなものとのことだ。僕はどこかで聞いたことがある程度だった。


 空港の出口のほうに向かう。目的の場所はここから540kmほど離れた場所にあるらしい。空港を通過し、バスを使用して目的地まで移動することになる。その間、空港にあったパンフレットを読んで時間をつぶすことにした。


「数百年前ここから東にあるアセンタ大陸西部の人々が新世界を求めてこの大陸を"発見"した。彼らにとって未知であった大陸は、すぐにアセンタ人に踏み荒らされてしまった」


 どうやらどこの世界でも似たような歴史があるようだ。この大陸の人、特に先住民たちは、"発見者"について悪人と評価を下しているようだった。


 昔は空港前にその"発見者"であるアグジア・オルマーヒャ(オルマージャ)の銅像があったが撤去されてしまったらしい。


 そういう意味で言えば、僕たちもこの世界を「発見」した人だ。我々はこの世界に迷惑をかけているというつもりはないが、自覚がないだけで何かしら被害をかけているのかも知れない。


 僕たちは、指示された「サジの国・ハングラン市・4A通り・ヨシコビル」まで向かうことにした。ここから北に540kmほど離れているらしい。今は16時だ。


 僕たちは、とりあえず汽車で行けるところまで行くことにした。おそらく今日中にはたどり着けないだろう。汽車もそこまで速度が出るわけではないらしい。駅まで2人で一緒に道を歩いていると、伊藤さんは私に声をかけてくれた。


「なんか君付けで呼ぶのも違和感なんだけど、こう呼ばれたいみたいなのってある? 私は苗字が伊藤でよく同じ苗字の人とコンフリクトしてたから、男女ともに『ゆま』とか『ゆーま』って呼ばれてたけど」

「くんが違和感だと言われると困るけど、周りでは『ともくん』って呼ばれてる! ゆーま呼びでいい?」

「わかった!」


 ゆーま。小学校の頃同じ名前(漢字は違う)の男子がそう呼ばれていたことを思い出す。ただ目の前にいるのはその男子ではない。僕たちは駅についた。汽車内で切符が発行され、降りる時は車掌さんに見せてその分の代金を払うシステムらしい。そのため乗車人数により時刻が異なることがよくあるようだ。しかしながら、汽車がそこまで必要な社会ではなく、多くの人は自動車を用いて移動を行なっているようだった。時間にルーズという国民性もあるらしい。


 汽車が駅に止まる。汽車といって想像するような形状ではなく、外見は普通の列車である。僕たちは恐る恐る乗り込んでいった。汽車には数名しか乗っていなかった。僕たちは発券機から発行される切符を取り、席に2人で腰掛けた。汽車はそこまでスピードが速くなく、ゆっくりと進んでいくようだった。窓の外には草原が広がっていた。


 雲の形は絶え間なく変化している。小学生の頃海外に行ったときに、「あの雲見覚えがある」と言ってはしゃいでいたことをふと思い出してしまった。ゆーまはヨシコビルについて調べているようだ。


「ヨシコビルについて何か情報ある?」


 僕は彼に聞いてみる。彼は、少なくとも一見しただけでは普通の建物にしか見えないと言っていた。情報についても調べてみたが大した内容は出てこなかったようで、よくわからないとコメントしていた。


「とりあえず調べても意味なさそうだし、向かってから判断しようか」


 彼は提案する。僕は、そうだね、と答えた。彼は何かを伝えたそうに僕をみている。僕は大丈夫?と聞いてみたが大丈夫だと言っていた。


 僕たちは昔話をして気を紛らわせた。列車はさらに北へと進んでいく。窓の外には針葉樹林が広がっている。降水量がそこまで多くないエリアのようだ。外の景色を見たゆーまは話す。


「高校の頃地理選択だったけど、何も覚えてないや」


 ゆーまはそう話した。自分は公民選択だった。話すことがないが、彼は話を続けようと頑張ってくれた。

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