1話
平成17年8月15日…
アブラゼミの大合唱の中、鵜飼梓は祖父の墓参りをする。
「去年まではおばあもおとんもおかんも一緒だったのになあ。 今年は何故か1人で行け?って言うんだから。どうして?って聞いたら怖い顔して教えてくれないんだ。じいじどう思う?」梓は墓に向かって語り掛けた。
帰り道、梓は綺麗な山を見つけた。
「こんな山あったっけ? 暇だし、登っちゃおうかなあ。」
梓は山へと向かった。
その頃、梓の家では梓の両親と祖母が暗い顔をしていた。
「昨晩、主様が来て悟ったわ。 あの子が主様の守り人になる事を。 もう、9歳だものね。 約束の時なのよね。」母親が涙を流しながら言う。
「おかあの変わりになれるかのう。おとうにとって梓はあくまで曾孫だ。 守り人になれるかのう。」と祖母が言う。
綺麗な山
「よいしょよいしょ」梓は石畳の階段をゆっくり登る。
山頂に着くと1人の老婆の石像の横に白くて美しい毛並みの犬…否、狼が座っていた。
「綺麗ね。 」梓が声を掛ける。
「綺麗か?」と狼が人語を話したので梓はびっくりしてしまう。
「悪かった。 でもここに来た人間ということは儂が選んだ相手じゃ。 ワシは人狼じゃ。なあに、人狼と言ってもお前さんやお前さんの家族は襲わんよ。 お前さん達はワシとそこの婆さんの大事な親族じゃ。お前さんは今日から此処で暮らしワシの守り人となれ。」
「守り人? でも小学校に…」
「行かなくていいぞ。小学校には先生も友達もいない。」
「それって…」 梓は恐ろしくなった。恐ろしくてガタガタ震えた。
「小学校で虐められてただろう?」人狼の言葉に梓はドキッとした。
「虐められてなんかない!」 人狼が梓の首元を噛んだ。
「痛い!私の事は襲わないって言ったのに。」
「嘘つきは襲う。」
「… 分かったわよ。虐められてたわよ。 入学してからずっと。 変わった子だって言って虐められてた。 」
「婆さんと同じか。」