空虚空間
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例えばの話をしよう。ここには一つの『穴』がある。
穴はどこにあるか、だって? それは君次第だ。君が床を見れば床に穴は開いているし、君が空を見上げれば穴は空を覆い尽くしている。そう、どこに穴があるかは君次第なんだ。わかったかい。
穴には色がある。それは一色かもしれないし七色かもしれない。七色だったら、それは全部混ざり合ってしまって、新しい一色に生まれ変わっているだろう。もしかしたら、大理石のように混ざり切っていない不完全な色かもしれないな。
穴の大きさも君次第だ。人一人が入る位。若しくは蟻の巣の入り口のような、ちんけなもの。
さて、君はその穴を見てどう思う? 開いてしまった場所? 色? 大きさ? 違う違う。私が君に聞きたいと望んでいるのは、それじゃあない。もっと単調で直感的なものだ。醜い・汚い、気持ち悪い。愛してあげたい。大事にしたい。……えっ、埋めてしまいたい?
よしじゃあ本題に入るとしよう。その穴に手を入れてみるといい。何も無いだろう? そう、そこは空虚なんだ。空虚って何だって? そんなの知るわけないだろう。簡単に言ってしまえば何もない事だよ。何もない事はそれはそれは寂しい事だろうね。肉体も影もないのだから。
その空虚の空間に命を吹き込めるとしたらどうする。面白いだろう。でもそれには生贄が必要なんだ。違う、君の体じゃない。
穴の中に何かを投げ込んで欲しい。そうすれば穴に命が吹き込まれるんだ。でも入れる物はこの世で一番大切な物でなくちゃあいけない。金が一番大切なら札束を投げれば良いし、恋人が一番大切なら恋人を投げ込めばいい。
でも一つ言っておきたい事があるけど、私は嘘しか言わない人間だよ。そう、嘘。lie。
嘘しか言わないって事はつまり、今までの話が全部嘘だって事になる。奇怪な事だね。君の目の前にある空想上の空虚は私が作り出した嘘になるんだ。分かり難い? そりゃあ私の言い分だからね。でも私が嘘しか言わないって事になると私が言った事は全部真理。だってそうだろう。私は嘘しか言わないよ。
さて、そろそろ穴を閉じてはくれないか。何、そんな穴覗いても何も見えやしないよ。え? 私が自分は嘘しか吐かないと言った言葉自体が『嘘』なんじゃないかって? ああでもそうすると私の言い分も通るな。何、君は大事な物を失ってまで私の真理を知ろうとするのか。面白い人間だ。
ああ、投げちゃ駄目だってば。
……穴に投げた物はどっちみち帰って来ないよ。
言っただろ。『投げ込め』って。
最後の話をしよう。もしも私の先ほどの言葉を追求するとしたらそれは終わりの無いものになる。真理とはそういうものだよ。合わせ鏡。そうだ合わせ鏡だ。我ながら良い例え言葉が出たな。
穴を覗き込むのに夢中で、私の話を聞いてないだろう? 君。
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お目汚しすみませんでした。最後まで読んでいただけて光栄です。
今回はかなりざっくり書いてしまいました。皆さんが「?」とならないか心配です。想像力をフル活用して欲しいと思っておりますが、かなり面倒臭い事になるでしょう。
誤字・脱字などがございましたら遠慮なくお申し出下さい。
では、これにて失礼いたします。