ハジメテをあげる
「アリス、俺のハジメテを全て君に捧げるよ」
「……いらないから、部屋から出て行ってもらえるかしら?」
アリスが大げさにため息をついた。
ハースが、とうとうアリスの寮の部屋に侵入してきた。
『夜這い』というものらしいが、アリスにはハースの言ったことの半分も理解できなかった。
少なくとも、まだ太陽が真上にある。夜では絶対なかった。
うららかな日曜日に、いつものようにアリスの部屋の外にきたハースは、コンコンと珍しく窓を叩いた。
いつもいつも、ハースは無言でアリスを観察し続けているのだ。
だが、今日は違うらしいと、アリスが窓を開けた瞬間、ハースが、あ、と部屋の奥を指さした。
アリスが振り向く。が、何もなかった。
そして窓の外を見ると、ハースが居なくなっていた。
と、思ったら、部屋の中に入ってきていたのだ。
そして、こんこんと『夜這い』について説明を始めた。
曰く、『何をしても許されること』らしい。
色んな説明をしていたハースだが、理解できそうにもないアリスを見て諦めたように、そう告げた。
「何をしても許されるって言っても、これは流石に寮長と学院長に怒られると思うわ」
「いや……その何をしても、じゃなくて」
アリスの告げた言葉に、ハースが脱力する。
ハースはあの手この手でチャレンジしてみてきていたが、未だ成功していなかった。
だからハースは、とうとう禁じ手とも言える、アリスの寮の部屋に乗り込んでみたのだ。
が、ハースが言いたいことの半分も、アリスには伝わっていなさそうだった。
アリスとキスは出来る。
だが、それから先に進めそうな気が、全くないのだ。
この世界は、健全な誰にでもできるゲームの設定だった。
どうやらそのせいで、アリスの性に関する知識が、小学生レベルなのだ。
前世の時から全力でアリス推しだったハースだが、これだけは誤算だった。
いつまでたっても、艶やかな話になりそうにもない。
ハースとて、青少年だ。悶々としている。
だが、この世界のクラスメイト達は、皆、さわやかだ。悶々とすることは全くなさそうなのだ。
前世の記憶を持っていることで困ることがあるとは、ハースも思わなかった。
果たして、アリスと艶やかな関係になれる日が来るのか。
ハースは、遠い目をして溜め息を吐いた。
そして、そのハースを見ながら、アリスが大きなため息をついた。
いつまで小学生レベルの性知識がないふりが続けられるのか。
流石にアリスも貴族の令嬢だ。そこのところはしっかりと教えられている。
そして、腐っても貴族の令嬢だ。ポーカーフェイスも得意なのだ。
ハースはどうやら前世の記憶にこだわっていて、ちょっとずれているせいか、そのことに気付いていない。
でも、学院にいる間は、清い交際をするべきだと、アリスは思うのだ。