食堂にて②
「アリス様、ちょっとよろしいかしら?」
学園の食堂で食事をしていたアリスとハースの前にやって来たのは、メルルだった。
取り巻きはいなかったが、アリスはデジャヴを感じる。
だが、メルルの悪評は最近聞かなくなってきている。まだ多少何かと衝突してはいるようだが、概ね学園生活は平和だった。
「何だ?」
返事をしたのは、当然のようにハースだった。
テーブルの下で、ハースがアリスを励ますようにきゅっと手を握った。
アリスは気をはる必要を感じずに首を傾げた。
「ええ、ハース様でもいいですわ! 私、お二人の純愛を認めようと思いますの!」
アリスは耳を赤らめて首を傾げ、ハースは訝しそうにメルルを見た。
「なぜ?」
ハースの言葉に、メルルが拳を握る。
「私が見る限り、お二人は純愛だからですわ!」
力強く言い切ったメルルは、本気のようだ。
アリスはぽかん、と口を開ける。
ハースはメルルを見る目を細めた。
なぜか不穏な空気が漂い始める。
「なぜ、メルル嬢に認められる必要がある?」
その声は、絶対零度だ。
耳をそばだてていた学院生たちは、ぶるりと体を震わせた。
どうか平和に戻りますように、と心から念じ始めた。そして、我関せずの態度を続行した。
「アリス様! 本当にお二人は素晴らしいわ! 私、これが純愛と言うのだと、ようやく理解したんですの!」
メルルは続ける。どうやらハースの様子など目に入っていないようだった。
ハースたちの周辺の温度が下がる。
アリスは困った顔でハースを見ている。
「メルル嬢、アーディン侯爵に手紙を書こう」
ハースが冷たく言い放つ。
メルルも流石に父親の名前を出されて、おののく。
「一体何を書くつもりなの?!」
「頭がイカレテいるようだから、幽閉するのをお勧めすると」
淡々とハースは告げた。
「やめて! やめてよ! またそんな手紙が来たら、ほんとうに幽閉されちゃう!」
メルルが焦る。
「では、我々の関係に口を出すのは辞めてもらえるかな? 前にも言ったと思うんだが」
「わ、わかったわ。……でも、本当のことなのに!」
悔しそうにメルルが去って行く。
困った表情のアリスが、ハースの服をつつく。
「どうして怒ったの?」
ハースがムッとした顔でアリスを見る。
「どうして、メルル嬢に俺たちの関係を認められる必要があるんだ?」
「……そうね」
アリスが困ったように微笑む。
「それに、俺たちが純愛なのは、いちいち言わなくても分かり切った事だ」
「……そうかしら」
アリスが顔を赤らめて首を傾げる。
「それに、だ!」
ハースの語気が強まる。
「せっかくのアリスとの時間を3回も邪魔されたんだ! 3回目だ! 許せるわけがない!」
なるほど、と周りの学園生たちは心の中で頷いた。