グリーン先生との面談
「えーっと、アリス君。ハース君のことで困っていることはないかね?」
グリーンの額からは、秋だというのに汗がだらだらと流れている。
「……そうですね。困っていると言えば、いつもいつも私を観察しているってことですかね」
予想以上の収穫に、グリーンは喜びがわいた。
「そうなんだね! アリス君は実は困っているんだね?」
グリーンの言葉が強くなる。
「そうですね。あえて言えば、ですけど」
アリスが肩をすくめる。
「いや、困っているんだよね?」
グリーンが念をおす。
「まあ、そうなります、かね」
グリーンが念を押せば押すほど、アリスの言葉尻が尻すぼみになる。
「そ、うか……困ってるんだ……」
そのアリスの隣に座るハースが、スンスンと鼻をならし出す。
最初にアリスが困っているといった瞬間、ショックの表情を見せたハースは、次のアリスの言葉でうつむき、次のアリスの言葉で顔を手で覆った。
それを横目で見ていたアリスも、困った顔をしている。
「俺は、アリスの邪魔……なんだね?」
涙目のハースに、アリスは困ったようにため息をつく。
「邪魔ではないわ」
パッとハースが顔を輝かせる。
「じゃあ、観察してるのはいいんだね!」
「えーっと、観察しているのは……いいんだけど……」
「何が駄目なの?」
「……いつもは嫌だと、アリス君は言っているよ?」
グリーンは、助け船を出した。ハースがグリーンを見る。グリーンは背中の汗が吹き出る。
「アリスに聞いています」
「そ、そうだね」
グリーンは心に刻んだ。アリスとハースの会話を遮らない。
「アリス、何が駄目なの?」
「いつもは……嫌なの」
ハースがショックを受けたように青ざめる。
「アリスが寝ているときには観察できてないくらいなんだよ?」
「えーっと、そうじゃなくて……」
「お風呂の時だって、トイレの時だって、観察は無理だよ?」
「えーっと、そうね」
「じゃあ、いつもじゃ既にないよね?」
「えーっと、そう……ね」
腑に落ちない様子のアリスにハースがにっこりと笑う。
「じゃあ、困りごとはなくなったよね?」
「えーっと……そうなるのかしら」
アリスがグリーンを見る。
「先生、アリスは困っていることは、ないようですよ?」
ハースがすかさず告げた。
「そう、だな」
そもそも、グリーンがアリスに困っていることがないか相談に乗ろう、と言って始めた面談だ。
「では、失礼します!」
ハースに連れられてアリスがペコリと頭を下げながら部屋を出ていく。
ハース抜きで行うはずのアリスの面談がなぜ失敗したのか、グリーンにもさっぱりわけがわからなかった。




