後輩との握手
※「目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件」の番外編と関係のある話なので、アリス以外とのやりとりは意味が分からないかもしれないです。ごめんなさい。
「そうか、君が」
ハースに握手をされている後輩は、明らかに戸惑っていた。
「ええ、そうなんです」
その後輩の隣にいる愛らしい顔の後輩が笑ってしっかりと頷く。
アリスは困惑していた。廊下で遭遇した途端始まった、謎の握手。
アリスは後輩が理解しているのか気になって顔を見た。
後輩と目が合ったが、すぐにアリスから目を逸らされて、考えていることは読み取れなかった。
「俺は応援しているから」
ハースが大きく頷く。後輩の困惑した顔は更に曇った気がした。
「ありがとうございます」
そしてなぜ、愛らしい顔の後輩が返事をするのかも、アリスにはさっぱりわからない。
やはり後輩も分からないのだろう。首を傾げている。
「ねえ、ハース。何の話をしているの?」
アリスの疑問は、当然の疑問だった。
「やだな、アリス。これは男同士の秘密の話だよ」
ふふ、とハースは笑ったし、顔の愛らしい後輩は頷いたが、もう一人の後輩は頷かなかった。
「だって、こっちの方、戸惑ってるわ」
だが、アリスの視線に後輩がニコリと笑う。
「いえ、戸惑ってませんよ」
その笑顔に、嘘があるようには見えなかった。
「そう? ……それならいいんだけど」
どうやらアリスだけ置いてきぼりらしい。
「本当に、応援しているから」
しっかりと目を見るハースに、後輩はしっかり頷いた。
アリスだけ理解はできていない。
「有難うございます!」
そして、満面の笑みなのは愛らしい顔の後輩。やっぱりアリスにはさっぱりわからない。
歩き出したハースが、アリスの顔を覗き込む。
「どうかした?」
「私にはさっぱり分からなかったわ」
肩をすくめるアリスに、ハースが、ふふ、と笑う。
「アリスがやきもちを焼いてくれるなんて、嬉しいね」
ハースの言葉に、アリスはムッとする。
「そんな話じゃないわ!」
どう考えても、そんな話じゃなかったはずだ。
「だって、俺が秘密の話をしているのが、何だか嫌だったんでしょう?」
ハースの言葉に、うーんとアリスは考え込む。
「そう、かしら?」
何だか違うような気もするし、違わないような気もする。
「俺に秘密を作られるのが嫌ってことなんだから、やきもちってことだよ」
嬉しそうなハースに、アリスはまあいいかと、肩をすくめた。