アリスの誕生日の前日
「みんなにお願いしたいことがある」
教壇に立ったのはハースだった。
アリスがトイレにいくタイミングを読んで、のことだ。
今日はハースが珍しくあとをつけていかなかったので、クラスメイトも不思議に思っていたのだ。
「明日の誕生日なんだけど……」
誰の、とハースは言わなかったが、アリス以外の誕生日があるわけがない。クラスメイトはうなずいた。
「みんなに、一本ずつ花を渡して欲しいんだ」
へー、と感心した男子の声と、素敵、と感嘆の声を出す女子たち。
「順番に花を渡して行って、最後はハースってことね?」
ケリーの言葉に、ハースがうなずく。
「今回のプレゼントは、花束と俺だ」
教室が静まり返る。
「いい考えだろう?」
ハースが教室を見回す。
「ハース、自分をプレゼントするのはやめた方がいいわ! せっかくのロマンティックな空気が……こう……不思議な空気に包まれそうな……気がするわ」
勇気あるケリーの言葉に、拍手が起こった。
「そうかな?」
首をかしげるハースに、クラスメイトたちは大きくうなずいた。
「そうかな?」
「そ、そもそも、ハースは既にアリスのものだろう? プレゼントの必要はないんじゃないかな?」
マイクが声をあげる。みんながコクコクとうなずく。
「そう言われれば……そうだね。今さらか」
あっさりと引き下がったハースに、クラスメイトたちはホッとした。
プレゼントがハース。
一体どうやってあげる気だったのか、確認できるクラスメイトは誰もいなかった。