誕生日プレゼントの話の直後のその後
えぐえぐと隣で泣いているハースに、アリスはため息をつく。
小さいころのように大声で泣きださないものの、10分経っても泣き止む様子がなかった。
アリスも一応怒っているため、黙り込んだまま女子寮に向かっているのだ。
アリスがちらりとハースを見ると、ハースは目を伏せて、ハラハラと涙を零している。
久しぶりにハースを泣かすことになったこともあって、アリスも少々扱いに困っていた。
前であれば、ハースは何だかんだと言いながら、アリスが自分のことを好きなんだろうと結論付けて最終的には泣き止んでいた。
だが、今日はそれもなかった。
まだアリスが許す言葉を告げてないからかもしれなかった。
学院の中に入ると、アリスに連れられて泣きながら歩くハース、という珍しい光景に、まだ学院に残っていたみんなの視線が集まった。
アリスも流石にこのままではいけないかな、とハースを見る。
ハースの表情は、10分前と何も変わっていなかった。久しぶりに「キライ」と言われたのが、よほど堪えたらしい。
アリスもちょっと言い過ぎだったのかな、という気分になる。
「ねえ、ハース。泣き止んで」
アリスの言葉に、ハースがピタリと立ち止まる。
「泣き止まなきゃ、キライなの?」
「えーっと、別に……泣き止まなくてもキライではないけど……」
アリスは戸惑いつつ答える。
「好きってこと?」
「……そういうことじゃなくて」
アリスは気恥ずかしくなって、つい否定した。
「キライってこと?」
「……だから、そういうことじゃなくて……」
ゴニョゴニョとアリスが口ごもると、ハースが涙に濡れた目をアリスに向ける。
「じゃあ、どういうこと?」
「……えっと……」
アリスの耳が赤くなる。
「好き?」
アリスが顔を赤くして、顔を振った。
「キライ?」
アリスは顔を動かさずに、目だけ逸らした。
「好き?」
アリスは一瞬の間の後、コクリと小さく頷いた。
「ねえ、アリス。もう待てないから、結婚してしまおう!」
アリスの手を両手で握るハースの顔は、涙でぐしゃぐしゃだ。
アリスはつい、ふふっと吹き出した。
ハースが目を輝かす。
「今のは、いいってことだよね? そうだよね?」
アリスは慌てる。
「まだ! まだ結婚は早いわ!」
「……どうせ結婚するのに?」
ハースの言葉に、アリスが肩をすくめる。
「せっかくの学院生活を、もっとハースと楽しみたいの。だって、結婚ってなったら、準備が大変でしょう?」
アリスの提案に、ハースがコクリと頷いた。
「アリスは俺とできるだけ沢山過ごしたいってことだね!」
ウキウキしたハースは、先ほどとは違ってアリスの手を引いて浮足だって歩いていく。
一部始終を見ていた学院生たちは、少々胸焼けを起こしつつ、学院は今日も平和だと結論付けた。




