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ハースからのプレゼント(幼少)

 アリスが許して以降、ハースは毎日のようにデッセ侯爵家へ顔を出した。

 ついでに、毎日何らかのプレゼントをくれる。

 お金のかかるものではない。ハースの屋敷の庭で拾ったものや、摘んだ花など、かわいらしいプレゼントだ。

 アリスの部屋の棚の上には、きれいな石や、形の面白い葉っぱや、貝殻などが並んでいる。それらは全てハースがアリスにプレゼントしたものだった。

 

 今日もハースはプレゼントをもってやってきた。

 一緒に来たお目付け役となっている使用人のグリスも、今日のプレゼントが何かは知らない。箱の中に入っている上に、ハースが教えてくれなかったからだ。

「かわいいから、アリスだけに見せるの」

 とは、なんとも子供らしくて、グリスは微笑ましい気持ちでハースを見ていた。

 

 グリスはハースが生まれてすぐの頃から侯爵家で働いている。

 少しも子供らしいと思えないハースだったが、アリスと婚約が決まってからのハースは、子供らしい表情を見せるようになってきた。

 その事に、グリスも、ハースの両親もホッとしていた。 


「ねえ、アリス。目をつぶって」

 ハースの言葉に、アリスが目をつぶった。

「今日のプレゼントはこれだよ」

 ハースの手からアリスの手に、そっとプレゼントが置かれた。

 何だかひんやりとしてネトっとしている感触に、アリスは目を首をかしげる。

 何かが全く想像できなかった。


「アリス、目を開けていいよ」

 ハースが告げると、アリスが目を開けた。次の瞬間、アリスの顔に何かがピタッとくっついた。冷たい、そしてどこか生臭いものだ。

「キャー!」

 未知の物体に、アリスが叫んだ。


 アリスの反応に、ハースがオロオロとする。

「アリス、アリス大丈夫だよ!」

 ハースがアリスの顔についた何かをつかんだ。

「アリス、ほらカエルだよ。小さくてかわいいでしょう?」

 ハースの顔は本気だ。


 ハースの手に乗るカエルを見たアリスは、また叫んだ。

 その反応に、ハースが驚く。本気でアリスも喜んでくれると思っていたのだ。

「いやだ! カエルどこかにやって!」

 アリスは、小さな生き物が苦手だった。

「アリス、このあいだのカタツムリはかわいいって言ってたでしょ?」

 だから、ハースはカエルもアリスが喜んでくれると思ったのだ。


「だって、キライって言うと、ハースが泣くんだもの!」

 キライという言葉をアリスが言うだけで、ハースは泣き叫んだ。だから、幼心にキライという言葉を使わないようにしていたのだ。

「でも、カエルかわいいよ?」


 泣きそうな顔でカエルをつき出したハースに、アリスは後ろに下がる。その目には、涙がたまっていて、いつ泣き出したとしてもおかしくはない。

「キライ! カエルも意地悪するハースもキライ!」

 アリスが叫んだその次の瞬間、ハースの涙がボロボロとこぼれ落ちた。

 そして、大きな泣き声が部屋に響いた。


 そして、とうとうアリスも泣き始めた。

 二人の子供の泣き声が、部屋にこだまする。

 やれやれ、とその場にいるデッセ侯爵家の使用人たちとグリスは思う。

 だが、大人たちはこの喧嘩に介入はしない。ただ見守るだけだ。


 先に落ち着いたのは、アリスだった。いや、ハースは相変わらず泣き叫んでいて、アリスも我にかえるより他はなかったのだ。

「ハース、泣かないで」

 自分もぐずぐずと泣きながらも、アリスはハースに声をかける。

「だってアリスがキライだって!」


 ハースの泣き声が一段と大きくなった。

 困った顔をしたアリスは、ハースの手の上から既に逃げ出し床の上を飛び回るカエルを見る。

 やっぱり、好きになれそうにはない。

「カエルはキライだもの」

 アリスが呟いたとたん、ハースの泣き声がピタッと止まる。


「それって、僕のことは好きってことだよね?」

 涙でグシャグシャのハースが、アリスの手を握る。

「ええっと……」

 アリスが言いよどむと、ハースの顔がまたくしゃりと歪む。

 アリスはあわててうなずく。

「そうかも……しれない」

 とたんに、ハースの顔は笑顔でいっぱいになる。アリスはここのところ、曖昧な表現の語彙が急激に増えた。


「僕たち相思相愛だね!」

 二人の喧嘩のいつも通りの結末だった。

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