教室にて
グリーンの授業が終わり、教室はざわめいている。
アリスが次の授業の準備をしていると、ハースがグリーンのところにまた行っていた。
前回ハースはグリーンにノートを見せに行っていたが、もうノートはとらなくていいと言われたと言って戻ってきた。
嫌な予感がしてノートを見せてもらったら、グリーンの発言や挙動をいちいち書いてある観察日記が出来上がっていた。
やっぱり観察されるのは嫌なものなんだと、アリスは納得した。
そして今回は、いつもと変わらない態度でハースは授業を受けていた。ノートもとっていなかったし、わざわざグリーンと話すことがあるのか想像できなかった。
アリスはつい最近病気で休養することになった担任のザイレンのことを思い出した。
ザイレンが休養することになった一因は、ハースではないかとアリスは思っている。何しろ学院長の秘密を握り思うままに操っている人間だ。
普通の先生が、ハースの扱いに困るかもしれないのは、当然のように思えるのだ。
そして今、ハースはグリーンとコンタクトを取っている。もしかしたら、何か脅しているのかもしれないと、アリスは二人を注意深く見る。
グリーンがうろたえているように見える。
いったい何を。
そして結局呆気にとられているグリーンを残し、ハースが席に戻ってきた。
「ハース、グリーン先生と何を話していたの?」
「アリスは素晴らしい女性だってことを伝えてきたんだよ」
ハースが真顔で答える。アリスは首を横にふった。
「本当のことを言って?」
「アリスのことをこの学院の中で一番好きなのは間違いなく俺だよ」
ハースの顔は真顔だ。
「そうじゃなくて!」
「ごめん、間違ってたね。アリスのことを世界で一番好きなのは俺だってことだね」
アリスが首をふる。
「それじゃないわ!」
「アリスも俺のことを好きだってこと?」
ハースが首をかしげる。
アリスの顔がカッと染まる。
「違うわ!」
「え? 違っているの? 俺のことは嫌い?」
ハースが悲しそうに眉を寄せる。
「嫌いじゃないけど、その事じゃなくてってこと!」
「アリスのことを一番見てるのは俺だってことかな?」
「違うわ! グリーン先生と何を話していたの?」
ハアハアとアリスが息を切らす。
「ああ、そのこと……何の話をしていたか、アリスといちゃついていたら忘れてしまったよ」
フフ、とハースが笑うと、アリスの目が半目になった。
「ハースの書いた観察日記、全部処分するわ」
ハースが目を見開く。
「わかった。わかったから! ……言うよ」
ハースが観念した。アリスはホッと息をつく。
「俺はアリスのことを愛しているって言った」
アリスが首を横にふった。
「金輪際、観察日記をつけることは禁止するわ」
「アリス、本当なんだって! 本当に、俺はグリーン先生に、アリスのことを愛していると言ったんだ! グリーン先生に聞けばわかる」
アリスには必死なハースの言葉が嘘には聞こえなかった。
だが、頭がいたくて、こめかみを揉んだ。
「一体、どんな話をしてたら、そんな話になるの?」
ハースが目をそらした。
「寮の敷地への侵入も許さないわよ」
ハースが大きくため息をついた。
「あまりにグリーン先生が俺を見るから、アリスを愛しているから気持ちには応えられないって言ったんだ」
アリスは頭を抱えた。
「先生をからかうなんて!」
「だって俺のアリスとの時間を邪魔されたら困るから!」
アリスはため息をついて、首を横にふった。
「後でグリーン先生に謝りに行きましょう」
ハースがコクリとうなずいた。
「でも、俺がアリスを愛してるってことは、本当だからね?」
弱々しく告げるハースに、アリスの耳が赤くなる。
「わかってるわ」
「アリスが俺のことを好きだってことも本当だよね?」
アリスはハースを見て、ふいと顔をそらした。
その顔は真っ赤だった。
クラスメイトたちは、やれやれと心の中でため息をついた。




