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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
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37 聖女杯 事件解明編5

 

「アスベル……」


「ちょっ、ちょっと……アスベルっ!」


 ダミエル達やラフィが不安そうにする中、


「フッ……フフフ……」


「?」


「――アッハハハハハハッ!!!!」


 アスベルは頭のネジが飛んだように、大声で笑い始めた。


「……狂ったか? アスベルさんよぉ」


 するとアスベルは叫ぶ。


「『ダミエル! レックス!』」


 王宮騎士に捕まっていたふたりがピクンとその言葉に反応する。


「『エメローラを人質に取れ!!』」


 するとそれを聞いたふたりは、その命令を実行するためか、取り押さえていたフェルマを含む王宮騎士を振り払った。


「なに!?」


 そして――、


「――きゃあっ!?」


「ロ、ローラ!?」


 ダミエルがエメローラを人質に取ると、ふたりは正気を取り戻したのか、気分が悪そうな顔をする。


「まったく……勘弁してほしいものだ」


「まったくッスね。身体や意識を無理やり動かされるのは慣れないッス」


「な、何だと!?」


 アスベルは上手くいったと高笑い。


「ハッハハハハ!! ざまあないな、国王陛下様よぉ!! 俺が大人しく投降するとでも思ったかあ!! あん!?」


「貴様ぁ……!!」


 そう言ってノーウィンが動こうとすると、


「おっと! 動くなよ。観客共もだあ!! わかってるよなぁ!?」


 アスベルは人質に取ったエメローラを指差すと、ノーウィン達は悔しそうに睨む。


「しかしどうしてだ? 【絶対服従】が使えるのはラフィのはず……」


「さすがは無能王。本当に馬鹿だな」


「なに?」


「俺がネフィを罠にかけたのは三年前。それまでラフィの左足の能力を検証しなかったとでも思ってんのか!?」


 するとディアンは水晶を見て閃く。


「そうか! 貴様ぁ、そのために聖都の住民を利用したな?」


「アッハハハハハハッ!! その通りだよ、ディアン。どんなふうに命令を聞くのか、持続時間や意識の有無、そして……時間差で命令もできるのかとかなあ!?」


「時間差だと!?」


「そうさ! あらかじめそこの護衛につくふたりには、俺の命令もひとつ聞くよう、【絶対服従】をかけておいてあったんだよ! そりゃあ命令を聞ける時間の範囲は短いが、少なくともこの大会時間までは問題ない」


 アスベルがふたりにかけた命令は、『観覧席にいる時、アスベルの命令に絶対遵守せよ』という内容だったと思われる。


 それが実行されると、ふたりはその命令を叶えるため本来ならば出し得ない力を突然発揮し、取り押さえている騎士達の隙をついて脱出することが可能だったのだろう。


「念には念を入れておかないとな」


 するとダミエルに人質に取られてしまったエメローラが苦しそうに訴えかける。


「わたくしのことは構いません。その者達を……特に【絶対服従】の力を持つラフィを取り押さえなさい」


「ハハアッ!! そんなことできるわけないだろお!! なあディアンさんよお!!」


「くっ……!」


 アスベルの問いかけに苦悶の表情を浮かべるディアン。

 だが事を読み切れていないオルディバルは、わからないと苦悶の表情。


「なあ、ディアンさんよぉ? お前さん、大事なことを伝え忘れてないかぁ? なあ!!」


「だ、黙れ!」


「伝え忘れだと? どういうことだ?」


 オルディバルの問いに、アスベルが反応する。


「おいおい薄情なお父様だなぁ〜。アンタ、――ガキを何人こさえたんだよ」


「!!」


 オルディバルは手すりに思い切り手を叩きつける。


「そうだ! エドワードは!? エドワードはどうなっている!?」


 ここまでの情報が重過ぎたこともあり、まったく過ることがなかったオルディバルは、真っ青になりながら思い出す。


 それをアスベルは面白そうに笑いながら、


「ディアンさんよぉ〜、ちゃーんと調べたんだろ? エドワード王子殿下様がご留学してたことは知ってたんだから、調べたんだよなあ!!」


 煽るようにディアンに問いかけると、ディアンは言いにくそうに報告する。


「も、申し上げます、陛下。エドワード王子殿下は……聖都の民同様、【絶対服従】による精神汚染を受けた影響で、聖堂騎士の命令のみを聞く状態となっております」


「なあっ!?」


 ディアンはオルディバルのことを考え、この場では伏せていたことだったのだろう。


 言葉を選んで語ったのだが、アスベルが高笑いしながら修正する。


「状態なんて曖昧な言い方するなよ、ディアン。廃人! 肉人形! 奴隷にでもなったとハッキリ口にしたらどうだ? アッハハハハハハッ!!」


「き、貴様ぁ……!!」


 そんな開き直ったアスベルに、激しい嫌悪の視線を向けながらノーウィンは問う。


「ここまでやるからには認めるのよね?」


「あん? ああっ! 認めるよ! ほとんどそこにいるフェルト・リーウェンの語った通りさあ! ラフィを(たぶら)かし、ネフィを陥れ、聖都を支配下におき、この国すら乗っ取ってやろうと画策したのはこの俺だっ!! アッハハハハハハッ!!」


 逃れようがないとはいえ、ここまで開き直るのもどうかと思うノーウィン。


「でも姫殿下を人質に取ったくらいでいい気にならないことね。どちらにしても貴方達がここから無事に脱出する方法はないわ」


「はあ? これだから脳筋獣人は嫌だねえ〜。脱出する方法がない? 馬鹿抜かせ! 何のためにエドワードのことを語ったと思ってんだあ?」


「なに?」


「お前も一緒に調べたんなら知ってんだろ? エドワードの肉人形ぷりをよぉ。仮にここでエメローラがくたばってみろ。この国の王位継承権はどうなる?」


「そ、それは……」


 元々第一王子であるエドワードが王位を継ぐに値する存在であったが、【絶対服従】による精神汚染を受けており、自我が無いのだとするならば、現段階での正式な継承者はエメローラになるわけだろう。


「洗脳され、自我の無い植物状態の肉人形であるエドワードが王位継承することになるが、エドワードを操ることができるのは俺達だ。つまり、実質的には俺達のものになるわけだ」


「……!」


「ハッハアーッ!! まともな王位継承者が残ってほしいなら、あの女は殺せないよなあ? なあ!?」


「くっ……。だから姫殿下を人質に……」


「そうだよ? 俺達は実質ふたりの王族を人質に取ってるんだ、一歩でも間違えてみろ。お前達が望んだ未来が訪れることはない! まあ、その方が俺達は助かるがな。アッハハハハハハッ!!」


 そしてアスベルはフェルトを指差す。


「だからフェルト・リーウェン。お前は特に動くなよ」


「ほいほい」


「お前にはしてやられたよ。まさか……まさか! ここまで見抜かれ、追い込まれるとはなあ!!」


 アスベルはニンマリと笑う。


「だが、最後の最後で詰めを誤ったな? フェルト・リーウェン! 貴様もこの状況でエメローラを人質に取られるのは想定外だろ?」


「……」


 フェルトは少し余裕そうな表情で無言を貫き通す。

 崩れないポーカーフェイスに、さすがと思うアスベルは揺さぶりがてらに語られていないことを話す。


「折角だ、フェルト・リーウェン」


「あん?」


「知りたいだろ? 神の左足を手に入れた経緯を」


「へえー。教えてくれるのかい?」


「勿論だよ! 俺の計画を見破っただけで飽き足らず、ここまで追い詰めてくれたお礼だよ」


 アスベルは皮肉を混じえながらそう語ると、『傲慢の左足』を手に入れた経緯を語る。


「神の左足を手に入れたのは、前聖女であるユフィの遺品整理をしていた時だ」


「「!!」」


 ユフィの名前が出て、ふたりの聖女が反応する。


「俺は聖堂騎士だからな。あの女がくたばった後の処理も仕事の内というわけさ。その時に見つけたのさ、ありきたりにも本棚の後ろに隠し階段があってね。そこを降りてみればこじんまりした隠し部屋があった。軽く内見した感じは書斎みたいだったよ」


 カビ臭く薄暗い、壁の一部に本棚が埋め込まれた部屋の中に、ボロボロの机と椅子があったと語る。


「その机の下に真っ黒な布がかけてある箱が置いてあってね。薄暗いものだからあんな乱雑に置いてあっても気付きにくいのだろうが、まあ見つかってね。布を取ってみると、いくつもの封印術式が施されていてね。いよいよ曰く付きの物なんだと過ったね」


 そこまで厳重にされているものならば、おそらく過去に中身である『傲慢の左足』が使われた経歴があるのだろう。


「解くのには苦労したよ。そして中身を見てみれば精巧に作られた人間の義足が出てきたじゃないか。しかも厳重に封印されていた割には、魔力のひとつも帯びない義足……もう確信すら芽生えたね」


「【絶対服従】の力があるにも関わらず、魔力が無いのですか? その義足は……」


「ああ、そうだよ、姫殿下様。だからまんまとアンタ達も【絶対服従】されたんだろ? 結果論ではあるがフェルト・リーウェンの言った通り、これは神物だったのさ」


 本当は『大罪の神器』だがな。

 神格化したという意味では正しいのかもしれない。


「だが当時はそれをすぐに判断することが難しかったし、そんな明らかにヤバそうな物を身につける気もなかった。これもさっき言われた通り、騎士生命にも繋がるしな」


 するとアスベルは不敵に笑う。


「だからちょっと試したんだよ」


「試した?」


「ああ。一緒に遺品整理をしていた司祭にこの左足を見つけたと後日報告し、手渡したんだよ」


 どうやら『傲慢の左足』を見つけたことをしばらく隠していたようだ。


 アスベルは聖堂騎士という手前、おそらく手袋かガントレットを装備していたことを考えると、『大罪の神器』に直接触れてはいないのだろう。

 そうすれば『大罪の神器』の選定には引っかからない。


「まあ、ユフィが生前儀式に使った類だと話したことや過度な封印をしてあったことは伏せたから仕方ないとはいえ、あのマヌケ司祭、直で触れてベタベタと……」


「それからどうなったんだよ?」


「その日は特に何もなかった。司祭も調べてみると言って自室に帰ったからな。そして翌日のことさ、異変があったのは……。様子が気になって司祭の部屋へ行くと驚いた。部屋中が血塗れになっていた挙句、赤い肉ダルマがその左足を持った状態で倒れてたんだ」


「「「「「!?」」」」」


 フェルトには覚えのある話だった。

『大罪の神器』の適性者と認定されなかった場合、死に直結する。

『強欲の義眼』に触れたダマスは、奇声を挙げながら頭が破裂して死んでいった。

 おそらくはこの司祭も似たような感じだったのだろう。


「その肉ダルマは司祭だった。丸々太った司祭だったからな、あの肉塊が司祭だということくらいはわかったが、全身血塗れだったから、顔の認識が難しかったよ」


「血塗れになっていても顔くらいわかるんじゃねえのか?」


「それがな、軽く死体を調べたところ、穴という穴から血が噴き出してたようでな。目玉や鼻、耳、口からは勿論、全身の毛穴からも噴き出してたからな。信じられなかったよ」


 その悍しい死体の説明に会場は凍りつく。


「そして俺はその原因をやはり手に握られていた神の左足だと思ったね。あんな酷い殺し方、確かに魔法使いならできそうだが、あの司祭はあんな殺され方するほど誰かに恨みを買っちゃいない」


 それどころかノーテンキ過ぎて、そんなことが想像つかないと侮辱するように笑いながら、アスベルはその司祭の人となりを話した。


「だとしたら要因は神の左足しかなかった。司祭の死によって、あの左足が確実に俺達の知らない最高の力を宿した物だと思ったね!」


 するとオルディバルが何か思い出す。


「そういえば……何年か前に、司祭が聖都近くで魔物に食い荒らされていたという報告を受けていたような……」


「ああっ。それがその司祭様だよ」


「!?」


「あんな血塗れの肉ダルマを誰かに見られでもしたら、この神の左足のこともバレるかもしれないからな。司祭が誰かに話した可能性もある。だから部屋を綺麗に掃除して、あの肉塊を魔物の巣に放りこんでやってのさ」


「貴様……! そこまでやるか!?」


「ハハッ! やるね! というかむしろひとりの犠牲であの左足が神がかりの力を持っていると判断できたんだ、儲けもんだろ」


 そしてアスベルの目的のためならば、他人の命も人生も問わないという証言をする。


「命のデメリットまでつけば、さすがに俺も付けようとは考えなかった。いくら神の力が手に入るとはいえ、博打を打つにもリスクが高すぎる」


「そこでお前は双子の聖女であるネフィとラフィに目をつけたわけか」


「ああ。後はお前が話した通りだ、フェルト・リーウェン。ラフィをはじめに選んだ理由としては、利用しやすそうという面もあったが、もうひとつ……先にくたばっても問題ない方を選んだってのもある」


「!?」


 それにはさすがに状況を震えて見ていたラフィも文句を言う。


「アスベル! アンタ……死ぬかもしれないことをわかって、私にこれを渡したの!?」


「今頃気付いたのか? 当たり前だろ。そもそも神の力を手に入れようってんだ、それぐらいのリスク、あって当然だろ?」


「ぐっ……」


 それはそうだと、ラフィは言葉を詰まらせた。


「だが結果オーライだっただろ? お前はおかげで【絶対服従】の力を手にした」


「しなくても役立たずの聖女であるラフィが死んでも、この国を支えられるネフィがいれば、問題もないってわけか」


「まあな」


「……!」


 その意見には激しい嫌悪感のある表情をするラフィだったが、声を荒げることがなかったところを見ると、自覚があるようだ。


「ま、結局、扱いやすい方に神の左足が手に入って良かったよ。お陰様でやりたい放題だったからなあ! どんな奴にだって、どんな命令だって聞く。まったく……【絶対服従】は最高だぜ!! なのに……」


 アスベルはギロッとフェルトを睨む。


「フェルト・リーウェン! お前が現れなければ、全てが上手くいっていたのに……」


「そりゃあ残念」


『傲慢の左足』を手に入れた経緯がある程度わかったところで、再びノーウィンが問う。


「それで? 貴方は姫殿下を人質に取り、ここからなんとか脱出して、その【絶対服従】で証拠隠滅でも図るつもりかしら?」


「いい線を言ってるがおしいな。証拠の隠滅は直ぐにでも行なうつもりだ」


「なに?」


 この状況ならば、確かにエメローラを人質に取ったまま、アスベルとラフィだけでも脱出できれば、どうにでもなるだろうが、それでも確実な方法ではない。

 ノーウィンはその隙を見たいと考え、アスベルの穴を突こうとしたわけだが、


「俺が教えようか? コイツがどうやって脱出するつもりなのか」


「!?」

「な、なに!?」


 アスベルの考えなどお見通しだと、フェルトはほくそ笑む。


「簡単なことさ。ここにいる全員に【絶対服従】をかければいい」


 フェルトは手元にある司会者がくれた拡声魔法が施されている魔石を見せながら語る。


「おそらくラフィに司会者さんがくれたこの魔石と同様の物を持たせ、会場中に命令が行き渡るようにしてあるはずだ。その条件下で先ず、『全員、アスベルに絶対服従せよ』と命じた後、『ここで起きたことを忘れろ』などの記憶改竄(かいざん)の命令をすれば、アスベル達は悠々とこの場を脱出できるわけだ」


「ま、待て! フェルト・リーウェン」


「何ですか、陛下?」


「な、何故わざわざ『絶対服従せよ』と言わねばならぬ。記憶を消すなり、改竄するなり、直接命令をすれば良いのではないのか?」


「ではお聞きしますが陛下。ここまで起きた出来事を三秒以内に忘れ、思い出さないようにできますか?」


 オルディバルはキョトンとしながら、


「で、できるわけがないだろう……」


 当然のことを聞くなとばかりにポカンと答えた。


「ええ、できないんです。人間の脳の性質上、不可能なんですよ」


「……だ、だろうな」


 フェルトの言いたいことがわからないと言わんばかりの生返事に、フェルトはわかりやすいように説明を始める。


「……【絶対服従】という言葉に囚われないでください。【絶対服従】と言っても、それを受け取るのはその生物の脳だということです。つまり、脳の処理能力以上の命令は実行されないケースもあるということです」


「む、むう……」


「……」


 アスベルはフェルトがどこまで【絶対服従】を理解しているのかわかっているようで、強く睨みつける。


「生物はそもそも脳から命令を受けて身体を動かします」


 フェルトはそう言って右腕を上げた。


「この右腕を上げる行為も俺が考えて行なったこと。つまりは脳が『右腕を上げろ』と俺の身体に命令して実行されている状態です。だから【絶対服従】で身体への命令というのは、脳からの命令を【絶対服従】で介入し、強制的に実行させているという話になります。ここまで大丈夫ですか?」


「う、うむ」


「ですが、脳には身体を動かすための命令という機能だけでなく、記憶を保持するという機能もついている。こちらは脳が直接脳に命令しているわけではなく、あくまで保持しているという機能だという認識で今は大丈夫です。陛下」


「な、何だね。すまないが難しい質問は今はやめてもらいたい。君の今の話についていくのがやっとでな……」


 オルディバルの参った様子を見ればそうだろうと、フェルトは軽くため息を吐く。


「大丈夫ですよ。そんな難しいこと聞きませんから」


「そ、そうか」


「陛下は王子殿下や姫殿下がお生まれになられた時の記憶はありますか?」


 予想外の質問にハタッとなるオルディバルだが、すぐに穏やかな表情になる。


「当たり前だ。我が子が生まれてきた時のことを覚えておらぬ親などおるものか。あの元気な産声も、あの時の小さな手も、その瞬間瞬間……目を閉じれば昨日のことのように思い出せる」


 自分のことなのか、人質に取られているにも関わらず、エメローラは赤面する。


「や、やめて下さい! お父様!」


「い、いや。すまん」


「陛下、懐かしんでおられるところ悪いのですが、もうひとつ。三ヶ月前の夕食のメニューは覚えておりますか?」


 今度も突拍子もない質問に再びハタッとすると、今度は眉を顰める。


「さ、三ヶ月前だと? う、うーむ……一週間前もうろ覚えだというのに、三ヶ月前の夕食のメニューなど覚えておらん」


「でしょうね」


「さ、先程から何なのだ。それが【絶対服従】の件と関係あるのか?」


「大アリですよ、陛下。脳の、身体を動かすための命令機能と記憶を保持する機能が【絶対服従】によって受ける影響は異なるということです。そして後者はその記憶の印象によっても変わってくる」


「なに?」


「記憶の保持には優先順位があり、先ず、記憶には鮮度があり、より『今』に近い記憶が鮮明となる一方で更に、より『印象の強い』記憶が鮮明となる。陛下がご子息の誕生を昨日のように思い出されるように、三ヶ月前の夕食のメニューを忘れてしまったように……。脳の記憶保持には記憶を選別する機能みたいなものがある。でなければ、十五年も前の姫殿下の誕生を覚えておられるのに、それよりも若い記憶であるはずの三ヶ月前の夕食のメニューを覚えてないなんて、おかしいですよね?」


「そ、そうだな。確かに……」


「そしてこれを今回の件に当てはめてみて下さい。これだけ印象に強い出来事を、陛下が仰ったように急に【絶対服従】で『この場での記憶を消せ』と命じたとしても、記憶が消える人間と消えない人間というムラが発生する」


「君の話通りなら、今回の出来事は印象に強く、記憶に残りやすい状態で命令されてもということか?」


 フェルトの話を理解したオルディバルの返答に、フェルトは指を鳴らして返答。


「正解! だとしたら、もう俺の言いたいこと……というか、アスベル(コイツ)がやろうとしていた『絶対服従せよ』を先に命じる理由もわかりますよね?」


 尋ねられたオルディバルだが、それはまだわからないと首を傾げる一方で、観客席にいるディアンが答える。


「つまりフェルト君が言いたいのは、『絶対服従せよ』という命令で、命じられた側の脳を完全に無防備、受け身体勢を取らせ、保持されているはずの記憶に干渉しやすくする狙いがあるわけか」


「!?」


 フェルトはディアンに指パッチン。


「さっすがディアンさん。正解! その命令は受け手側の脳に『こちらが指示を出すから待て』って言ってるようなもんだからな。それを強制されてしまえば脳は無防備になる。そしてそこに『記憶を消せ』などの命令を施せば、脳はそれを実行しなければならないと脳はその指示に従い、記憶を消去、改竄が可能になるってことだ」


「な、なんと……」


「更に言えば、脳の受け身体勢状態であれば、本来の脳機能が発生している状態とは逆に、鮮明な記憶ほど消えやすい」


「そ、そうか! 無防備な脳がはっきり残っているのが印象に残った記憶なら、その『記憶を消せ』という命令は通りやすい!」


「ディアンさん、またまた正解! だからアスベルはわざと自白し、聞いてもいない神の左足の入手方法まで語ってみせたんだ。この一連の事件をより印象的に思ってもらうためにな!」


「くっ……!!」


「更に言えばおそらく、エドワード王子殿下を含めた聖都の人達にも同様のことをしたと思われる。ま、俺が言ったことに気付いたのは最近の話だろうけどな」


「何故そうだと?」


 尋ねてきたエメローラからすれば、【絶対服従】をわかっていたとはいえ、アスベル達が脳の作用について知っていた段階など測ることは難しいと問うが、


「先程話した通りですよ。コイツらも【絶対服従】という力に踊らされており、その本質を見破れないでいた。陛下」


「何だ?」


「【絶対服従】と聞いて、何を想像します?」


「そ、それは文字通り、口にしたことを絶対遵守させると……思うだろうな」


「そう。それだけで十分だと、ほとんどの人は思うでしょう。『絶対服従する』その文言だけで十分強力と理解できるし、それ以上でもそれ以下でもないと満足してしまう。でも、どうして【絶対服従】してしまうのか……そのメカニズムを少しでも考えれば、今語ったようなことも説明できるはず。これがアスベル達にあれば、こんな風に追い込まれることはなく、もっと上手い使い方があったはずだ……」


「だからフェルトさんは、貴方の今をアスベル達は最近知ったのだと語った……」


「その通り。だからあの三年前、【絶対服従】を手にしたにも関わらず、未だにくすぶっているのはそのせいでしょう」


 するとアスベルは悔しそうに表情を歪ませながら答える。


「ああっ! そうだよ! クソッタレがあ!! 何回も何回も【絶対服従】の実験をしているうちにできるようになった偶然の産物だったんだよお!! まさか、そんなカラクリだったとは……」


「何だったら陛下達の記憶が飛んでいるメカニズムも説明してやろうか?」


「なに?」


「命令にはいくつか種類がある。身体を動かす行為、記憶の操作、そして陛下達によくお前達が行なってきた同意などを求めたり、法廷でネフィを追い込むよう、支持者を操るような行為」


 最後の説明された行為が該当するのでと不敵な笑みを続けながらフェルトは語る。


「身体を動かす行為は元々脳が命令することで実行されるため、記憶に干渉する必要が無いため、意識はある状態でも実行される。ふたつめはさっき説明した状態になるため、記憶は飛ぶ。では三つ目は? 行動と意思、つまりは脳、記憶、意識に干渉しつつも行動にも命令される行為のため、行動しつつも意識が背かないようにするため、邪魔になる意識は遮断され、記憶が飛ぶという答えに辿り着く」


「そ、そうか! 私が聖女の巡礼は国のためにもやって欲しいと望んでいるその意識が、聖女ラフィの命令とは合致しないため、強く命令権のある【絶対服従】が優先されるため、私達の記憶が無くなるのか!?」


「正解です、陛下」


 フェルトは自信満々にアスベルに振り向く。


「アスベルさんよぉ。これが正しい【絶対服従】の理解だ。確かにその左足の【絶対服従】は強力だ。魔法などの精神汚染とは絶対的な力の差があるだろう。そこに溺れたアンタがこんな風に追い込まれるのは必然だってこと……これでわかった?」


 尋ねられたアスベルはギッと睨むが、ひとつおかしなことに気付く。


「ちょっと待て。フェルト・リーウェン」


「何だ?」


「お前、そこまでわかっているなら、俺があ!! 観覧席にいる姫でも国王でも人質に取るくらいわかるはずだよなあ!?」


「「「「「!?」」」」」


 そのアスベルの疑問に会場中の全員が納得した。


 確かにそこまで【絶対服従】に関する理解力があるなら、時間差で他人が命令しても実行できるくらい予想ができるだろうと。


 するとフェルトはへらっと、


「ああ、わかってたよ」


 さも当然ですと答えた。


 とすれば当然この疑問が過ってくる。


「何故だぁ……なら何故、人質を取らせるような真似をしたあ!? 人質を取られれば、貴様らが不利になるのは目に見えてわかるはずだあ!!」


 観客やオルディバル達もフェルトの真意がわからず、不安そうになる。

 だがフェルトは更に意味深な答えを返す。


「そんなもん、決まってるだろ? 人質を取らせることでお前達にチェックメイトをかけるためだよ」


「なっ……!?」

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