36 聖女杯 事件解明編4
「とは言っても別にそんな難しいことはしてないんだけどな」
フェルトがへらっとしてそう言うが、アスベル達からすれば、そんな簡単な話ではない。
他の人に計画が露呈してしまうのは致命的。
それを避けるための監視だったというのに、結果としてディアンに伝わり、ロマンドを捕獲され、証拠も提示された。
監視される中、そのメモの受け渡しに説明がつかないと納得もいかない。
「どうやってやったのか、説明ができるのだろうな」
「勿論だよ、ダミエルさんよぉ。よーく思い出せばわかるもんだぜ?」
「……ということはやはりディアンと会ったあの時か」
「まあ、そうとも言えるかな?」
その妙な言い回しに疑問を感じるダミエルだが、正直今更だった。
フェルトが意味深な言い方をするのにはちゃんと意味がある。
そしてダミエルは当時の現場での出来事を思い浮かべる。
あの店へ向かった経緯は、迷子の子供の対応に困っていたアンジュを見つけて救出し、フェルトが欲しい情報である人喰いの情報をアンジュの良心に働きかけ、半ば強引に喫茶店へと向かった。
その後は、人喰いの被害に遭ったフェルトともうひとりディーノの心境を考えてほしいとアンジュより席を離れるよう言われ、変な疑いをされぬよう従い、店を出た。
だが、護衛もとい監視はさせてほしいとそれを受理されたため、外からフェルト達を見張っていた。
その際の様子に変わったところは見受けられなかった。
そしてその後、ディアン達が合流し、話は終わり、ディアンがフェルトのメモを奪ったが、それを強引に奪い返し、確認はしたが、変わったところはなく、そのまま解散となった。
「……」
思い返してみても要因がわからないダミエルは、黙ったまま。
一緒にいたレックスも考えるがわからないため、
「全然そんな隙は無かったはずッスよ! 思い出す限り、ダミエルさんと俺で完全に見張ってたッス!」
「本当かぁ? よーく思い出せよ。このへっぽこ」
「な、なにぃ?」
いい加減に話を進めてほしいとエメローラが語りかける。
「フェルトさん。そろそろ話を進めてもらいますか? わたくしもこの状態の維持に疲れます」
「あー……了解ッス。じゃあ問うぞ、ダミエルさん達?」
「……お得意の質問か?」
「その方が理解が早くなるだろ? だからだ。じゃあいくぞ? ――店から出る時はどうやって出るんだ?」
「「……は?」」
そんな誰でもわかる質問に思わずふたりだけでなく、周りもシンとした。
厳しい監視にあったフェルトが、そんな質問をするとは思わなかったからだ。
「――はぁああああっ!! 言うにことかいて何ッスかその質問!?」
「いやいや、俺が意味も無い質問しますぅ?」
「そ、それは……」
今までの話を聞く限りはそんなことはなかった手前、意味はあるのだろうが、イマイチ信用ならなかった。
何せ、フェルトは聖堂騎士達を欺いた結果、今の状態がある。
おちょくっているようにも聞こえたのは、仕方のないことだろう。
「それで? 店からはどう出るんですか?」
「そ、そんなもん、決まってるッスよ。出入り口からッスよ」
「じゃあお前さん達は後ろ向きで店を出るんだな?」
「……は? はぁああああっ!? どうしてそうなるんッスか!?」
「いやいやいや。お前さん達の証言通り、ちゃんと監視してたなら、そうなるんだけど?」
「はあっ!?」
よくわからないとレックスは感情を露わにする中、ダミエルは黙って黙々と考える。
「アンタ、馬鹿ッスか!? 出入り口付近は人通りも激しくなるから、前方を確認しながら出て行くなんて……わざわざ説明することでもないッスよね!?」
「そりゃそうだ。わざわざ説明するまでもない」
「そうッスよね?」
「だが今さっき言った通り、アンタ達が監視しているつもりなら、出入り口を後ろ向きで出て行ったことになるが?」
「!?」
「だーかーらー!! 意味わかんないッスよ!! どうして俺達が後ろ向きに店出なくちゃいけないんッスか!?」
レックスは冷静さを欠いているせいなのか、まったく気付く様子もないまま喚き散らすが、ダミエルは気付いたようで、あの時の光景を青ざめた様子で思い出していく。
「本当にわからない奴だな。もう一回聞くぞ。アンタ達、店からどうやって出たんだ?」
「そりゃあ!! 出入り口を真っ直ぐに!! 安全に外出たッスよ!! 何回説明すれば――」
「レックスっ!!!!」
そう叫んだのは、現場にはいなかったはずのアスベルだった。
鬼気迫る叫びに怯んで、レックスは返事をする。
「は、はい……?」
「お前……まだ気付かないのか?」
「は?」
そう言われたレックスは辺りを見渡す。
すると取り押さえている王宮騎士も目の前にいるオルディバルやエメローラも、そして同じように取り押さえられているダミエルも冷ややかな視線を向ける。
「な、何ッスか? え? なに?」
関係者の中で気付いていないのは、レックスとラフィくらいだった。
もう呆れて怒る気力もないダミエルが問う。
「いいか、レックス。よーく思い出せ」
「は、はい」
「我々は店に入った。覚えているな?」
「は、はい。俺とダミエルさん。後はアンジュって女騎士とフェルト・リーウェンとディーノってガキだったッス」
「そうだ。その後、俺達はどうした?」
「え、えっと……アンジュって女騎士にふたりを気遣ってやれって言われて出てたッス。それが?」
「俺達はどうやって出て行った?」
「ちょっ、ちょっとダミエルさんまで何を――」
「いいから答えろ」
「え、えっと出入り口に向かって外に……」
「その際、背後にしているフェルト・リーウェンをお前は監視していたか?」
「そりゃあして……ああっ!?」
レックスはようやく気付いたようで、一気に表情が青ざめていく。
「ようやく気付いた? お馬鹿さん。俺はさぁ、何もディアンさんに直接メモを渡したとは、ひと言も言ってないぜ。ね?」
「ああ。俺もフェルト君から直接メモを受け取ったとは、ひと言も言ってない」
「も、もしかして……もしかしなくても……!!」
「ああ。俺がメモを渡したのはアンジュさんにだよ」
「「!!」」
「俺はアンタ達が出入り口に向かい、背を向けている間に、アンジュさんにメモを渡しただけだ。な? 難しいことなんて何もしてないだろ?」
「あ……ああ……っ!!」
本当に簡単なことだけに、信じられないとレックスは言葉を失う。
「もっと具体的に話すと、先ずディアンさん達に伝えたいことをあらかじめ書いておき、アンタ達が背を向けている間にそのメモ書きした場所をめくり、アンジュさんに把握して欲しい内容もあらかじめ書いておき、その部分を読ませ、メモを千切って握らせた。それだけ」
「あらかじめ書いておいた? そうか、我々の監視をしていない自室で書いたというのか?」
「そうだよ、ダミエルさん。アンタ達は表向きは護衛だからな。プライベートの侵入はできないよなぁ?」
「くっ……!」
するとディアンがそのメモを見て、
「その内容、聞きたいなら答えるが?」
そう尋ねられたダミエルは、悔しさを滲ませた表情で睨むが、ディアンは聖堂騎士達の無力さを教えるため、メモの内容を読む。
「先ず、アンジュに伝えたとされるメモ内容が『このメモはディアン隊の面々のみに渡すこと』だそうだ。そして俺達に伝えたい内容は『アスベル・カルバドスをはじめ、賛同する聖堂騎士達に謀反の動きあり。その証拠を探し出し、聖女祭終了までに陛下か自分に連絡してほしい。尚、聖都は洗脳され、武装した市民達が襲ってくる可能性が高い。ケルベルト家にも協力を要請する。協力して事を運んでほしい』とのことだ」
「なっ!?」
ここでケルベルト家の名前が出てくるとは思わなかったアスベル達は驚愕する。
「俺はアンジュを通して渡されたメモには、意味があるものだと考えた。実際、俺はあの時、フェルト君がお前達ふたりに護衛、いや監視されているところも見ている」
「なるほど。メモの内容の信憑性が高まったということですね?」
「ええ、姫殿下。そしてメモに書かれている内容通り、さっき映像を見せたと思うが、聖都の民達は【絶対服従】で洗脳状態となっており、侵入者に容赦なく襲い掛かるよう、洗脳してあったのでしょうね。俺達はそもそも隠密で動くことが多いため、極力戦闘は避けましたが、正直、ケルベルト家の支援がなければ、証拠を集めることも難しかった」
「ディアンさん。ケルベルト家は何をしたんです?」
フェルトが把握していないことに、アスベルは更に愕然とする。
「き、貴様ぁ……!! 協力を仰いでおきながら、把握していなかったのか!?」
「ああ。ま、アイツなら任せても大丈夫だろって思ってさ」
「ば、馬鹿なぁ……」
「ケルベルト家の私兵をお借りしたんだ。さすがに武装した住民を斬り倒すわけにもいかないが、無抵抗というわけにもいかない。ケルベルト家の私兵の皆さんには囮となって誘導してもらい、その間に証拠探しに勤しんだのさ」
「し、私兵!? では動いたのは当主か!?」
するとフェルトは再び今把握したと発言。
「へえー。アイツ、父さんに任せたんだ。なるほど」
完全に舐めているとアスベルは歪んだ表情でフェルトを睨むがモノともしない。
「くそっ!! だが運良くたまたま重なっただけ。こんなものを作戦にしていたとは……」
「はあ? 運良くぅ? 馬鹿言えよ、アスベル。全部計算通りだよ」
「貴様こそ馬鹿抜かせ! アンジュという女騎士を偶然見つけ出せなければ、ディアンに伝えることなどできなかっただろうが!」
「偶然じゃないっつってんだろ」
「な、なに?」
さすがにそれはエメローラ達もわからないようで、観客達も騒つきはじめる。
「あらかじめ書いておいたってことは、アンジュさんに会うことが前提であり、ディアンさんに伝われば、俺とディアンさんの関係上、必ず動いてくれると確信を持っての作戦だったんだよ」
「どうやって狙って会える? 貴様は魔法は使えないし、通信用の魔石も持っていなかっただろ」
「ああ。それに仮に持ってても、扉の外で監視してたダミエルさんらが気付くだろ?」
通信用の小さな魔石でも魔力を感知できるなら、気付くことができるのだ。
「なあ、ダミエルさんよぉ。アンジュさんと出会った時のこと、覚えてる?」
「それに理由があるのだな?」
「答えてみなよ」
「……確か、大泣きする子供と一緒にいたと思うが……」
「!」
すると上司であるディアンは、やれやれと何かに気付いた様子を見せると、確認する。
「フェルト君。お前、アンジュの体質を利用したな?」
「アレって体質なんですか?」
「さあな。俺達も詳しいことは知らん」
ふたりだけでわかる話をしていると、
「さっさと教えろ! 何故、アンジュという騎士を探し出すことができたのだ?」
アスベルが痺れを切らしたため、上司であるディアンから説明が入る。
「アンジュには困った特性というべきか……迷子の子供を引き寄せる性質があるようだ」
「……は?」
当然の反応であろう。
「おそらくだが、雷系統の剣撃を使うことからくる体質的なものじゃないかとされているが、確信的な証拠はない。だが、迷子の子供を引き寄せる性質はあるんだよ」
「実際、私達も仕事柄、町に立ち寄って情報収集する機会も少なからずあるのだけど、大きな町であれば、アンジュは子供を引き寄せるばかりで仕事にならないこともあるのよ」
ノーウィンも困った様子でその性質について語り、更に追加要素もあるとディアンが語る。
「そしてもうひとつ困ったことにその迷子の子供、引き寄せられる割にはアンジュが諭そうとすると、大泣きすることもしばしばあるんだ」
「!?」
「これも雷系統の剣撃を繰り出すことからとされているが……」
「要するに身体に電気が溜まっていて、それを子供が敏感に感じ取ったみたいな?」
「一応、そうじゃないかと言われているらしいが、さっきも言った通り、確信的ではない」
雷を纏って戦うやり方だったため、その理屈は割と通りそうだなと思った。
「だがアンジュが近付くと大泣きし、親に助けを求めるあたり、まあ、そうではないかと思う」
その話を聞いたダミエルには、その光景に覚えがある。
「ま、待て……。では本当にそんな方法でアンジュを見つけたと言うのか……!?」
「ああ、そうだよ、ダミエルさん。俺、アンタ達に監視される前にアンジュさんには会っててね」
「!?」
「その時も同じ状況だったんだよ」
クレアとチェンナとのデートの際に、救出した事例があった。
「その時、本人も言ってたぜ? 『私は聖女祭が終わるまで、王都で警備任務についてますので、何か困ったことがあれば、いつでも声をかけてくださいね』てさ。それに対し、大泣きしている子供でも探せば見つかりますかねって皮肉混じりに言ったら、否定できないみたいで苦笑いしてたぜ?」
アンジュのその反応から、自覚があるほど確実なものだったと判断できた。
「大泣きして迷子になってる子供には悪いが、アンタ達を惑わすための作戦としては十分成り立つ。だってこれが実は狙ったものだったなんて考えもしないだろ?」
「くっ……!」
普通であれば偶然出会い、伝えるにしてもどこかしらに綻びが生まれ、勘付かれる可能性は高かっただろうが、元々渡す気でいるなら、全力で演技すれば良い。
しかも渡される本人であるアンジュは良くも悪くも裏表がない。
事情を知らなければ、ダミエル達に勘付かれるはずもない。
「では俺達をあの店に入れたのもわざとか!?」
「その通ーり。元々ディアン隊のみんなが人喰いについて調べていることは、事情聴取もされてた俺は把握してたからな。そしてアレから三年近く連絡は取ってなかったら、さすがに情報のひとつやふたつあると思ってたから、アンジュさんにカマかけてみれば案の定……って話」
「そして人喰いは君達にとって因縁深いものだからと、我々を最初から追い出す口実も作ってのことだったと?」
「そう。そりゃあ、思うことがないと言えば嘘だが、優先順位を履き違えるほど冷静さを失っちゃいない。だからあの時は俺から出て行って欲しいって言うつもりだったんだぜ?」
「だがあの時、お前達のことを考えろと言ったのは……」
「アンジュさんだった。今思えばだが、俺から追い出すよう促すのは不自然な気もしてたから、アンジュさんから切り出してくれた時は感謝したぜ。アンタ達もアンジュさんから切り出されたもんだから、俺の思惑なんて過りもしなかったろ?」
ダミエルはあれだけ真剣に訴えかけてくるアンジュを見れば、その裏にフェルトの思惑が潜んでいるなどと微塵も過らなかった。
「偶然も味方して、してやられたというわけか」
「まあそうなるわけだが、細工はそれだけじゃない」
「なに?」
「重要となるメモなんだがな……」
「?」
「俺にメモを書く習慣はない」
「ば、馬鹿なっ!?」
ダミエルはかなり驚愕する。
あの時の見張っていた日常風景ですら、こちらを欺くためのものだったのかと。
「まあ信じられなくても無理ねえよ。アンタ達が監視を始めてからメモを取るようにしたから」
「そ、そんな……。普通、そんな急に意識してでも続けることは難しいだろ!?」
ダミエルの言う通り、急に物事を持続的に続けようとするのは難しい。
人間、習慣付けるにはやはりどうしたって時間は必要だ。
「なら聞いてみな。この会場に来てるはずだぜ? 同僚の人間がな」
すると呼びかけられた? と会場でポツンと手を上げる人影があった。
「フェルトー! 呼んだぁ?」
「ああ、呼んだー」
そこには驚きに呆気に取られたアルスとグエルと相変わらずマイペースなユーザがいた。
応援に来るとは聞いていたので。
「なあ、お前ら。俺って普段からメモ取ってたりしたか?」
「ううん。何でって思ってた」
「!?」
さらっと答えたユーザに驚きを隠せないダミエル。
「た、確かに珍しいなと思ったが、ダミエルさん達にも振る舞うからと言っていたから、てっきり買ってくる量を間違えないようにするためだとばかり……」
「なっ!?」
「僕も先輩の考えと同じでした。メモなんかせずとも彼は元々記憶力がいい。普段の買い物でも大体頭の中で構成しているはずの彼がメモを取るのは、それしかないと……」
するとダミエルが堪らず叫ぶ。
「な、何故それを教えなかった!?」
するとグエルは、クーデターを企てていたことを考慮してか、ムッとした表情で答える。
「そんな些細なことをいちいち報告する必要なんてありませんよ。いくら護衛とはいえ干渉が過ぎるのでは? まあ、悪事を働くつもりだったのなら、尚更教えなくて正解でしたが……」
「……!」
「そう。そんな些細な事を聞く必要がない。それはアンタ達にも言えたことだ。俺が普段からメモを使ってると認識させれば、そんな些細な事、尋ねようなんて微塵も無かったろ? グエル達を責めるのは筋違いじゃないか?」
「……っ!」
確かに自分達も毛ほども気にしなかったことを考えると、グエル達がその疑問を口にしなかったことにも説明がつく。
「あとはメモを千切る癖もあるように見せるため、買い物にわざと同行させては、メモを見せびらかしてたわけだ」
「そ、そういえば……そうだったような……」
「そして本当の目的は買い物ではなく、あの女騎士を探すことが本来の目的だった……!」
「ああ。ちなみに千切ったメモを見せびらかしていたのは、後にアンジュさんにメモを千切る予定だったから、万が一メモを取られても、渡したことを推測させないためのカモフラージュだったってわけだ」
ダミエル達は確かにメモをひらつかせていたのが脳裏に浮かんだ。
「そ、そうか……! 確かにメモを千切って使うことなんて普通のことだ、そしてそれをわざと見せられれば、メモ本体に千切り跡が残っていても不自然さはない」
「そ、そのための買い物メモ……」
「そして、そもそもアンタ達を騙すことを目的とするなら、それを習慣付けることが大事だと認識すれば、メモを習慣付けるのは難しくない。いやー、まさか趣味の料理がこんなかたちで役に立つとはねえー」
「くっ!」
続ける習慣が長く続けることが前提であれば、サボったり抜けたりするだろうが、聖堂騎士達を懲らしめるというゴールが明確にあり、そのゴールが聖女祭の終わりまでならば、長いか短いかで意識のモチベーションが変わるため、続けるのは難しくない。
そしてそこまでやるかと、凄いを通り越し呆れたため息を吐いたディアンが、もうひとりの立役者の協力についても問う。
「ではケルベルト家にも似たような手段で教えたんだな」
「まあ、そうですね。ダミエルさんらの目の前で伝えましたけど……」
「「「!?」」」
監視されていたにも関わらず、目の前で堂々と協力を仰いだと語るフェルトに、ダミエルは勿論、反論する。
「馬鹿抜かせ!! 俺達の目の前ということは、ケルベルト家の子息であるヘイヴンに連絡したということか!?」
「おうとも」
「ふざけるな!! あの時はディアン隊の時とは違い、店から外には出ていない。それどころかあの男……ウワサ通り、貴族嬢の取り巻きが数人はいたんだぞ! しかも会話内容も他愛のない雑談。あれをどう見たら、彼女らにも俺達にも気付かれずに協力してくれと頼むなんてことを想像できる!?」
「できてるからディアンさん達は証拠を持って来れたのでは?」
「そ、それは……」
事実は小説よりも奇なりとはこのことかと、ダミエルは呆気に駆られる。
するとさすがにわからんだろうと、フェルトはあっさりと答える。
「あの時のことを思い出してほしい。俺、アイツに貴族嬢共を送ってやれよって言ってなかったか?」
「あ、ああ」
「そしたらアイツ、何て言った?」
「……? ま、任せろだったか? それがどうした?」
「おかしいじゃないか、それ」
「は?」
おかしいところなんて何ひとつ思い浮かばないダミエル。
横目に聞いていたアスベルも、まったく不自然なところなんてない普通の会話だと思った。
あの時はエメローラが誘拐された事件が解決された後。
だからフェルトが注意喚起をするのは、自然なことだと考えるが、
「アイツとは姫殿下と貴族嬢達の救出を行なった仲だ、そんな注意をされるのは変じゃないか? それにアイツのお家はアンタが口にした通り、女癖が強い家系でもある。女性の扱いにはリスペクトを持って接するアイツにしては、その指摘は侮辱とも捉えられないか?」
国外に飛び出した危機的状況にも関わらず、我儘放題だったチュンナすら、キザに接するくらいだ。
「く、口で説明するぶんにはわからなくもないが、そんな都合良く考えるわけが……」
「そうだな。通常の状態ならそうなるだろうが、アスベルさんよぉ……」
「な、何だ?」
「俺はいつからアンタのことを怪しいと睨んでたっけ?」
「確か俺が最初に接触した時からだと……」
「あの時、俺達は何してた?」
「俺達? た、確か……」
アスベルがフェルトを呼び出したのは夜更けだったが、その時、寮内は明るく、案内してくれたギルヴァート曰く、
「姫殿下達を救ったことの祝勝会だったか?」
「ピンポーン。つまりはあの救出に向かったガルマを除く全員がいたんだよ。ヘヴンもな」
「ま、まさか……!?」
「ああ。アイツは胡散臭いが情報には長けてるからな。殺人未遂の偽装と出たアンタについて、真っ先に相談したんだよ」
「!!」
「あの時は様子見しといてくれと言ったが、その次に会った時に、副団長含めたふたりの聖堂騎士と同伴で現れた俺をヘヴンはどう見るかな?」
なるほどと察したエメローラが答える。
「なるほど。疑わしいと相談されていた相手の部下がついていれば、フェルトさんに何かあったと考えるでしょうね」
「ああ。そして俺がわざとらしく、周りの女をちゃんと送り届けろなんて、アイツが当たり前にすることを指摘すれば、アイツは察するだろう。――もう様子見ではなくなったと」
「!?」
「なればヘヴンの返答は、その監視者は勿論、周りの貴族嬢を巻き込まないようにする返答としては、その忠告に対し、了解したという内容になるわけだ」
ダミエルとレックスはただただ唖然とするばかりだった。
目の前で行われていた問答に、そんな意味があったなんてつゆとも思わない。
「とはいえ、お父様を利用するとは考えなかったぜ。おそらく俺との繋がりが強いから俺同様、アンタ達の陽動役に買って出たんだろうぜ。……監視、アイツにも置いてんだろ?」
「あ、ああ……」
すべてフェルトの思惑通りだったと、思い知らされるばかりのアスベル達。
「な? だから言ったろ? 俺は何もしないって。アンタ達に都合の悪い、国取りや【絶対服従】の件は話してないだろ?」
「とんだ屁理屈だ!! 他の連中に知らせておいて……」
「馬鹿言うなよ。ディアンさんにはメモで伝えただけで喋ってませーん。ヘヴンなんかは察してもらったくらいだぜ?」
「それを屁理屈というのだ……!」
「それならアレは正しかったろ? ――疑心暗鬼の沼にハマれって言葉」
「!」
フェルトから口々に言われていた言葉だったが、ここまでの話を聞く限り、確かに疑心暗鬼に落とされていた。
「そ、そうかぁ……! アレは最初から、貴様が囮になるというメッセージだったのか!?」
「正解! ちなみにアンタ達がそれに勘付かれても問題はない」
「なに!?」
「仮にディアン隊やケルベルト家の動きを抑えるために連れてきた人員を割くなら、その際に隙が生じるだろうからその場合は俺が直接陛下に謁見し、事態の収束をするだけだ」
「くっ……!」
アスベルは連れてきた人員の少なさすら利用されていることに、歯痒さを覚える。
ここまで痛いところをつくのかと。
「ただ、俺にも誤算はあったけどね」
「誤算だと?」
「そ! アンタ達も焦ったと思うが、クレアのあの行動は完全に独断でね。正直、困ったよ」
「アレが誤算だと!?」
それには関わったエメローラも驚く。
「アレは誤算だったと?」
「姫殿下。コイツらには【絶対服従】があるんですよ。陛下をはじめとするそちら側に情報を流すのがどれだけ危険なのかは先程も説明されたでしょ?」
「あっ! 確かに」
「同様の理由として、友人であるクレアを巻き込む真似も本来ならするつもりはありませんでしたよ」
「なるほど。【絶対服従】を理解している貴方なら、確かにそんな危険な真似はさせないでしょうね。ということは協力を打診したのは……」
「クレアです」
フェルトは呆れた様子でやれやれと答えた。
「でもおかげさまで、コイツらを上手く誘導できました。あのイレギュラーのおかげで、結局、本命には目が向かなかったですからね」
ことごとくディアン隊にたどり着かないようになっていて、アスベルは血が滲むほどに唇を噛んで悔しがる。
するとフェルトは陛下に一礼。
「以上が今回の一連の事件の全容でございます、陛下。これでラフィ・リムーベルとアスベル・カルバドスをはじめとする聖堂騎士のほとんどが謀反を企み、それに巻き込まれた聖女ネフィの冤罪証明となります。証拠は後ほど詳しくディアンさんよりご確認下さい。何か他にご質問はありますか?」
「いや、今のところは思い付かぬ。フェルト・リーウェン、見事であった。ディアン隊もよく動いてくれた」
「ありがとうございます」
ディアン隊はオルディバルに一礼する。
そしてオルディバルの険しい眼光は闘技場のアスベルに向けられる。
「アスベル・カルバドス!! ならびに聖女ラフィ……いや、罪人ラフィ・リムーベル、それに同調せし聖堂騎士達よ! 貴様らの悪事の限りは暴かれ、その証拠もある! 何か言いたいことがあるならば、言ってみるがよい!!」
怒り混じりにそう問うオルディバルに、アスベルは顔を伏せながらもニヤッと口元が緩んでいた。




