35 聖女杯 事件解明編3
「ここまで聞いておいて今更だが、フェルト・リーウェン……」
「はい。何でしょう、陛下」
「君はどうやって彼らの計画に気付いた?」
神眼もとい『強欲の義眼』の能力までは知らないオルディバルからの当然の質問に、フェルトは義眼あたりをコンコンとこずきながら、今更隠す必要もないと答える。
「この神眼、まあ見透す能力がありましてね。その時に知ったんですよ。初めてアスベルに会ったあの時からね」
「!? も、もう既にあの時から……?」
「正確にはアンタの経歴が見えただけだ。殺人未遂の偽装というね」
「!?」
本当はもう少し違うが、嘘も言っていない。
「だからまあ、あの時は多少警戒する程度だったんだが、ラフィが【絶対服従】の神の左足を持ってると知った時、話が変わった。その左足の能力を知れば、その殺人未遂の偽装ってのがラフィと関係してくるとわかったからな」
「……それでフェルトさんはケルベルトさんに聖女の事件を聞き、不審に思ったわけですね?」
「ああ。明らかに偽装しやすい状況だったから、ネフィは冤罪にかけられたんだなって思ったし、あの時には既に陛下がラフィとの接触時に記憶が曖昧だとも話しておられたからな」
「だからこれだけの計画と【絶対服従】の力を持つことを知ったのか……」
「【絶対服従】の方に関しては確信がありましたが、国取りに関しては想像の域を出ませんでしたよ。ただ……」
「ただ?」
そう言ってフェルトは、ネフィの側にいるふたりの聖堂騎士に視線が向く。
「そこのふたりから聖都の実態を聞いて確信になりましたよ」
それを聞いたアスベルもやはりとライクとゴルドを見る。
「そういえばあのふたりは拘束しておらんな」
「ええ、お父様。あのふたりはネフィ派閥であり、こちらの協力者です」
「なるほど。しかし、どうして彼らをわざわざネフィの側付きにしていたのだ? 【絶対服従】させれば、情報漏洩も避けられただろうに……」
「ネフィをコントロールするためでしょう。【絶対服従】は必ずしもその人の意識を乗っ取り続けるわけじゃない。陛下が今、正気でいらっしゃるのがその証拠」
オルディバルは少し息を呑んで安堵した。
【絶対服従】にかけられていたという事実が意識された今、それは不安だったようだ。
「だから【絶対服従】を彼らに意識させておけば、逆らう意思を奪える。しかも彼らはそんな力を持つ奴らから、微力ながらでも助けたいとなるでしょうが、それがかえってネフィの罪悪感を引き起こし、ネフィのコントロールに繋がったんでしょうね。実際、ネフィはほぼ諦めていましたしね」
「なるほど。人を思いやる心すら、此奴らは利用したということか」
「ですがそれが仇となって返ってきたんです。今となっては構わんでしょう」
フェルトはクスッと微笑みながらアスベルを見ると、悔しそうにアスベルは睨み返す。
「そしてフェルトさんは彼らの証言と自分が神の眼で見た真相の証拠を掴んでもらうべく、ディアンにメモを渡し、行動させたわけですね」
「しかし、我々に直接言わなかったのは何故だ? フェルト・リーウェンの神眼については受け止め方次第というところがあるから、何とも言えんが……」
娘を救ってくれた恩人の言葉、しかも前回の件で気付いたことがあれば、連絡せよと言った手間、いくら神眼で見たといってもオルディバルは行動しただろが、信じてほしいと言われても神眼などという曖昧なものの証言を通しづらいのも本音、と言ったところだろうか。
「ネフィの側近の証言ならば動けもしただろう」
「お父様、この女は【絶対服従】の神の左足を持ちます。しかも我々は王族。彼女と関わる機会が多いため、いくらでもこちらをコントロールできますよ」
「そ、そうか! だから……」
オルディバルは動けない理由があると語ったディアンに視線を向けると、ディアンはぺこっと軽く頭を下げる。
「俺達はメモを受け取った段階では【絶対服従】を知りませんでしたが、フェルト君がこんな回りくどいやり方でメモを渡してくるからには、何か理由があるのだと考えたためです。結果、その判断は正しかった。聖都を見れば一目瞭然でしたので……」
虚な眼をした民衆が襲ってくる様は、何かしらの精神汚染を食らっているのは明白だっただろう。
だがここでダミエルが尋ねる。
「そのメモだ……」
「は?」
「フェルト・リーウェン! そのメモを渡したことはどう説明するつもりだ!! 我々は君のことをずっと監視していた。だからそのメモをディアンに渡すことは不可能だったはずだ」
「だろうね」
「な、なに!?」
護衛を勧めたオルディバルはここにきて、やっと気付く。
「ま、待て! 君が誘拐事件の一件で、ブラックギルドから狙われる可能性を考慮し、聖堂騎士の護衛をつけたというアレは……」
「あっ! やっと気付きました? ええ、陛下のご想像通りですよ。コイツらは護衛ではなく、俺の監視を行なうためについたんですよ」
「なっ!?」
アスベルの思惑にまんまと引っかかったこと、フェルトが証拠を探すことに苦労させてしまったことにオルディバルは不甲斐ないと落ち込む。
そしてアスベル達もフェルト達が言ったことがほとんど当たっており、だが無駄な足掻きとはいえ、こうもあっさりと自分達の監視を掻い潜られたと言われるのは納得いかない。
ダミエルはフェルトの空気に呑まれてはいけないと果敢に問答する。
「……なら答えてみろ、フェルト・リーウェン」
「何をだ?」
「どうやってそのメモを渡したんだ!? 我々は確実に監視をしていた! そんな中、どうやってメモを渡したんだ?」
「ハッ! 確実な監視? してなかったろ? そんなの」
「た、確かにプライバシーなところの監視はしていなかったさ。それは当然だろう」
トイレや風呂、あとは自室への押し入りのことだろう。
「当然だな。プライバシーは勿論だが、あくまでアンタ達は護衛という名目だったわけだからな」
「ああ。だが! そういう場合でも気配による監視は怠っていない。少なくとも魔法の使えないお前には、メモを渡すようなことは不可能だ」
「だがちゃんと渡ってるじゃないか」
その話を聞いていたディアンはわかりやすく、フェルトのメモをひらつかせる。
「くっ! だからどうやって渡したのだ! 我々の完璧な監視から――」
「おいおい、完璧じゃなかったっつったろ。つか、監視してなかったじゃねえか」
「「「!?」」」
「自分達の無能っぷりを人のせいにすんな」
そう吐き捨てたフェルトのセリフ。
これは一応、監視はされていたが、隙があったと語っているように聞こえたため、アスベルは問う。
「ダミエル! レックス! 本当に監視を怠っていなかったんだろうな!?」
「当然だ」
「あ、当たり前ッスよ!」
フェルトは要注意人物として警戒していた。
ふたりも交代、もしくはふたりでしっかり監視していた。
これは間違いのない事実だった。
そして先程からもう包み隠す気もない問答にオルディバルは不機嫌気味に尋ねる。
「貴様ら、最初からフェルト・リーウェンを守るためでなく、あくまで自分らの計画の妨げになるため、監視していたわけか。不愉快極まりない!」
「まあまあ陛下。いいじゃないですか。そもそも俺自身、監視されるのは想定内。……むしろ好都合でしたよ」
「「「!?」」」
「な、何だと?」
するとフェルトはそもそもの話をする。
「陛下。何で俺は監視対象になったと思います?」
「な、何故とは……それはさっき語った計画を知っていたからではないのか?」
「それ、おかしいじゃないですか。俺はこの眼で見えても、聖堂騎士達は俺が計画のことや【絶対服従】のことを知っているということをどうやって知るんです?」
「た、確かにそうだな……」
するとフェルトはクスクスと悪戯混じりの笑みを浮かべながら答えを口にする。
「コイツらにわざと教えたんですよ。国取りの計画のことも【絶対服従】の能力を持っていることも……」
「な、なに!?」
そんなこと、不利になるだけだろと観客達も騒つく。
「ま、勿論、普通の教え方はしませんでしたがね」
フェルトのその悪戯っ子顔には見覚えがあるエメローラは、呆れたため息を吐くと、
「どんな教え方をしたんです?」
「簡単ですよ。第三者に【絶対服従】の対策をした状態で送り付けたんです」
一同はイマイチピンと来ないと、首を傾げる一方で、アスベル達聖堂騎士には覚えがあった。
「……? 妙な言い方をする。【絶対服従】の対策をした状態で送り付ける? 具体的に話してくれるか?」
「では陛下。ラフィの性別は?」
「お、女ではないか」
「では女性の嫌がる話題って何でしょう?」
「じょ、女性の嫌がる話題? 先程から何を言って……」
フェルトが、まあまあ答えて答えてとオルディバルをあやす。
「虫の話とか……後は血生臭い話とかは苦手だろうか……?」
「うーん。もう少しヒント。男性が好きな話題で、女性が嫌う話題です」
「む、難しいことを言う……」
するとエメローラは少し呆れた様子で気付く。
「……あるではありませんか。男性が好み、女性が嫌う話題」
「な、何かあるか? そんな都合の良い話題が……」
「女性の身体の話題ではありませんか?」
「!?」
するとエメローラは、フェルトが何をしたのか大方の予想がつき、答え合わせのためか、考えを語る。
「つまりフェルトさんはラフィ・リムーベルの性格を利用し、アスベル達に間接的に情報を知っていることを流したんですよ」
「ど、どういうことだ!?」
「先ず第三者というのはおそらく、そこのおふたり」
エメローラはライクとゴルドを見下ろす。
「おふたりは先程も説明があったように、ネフィ派閥の方です。何故、【絶対服従】の洗脳をしていなかったかについてもフェルトさんが説明された通りでしょう」
「う、うむ」
「ですがフェルトさんはそこを逆手に取った。アスベル達に泳がされている彼らを更に利用しようとしたんです」
「う、うん……」
ちょっと訳がわからなくなってきたと、オルディバルを含め苦悶の表情が浮かぶが、アスベル達はやはりと歯軋りを立てる。
「先ず自分達ではどうにもならない聖堂騎士や【絶対服従】の力を持つラフィでしたが、彼らの目の前に希望が現れた。それがフェルトさんです。フェルトさんはわたくしをはじめとする貴族嬢を救い、ブラックギルドとの激戦にも無事帰還していることから、あのおふたりにとって聖堂騎士とラフィによって支配された聖都の環境に終止符を打ってくれる存在になるのではないかと考えた」
そのライクとゴルドは、うんうんと頷く。
「そしてアスベル達と離れる機会があり、フェルトさんと接触する機会があった。そしてフェルトさんはそのふたりをその神眼をもってネフィ派閥であることを理解し、先程の女性の身体についての話題を振り、【絶対服従】の対策としたのです」
「……あのふたりの聖堂騎士がフェルト・リーウェンを頼る気持ちはわかった。し、しかし……【絶対服従】の対策に女性の身体の話というのは、どうにも……」
「ではお父様。お父様は女性に対し、胸がどうこう、お尻がどうこうとお話をするとしましょう」
「う、うむ」
絶対しないがとちょっとばかり怯むオルディバル。
「その時の女性の反応はどういったものになるでしょう?」
「そ、そんなデリカシーの無いことを言えば、それは呆れられたり、怒ったりするものではないか? まあ、しないが……」
「当たり前です!」
「で、であろう? だから何故そんな話を……」
「では質問の内容を変えます。お父様がとある重要人物と接触したと思われる人物に尋問するとします」
「う、うむ」
それはフェルトと接触したライクとゴルドのことを指しているんだろうと思うオルディバル。
「そしてお父様には【絶対服従】の力があり、確実に情報を得られるとします。どう命令しますか?」
「そういう状態であれば――『その人物と話した内容を全て語れ』と命じるな」
「はい。おそらく大体の人はそう命じるでしょう。そして、ラフィ・リムーベルもそうあのふたりに命じた。するとどんな内容が語られますか?」
「そ、それは……!?」
オルディバルは先程の女性の身体の話題が過る。
「そ、そうか!? 先程言っていた女性の身体の話を喋ってしまうのか!?」
「はい」
するとエメローラに取り押さえられているラフィが、わなわなと瞳を震わせながら、フェルトを見下ろす。
「ま、まさか……あの時のアレって……」
視線を感じたフェルトは、ハッ! と笑ってみせる。
「やっと気付いたのか、間抜け野郎。アスベルはとーっく気付いてたのにな?」
「や、やはりかぁ……」
オルディバルがどういうことかとエメローラに視線で問うと、再び説明を始めた。
「フェルトさんはお父様が先程話した命令をすることを読んだ上で、その話題をあのおふたりに持たせたんです。あのおふたりはアスベル達とは対峙関係、フェルトさんと接触したと思われるおふたりに尋問しないとは考えにくいですから。そして、【絶対服従】を持つラフィを使うということも予想できます」
「【絶対服従】は情報を聞き出すには最適だろうからな」
「ええ。そしてフェルトさんの読み通り、ラフィはアスベル達の目の前でおふたりにそう命令した。そしたらさぞ驚いたことでしょうね。フェルトさんと接触したはずならば、自分達のことを話したという内容やフェルトさんが考案する対策の話を聞けるかと思ったら……」
「でっかいおっぱいがだーい好きって、意気揚々と語ったんだよなぁ?」
「「リ、リーウェンさん!?」」
本名ではないにしても、自分達の性癖を暴露しないでくれとツッコむ。
そんな悪戯心マックスのフェルトに、エメローラはジトっと見る。
「そんな話を小一時間もされれば、ラフィでなくとも女性であれば不愉快極まりないでしょう?」
「こ、小一時間もそんな話をさせたのか!?」
「はい。だって数分だとその後の話を聞かれると思いましたので……」
エメローラはなるほどと少し呆れはしたものの、続きを語る。
「フェルトさんが女性の身体の話題にした理由は、先ず男性とはいえ、初対面でする内容ではないからですね」
「話題にも意味があると?」
「先程の命令がどこからの内容が語られるかは不明ですが、おそらくは最初に話した内容からとされるでしょう。ですがフェルトさんは念のため、インパクトのある話題を入れたのでしょう。【絶対服従】はおそらく神の力とされていても脳に作用する力。印象が強い話題の方が先んじて出てくるものでしょう」
「な、なるほど……」
「そしてふたつ目は先程からも言っているように女性、つまりはラフィ・リムーベルが不快になる話題ということ。これは特定の男性を好むラフィ・リムーベルだからこそ、更に効果的になりました」
「ど、どういうことだ?」
「フェルトさんはおそらく、ラフィ・リムーベルの我儘な性格の聖女という噂やパレードの際の様子を見て、とても子供っぽい性格であることを読み取った。そして男性自体にも夢見がちな部分があることも読み取った」
「ど、どうやってだ? 異性の好みなど、早々にわかるわけが……」
するとエメローラは司会を手招く。
「司会者さん」
「は、はい。何でしょうか? 姫殿下」
「今大会の参加者を闘技場の真ん中に映すことは可能でしょうか?」
「そ、それぐらい容易いことですが……」
「ではお願いします」
「はい……」
司会は言われた通りに聖女杯の参加者をここに集まる全員に見られるよう、中央にモニターした。
「ご覧下さい。この参加者達には共通点があります」
「顔が良いことか……?」
「その通りです」
「むう……」
「今大会では一応、正式な大会として参加者を募っておりましたが、実は裏ではとある条件が課せられていました。それがイケメンの男性のみの参加だったのです」
だから闘技大会にも関わらず、女性の観客が多いのだと語った。
「そしてラフィ・リムーベルが連れている聖堂騎士もイケメン揃い。ここまでくるともうおわかりでしょう。ラフィ・リムーベルはイケメン男性に対し、乙女的な妄想をするような人物であると」
「そうか。聖女杯も元々は魔物と対峙する男性を見たいがためとすれば……」
「はい。勇ましく戦う男性はさぞ勇者や王子様に見えて楽しいでしょうね。そしてフェルトさんはそんな子供のような乙女心を粉砕して差し上げたのでしょう」
エメローラもさすがに男性に対し、ここまで妄想できるとはとラフィを小馬鹿にする笑みを浮かべた。
「先程の話な戻りますが、ラフィはおふたりに命令した時、女性の身体の好みをつらつらと語るところを見て聞いたでしょう。おふたりは【絶対服従】の命令を受けているため、言い澱むこともなく、胸だのお尻だの語ったでしょう」
「お、おお……」
オルディバルは女性の前でそんな話を無理やりさせられるのは、辛いだろうとライクとゴルドに同情する。
「おそらくは五分もかからないうちに、ラフィ・リムーベルの癇癪に触れたのではないでしょうか。お父様」
「は、はい!?」
「そんな不快感が溜まったラフィ・リムーベルがどういう命令を突発的に出すか、想像つきませんか?」
「お、おそらく……『黙れ』や『喋るな』と言った黙らせる内容だろうか?」
「はい。そうなればフェルトさんとおふたりが隠したかった話題が話されなくなりませんか?」
「!? た、確かに!! 最初にそんな話題をされれば、後に話した内容は聞けない?」
「ええ。上手く考えたものです。【絶対服従】と聞けば、誰しもが強力な術だと考えますが、そこの盲点をついた対策だったのです。以前も似たようなことがありました」
【鑑定】の盲点ということで、ファバルス王国の事件を暴いたようにとエメローラは過っていた。
「そして怒り狂った状態でそう命令したラフィ・リムーベルをアスベル達はコントロールできません。仮に『それ以外の会話内容を話せ』と命令しろと言われても、子供の癇癪を起こしたラフィ・リムーベルが聞くとは考えにくい。結局、その場では聞き出すことはできなかったでしょうね」
「フェルト・リーウェンはそこまで読んでいたと……?」
「フェルトさんならそこまで考えるでしょうね。でなければ、そんな話題を振ったりしません。そしてそれはアスベル達にも伝わった」
「そ、そうか!! アスベル達はあのふたりがフェルト・リーウェンを頼ることを大方予想がついていたから、【絶対服従】で尋問したんだ。だからそんな対策を講じるのはフェルト・リーウェンしか考えられないというわけか!?」
「ええ。つまり【絶対服従】の対策であるおふたりをアスベル達の元へわざと向かわせることでフェルトさんは間接的に【絶対服従】や計画を知っていると伝えたのです」
しかしここでオルディバルは疑問を浮かべる。
「しかし、こんな回りくどいやり方をせずとも良いのではないか? ディアン達にメモを渡すのはともかく、敵である彼らには別に正面切って宣戦布告しても良かったのでは?」
「それは……」
そこには少し自信の無いエメローラに、フェルト本人がその思惑を語る。
「それは俺の力量を測らせないためですよ」
「なに?」
「だって! 俺がコイツらにしたことって、あのふたりに性癖を暴露させただけですよ? それでいて【絶対服従】や計画まで筒抜けになっていると宣戦布告を受けたら、アスベル達の心境はさぞ背筋が凍り付いたことでしょうね」
「なるほど。実際、フェルトさんはおふたりからアスベル達の確実な情報も得たと、フェルトさんから【絶対服従】の対策をされた状態のおふたりを通じてメッセージとして受け取ったはず。それを性癖暴露だけで成し遂げられたとなれば、アスベル達からすれば脅威ですね」
これはライクとゴルドがネフィ派閥であり、正常な意識だったからできたこと。
「アスベル達の計画上、ネフィのコントロールが必須だったためか、わざと生かしたことが仇となったってわけだな」
「くっ……!」
「そしてここからアスベル達の行動も予想できる。そうメッセージを受け取ったアスベル達は俺のことを非常に厄介な存在だと認知する。しかも自分達は教会であった時も、さっき話した儀式の偽造についても見抜かれている」
「そ、そうか! 先程、教会で接触があったと……」
「ええ。アスベル達はそもそも俺と敵対するつもりはなかった」
「な、何故だ?」
「おそらく俺を仲間にするつもりだったんでしょうね。神の左足の味を占めたアスベル達が神の眼を持つ俺を求めるなんて、簡単にわかる話でしょう?」
「な、なるほど……」
「だからあの時のアスベルは敢えて隠すことはせず、俺に偽装の件を話してくれましたよ。もうあの時既にラフィをパレードで見ていた俺は、それが全てクーデターを起こす一端だと見抜いていたことも知らずにね」
「なっ!?」
アスベルは既にあの時には敵対意識を持たれていたことに驚く。
当然の反応だった。
早すぎると。
「そんな全てを知り、あまつさえ神の眼を持つ俺をどうにか抑えたいと考えるでしょうね。そうとなると、コイツらは俺の側に人を……監視を立てたいと考えるでしょうね」
「そしてその監視を立てられることはフェルトさんにとって、とても好都合なことが多かった。ディアンにメモを渡すことが出来たのもその一環ですか?」
「まあ、そうなんだけど、そもそも聖堂騎士の人数には制限がある。ほとんどは【絶対服従】で洗脳した住民達を管理するために聖堂騎士は置いてきたはず。だからこの王都に訪れた聖堂騎士には限りがある。そんな中、俺が厄介な存在であることと、その息がかかったふたりを監視するとなると、聖堂騎士の動きも読めてきませんか?」
するとアスベルは自身がコントロールされていたことに気付く。
「ま、まさか……! わざと自分やゴルドとライクに注意を誘うことで、こちらの人数を割き、動きを読んでいた……?」
「ピンポーン。大正解!」
「……っ!」
「アンタ達の人数はあの教会にいる聖堂騎士と、あの時はいなかったラフィの護衛を想像すれば人数はすぐにわかった。後は俺がお前らの計画を知っていると伝えるだけで、証拠の隠滅を伝えるための人員……」
フェルトは捕まっているロマンドを見る。
「俺を監視する人員……」
観覧席で捕らえられているダミエルとレックスを見る。
「そして……マイケルとジョージを監視する人員……」
そしてゴルドとライクを見るが、ふたりは少し困った表情で、
「い、いい加減その呼び方、やめてもらえませんか」
「その偽名、気にいっちゃいましたか!?」
ふたりのツッコミにまあまあとフェルトは楽しげに笑う。
「そして更には聖堂騎士の本来の役割である聖女モドキのラフィの護衛をする人員……」
再び観覧席に目をやる。
「あれだけの少ない人数でこれだけの人間を割くとなると、アンタ達の行動にも制限がついてくる。実際、苦悩したんじゃないか?」
「くっ……」
「そしてマイケルとジョージの尋問に失敗し、俺の的確な情報を得られず、それでも自分達の計画を知った俺は翌日にでも陛下に進言すると考えたアンタは、俺の思惑通り、聖堂騎士を監視に寄越した。その人員を見て、お前が俺のことをどんなふうに考えているのかを読むためとも知らずにな」
「な、何だと!?」
「【絶対服従】の対策をしてくる俺に案の定、少ない人員の中、副団長を含め、ふたりも寄越したアンタの考えは保守的なものだと判断できる。アンタの考えは――俺さえ見張っていれば、後は【絶対服従】で解決できるってね」
「!?」
「だってそうだろ? アンタが信頼を置いている副団長であるダミエルを送り付けるのは、俺の情報が的確に欲しいからだろ? それは俺に注意を全力で払っている証明。違うか?」
「ぐっ……! くうぅ……!」
全てその通りだと悔しそうにアスベルは歯軋りを立てる。
「なるほど。だからフェルトさんは自身の力を測り損ねるよう、そこのおふたりに恥をかいてもらったというわけですね」
「そして俺に注意が向いているということは、他には向かないし、向くにしてもどこかしらに綻びが生まれ、陛下に打診されかねない。つまり、アンタ達は俺を対策するしか方法がなかったんだよねぇ〜」
「そして俺達が証拠をかき集めやすくしたというわけか。つまりはフェルト君は完全な囮だったというわけか」
「お、囮……!?」
「ははっ! その通り!」
フェルトはニカッと笑うと、最初の疑問に話を戻そうと語る。
「さて、これで俺が完全に陽動役だとわかってくれたところで、お前さん達が知りたがっていたメモの受け渡しについて語ろうじゃないか」




