34 聖女杯 事件解明編2
「――それではどこから話しましょうか……」
フェルトは先程の嫌悪感強めの怖い表情をケロッと変え、どこから話そうかとちょっと悩むが、
「では先ず、陛下。いくつか質問してもよろしいでしょうか?」
少し戸惑うオルディバルではあったが、
「必要とあらば答えよう。何だ?」
「ありがとうございます。それでは陛下。先ず、ラフィとの会談の際、記憶が曖昧になるという話、アレに嘘偽りはありませんか?」
フェルトはエメローラの救出の際に、報酬の件で言い淀んでいた理由が改めて本当かを確認する。
すると隣にいた大臣が怒鳴り込む。
「フェルト・リーウェン! 貴様! あの時に語った陛下の言葉が偽りだったというのか!?」
「まあまあ大臣。改めて確認しているだけです。事実確認は大事でしょ?」
するとフェルトの意見には同意だと、オルディバルは大臣を手で遮り、フェルトの質問に答える。
「うむ。あの時、君に語ったことは真実だ。そのため、君の村に聖女の巡礼が行えなかったこと、改めて謝罪しよう」
「ああ、それは構いません。この件が片付けば、真の聖女であるネフィがちゃんとしてくれると思いますから」
フェルトは、そうだよねとネフィにニコッと笑う。
「しかしフェルト・リーウェン。それが何か関係しているのか?」
「大アリですよ、陛下。ディアンさんは言いましたよね? 聖都の住民は武装しているって。それ、本当に聖都の民の意思だと思いますか?」
「そ、それは……」
「そんなわけありませんよね? 先程映し出された水晶の映像を軽く確認されたと思いますが、虚な瞳をしていませんでしたか?」
フェルトはさっきディアンが軽く水晶を差し出した際、闘技場のど真ん中で大きく映像が出ていましたよねと確認。
「た、確かに……」
「では陛下。何故、聖都の民が虚な瞳をしていたと思います?」
思い当たる節はある。
だがオルディバルにとって、それはあり得ないことであった。
「おそらくではあるが、精神汚染系の魔法の類を当てられたと思う。操作系の精神魔法だろうか……?」
それしか思い浮かばなかった。
だがフェルトは正解と指を鳴らす。
「その通りですよ、陛下。聖都の民は精神汚染系の攻撃を受け、聖堂騎士とラフィの言いなりとなってるんです。そしてそれは陛下もその被害に遭われている」
「ば、馬鹿な!?」
すると再び大臣が怒鳴る。
「ふざけるな!! そんなことがあるわけがない!!」
フェルトは首を傾げる。
「何故です?」
フェルトが疑問に思うのは当然だった。
いくら『大罪の神器』の力とはいえ、精神汚染系の魔法までもが拒否される理由が思い当たらなかった。
だがその理由はすんなりとは答えてくれないようで、大臣が渋っていると、
「フェルト・リーウェン。すまないがそれはあり得ない」
「何故ですか、陛下?」
「陛下!」
大臣が何を言いますかと止めに入るが、構わないとオルディバルは軽く首を振る。
「私達の御身は何も自分だけのものではない。私やエメローラ、エドワードは、この国において大切な存在。言われずともわかるだろう」
「はい」
オルディバル達に何かしらがあれば、王政であるこの国が傾き兼ねないということだろう。
実際、ファバルス王国の国王が倒れたことで、ルドラー大臣が裏で悪行を行えたことや周りの国にも影響が出るだろう。
「我らが身につけるこの装飾品……」
オルディバルは首から下がる豪華なアクセサリーを見せた。
「確かに王族としての格を見せることもあるが、もうひとつ役割がある」
フェルトは大臣の反応やオルディバルが言った自身の身の重要性から気付く。
「……魔法による攻撃の妨害ですか?」
「……さすがだな。その通りだ」
「つまり陛下や大臣が仰りたいのは、その防御の魔法が施されている装飾品を身につけているため、生半可な魔法は勿論、陛下が装備されることから、強力な魔法の類にも対応されており、精神系の魔法等は受け付けないと仰りたいのですね?」
「ああ」
その言い分なら大臣の激怒にも、オルディバルに語るなと止める反応にも頷ける。
一国の王の装飾品の付与魔法に対策でもされれば、それこそ身の危険だ。
だが今話してくれたのは、フェルトの話に重要なことだと思ってのこと。
フェルトはその期待に応えなければならない。
「なるほど。確かにそれなら精神系魔法が効かないのではという言い分もわかります」
「左様であろう?」
「では問いますね? 何故、聖女祭が行われているのですか?」
「!」
「聞いた話では、ラフィが無理やり通したと聞いてます」
「そ、それは……」
「それだけじゃありませんよね? 先程陛下が俺に謝罪した聖女の巡礼は? この聖女杯は? 全て陛下がラフィにしても良いと指示されたのですか?」
「そ、それは……」
フェルトの質問攻めにたじろぐオルディバル。
「陛下……その際の記憶が無いのではありませんか?」
「……!」
その質問には心当たりがある大臣は、先程とは違い、落ち着いた様子で尋ねる。
「た、確かにそれらは私達もいたが、記憶が無い内に通されてしまったような気がする。フェルマ殿、貴方にも心当たりはありましょう?」
「……そう言われてみれば、聖女ラフィとの対談での立ち合いの際、一部記憶が飛んでいるような……」
オルディバルの側近の大臣と護衛騎士であるフェルマにも心当たりがあると、深刻な表情へ変わる。
「フェルト・リーウェン! 私は気付かぬ内に聖女ラフィ……いや、同席していた聖堂騎士から精神系魔法を受けたと言うのか?」
「質問を質問で返すようで悪いのですが、先程からそう言ってますが?」
「……!」
実際、聖女祭も聖女杯も聖女の巡礼の一部放置も行われた事実であり、オルディバル自身もそれには困っていたと語っていた以上、フェルトの精神系魔法の件を否定する要素が無くなった。
だが、
「だ、だが! 私は確かにどんな時も防御魔法が施されている魔道具、装飾品を外したことなどない。ではどうやって我々を操ったというのだ!?」
オルディバルは暗殺などのことも考慮し、指輪やピアスなどの魔道具も身につけていたことだろう。
本人からすれば本来、防げた事実であるだろう。
だがフェルトは知っている。
ラフィが使っている力は神格化している『大罪の神器』であることを。
「簡単なことですよ。魔道具では防げない力で精神汚染されていたんですよ」
「な、なに!?」
「心当たりはいくつかあるのでは?」
「……」
オルディバルは口元に手を当てて考える。
心当たりはある。
隣にいるラフィは神の力とされる聖力を持ち、フェルトは神眼を持っている。
どちらもハッキリと解明されておらず、それらの理が発動するならば、確かに防げないかもしれないと考えた。
「……つまり君は聖女ラフィが聖力を使い、精神系魔法を使ったと?」
「それは無いでしょう。陛下も調べられたと思いますが、そこの聖女モドキは聖力がほとんどなく、慕われていたネフィの方が聖力があったことはご存知なのでは?」
「そ、それは確かにウワサには聞いているが、こちらでは聖力を測れないから、何とも言えぬな」
まだ事件が起こる前は、ヘイヴンが話していた通り、慕われていたネフィの方が明らかに聖力を使えており、その証拠に聖都の民はネフィに信頼をおいていた。
それにフェルトは本来、【鑑定】では見ることができない聖力の力を『強欲の義眼』で測ることができる。
とはいえ説得力には欠けるため、
「聖力は神の力とされていますが、その力を増幅するには、神や人々に対する敬虔な心が必要とされ、そういった行いが必要だったと考えられます」
イミエルから聞いたことだ。
「ネフィはそれを欠かすことはありませんでしたが、ラフィはかなりサボりがちだったと聞きます。聖力の恩恵を受けられるでしょうか?」
「う、うむ……」
そう言われてみればとオルディバルは苦悶な表情を浮かべた。
ラフィの素行はオルディバルも知る事実であろう。
「そんな砂粒しかない聖力の力で、人を操ることは勿論、聖女の本来の役割を果たすこともできません」
「!? で、では昨日行なった聖女の儀式はどう説明するのだ!?」
「まあまあ陛下、落ち着いて。順に説明しますから」
「う、うむ」
とりあえず今はラフィがどうしてオルディバル達を操ることができたのかを語る。
「どうして陛下や聖都の民が精神汚染を受け、ラフィの言いなりになってしまったのかから話します」
「わかった……」
「ですがその理由も陛下はご存じなのでは?」
「なに?」
フェルトはおもむろに自分の『強欲の義眼』のある左目あたりを軽くこずく。
オルディバルには神眼と伝わっている。
「ま、まさか……!!」
「そのまさかですよ、陛下。陛下は神物の力により、操られてしまったんですよ」
「「「「「!?」」」」」
唐突な内容に、黙っていた観客達もざわざわと騒ぎ出すが、フェルトが手を上げて、静まるよう指示。
「し、神物など唐突なっ!? いや、しかし……」
「しかしですよね? 陛下はご存じのはずだ。俺がどうやってこの義眼を手に入れたのかを……」
オルディバルはエメローラを入学させる際、その同級生となる人物達のプロフィール等を確認している。
その時にフェルトのことも調べたはずだった。
それは元より、ディアン隊が人喰いの調査報告にも軽くあったのではないかとも思われる。
本当なら隠し通しておきたいフェルトだったが、
「そう! 俺のこの左目は神眼。七歳の祝福の日、俺は神よりこれを賜った。違いますか?」
「そ、そう報告は受け取っている」
その事実に再び観客が騒つくが、同様に静める。
フェルト個人としては、下手な悪目立ちを避けるため、義眼については隠し通しておきたかったが、『傲慢の左足』を手にするためならばと、情報を切った。
「ならば俺と同じ神物が他にあるということにもなりませんか?」
「……し、しかしそのような物、どこに……?」
「あるじゃありませんか?」
フェルトは不敵に笑う。
「陛下、質問です。ラフィの左足についてはどう聞いてますか?」
「ひ、左足? あ、ああ。確か聖女ネフィに左足を切り――」
言いかけた言葉をオルディバルは、しまったと口を塞ぐ。
「陛下。必要なことです。今こそ語る時では?」
聖女の事件を隠していたことは、国民達の不安を煽らないためとはいえ、隠していたこと事態も国民に対する裏切りとしる。
だからこそ、今真実を国民達に語るとオルディバルは前へ出る。
「ここにいる皆には語っていなかったと思うが、聖女ネフィが奴隷となっている理由は、聖女ラフィの殺人未遂の罪を課せられてのことだ」
観客達は騒つく。
「真実を隠していたことは謝罪する。だがそれも皆を不安にさせないためのこと。どうか理解してほしい」
そう謝罪するオルディバル。
実際、この事件を知るのは一部の関係者とヘイヴンのような情報通な奴。
そして、そういう人から事情を聞いたフェルトくらいだ。
「だ、だがその事実を何故君が知る?」
「陛下、俺には胡散臭ーい知人がいるもので」
オルディバルはヘイヴンのことが過った。
「そ、そうであったな」
「それで陛下? 先程の答えはどうなりました?」
「あ、ああ。確かに君の言いたい通りだ。聖女ラフィは聖女ネフィにより、左足を切り落とされ、義足をつけていると聞いている」
「その義足の説明はされましたか?」
「聖堂騎士から特注の物とだけ……」
「へえー、聖堂騎士から……」
オルディバルは気付いた。
「ま、まさか!? その義足が神物!?」
観覧席にいるオルディバル達はラフィの左足に注目する。
「そう考えるのが自然でしょう。おそらくその報告したのがアスベルだとすると、その義足こそが一番怪しい」
アスベルは国取りを企てた人物。
その男が精神汚染を可能とする神物を見つけたとなると、色々な辻褄が合ってくる。
「つまりはその神物――今は神の左足とでも呼称しておきましょう。その力により、陛下をはじめ、様々な人物が都合の良いように操られていたとなると、色々と説明がつきませんか?」
「……!」
神物の力ならば、人が作りし魔道具ごときで防ぐことは難しいと考えるだろう。
実際、フェルトは神格化した『大罪の神器』が魔力程度で防げないことを知っている。
『強欲の義眼』の【識別】であったり、『暴食の仮面』の【暴食】であったり。
これらはその全ての理を無視し、その神器持ちに多大な力を貸している。
「さて、それを前提とした上で、再び質問をしながらじっくりと理解を深めていきましょうか?」
錚々たる真実に息を呑む一同は、食い入るようにフェルトの話に呑み込まれていく。
「では陛下、質問です」
「う、うむ」
「――何故、左足だったのでしょう?」
「……は?」
どういう意図の質問なのか理解ができなかったのか、ポカンとした表情するオルディバル。
「いや、だから何で左足だったと思います?」
「ま、待て待て、フェルト・リーウェン。何のことだ? その神物が左足であったことか? そんなもの私にはわからない。だが、その左足がある理由としては、アスベルか聖堂騎士の何者かが所持していたということしか……」
「いやいや、そうじゃなくて……。何故、ネフィはラフィの左足を切り落としたのだと思います?」
「そ、そちらか? そ、そうだなぁ……。報告によれば聖女ネフィが振り落とした先にたまたま左足だったと聞いているが……」
「へえー。それ、本当にそう思いますか?」
「なに?」
「良く考えて下さいよ。当時ネフィは十二の娘。いくら魔力による身体強化が可能だとしても、そんな幼い子供が斧を振り下ろすというのは不自然ではないです?」
「そ、それは当時も言われていたが、仮に殺すつもりならば、寝ている聖女ラフィを襲うのだ、一度さえ何とかなれば良かったのではないかと結論もつけられた」
「なるほど。考え方としては悪くないと思いますが、それでもおかしいですよ。ネフィがラフィを殺すつもり、つまりは寝ている状態のラフィを襲ったのですよね? なら確実に殺せるよう、頭か心臓に近い部分に斧を振り下ろす方が良いのでは?」
「そ、それはそうかもしれないが、当時の聖女ネフィは幼く、そんなことを考えるのは――」
「でも当時の法廷ではそう考えていたと、通されたとお聞きしましたが?」
「……!」
返す言葉が無いとオルディバルは黙ってしまう。
するとフェルトはへらっとその問答について、
「そのあたりのネフィの心境はどうでもいいです。だって実際に切り落としたのは別人なんですから。あくまで今の話は、ネフィが切り落とすことには違和感しかないということを認識してほしいがためです。別に当時、裁判を見ていた陛下を責めるつもりは毛頭ありません」
「そ、そうか」
「俺が言いたいのは、仮にネフィの仕業だとしても不自然な点がいくつも挙げられることです。何故、偶然左足だったのか。別に斧の目算を誤り、手や首が切り落とされたとしてもおかしくないですよね?」
「あ、ああ……」
恐ろしい単語が続くなと、会場も静まる。
「更に言えば、義足がちゃんと装備できるほど綺麗に切り落とされたことも不自然です。仮にネフィの犯行だとするなら、そんな綺麗に切り落とされていたでしょうか……」
「じゅ、十二の娘にそんなことはほぼ不可能だろう。精神的にも肉体的にも……」
「だとすれば考えられる理由はひとつですよね? ――ネフィではない別の人間がラフィの左足を確実に切り落としたということになりませんか?」
「!?」
周りがまた騒つく中、フェルトの言いたいことを察したエメローラが答える。
「つまりフェルトさんは計画的に左足を切り落とされたと言いたいのですね。そしてその理由は神物とされるその義足……だと考えれば犯人像も簡単に浮かびますね」
「その通りです、姫殿下。陛下、その左足の義足、聖堂騎士からと言いましたよね?」
「……アスベル・カルバドスかっ!!」
再びアスベルに視線が注目される。
「そう考えれば、ネフィの件は冤罪だったと思いませんか? 実際、コイツらは国取りを計画し、精神汚染……命令を絶対遵守させることから【絶対服従】でいいですかね? その力を持っていることも陛下自らが思い当たっているはず。違いますか?」
「そ、その通りだ……!」
「そ、そんなもの言いがかり――」
隣にいるアスベルは否定しようとするが、フェルトは無視して一歩前へ出て、アスベルが取ったと思われる行動を語る。
「三年前のシナリオはこうです。先ず、アスベル・カルバドスが何らかの方法で神の左足を見つけた」
その入手経緯については不明と補足。
「そしてこの左足が何かしらの能力があること、もしくは神物であることが判明し、一度は自分がつけようとも考えただろうが、それは控えた」
「なに? 何故だ? 神の力を手に入れられるのなら、望むところではないのか?」
「確かに陛下の仰ることは尤もですが、ふたつのデメリットがあることから、それは控えた」
「ふたつのデメリット?」
そう語るフェルトは先ずは一本の指を立てる。
「ひとつは神の左足に必ず適合するかが不安だったこと。アスベルは用心深い性格、自分が神の力に適合するかは賭けだと考えたのではないかと思われる」
そしてもう一本。
「ふたつ目は騎士生命の死。アスベルは腐っても貴族であり、聖女を守る家系の人間という肩書きがあるが、そんな騎士が左足を失うこと、義足にて戦うなど、許される問題ではないということが挙げられる」
「確かに、騎士として足の不調は致命的。片足や義足でなど剣を振るうことは難しくなる。それらを懸念したわけか」
「はい、陛下。だがアスベルとしてもせっかく手に入れた神の左足、どうしたものかと考えたでしょうね。すると……」
フェルトはわざとらしい演技も混えて説明する。
「おっと! そんなアスベルの目の前に都合の良いふたりがいるじゃあ、ありませんか!」
「都合の良いふたり……?」
オルディバル達は一瞬、ポカンとさせられたが、結論はとても簡単なものだった。
「……双子の聖女ですね、フェルトさん」
「「「「「!?」」」」」
「……正解だ、姫殿下。聖力という神の力を宿したふたりならば、神の左足である義足を身につけられるのではないかと考えた。そして利用しやすいラフィの方を選んだ」
「……!」
「幸い、ネフィとラフィの間には聖女としての格差があった。これも聞いた話だが、ネフィは随分と慕われ、聖女としての役目も果たし、信頼されていた一方で、ラフィは聖女という肩書きのみの飾りの聖女とされていたんだろ?」
口に出されてはいなかっただろうが、ヘイヴンから聞く限りでは視線や周りの態度で丸分かりだっただろう。
「アスベルはそのラフィの劣等感を利用し、おそらくこう囁いたんじゃないか? 『ネフィが妬ましいか? 同じ聖女なのに扱いの差が不服か? 周りの連中を見返したいか? なら俺の言う通りにしろ。俺は神の力を持っている。それに選ばれればお前は真に聖女となれるだろう!』と。口説き文句はこんなところか……」
フェルトはやれやれと馬鹿にするような素振りを取りながら呆れて語った。
「そして案の定、アスベルの狙い通り、姉ネフィに対して強い劣等感を持つラフィは話に乗った。……左足が義足なのが話に乗った証拠だ」
オルディバルは改めてラフィの義足をチラリと見ると、確かに神の左足と言われてもおかしくないほどに、ほぼ人間の足に近い造形をされていることに、フェルトの説明に疑う余地は無かった。
「後は簡単だ。先ず、ネフィを薬か魔法かで眠らせた後、アスベルがラフィの左足を切断。ラフィの性格上、演技は難しいことから多少の痛覚をラフィが耐えられるよう、魔法を施し、そしてアスベルは自身の証拠を拭き取り、ネフィに凶器となる斧を握らせ、これも魔法か何かで無理やりネフィを起こしてやれば……」
フェルトは、パッと手を開き、驚いた素振り。
「あーら、不思議。左足が切断され、もがき苦しむラフィとその左足を切り落としたと思われる斧を握ったネフィの図が出来上がる」
「「「「「!!」」」」」
「ネフィは聖女という立場もあり、普通の子供よりは達観してはいただろうが、妹であるラフィが左足を失って苦しみ、その手には斧を握っていれば、頭が真っ白になったことだろうさ……」
「でしょうね。常人な精神ではいられないでしょう」
「そんなところにあたかも今駆けつけたかのようにアスベルが現れ、その惨状を見るや、聖女絡みの事件であるため、聖女を守る騎士であるアスベルをはじめとする聖堂騎士預かりとすれば、証拠の隠滅に捏造などやりたい放題」
観客席からだろうか「ひ、酷い……」と、どこからかそんな悲痛な声が聞こえてくる。
「そしてネフィ派閥の方々が聖女ネフィがそんなことをするわけがないと猛抗議の末、行われた裁判……」
現実世界ではあり得ない光景だが、昔外国であった魔女裁判を彷彿とさせる話だった。
「最初こそネフィ派閥は無実を訴えており、ラフィ派閥……つまりはアスベルサイドの聖堂騎士達の証拠も、周りも怪しむように捏造されたものではないかとまで言われたそうで……」
派閥がふたつに分かれていたこともあり、陥れたのではないかとされていた。
実際、アスベル側が事件の統括をしていた時点で、確かに怪しむべきところだろう。
「だがアスベルサイドには神の力、知ってか知らずか手に入れた【絶対服従】。……陛下。法廷をご覧になられていましたよね?」
「あ、ああ。あれは酷いものだった。聖女ネフィを完全に犯人呼ばわりし、その証拠を本来であれば擁護しなければならないはずのネフィ派閥からされていたのだからな。聖女ネフィのあの絶望の表情を今でも思い出すよ」
オルディバルは当時の様子を苦しそうに語ると、それが【絶対服従】による操作であると知ると、怒りが込み上げてきたようだ。
「だがそれが……神の左足という【絶対服従】の力で聖女ネフィを追い詰めていたのだな!? アスベル・カルバドスが!!」
「ええ、陛下。アスベル達からすれば簡単なことだったでしょうね。おそらくネフィ派閥達にやはり穏便に解決したいから来てくれないかと誘うだけで構わないのだから……」
「……とんでもない。悪魔の所業ですね」
エメローラをはじめ、会場のほとんどの人達がアスベルやラフィに嫌悪の視線を向けた。
「そして裁判の結果は死刑判決となった」
「……その通りだ」
死刑との言葉に騒つく会場だが、聖女が亡くなる可能性があった事件だけに重い結果となるのは至極当然だった。
「ですが陛下。ネフィは今結果として奴隷となっています」
フェルトは闘技場広場の入り口にいるネフィを見る。
「その経緯はご存じですよね?」
「ああ。確か、聖女ラフィが死刑はあまりに酷いと、聖女は元々短い寿命を持つため、その生涯をもうひとりの聖女である自分に尽くす奴隷とするのが良いのではと提案したことではなかったかな?」
「陛下。ここまでの話を聞いて、ラフィが死刑が酷い、可哀想って思って提案したとは思いませんよね?」
「思わんな。ここまで卑劣極まりない行為で聖女ネフィを追い詰めたのだ、そんな良心などないだろう」
「ならどうしてそんな提案をしたと思います? ラフィはネフィを強く妬んでいたことを考えると、死刑も通すはずでしょうに、どうして生かしたと思います?」
するとエメローラは重いため息を吐いた。
「……双子の聖女のため、容姿は瓜二つであり、差異はありましょうが聖力を持ち、本来ならば同じ役割を果たさなければならない聖女……つまりは奴隷となったネフィに全ての役割を丸投げするつもりだったのですね」
「「「「「!?」」」」」
「その通ーり! ……さすが姫殿下」
フェルト、指パッチン。
「ラフィはさっきも言いましたが、聖力に関しては砂粒程度の雑魚聖女。役割を果たすことはできないが、ネフィならばそれは可能。そして同じ血が繋がっていることから、子孫なんかもぜーんぶ丸投げ。本人は聖女という肩書きと【絶対服従】の力で豪遊の限りを尽くす計画だったんでしょうね」
会場中の人達がラフィに対して冷たい視線が集まる。
「ではフェルトさん。昨日の儀式は裏で聖女ネフィが行なっていたということでしょうか?」
フェルトは首を横にゆっくり振った。
「いいや。儀式なんてとっくに終わってたんだよ。聖女祭が始まる前にね」
「な、なに!?」
「ほら、陛下。聖女祭前のパレードがありましたでしょう?」
「う、うむ。確かその次の日に聖堂騎士が君のことをブラックギルドから守る護衛が必要ではないかと提案が……」
「ええ。その際に俺が接触してたんですよ、ネフィに」
「ま、まさか!?」
「ええ、そのまさかです。その日にもう既に儀式を終えていたんですよ」
「なっ!?」
アスベルがギロっと睨むが、
「おっと! 言うなって約束だったっけ? 悪かったな。状況が状況だからさ。許してよ」
「き、貴様ぁ……」
フェルトはケロッとした顔でそう答えた。
「では昨日のアレはなんだったのです?」
「アレですか? ただの見世物ですよ。聖女ラフィは凄ーい力を持ってるんだよーって、ただのアピール」
「なっ!?」
「だって仮にもラフィは聖女を名乗っているんだから、やった振りはちゃんとしないとね」
「つまり……」
エメローラは突きつけているナイフ以上に、鋭い眼光をラフィに向ける。
「我々を欺き、笑っていたと?」
「でしょうね! 上手く騙せたと、昨日の夜は酒でもかっぱらってたんじゃないです? どうなんだよ?」
隣にいるアスベルにケロッと尋ねるが、答えるはずもない。
「だが聖力も使えないのに、あんなことを……」
「陛下、もっと簡単に考えましょうよ。あの派手な光はただの魔法ですよ」
「ま、魔法だと!? だとすれば我々が偽りだと気付くだろう!?」
聖力はわからずとも、魔力ならば確かに感知できるだろうが、
「陛下〜。もっと柔軟に。聖女の巡礼の儀式、そもそも何が目的でしたっけ?」
「それは地脈の魔力の安定化……!? そ、そうか! 溢れ出た魔力だったと誤魔化しが効くのか!?」
フェルト再び指パッチン。
「正解! 陛下も冴えてらっしゃる」
「なるほど。おそらくは魔法陣による準備を教会で行なっていた。それをフェルトさんは見たから、聖女ネフィが儀式を終わらせていたことを知っていた……」
「おっ! 姫殿下も冴えてらっしゃる!」
冴え渡りついでにと、昨日の儀式の偽装の真相と思われる内容を語る。
「その魔法陣も溢れる魔力を抑えるためだとでも言えば、誤魔化しも効きますからね」
「うんうん。そこまでわかったなら、狙いもわかりますよね?」
「ええ。おそらくはラフィの神格化が狙いなのでしょうね」
「し、神格化……?」
「お父様。昨日のあの様子を見たわたくしをはじめとする民達はラフィ・リムーベルのことをどう認識されたでしょう?」
「歴代聖女の中で凄まじい力を持つ聖女、だな」
「はい。そしてラフィ・リムーベルは、先程の聖女ネフィに全て肩代わりさせるつもりならば、ラフィ・リムーベルの寿命はどうなります?」
「そ、それは……」
そこはちょっと考えていなかったと言い澱むオルディバルに代わり、フェルトが答えた。
「元々聖力が少ないラフィは通常の聖女より寿命が長く、更に聖力を使わないことを考えると、一般女性の平均寿命と変わりないと考えていい」
「はい。ですが国民や我々には歴代最強の聖女とされる……」
「そうか……!! 我々には聖女ネフィが代わりをしていることを知らなければ、聖女ラフィは今までにいない長命の聖女ということになる!」
「その彼女が神の使徒などという評価を受けると思いませんか?」
「……!!」
「つまりはラフィ・リムーベルの神格化。これで合ってます?」
「合ってまーす! さすが姫殿下」
フェルトが大きく丸を作って正解だと満面の笑顔。
「し、しかし! その肩代わりをさせられる聖女ネフィはおそらく歴代聖女同様の寿命のはず! そんなこと続けられるはずが……」
「陛下。さっき俺、言いましたよ。聖女の役割だけでなく、子孫を残すことも丸投げさせると……」
「……!! じ、自分の姉の子供さえ、影武者にするつもりか……!!」
「……そう考えるのが自然でしょう。生まれてきた子供には、影武者でいるように都合良く教育すればいい。幸いというべきか、ラフィには【絶対服従】の神の左足があるわけだからな」
「……!!」
エメローラは酷く嫌悪した表情で、ラフィを見下しながらナイフを握る手を強める。
「とても人のやることだとは思えませんね。これほどの作戦、おそらくはこのラフィ・リムーベルが考えたとは思えないあたり、国取りを模索したアスベル・カルバドスの入れ知恵でしょう」
「だと思いまーす」
「だとしてもこんな非道な作戦に乗るこの女もどうかしています」
「そして国取りの計画ですが、先ずラフィの【絶対服従】で陛下を操り、適当な悪行を働かせ、国民の偶像により神格化したラフィを中心においた聖堂騎士がその悪事を解消するという自作自演をしてみせれば……?」
「ラフィ・リムーベルは国民達の絶大的な信頼を得るというわけですね」
「そうすればこの国は?」
「ラフィ・リムーベルを操った、アスベル・カルバドスのもの……」
「というのがコイツらが思い描いたシナリオってわけ! そしてそれらを証明する証拠が……?」
フェルトはディアン達に視線を向けると、
「我々が掴んだ動かぬ物証とこのロマンドの証言並びに尋問官に差し出した違法奴隷商の証言というわけだな」
「そういうこと」
「……!!」
追い詰められたとアスベルは、冷や汗が止まらない。
するとフェルトがペコリとアスベルに謝罪する。
「いやぁー、アスベルさん、申し訳ない」
「なに?」
「俺って実はダンスが超苦手なんだよ」
何を言っていると、アスベルは首を傾げる。
「他の連中はシナリオ通り踊ってくれそうだったろうが、ダンスが苦手な俺はアンタのシナリオ通りには踊ってやれない」
「!?」
フェルトは挑発的に、思い通りにはならないぞと宣言。
「いやー! 本当にごめんなさい! ほら、アンタも知ってるとは思うが、俺の田舎は山奥でねぇ。お貴族様であるアンタ達が得意なダンスなんかしたことないんだよぉー」
更にはこちらの思い通りに踊ってくれて感謝するとまで挑発。
「フェルト……リーウェンっ!!」
悔しそうに憎らしそうに険しくアスベルは睨むが、フェルトは物ともしないと馬鹿にするような嘲笑を浮かべる。
「ごめんな、思い通りに踊ってやれなくて」




