31 聖女杯 試合編1
第一試合を観ていたフェルトは、他の聖堂騎士達の監視がされている中、アスベルを評価する。
「ほえー。アレが聖堂騎士団長様の実力ねぇ……」
「ええ。そうです。アレがアスベルの戦い方です」
ゴルドは何回もやり合っているのか、フェルトに助力するため、アスベルの戦い方を語る。
「あの男は見てわかると思いますが、カウンター型の戦い方をします。相手の動きを目や耳などの五感神経で判断し、的確な剣撃を加えます」
「なるへそ。それがカルバドス家に伝わる聖女を守る剣術ってわけ?」
「ええ。聖女様を守るために周りの状況の判断がすぐにできるよう、神経を鍛えるのだそうです」
「だから瞬動術を使わず、あくまで身構えてたわけだ」
「はい」
「ほーん……」
フェルトはだからアスベルは慎重な性格なのだろうとわかった。
フェルトの戦い方はケレン同様、高速移動などをして撹乱させるタイプ。
こちらの戦い方を好む性格は、自分も含めて好戦的かつ挑戦的な戦い方をするなと思う反面、アスベルのような自陣に構えるどっしりとした戦い方をするタイプは、冷静かつ確実な戦い方をする。
それぞれに性格が出るなと思いながらも、アスベルの戦い方はやはりどこか保守的な印象が過る。
冷静かつ確実と言えば聞こえはいいが、悪く言えば自分から攻め込まないため、他力本願なところが見えてくる。
勿論、フェルト達の戦い方にはリスクが伴うが、それでもアスベルの戦い方には同調できないフェルトは、
「ハッ! 大したことねえな」
「……! リ、リーウェンさん……」
そう呟いたフェルトにゴルドは驚愕する。
それに気付いたフェルトは、ゴルドに向かって鼻で笑いながら語る。
「そんなに驚くことないだろ? シギィのイカれ野郎と比べりゃあ、あんなの簡単に対処できる」
「……! た、確かに……」
そう言われると納得したゴルド。
「こりゃ、優勝も楽勝かな?」
そう言うと、参加者達はジロリとフェルトを見る。
「おっ? 何?」
だが参加者達もフェルトのウワサは知っているため、特に文句を言うことはなかった。
するとそんなところにアスベルが戻って来た。
「おっ? お疲れさん、アスベルさんよぉ」
「これはこれは。私の試合、観てくださってましたか?」
「そりゃあもう! いやぁ……」
フェルトは挑発的な笑みを浮かべる。
「――大したことが無くて安心したよ」
だがアスベルの反応は思ったよりも冷静だった。
「そりゃそうですよ。貴方に比べれば、私など大したことはありません。何せ、あのブラックギルドのシギィと戦い、無事に生き残った逸材。私だって部を弁えますとも……」
あっさりと引き下がることに他の参加者も驚く。
「おいおい、仮にも俺はアンタより身分が低い挙句、年下だぜ? 舐められてもいいのかよ」
「ハハッ! 自分の力量を測れない馬鹿ではありませんから。何より、貴方はその神眼に選ばれし者。私達の間に身分などありません」
「ハッ! そりゃどーも」
するとアスベル達のモニター映像から歓声が響く。
『さてそれではどんどん参りましょう! 第二試合は……アスベル選手に続く聖堂騎士の刺客。騎士団長に続けるかぁ? 聖堂騎士――ライクぅっ!!』
ライクはモニター越しからでもわかるほどに、緊張した面持ちで登場。
そしてその対戦相手が紹介される中、フェルトは尋ねる。
「なあ? やっぱ聖堂騎士が参加するのは、盛り上げ役か?」
「ええ。聖女杯という名目もありますし、聖堂騎士が参加した方が良いでしょう? 聖堂騎士は聖女を守るという関係上、閉鎖的でもありますから……」
「そりゃあ聖都でロクなことを企んでりゃあ、そうなるわな」
アスベルは表情をにこやかにしながらも、警戒するようにフェルトを見る。
「ハハハ。そういうことではありませんがね」
「どうだか」
モニターから歓声が響く。
試合開始のようだ。
闘技場ではライクと対戦相手がお互いの剣技で攻め合い、司会の実況にも熱が入る。
『お互いのレベルはほぼ互角かぁ!? 互いに譲らない攻防が続いているっ!!』
聖堂騎士というだけあって、ライクは見事な剣技を披露するみたいだが、そこに違和感をアスベルは感じた。
「……」
「どったの?」
「あ、いえ。あの男にしては攻め方が遅いと思いましてね」
「まあ性格を加味すれば、もっと勢いのある攻め方の印象の方が強いからな」
だが確かにアスベルの言う通り、ライクの攻め方は自分で攻めるというよりは、相手に合わせて戦っている印象を受けた。
本来、相手に合わせる戦い方というのは非常に難しく、通常であれば格上がする行為。
指導する側が行なうような戦い方という形がわかりやすい。
ライクはフェルトの指示通りに時間いっぱい戦うつもりで、こんな無理するような戦い方になってしまったのだろう。
フェルトとしては、それだけ無理をしてでもネフィを助けたいのだという表れに見えた。
「なあ、アスベルさんよぉ?」
「何でしょう?」
「何で試合時間、十五分なんだ? 長すぎないか?」
「まあ、元々はあの聖女様の我儘から決まった大会ですからね。見世物としての時間として長めに設定したのですよ。それに元々は魔物との戦闘を想定とした試合ですから」
「あー、なるほど」
対人戦を想定していなかったと言うならば、説明もついた。
この対人戦の提案はフェルトがしたものであり、唐突に決まったはずのもの。
急なこと故に、時間やルールなどの細かい設定を変更するのが面倒ということなのだろう。
するとアスベルは少し眉を顰め、モニターに映るライクをジッと見た。
「……」
「どした?」
するとアスベルがジロリと疑いの眼差しを向ける。
「リーウェン様……何か企んでおいでですか?」
「はあ? 何だよ、急に」
「ライクの戦い方が明らかに不自然です」
「ほう?」
すると少し動きがあったモニターを指差す。
「先程のところ、ライクが攻めていれば勝てる展開だった。なのに、様子を見る素振りがあった。これはどういうことですかな?」
アスベルは先程、ネフィがいた部屋で何かしらの指示があったのではないかと疑ぐる。
だがフェルトはあっさりと答える。
「さあ? ライクの試合のゲームメイクなんてわかんねえよ」
「……」
アスベルは再びモニターへ。
すると、
『これはライク選手、かなり慎重に戦っております。時間をかけて体力を削ぎ、確実に仕留めていくのでしょうか?』
「!」
時間をかけるというところに引っかかったアスベルは、
「ちょっと失礼」
「どーぞー」
フェルトの側をそそくさと離れ、フェルトはひらひらと手を振って送り出した。
そしてアスベルは通信用の魔石を取り出し、フェルトの様子を監視しながら、聖堂騎士達に小声で連絡を入れる。
「全員聞こえるな? 今すぐ不審な動きをしている人物を探せ」
その命令に何故だと、連絡を受け取ったダミエルが尋ねる。
『どうした? 何があった?』
「ライクの奴の戦い方が妙だろ?」
『……確かに』
ダミエルは闘技場をチラリと観て、確かにおかしいと答えた。
「おそらく時間いっぱい戦い、俺達の監視の的になることで、他の連中が何かするかもしれない」
『……なるほど』
連絡を受けた他の聖堂騎士もなるほどと納得する。
「ダミエルとレックスはどうせそこからは動けないだろうから、国王と姫を見張れ。俺は同じ待合室にいる|大会参加の部下の聖堂騎士と一緒にフェルト・リーウェンとゴルドの監視をする。他は自分の持ち場から少し離れても構わん。怪しい動きをしている人物を探せ」
連絡を受けた聖堂騎士は『はい』と返答する。
そしてアスベルは監視のためか、フェルトの元へと戻るが、もうひとりのアスベル側の聖堂騎士をチラリと見て、アイコンタクトを取る。
「何かあった?」
あっけからんとするフェルトに、ニコニコと笑顔を向けるアスベルだが、
「何を企んでおいでですか?」
「はあ? またか?」
同じ質問を受けたフェルトは呆れるも、アスベルもこれ以上出し抜かれるわけにはいかないと、モニターを観ながらフェルトを問い詰める。
「ライクは先程、貴方達と共に私の目を掻い潜って会話されていたはず。貴方は一度、アイツらに入れ知恵している……。今回も何か仕掛けてくると考えても不自然じゃあない」
「なるへそ」
「勿論、そこにいるゴルドも……」
ジロリと後方のゴルドを見るアスベルだが、フェルトはハンっと鼻で笑う。
「おいおい。俺達を監視するためのアンタ達、大会参加なんだろ? 俺達はこうして目の前にいる。……何をしようってんだ?」
「ですから時間稼ぎをしているのだろう? ライクは……」
「俺か姫殿下が行動を起こすと?」
「それ以外に理由は考えられない」
「そうか? お前さんさぁ。ダミエルから聞いたんだろ? 俺が出した手紙の内容……」
「!」
【絶対服従】を使って聞き出した情報があるんじゃないのかと、フェルトが仕掛ける。
「そこの内容の中に、俺が動かしている人物ってのがいるって情報、貰ったんじゃないの?」
アスベルは確かに、ダミエル達の監視を潜り抜け、クーデターの情報の証拠を掴むための別働隊が動いているという情報はあったと過る。
「そこの人員、割かなくてもよかったのか?」
アスベルはフェルトの狙いに気付く。
「フッ……その手には乗りませんよ」
「ほう?」
「確かにダミエルの監視網を潜り抜け、別働隊が動いているならば、我々はピンチなのでしょうが、それこそが貴方の狙い」
「何故そう思うんだ?」
「簡単なことですよ。貴方はあの手紙に別に真実を書く必要がなかった。何故ならば、ここでエメローラ姫殿下と会う口実を作ることが可能だったからです」
フェルトはフッと不敵に笑う。
「なるほど。俺がここで姫殿下と会うことを前提とするなら、確かに聖女祭一日目に真実を語る必要はないな。今日、その真実を語ればいいわけだからな」
「その通り。つまり貴方は、元々人員の少ない我々の部隊を更に分断することで、確実に私やラフィを捕らえる算段をつけていた。【絶対服従】の対策としてこのタイミングギリギリで姫殿下に真実を告げ、そして我々の油断も同時に誘おうとした」
ラフィが自発的にエメローラから探りを入れる行動が想像できないと考えるならば、確かにそうも考えられる。
「それでお前さんらは俺の手紙をあくまでカモフラージュだと認識したと?」
「ええ。しかも一部は真実を混えることで、我々に全て真実だと思い込ませるように仕向けた」
「なーるほど……」
確かにアスベルがフェルトが送ったとされる人物の証拠が取れない、そして取ることに時間が掛かるということも踏まえると、そのように考え、そちらへの対策に張り切った方が良いと考えるのにも説明がついた。
「貴方は疑心暗鬼の沼にハマれと言った……」
「言ったな」
「確かにここまで貴方に嵌められてきましたよ。しかし、終わり良ければ全て良しなんですよ」
「だなー」
フェルトの変わらない余裕の態度に、アスベルはイラっとするも、呑まれてはいけないと冷静さを保つ。
「つまりはこうして貴方やエメローラ姫殿下、そして息のかかっているであろうあのふたりを見張っておけば、こちらの勝ちなのです」
「そっかそっか。そうかもなぁー」
さすがに余裕があり過ぎると不安に思ったアスベルが尋ねる。
「随分と余裕ですね」
「そりゃそうだ。俺はアンタ達みたいに後ろめたいことはないわけだからな」
「……」
「それに俺は最初っから言ってたぜ? 俺は何もしないって」
「それを信じろと?」
「ハハッ! そりゃ信じられねえわな! だから見張られてるわけだしね」
あくまで余裕な態度は変わらないフェルトは笑う。
「ま。だったら自分達の導き出した答えを信じればいいさ。お互いに悔いのないようにしようぜ」
「フフ。そうですね」
「今のライクみたいにさ」
そのモニターでのライクの戦い方に観客が少し不審に思い始めたのか、盛り上がる声援が止んでいく。
『これはかなりの長期戦。十五分というルールではありますが、これでは互いに体力が消耗するだけで、最初に有利と思われていたライク選手にも疲れが見え始めている。これでは作戦など本末転倒! どちらが勝ってもわからない試合になってきたぁ!』
何とか盛り上げようという司会の必死な熱弁が闘技場に響くが、観客達の騒めきが収まることはない。
「これはブーイングを買いそうですね」
「だな。そろそろどちらかが決めなくちゃ、会場の熱も冷めるってもんだな」
そしてその数分後、十五分ギリギリのタイミングで、ライクの対戦相手が降参の合図に両手を上げた。
『おおっと! ここで降参だ! ちょっと遅い気もしましたが、勝者! ライク選手ぅ!!』
会場の空気に耐えられなかった対戦相手が降参したようだった。
ライクも疲れ果ててしまったのか、勝者コールにも応えられず、その場で膝をついた。
そんな様子を窺いながら、アスベルは横にいるフェルトに何の動きも無かったことを確認すると、フェルトの横とお構いなしに、他の聖堂騎士にも小声で連絡。
「お前達、怪しい人物はいたか?」
だが返ってくる返事は『異常無し』とのこと。
『こちらダミエル。こちらも異常は無いが……』
「無いが、何だ?」
『陛下や他の護衛騎士が多少の動揺を見せている中、姫殿下とその護衛はあまり顔色に変化がない。おそらくアスベルの言った通り、フェルト・リーウェンが何か企んでいるのは間違いないようだ。引き続き警戒に当たれ』
そのダミエルの忠告に同じく連絡を受けていた聖堂騎士は了解と返答すると、連絡は切られた。
アスベルが魔石を引っ込めると、フェルトはニコッと笑い、
「何か進展あったぁ?」
「……いいえ。特には」
その嫌味ったらしい笑顔に引き攣りながらもアスベルは笑顔で返すと、
「ライク!」
「ふ、ふい〜」
ライクがかなり消耗した様子で現れ、その対戦相手も帰ってきた。
「まさかこんな長期戦になるなんてな。アンタ、何がしたかったんだ?」
対戦相手が思わず尋ねると、ライクは渇いた笑いをしながら答える。
「い、いやぁ〜、せっかくの聖女祭最終日の試合だから、少しでも長く楽しんでもらうつもりが、逆効果になっちまったなぁ〜。ごめんな、付き合わせちまって……」
「そういうことだったのか。聖堂騎士様も色々考えることがあって大変なんだな」
対戦相手はそれで納得したが、
「ほおー。貴方みたいな馬鹿がそんな知恵が回るだなんて思えないですがね」
アスベルは納得がいかないのか、圧をかけていく。
「んだよ。確かに俺は馬鹿だが、考え無しってわけじゃねえんだよ」
「そうかぁ? 上司の身である私からすれば、貴方はただの考え無し。所詮は聖女ラフィに顔だけで選ばれたお飾りだと思っていますがね」
よく言うぜとライクはギロッと睨む。
ライクはあくまでネフィ側の聖堂騎士だったわけだから、顔で選ばれたということはない。
すると納得した対戦相手が横槍を入れる。
「おいおい。いくら上司でも言い過ぎだろ。この人だって考えての行動だったんだろ? 結果的には失敗だったが、心意気は汲んでやっても――」
「部外者は黙っていてもらおう。それに結果が失敗なら、それはダメだということだ」
「うっ……」
フォローしたつもりが、余計なことをしたと対戦相手は言い淀みながら、後ずさった。
するとライクも後ずさるのか、
「……そう言われるとアンタの言う通りだな。悪かったよ」
アスベルの意見を肯定した。
「……」
珍しく、というよりは初めてこちらの意見を肯定したライクにアスベルは気味が悪いと、これ以上は何も言わず、フェルトの隣へと戻った。
そして次の試合のゴルドが部屋を出て行く。
その時に小声でライクに呟く。
「良くやった。次は俺だな」
「ゴルド……」
そして次の試合――、
「おい! どうなってんだ!!」
「またなのっ!?」
「いつまでやってんだぁ!!」
会場は大ブーイングに包まれていた。
ゴルドが先程の試合同様、試合をズルズルと続けるような立ち振る舞いをし、大会を盛り下げていることになっていた。
司会は『落ち着いて下さい』と呼びかけるも観客のブーイングは止まらない。
だがゴルドもそんなブーイングの嵐など気にしないのか、怖いくらいの真剣な表情で対戦相手と戦う。
その対戦相手はゴルドに怯んでか、弱々しい腰の低い戦い方をするも、ゴルドがあまりにも加減をした戦い方をする。
それを見ていたアスベルは、違う焦燥感に駆られる。
「おいおい、大会をぶち壊すつもりか」
「……さあね」
アスベルからすれば、これはラフィの提案した大会。
盛り上がってもらわないと困るのも事実。
別の悩みが生まれてしまうと、アスベルは片手で顔を覆い、悔しそうにする表情を隠している。
だがフェルトからすれば、ここまでのブーイングを受けてもなお、指示通りにしてくれていることに覚悟が窺えた。
ネフィを助けたいという一心、元々訪ねて来た時から受けてはいたが、改めて態度にされるとその責任を感じざるを得なかった。
そして試合はゴルドが勝利となったが、最初から最後までブーイングで綴られる試合となり、
「どういつもりだぁ!! ゴルド!! さっきのそこの馬鹿の試合が見えてなかったのか?」
待合室ではアスベルの怒号が響き、待機選手達も擁護しようがないと離れて様子を見る。
するとゴルドが冷めた視線で、
「ああ、すまない。考えごとをしていたので、ライクの試合は見ていなかったよ」
まるでアスベルの神経を逆撫でするような適当な返答。
するとアスベルは掴んだ胸ぐらを思い切り突き放し、壁にゴルドを叩きつけた。
「ふざけるなぁ!! 次、こんな試合をしてみろ……ブッ殺すぞぉ!!」
聖堂騎士の発言とは思えないと空気がシンとなる。
だがその指摘を受けたゴルドはまるで何もなかったかのように、むくりと起き上がり、パンパンと服の埃を軽く払いながら、
「ああ、次からは気をつけるよ」
反省の色などありませんと言いたげな、気の無い返答。
アスベルはギリッと歯軋りを立てながらも、フェルトの元へ戻る。
「おいおい、ブッ殺すは無いんじゃない?」
「す、すみませんねぇ〜。しかし、これでは聖堂騎士がわざと勝敗を有耶無耶にするようなヘタレ集団だと思われ兼ねませんからなぁ〜」
アンタの仕組んだことだろうがとアスベルは睨むが、フェルトはハハッと軽く笑うと、
「……安心しなよ。それよりも酷い集団だってバレるからさ」
「……!!」
アスベルだけに聞こえるように、そう脅してみせた。
***
「さあ!! これで第一試合もこれで最後。何やかんやありましたが、会場の熱も戻って参りましたぁ!!」
ゴルド達が盛り下げてしまった空気は、その後に続く試合で何とか取り戻したと司会は安堵がこもった実況。
「それでは第一試合最後を飾るのはこのふたり!! 先ずはこの方!!」
多少のブーイングの中で最後の聖堂騎士の参加者が登場。
アスベルはともかくとして、その後のライクとゴルドの影響のためか、とばっちりを受けるアスベル側の聖堂騎士。
そして――、
「皆さん、この方の登場を待ち侘びた方も多いのではないでしょうか? あちらに居られるエメローラ姫殿下様を救出した貴公子のひとりが、この大会に参戦! 巷ではブラックギルドとやり合えるほどの実力の持ち主。さあ! 登場して頂きましょう!! 優勝候補筆頭――」
フェルトは自信満々の表情で登場。
「フェルト・リーーーーウェーーーーン!!!!」
「「「「「――うおおおおっ!!!!」」」」」
フェルトは歓声に応えるように、観客席に向けて笑顔を振る舞いながら、中央へと向かう。
その視線を向けていると、王族観覧席から身を乗り出してみるラフィの姿があった。
「……」
今に見てろよ、クソガキ。
お前をそこから引きづり下ろしてやるからな。
スッとフェルトは一瞬冷めた表情をするが、すぐに笑顔を戻す。
そしてアスベル側の聖堂騎士、対戦相手と握手。
「悪いな。歓声を横取りしちまってよ」
「構いませんとも。我々としては大会が盛り上がれば良いのですから……」
「ハッ! そうかい。じゃあせいぜいアンタを引き立て役にさせてもらうよ」
「ええ。是非。ただ、簡単にはやられませんよ」
「期待しとくぜ」
そう言ってフェルトはヒラヒラと手を振った。
「さあ! 各自、立ち位置へと着きました。さあ! 準々決勝に進むのはどちらか?」
ふたりとも剣を抜き、フェルトは突撃の構えをとる。
「!」
すると聖堂騎士も対抗するように攻防どちらでも併用できる構えを取った。
「では――試合、開始っ!!」
するとフェルトはすぐ様、【識別】を使用し、瞬動術を発動。
音もなく、フェルトは一瞬でその聖堂騎士の後方まで移動すると、もう剣を仕舞う体勢を取っていた。
「おおっと!? 何が起きたのだぁ?」
司会がそう叫ぶ中、対戦相手である彼も不思議そうに振り返る。
「おやおや、フェルト・リーウェンさん? 一体何を……!?」
最初は余裕の表情で振り返った聖堂騎士だったが、身体中から痛みが走り、
「なっ……!?」
聖堂騎士は身体の端々から血飛沫を上げ、
「ぐあっ!?」
そのまま倒れ込んだ。
「ああああっと!! 倒れ込んでしまったぁ!! 何が! 何が起きたぁ!?」
司会の疑問にフェルトが答える。
「どうってことねえよ。瞬動術で駆け抜ける際に、コイツが防御できてない箇所を一瞬で切り裂いてやっただけさ」
「「!?」」
倒れ込んだ聖堂騎士と司会は驚愕とばかりに目を見開く。
「ば、馬鹿なぁ……」
聖堂騎士が捨て台詞を吐き、司会は盛り上げるように勝利宣言。
「見たかあっ!! これが我が国の姫を救出した貴公子の実力っ!! 一瞬! たった一瞬の出来事ではありますが、実力を語る時間はこれだけで十分と言わんばかりぃ!! 勝者――フェルト・リーウェンっ!!!!」
「「「「「――うおおおおっ!!!!」」」」」
会場は大盛り上がりする中、それを見ていたアスベルは勿論、指示を出されていたライク達も驚愕する。
そしてフェルトは、聖堂騎士を見下ろしながらこう言った。
「引き立て役、ご苦労さん!」




