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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
91/177

30 ネフィの意志

 

「わたくしの意志……」


「ああ。そうだ」


 そう尋ねられたネフィは少し俯いた。

 あくまで他人のためという理由で、救出を拒否していただけに、考えがまとまっていないのだろう。


 だが、フェルトはネフィの答えを待った。


「わたくしは……どうしてこうなってしまったのか、知りたいのです」


「……それはどういう意味でだ? アスベルの計画についてか? それとも……」


「……わたくし達の運命、についてですかね」


「運命……」


 洗脳されていた聖都の住民を憂いていたことから、知りたいという理由はそちらではないと思ってはいたが、ラフィとの関係が歪んでしまったことを知りたいようだ。


「わたくしとラフィは以前はこんな関係ではありませんでした。……あっ! ま、まあ当然ですけど……」


 聖女として生活していたならば、確かに奴隷と聖女という関係ではないだろう。

 フェルト達はそうだろうなと苦笑い。


「お母様が生きておられた時は、ラフィもとても素直な娘で、わたくしともとても仲が良かったのです……」


 聖女というしがらみは先代聖女であるユフィが受け止めていたはずだ。

 まだ子供だったふたりには、縁のない話だったはずだ。


「ですがお母様が亡くなられてから、わたくし達は聖女という立場を急に与えられてしまい、目まぐるしいほどに周りの環境は変わっていきました」


「だろうな」


「仲の良かったわたくし達の間にも溝は出来ていきました。元々サボりがちではあったラフィは、周りの重圧に耐えきれなかったのか、聖女としての教育を放棄するようになり、わたくしは聖女としての役割を果たそうと必死でした……」


 ネフィ自身も知りたいとは願いつつも、あらかたは理解しているようだ。


「だからこそわたくしとラフィの間に大きな亀裂が入っていたことは理解できるのです。理解、できるのですが……」


 ネフィは震えながらも振り絞るように声を上げる。


「ですが、わたくしはそこまで恨まれる存在だったのでしょうか? 奴隷にしたいと望むほどに……あれだけの絶望を与えたいと望むほどに……」


 フェルトは当時幼かったネフィの過去を知っている。

 だからそんな疑問を吐き出したくなる理由は頷けるものだった。


 ネフィに限らず、血の繋がった家族に裏切られる、見限られるというのは恐ろしいことだ。

 ましてやネフィは模範的な人間であり、周りからは聖女として認められている。

 ネフィからすれば、何も悪いことなどしていないし、この口ぶりからラフィにも優しく接していたのだろう。


 だがフェルト達からはそれが要因としか思えなかった。

 だがネフィ本人に今それを伝えたところで、何か変わるとは思えなかった。


「わたくしは知りたいのです。ラフィの心の内に何を考えているのか。わたくしはどうすれば良かったのか……」


 考えていることは至極単純だとは思うフェルトだったが、それを今ネフィに伝えることも意味は無いことだと考えた。


「ならそれを知るためにも、奴隷なんて身分は引っ剥がさないとな」


 フェルトはスッと手を差し伸べる。


「知りたいと望むことがあるなら、先ずは自由になることから始めよう。そのためにお前は自分で何とかできないんだろ? だったら助けを求めればいい。助けを求めることは悪いことじゃねえし、むしろ求められないことは辛い時だってある」


「え?」


 フェルトはゴルドとライクを見る。


「リーウェンさんの言う通りです。ネフィ様はもう少し周りを頼って下さい」


「俺達は貴女の力になりたくて、聖堂騎士になった。その役割を果たさせてほしいです!」


「……!」


 ネフィはハッとした表情でふたりを見ると、促すよう発言したフェルトを再び見る。


「このふたりのアンタを助けたいって気持ちは本物だったぜ? 【絶対服従】なんてもので洗脳されてなんかいやしない、本物の叫びだ。アンタにはないのか? 心から叫びたいほどの望みは……」


 そう問いかけられたネフィだったが、思いつくことはなかった。

 自分は聖女という役割が当たり前であり、望むことはあくまで皆の平和を望むことだった。


 フェルトの問いは自分自身の望みのことを指しているのだろうと思うが、自分はパッとそのような望みが浮かばないほどに自分に無頓着だったことに気付く。


「……ありませんね。自分でも驚くほどに」


「そう考えれば、まだ欲望剥き出しのアンタの妹さんの方がよっぽど人間的なのかもな」


「人間的……。そうですね……」


「誰かのために尽くしたいって気持ちは悪いもんじゃないし、アンタの考えは美徳だ。だけどな、時にはお前さんの妹みたいに欲望を剥き出しにすることだって必要だ。人間、必ずストレスは抱えるもんだぜ? アンタは聖女って役割に縛られて自分で抱え込み過ぎてる気がする」


「……」


 そう指摘するフェルトの考えに同調するように、ゴルドとライクも頷く。


「確かにネフィ様のおかげで俺は救われました。そして、ユフィ様が亡くなられてから……いえ! 亡くなられる前からネフィ様が皆のために尽くしてきて来られたことも知ってます! ですが、今は我々に救わせては頂けませんか?」


「そうです、ネフィ様。我々に恩返しをさせて頂ける機会をお与えくださらないのですか?」


「おふたりとも……」


「正直、本当はリーウェンさんのお力を借りたくはなかった。奴隷に堕とされてしまった貴女を本来なら、俺達が死んでも助け出すべきだったんだ。だが……俺達には【絶対服従】の左足は勿論、アスベルにすら及ばなかった。だからこそ、貴女に諦めさせる結果にも繋がったのでしょう……」


「……! ゴルドさん! それは違い――」


「いいえ、違いませんよ、ネフィ様。俺達が無力だったから、貴女は諦めるという選択肢を用意させてしまった……」


 ゴルドはフェルトの方へ向き返り、土下座をする。


「リーウェンさん! 改めてお願いする! ネフィ様をお助け下さい! そして可能なら俺達を使って下さい! ラフィの【絶対服従】を逆手に取ったあの作戦のように、何でもします!」


 そしてライクも同じく土下座する。


「俺からも改めてお願いします!!」


 フェルトは頭をかいて困った素振りでネフィに尋ねる。


「アンタの従者はこんなにも主人想いみたいだぜ? アンタはどうだい?」


 その問いにネフィは、ふたりのように頭は下げることはなく、だが覚悟を決めた眼差しで答える。


「……お願いします! リーウェン様。わたくしを助けて下さい。わたくしは慕ってくれる彼らのためにも、聖女として……人として誇らしくありたい」


「……!」

「ネフィ様ぁ……!」


 聖女としての覚悟を見たフェルトはニカッと笑うと、エメローラはフェルトの狙いに微笑む。


「なるほど。ただ聖女ネフィを救うだけでは彼女の今後のためにはならないと、焚き付けに来たのですね?」


「それもあるが、そもそも助けて欲しいって本人から聞いてなかったしな。助けてほしくもないなら、助かるのは迷惑になることだってあるだろ?」


「……そうかも知れませんね」


 するとフェルトはパンっと手を叩く。


「よし! 聖女様の覚悟も受け取ったことだし、盛大に助けてやるとしますかね」


「お、お願いします!」


「しかしフェルトさん。彼らがいつ来るのかわかりませんよ。進捗状況は問題無いそうですが……」


「それで十分! 俺はちゃんと間に合うようにって頼んだし、あの人ならわかってんだろ」


 エメローラは呆れ果てる。


「しかしフェルトさん。まさかこんな作戦を取るとは思いませんでしたよ」


「おっ? 気付いたの?」


「……確認を取らせてる段階で」


「さすが!」


「失敗したらどうするつもりだったんです? 彼らはこうして貴方を頼って来たというのに……」


 するとフェルトは不敵に笑う。


「馬鹿だな、姫殿下。メモ見たんでしょ? それ、通しちゃったら、この国滅びますよ」


「!」


「それはあの人達だってわかってるはず。失敗なんて許されるはずがない。だから失敗するなんて俺は、最初(ハナ)っから考えてない」


 そう自信満々に答えるフェルトに、エメローラは改めて呆れる。


「……わかりました。貴方の頭の中はどうにも狂っているのだということが……」


「おい!?」


「大丈夫です。褒めてますよ」


「そうは聞こえねえよ」


 そんなわかっているふたりをポカンと眺める三人。

 ゴルドは改めて指示を煽ぐ。


「あ、貴方達の間でちゃんとネフィ様を救う算段が出来ているなら、余計なことはしません。リーウェンさん、また『何もしない』でいいんですか?」


「おっ? ……そうだなぁ」


 フェルトはチラッと扉を見ると、悪戯っ子みたいに楽しげな笑みを浮かべた。

 するとそれを理解したエメローラは、またまた呆れる。


「何か悪ーいことでも閃きました?」


「ああ。こうも引っ掻き回せると楽しいよな?」


「「「?」」」


 エメローラがため息を吐くところを横目に、フェルトは指示を出す。


「そうだな。アンタ達! 聖女ネフィ様を助ける一助になりたいんだろ?」


「も、勿論だ!」


「何でもするぜ!」


 やる気満々のふたりにフェルトは笑みを浮かべながら確認を取る。


「アンタ達はアスベルの命令で、大会には出るんだよな?」


「あ、ああ。君から何かしらの指示を受けているだろうということを想定しての行動制限のためだろう」


「だろうな」


 とはいえフェルトはこのふたりに、何もしなくてよいとしか指示していない。

 だがアスベル達は、ふたりの警戒を解いていないことから、フェルトの何かしらの指示があるのだということを想定しているのがわかる。


「だったらもっと引っ掻き回そう。ふたりとも、試合時間ギリギリまで粘れるか?」


「「!」」


 この聖女杯の闘技大会は魔物部門と対人部門問わず、制限時間が設けられている。

 その時間は十五分。


「相手にもよるが……やれというならやる」


「だな! 俺達だって伊達に聖堂騎士じゃねえ!!」


「よし! なら頼んだ」


「しかし、何が狙いなんだ?」


「引っ掻き回すって言ったろ? アスベル達がアンタ達が時間いっぱい戦ってたらどう判断する?」


 ふたりはアスベル達の状況を視野に入れると、答えはすぐに出た。


「君の何かしらの作戦のひとつと捉える……」


「そう。そしたら、俺とアンタ達への警戒心は?」


「強まる!」


「そ」


 結論は出たが、そこから出る結果がわからないと首を傾げる。


「えっと……つまりは陽動ってわけだよね?」


「でも陽動する意味あるのか?」


「まああるよ。要するには思考の制御だ」


「思考の……?」


「制御?」


 話を横聞きしたエメローラがその結論を出す。


「要するにフェルトさんは思わせぶりな行動を取って、アスベル・カルバドス達の行動と思考を制限するつもりなんですよ」


「ど、どういうことでしょうか、殿下?」


「簡単ですよ。貴方達はフェルトさんの作戦を知らないにも関わらず、アスベルさん達は知っていると思っているのですよね?」


「え、ええ」


 そのためにゴルド達にも監視がついていたわけなのだから、当然の答えが返ってくる。


「そんな貴方達が試合時間いっぱいまで戦うとアスベルさん達の行動が手に取れませんか?」


「え、えっとぉ……」


「何か俺が仕掛けるんじゃないかなぁーってアスベルは考えないか?」


「「!?」」


「そんな感じでアスベルや聖堂騎士共を手玉に取ってやればいい。そうすれば自ずと奴らの思考パターンも読めてくるし、何だったらイレギュラーなことをしてやれば、崩壊も狙える」


「「……!」」


「何せアイツらにとって俺はもっとも警戒すべき敵で、アンタ達はその息がかかったと思われる駒って考えてる。俺が何かしらの逆転劇を狙うんじゃないかと誤認してな。実際は、俺達全員タダの囮なのにな」


「「!?」」


「お、囮!?」


 思わずネフィも声を荒げたが、エメローラはある程度フェルトの狙いがわかっているせいか、冷静であった。


「せいぜいアスベル達、クソ共をぐちゃぐちゃにしてやろうぜ。そして俺の策がピッタリハマった時、アンタ達の鬱憤は爆発するように発散されるだろうぜ」


「「……!!」」


 ゴルドとライクはフェルトのその悪戯っ子混じりの余裕の笑みに、頼もしさを感じ、


「わ、わかった! 俺達は時間いっぱい戦えばいいんだな!?」


「ああ」


「よしゃあ!! やってやるぜぇ!!」


 フェルトは再び扉を見る。


「さてさて、そろそろアスベル達(アイツら)も痺れを切らして様子を見に来る頃合いだろう。この辺でお開きにするか。ネフィ!」


 呼びかけられたネフィは、ビクッと驚く。


「は、はいっ!」


 フェルトはビッと指差して宣言する。


「お前に塗りたくられた汚名は、俺達が綺麗サッパリ洗い流してやるよ。だからお姫様は大人しく待ってな」


「……っ! は、はい……」


 フェルトはそう言って部屋を出て行き、ゴルドとライクも続くように部屋を出た。

 そして、エメローラも部屋を出る際にネフィに語る。


「頼もしいでしょ? 彼」


「は、はい」


「わたくし達の時もそうでした。……貴方はわたくし達の件についてはご存じで?」


「は、はい。アスベルさん達やお相手していた貴族方が話していました」


「彼はわたくし達がどう攫われたのかをすぐに見抜き、助けに参上してくれました。おかげでわたくしはちゃんとここにいられます」


 エメローラはニコリと微笑む。


「だから貴女も大丈夫です。必ず助けます」


「は、はい」


「恩返しの件も後ですれば良いのです。実際、わたくしはその飛空艇を爆破することで、助けに来た彼らの危機を救い、恩返しできました」


「ば、爆破ですか!?」


 さらっととんでもないことを言ったお姫様エメローラに、ハッとするネフィ。


「ええ。だから聖女ネフィ。貴女は貴女のやり方で返していきましょう。人は支え合って生きる生き物です。とりあえず今は助けられましょう。ね?」


「わかりました……!」


 ***


 ――魔物部門の試合が全て終了し、遂に今年メインの対人での武闘大会が始まる。


「――さあ!! 闘技場は先程の熱くもど迫力の魔物戦で温まって参りましたぁ!! さあ! 次の試合はぁ……イケメン達による最強決定戦だぁああああ!!!!」


「「「「「――うおおおおっ!!!!」」」」」

「「「「「――きゃああああっ!!!!」」」」」



 会場がヒートアップする。

 特に女性陣の黄色い歓声も轟く中、司会進行の風魔法使いがヒュンヒュン飛びながらルールを説明する。


「試合は十六名によるトーナメント戦でルールはシンプル。試合時間は十五分。その間に相手を戦闘不能または降参させればオッケー! 殺害や悪質な戦い方は禁止とします。それ以外ならば、剣で戦おうが、拳で戦おうが、飛び道具で戦おうが、魔法で戦おうが、魔道具を使おうが何でもオッケー!」


 おそらく無いとは思うが、闘技場から飛ばされて場外になるのも負けとすると補足も入った。


「さあ! 選ばれし戦士の中で誰が最強なのか。それを今、見届ける時っ! しかも今宵は聖女杯! この国をお守りする聖女ラフィ様とオルディバル国王陛下、エメローラ姫殿下もご観覧の中、果たして誰が頂きに登り詰めるのかぁ!!」


 会場は司会の煽りで更にヒートアップする。

 そしてその司会は、観客席よりも高い位置にあるオルディバル達がいる観覧席へ飛ぶ。


「陛下。ひとこと頂けますでしょうか?」


 司会は自分が使っているものとは別の拡声魔法を施した魔石が埋め込まれたマイクを差し出すと、オルディバルは手に取る。


「皆! 今宵は楽しんでいるかな?」


 観客達は大きな歓声で答えると、オルディバルは満足そうに頷く。


「私もそうだ。これほどの強者達がこの国にいてくれることを頼もしく思う。そしてその中から最強の戦士が決まる瞬間が見られるというのは、身分や種族に関係なく、胸が高鳴る思いが私にもある」


「「「「「――おおおおっ!!!!」」」」」


「是非とも諸君も勇ましき戦士達の勇姿をその眼に焼き付けて欲しい」


 歓声が鳴り止まない中、オルディバルは観客達から見えないところまで下がり、その帰り際、ラフィにマイクを渡す。


「聖女ラフィ。貴女からもひとこと」


「……わかりましたわぁ!」


 ラフィはパシッと受け取ると、観客達に見えるように観覧席から身を乗り出す。


「みなさーん!! 楽しんでいるかしらぁ!!」


 オルディバル同様、観客は歓声で答える。

 そしてラフィはこの自分にこれだけの人間が応えてくれていることに身を震わせる。


「これからもっともーっと楽しくなるから、最後まで楽しんでいってねぇーっ!!」


「「「「「――おおおおっ!!!!」」」」」


 ラフィはふふんと満足した様子で司会にマイクを返した。


「お言葉感謝致します」


「ふん! 聖女として当然ね」


 ラフィはオルディバルの隣に用意されている自分の席へと戻った。


「ありがとうございます、聖女ラフィ。これほど盛り上がるとは……」


「当然ね! 私が考案したんだから!」


 オルディバルの社交辞令に嬉しそうなラフィを眺める護衛のダミエル達はやれやれと呆れている。


 国王陛下であるオルディバルがイケメンのみを集めた最強決定戦など、褒められたものではないと思っているだろう。

 本来であれば、顔や容姿問わずに争われるものであるだろう。


 だがラフィの意見が通ってしまったこと、そして何より意外とこの大会の印象が悪くないから、オルディバルはラフィの考案する聖女杯を褒めているだけだとダミエル達は判断できた。


「さて! それでは試合のトーナメント表はこちら!」


 闘技場のど真ん中に魔法で投影したトーナメント表が出る。

 そこには十六名の名前と対戦相手が表示され、早速一回戦の名前が呼び出される。


「それでは参りましょう! 先ずは第一試合! 先ずはこの方……」


 その一人目が闘技場の登場ゲートから姿を見せる。


「聖女守る騎士は最強でなければならない。それを証明するため、今、闘技場の舞台に登場だぁ!! 聖堂騎士団長――アスベル・カルバドス!!」


 アスベルが第一試合に登場することは、大会を一気に盛り上げる起爆剤となった。


 観客達はその堂々たる登場を讃えるように歓声で応え、アスベルも自信満々に溢れた余裕の表情で闘技場を歩く。


「そしてその対戦相手は……」


 アスベルとは反対サイドの入り口から登場。


「冒険者は常に危険と隣り合わせ。潜り抜けた死線は数知れず。温室育ちの聖堂騎士に思い知らせてやろう! 冒険者ぁ――ケレンっ!!」


 ケレンはフッと髪を軽くかき揚げながら、そのイケメンぷりを披露する。


 そんな登場に待合室にいるフェルトは、「あっ。あの人、ディーノと一緒にいた……」と思い出したりしていた。


 そんなフェルトの知り合いふたりの対決。

 そのふたりは闘技場のど真ん中で握手を交わす。


「今日はよろしく、冒険者君」


「こちらこそ、聖堂騎士殿。是非、引き立て役になってくれよ」


 早速、ケレンが牽制をかけると、アスベルは軽く笑い、


「ハハッ! できるよう努力するが……その過程で君が負ける未来しか見えないなぁ」


「……言ってくれるねぇ」


 アスベルも負けじと吹っかけると、ふたりは試合開始の定位置へ。


「それではふたりとも配置につきましたね。それでは始めます! アスベル対ケレン……」


 ふたりとも腰の剣を抜き、構える。


「――試合、開始っ!!」


 するとケレンがフッと姿が消える。


「!」


 瞬動術での移動と読んだアスベルは目を細め、その軌道を読み取る。


「そこですね」


 アスベルはくるっと身体を捻り、背後から斬りかかるケレンを剣であっさりと受け止める。


「何!?」


「ハハッ! 手ぬるいですねぇ。これでは引き立て役など……」


 そのままアスベルは強く弾き返す。


「務められませんなぁ!!」


「ぐっ!?」


 ケレンは軽く吹き飛ばされ、バランスを崩す。

 そこをアスベルは見逃すことはなかった。


「ハハッ!」


 バランスを崩したケレンのガラ空きの胸あたりを斬り裂くように剣撃が加えられる。


「――ぐあっ!?」


 ケレンの腹に切り口。

 そこから血が噴き出るが、ケレンは畳み掛けてくるアスベルを振り払う。


「これ以上、やらせるか!!」


「おっと」


 ケレンは多少の距離を取り、アスベルは再び剣を構えた。


 その様子を司会は熱弁する。


「ああっと! 早速、アスベル選手が一太刀入れたぁ!! さすがは聖堂騎士団長! あれだけ素早く動いたケレン選手に一切の迷いもなく、反応したぁ!!」


 真剣での斬り合いのため、ケレンの受けた傷程度なら、本人達に続行の意思があるならば続けられる。


「おやおや、死線を潜り抜けてきたにしては大したことありませんね。温室育ちには……何でしたっけ?」


「フッ! フフ。まだまだこれから、さ!!」


 ケレンは再び瞬動術で間合いを詰めるが、アスベルはため息を吐く。


「……芸が無いな」


 再び死角からの攻撃に対応するアスベルに、ケレンは馬鹿なと言わんばかりの表情。

 そんなケレンにアスベルはアドバイスする。


「確かに死角を狙える瞬動術の軌道は見事だよ。だがそれが通用するのは、一回の駆け引きで決着をつけられる魔物相手だけだ」


 魔物は殺せば終わりなためだとアスベルは指摘する。


「対人戦の経験が足りないなっ!!」


 再び同じように弾き返すと、今度はケレンの腹を蹴り、


「――があっ!?」


 そのままケレンを踏みつけるように背中からダウンさせると、剣をケレンの喉元につける。


「……!」


「決着だ、冒険者君」


 司会進行がそのダウン状態のふたりに近付き、状況を見る。

 だがその状況は誰の目から見ても明らかだった。


 切り傷を踏みつけられている挙句、背中から倒れており、起き上がることが難しいケレンに加え、その踏みつけているアスベルの剣はとどめを刺せるぞとばかりに喉元に刃が突きつけられている。


 司会進行は闘技場の隅にいる審判をチラッと見ると、決着がついたとアスベルが登場したゲートの方に向かって旗を上げる。


「勝者――アスベル・カルバドーーーース!!」


「「「「「――おおおおっ!!!!」」」」」


 アスベルの勝利を称賛してか、歓声が上がり、アスベルは決着がつくとアッサリと足を退け、観客達の印象を悪くしないよう務めた。


 アスベルは歓声に応えるよう、ペコペコと観客席にお辞儀し、イケメン営業スマイルを振り撒く。


「「「「「――きゃああああーーっ!!!!」」」」」


 黄色い歓声も響く中、後ろで倒れるケレンは悔しそうに地面を殴る。


「クソッ! こんなはずでは……」


 そんなケレンをアスベルは観客に気付かれないよう、一瞬、鼻で笑う。


「引き立て役、ご苦労様」


「……!!」

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