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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
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29 聖女杯開幕前

 

 ――聖女祭三日目、最終日。


 商業区はいつも以上の賑わいを見せている。


 その賑わいの大元は闘技場。

 普段は冒険者達や新人騎士や衛兵の育成や小さな大会などが行われている闘技場。


 だが今日(こんにち)は聖女杯という、聖女考案の闘技大会が行われるということで、賑わいを見せているだが、この闘技大会ではとあるウワサがされていた。


 それは――イケメンのみの大会だと。


 聖女杯の宣伝ポスター自体は、どこにでもあるような普通の参加を促すポスター。


 ――男性のみ参加。腕に自信がある方、誰でも大歓迎!


 あとは大会の詳細や賞金など諸々書かれている。


 だが、受付にはある一定の基準を言い伝えられているとされている。

 その基準が容姿である。


 ある一定の容姿の整った男性でなければ参加は認められず、賞金目当てのゴツイおじさん冒険者等が断られていたところ、そういうウワサがたった。


 そしてそんなイケメンのみの闘技大会を一目見ようと、闘技大会には珍しく、女性のお客さんばかりが各地より殺到する次第となった――。




「――さあ! 皆さん、いよいよ聖女杯の開幕まであと少しと迫りましたぁー!!」


 ひゅんひゅんと風魔法で空を飛ぶ女性司会者が、大会開始時間が迫る文言を語りながら、大会の盛り上げるため観客達に呼びかける。


「今宵の聖女杯は……腕に自信の立つ猛者達が、その技量と力、そして勝負運、全てをぶつけ合う!! 勝利に飢える猛者達は俺こそが勝者だとその剣で、その拳で語ってくれることでしょう!!」


 一応、魔物部門もあるのだが、それそっちのけの文言にフェルトは闘技場広場入り口手前で壁に寄りかかりながら苦笑い。


「はは。随分と盛り上げてくれるなぁ。あの司会者」


「まあその方が我々としては嬉しいかぎりですよ。折角、聖女様が考案、いや、対人戦に関しては貴方でしたかね? 大いに盛り上がってくれなければ祭りとは言えませんからな」


「まあ、そりゃそうか」


 フェルトは高台の観覧席にいるオルディバルやエメローラ、そしてラフィがいることを確認する。

 その背後には各護衛陣が待機している。


「しかしこんな見世物に陛下達が来るとはね。アンタの差し金かい? アスベルさんよぉ」


「差し金とは人聞きが悪い。陛下は大会参加者ならびにその運営達が大いに盛り上げてくれることに感謝すると共に、陛下が自身もそれに貢献し、聖女祭を飾ってくださることに一役買って下さった次第ですよ」


「まあ、それもそうか……。しかし驚いたよ。俺の監査をしてたふたりともラフィの護衛につけるなんてね」


 フェルトの位置からでは見えにくいが、ラフィの護衛としてダミエルとレックスがついている。


「いいのかよ? 俺を監視しなくて……」


 そう尋ねるが、アスベルは特にそのにこやかな表情を変えることない。


「はは。問題ありませんよ。貴方がここにいる時点で、我々聖堂騎士(ぜんいん)で監視させていただきます故……」


「おー、怖っ」


「ふふ、全然そう思っているようには聞こえませんね」


「はは、だろうさ。別にアンタらを怖がる理由がないからな。ところでさ、アンタも参加するんだな?」


「ええ。何せあの聖女様が考案されているということもありますから、我々も大会を盛り上げるために貢献するのは当然でしょう」


「大変なこった」


 アスベルの背後にいる聖堂騎士が参加するのだろう。

 そこには三、四人ほどの聖堂騎士がいる。

 残りはおそらく警備に当てられているのだろう。


 だが、その参加者と思しき聖堂騎士の中に、見知った顔がいた。


「なあ? アンタの後ろにいる連中が大会参加で、残りが警備なのか?」


「ええ」


「へえ……」


 フェルトはゴルドとライクをちらりと見た。


「そちらのおふたりさんも参加者ってことだな」


「ええ」


「「……」」


 ふたりは不本意なのか、少し苦悶の表情を浮かべていた。


「なるほど。味方にならない聖堂騎士は大会に参加させて、俺と一緒に監視させようってわけだ。それとも【絶対服従】を使って無理やり参加させて、俺をどさくさに紛れて殺そうって魂胆かい?」


「はは。さすがですねぇ。答えは前者の方ですよ。後者も考えましたが、神眼を持つ貴方に通用するかは微妙ですし、それに実力は残念ながら貴方の方が上。シギィとやり合える怪物と真っ向からやり合おうとは考えませんよ」


「おいおい、人を化け物呼ばわりはやめようぜ。傷付くなぁ〜、俺」


 アスベルはフェルトに対する敵対心を隠すことなく、さらっと返答。

 いくら周りにフェルトと聖堂騎士がいないとはいえ、かなり堂々とした振る舞い。


 するとアスベルは不敵に笑う。


「フェルト・リーウェン。貴方も色々と画策しているようですが、どうやら徒労に終わりそうですね」


「あん?」


「聞いていますよ。どうやってか我々の監視を掻い潜って、我々の証拠を上げるために人を動かしていると……」


「「!?」」


 ゴルドとライクは目を見開き、本当かとアスベルを見る。


「ですが今日まで特に何か変わったこともありません。むしろ驚いていますよー。姫殿下に我々の国取りを教えたにも関わらず、助力は求めないと書いたらしいですね」


「「!?」」


 自分達が知らないうちに色々と事が進んでいると、更にゴルドとライクはフェルトを見る。


「はっ! なんでもお見通しってか?」


「いやいや。お見通しでしたら、そもそもそれ自体を阻止していますよ。まったく……自分の無能っぷりが疎ましい」


「実際、無能だからな。だから出し抜かれるんだろ?」


「……!」


 アスベルは少し苛立ちを見せたが、すぐに取り繕う。


「とにかく今日やり過ごすことができれば、我々の計画は改めて安全にことを成すことができる」


「ほおー。どうやって?」


「とぼけなくてもよいですよ。どうせ気付いているのでしょう?」


「まあ、証拠の有無を揉み消すのに【絶対服従】は強力だよなぁ」


 全てを語らずともよいと、フェルトはこれだけ口にすると、当たったようで、アスベルは簡単に同意する。


「ええ。貴方が姫殿下に報告した我々の計画も、聖都に不備がないことを説明できれば、誤報になりますからな」


「なーるほど。そのために洗脳した民衆を更なる【絶対服従】をかけることで、向けられた疑心を払おうってわけね」


「ええ」


 完全にはどちらにしても難しいだろうが、それでも有効的な手段に他ならない。


 洗脳済みの民衆は、おそらく聖堂騎士とラフィの言うことを聞くように洗脳調教されていると考えられるが、洗脳により思考能力が欠落している影響上、柔軟な対応は難しく、仮に聖堂騎士が命令しても、違和感のない民衆という状態は作れない。

 だから【絶対服従】を重ねがけすることで、元あった人格を呼び起こしつつ、先にかけてあった【絶対服従】が行使されている状態を作り上げるつもりなのだろう。

 そしてその後再び、恐怖心の無い洗脳兵士を作り上げるつもりなのだろう。


 恐怖心の無い兵士は、敵からすれば脅威でしかなく、国取りをされる側からすれば、一般民衆が命懸けで敵対してくるのだ、対応は難航することは容易に想像できる。


「ですから、貴方はこれ以上余計なことはしないでくださいね。正直、今回の件でハッキリしました。貴方を敵に回すのは非常に危険だ」


「そりゃどうも」


「お願いしますね」


 そう言ってアスベルはくるっと振り向くが、


「なあ? ネフィはどこだ?」


 フェルトがそう尋ねると、にこやかな笑顔でこちらに再び向く。


「……彼女がどうかなさいましたか?」


「いや、そこのマイケルとジョージに助けるよう頼まれてはいたが、本人の意思は聞いてないと思ってな」


「マイケルと……ジョージ?」


 そう不思議そうに尋ねるアスベルに、


「ああ、そのふたりの愛称。気にしないで」


「リーウェンさん……」


 先程まで張り詰めた表情をしていたふたりは、緊張の糸が解けたように安堵、もとい呆れている。


「……それで? 本人にそれを聞いてどうなるのです? 聞かなくても助けるおつもりで、ここまで計画されたのでは?」


 アスベルは、まあ無駄ですがねと勝利を確信した笑みをこぼしながら語る。


「まあそうなんだけど……やっぱり本人の意思は必要だよなぁーって思ったんだよ。助けてほしくもないのに助けるのもどうかなって……」


「リ、リーウェンさん!?」


「ゴルドさん達よぉ。確かにネフィの件は可哀想だとは思うし、だからこそ助けてやりたいとも思った。だが、俺はネフィの意思をこれっぽっちも聞いちゃいない。せめて話だけでもさせてほしいもんだ」


「そ、それは……!」


 ゴルドは言葉を詰まらせた。

 フェルトの言うことは尤もであり、そしてネフィの救出は本人の意図しないということはわかっている。


 だからこそ、口にすることはできなかった。


「……確かにネフィはこちらに来ていますよ。アレはこれからも必要な道具ですからね」


「――アスベル!? てめぇ……!!」


 そう怒りをあっさり露わにするライクをアスベルは鼻で笑う。


「そんなに怒るなライク。だからちゃーんと扱ってるじゃないか。壊れないように慎重にな!」


「くそがぁ……!」


「だから申し訳ないが、彼女とは会わせることはできない。そもそも貴方が彼女にどんな入れ知恵をするかわかりませんので……」


 当然の警戒心を向けてくるアスベル達の後ろから、声がかけられる。


「――こちらに居られましたか」


「「「「「!?」」」」」


「おっ?」


 アスベル達は振り向くとそこには、エメローラとその護衛であるティアとヤクト、そして騎士団長であるフェルマがいた。


「姫殿下!」


「……!」


 ――姫殿下、だとぉ!?


 アスベルの内心は驚きを隠さないでいる。

 大会がもう少しで始まるこのタイミングならば、向こうの観覧席にいるものとばかり思ったからだ。


 しかもエメローラはアスベルにとって都合が悪い。

 何せ、目の前にいるフェルトと共に、自分達の計画を知る人物だからだ。

 ふたりきりになどさせるわけにはいかないが、


「殿下。もう少しで大会が始まりますぞ。席にお戻りにならなければ……」


「ですが一国の姫として、参加される方への激励はすべきかと。それに待合室で会えると思った方がいませんでしたから……」


 エメローラはそう言ってフェルトに視線を向けた。


「そりゃ悪かった」


「いえいえ、構いませんよ。今大会を盛り上げてくださる聖堂騎士の皆さんとご一緒だというなら、探す手間も省けたというもの……」


 エメローラはスッとアスベルに近づくと、小首を傾げてニッコリと笑った。


「今回の警備や大会を盛り上げることへの貢献など、少ない人数にも関わらず、人力してくださり、感謝しています」


「も、もったいなきお言葉です殿下。我々が考案しましたし、当然のことです」


「そうかもしれませんが、最近は人喰いなどといった暗いニュースも多く、このような明るくなれるような行事は中々取れませんでした。ですから、このような大会を催してくれたこと、それに人力してくれたことに感謝するのは一国の姫として当然です」


「あ、ありがとうございます」


 アスベルは跪き、その言葉に感謝する素振りをみせるが、内心はヒヤヒヤな挙句、その裏の意図を妬ましく思っている。


 これ見よがしに、クーデターを企ている一団をわざと褒め称えることに意味があるとしか思えなかった。

 その理由としてあげられるのは、側にいる騎士団長であるフェルマの存在だった。


 ティアとヤクトはその護衛であることと、ティア自身は【絶対服従】もかけたこともあり、自分達の計画は知っているため、多少のボロが出ても問題はないだろうが、フェルマに関しては違う。

 フェルマがクーデターのことを知れば、少なくともエメローラではなく、オルディバルと動く可能性が考えられる。

 それは今、フェルトの相手とエメローラの対策で手一杯のアスベルにとっては悪手でしかならない。


 しかもフェルマは純粋に国に尽くす騎士。

 今のフェルマのアスベル達に対する表情を見る限りは、おそらく知られてはいない。

 知られていれば、自分達を問い詰める文言が飛んできてもおかしくはない。

 それが無いということは、エメローラは敢えて騎士団長であるはずのフェルマに語らなかったということになる。


 ではその意図はと考えると、フェルマがそのクーデターの事実を『知らない』ということを利用し、アスベル達の動きをコントロールすることにあると考えられたのだ。


 それは全てを知っているエメローラかフェルトにしかできない心理的戦術。

 だからエメローラはわざとフェルマも一緒につけさせ、フェルトがいるであろう待合室へと向かい、聖堂騎士のその後ろ暗さを利用し、合法的にフェルトと密談することが目的だと推察できるのだった。


 そして、それに気付いたのか、フェルトはこう語る。


「なあ、姫殿下。ネフィを見かけなかったか?」


「!?」


「……! ネフィ……確か、奴隷になっている聖女様ですね?」


「ああ。それがさ、会いたいって言ったら何故か否定してきてさ……。たかだか奴隷に会うくらいいいのになぁ?」


 フェルトはこれまたこれ見よがしに、事情を知らないフェルマの前では言いづらい内容を語る。

 エメローラはともかく、フェルマは奴隷にされた聖女であるネフィに会わせない理由などないはずと判断できる。


 そしてエメローラは、フェルトがネフィに会いたいことを察すると、


「そうですねぇ……いけないのですか?」


「そ、それは勿論! 罪人を一般人が会うというのは、どうかと……」


「そうか? 奴隷はこの国でも一般的だろうが。労働者として働いてる中に混じってるだろ」


「そ、それは……」


 アスベルの動揺に、ついにフェルマが動き出す。


「何をそんなに動揺されている? 別に問題ないだろう」


 フェルマは何の疑いも持たず、普通に疑問をぶつけるが、それがアスベル達にとって問題だった。

 その何も知らないという表情が、こちらの意図がバレてはいけないという証明になってしまった。


「いくら聖女ラフィ様を手にかけようとしたとはいえ、奴隷にされているならば、外傷を与えられる問題はない。それに彼女はあんな年頃の娘。フェルト君達に何かしらの被害が及ぶと考えるのは、些か警戒しすぎでは?」


「ぐっ……!」


 フェルマの何も知らないアタックが続き、追い詰められていくアスベルは、愕然とする。


「……わかりました。護衛付きでならば、会っても構いません」


「そっか。そりゃよかった。じゃあ……」


 フェルトはくるっとゴルド達を見る。か


「マイケル! ジョージ! じゃあ護衛としてきてくれよな?」


「――っ!?」


 アスベルは、バッとフェルトの方にぎりっと歯軋りを立てながら振り返る。


「フェルト……リーウェン……!!」


「あれー? 聖堂騎士の護衛付きならって許可したのはアンタだろ? そのふたりは聖堂騎士じゃあないんですかぁー?」


「ぐうっ……!」


 アスベルはここでゴルド達を切り捨てなかったことを後悔した。


「フェルトさん? そちらのおふたりは知り合いで?」


「まあな。愛称で呼び合うほどさ! ね?」


「え、ええ……」


「そ、そうですよ!!」


 ふたりはマイケルジョージ呼びには相変わらず慣れないが、そのおかげで出し抜けそうだということが明白なのはわかるため、あっさりと認める。


「き、貴様らぁ……」


 こそっと小さな声で怒るが、ゴルドはフンと少し冷ややかな視線を送る。


「ざまあみろ」


「……! くそぉ……」


 何も知らないというフェルマを盾に、どんどんフェルト達に有利な状況へとすり替わっていく。

 やり過ごしたいアスベルにとっては最悪な状況が続く。


 何せ愛称呼びするほどの聖堂騎士ならば、気心も知れており、信用に足る人物だとフェルマに印象付けることが可能性で、他の聖堂騎士の介入を難しくできるからだ。


 更にフェルトは追い討ち。


「それにこのふたりはネフィの側近。場所も知ってだろうから、すぐに会えるし、大会参加にも間に合うだろう」


「それならば最適だな」


「……!」


 アスベルはもう抵抗する術がないと、反論を諦めた。


「じゃあアスベルさん、このふたり借りてくよ」


「……大会時間までにはお戻りになるよう、お願いしますよ」


 アスベルは少し顔を伏せてそう語る。

 声は力無いように語るが、その表情は悔しさが滲み出ていることだろう。


 それをわかってか、フェルトは鼻で笑うと、


「はーい」


 軽い感じの返答でその場をエメローラ達と共に後にした。


 ――そしてフェルト達がいなくなったのを確認すると、アスベルは悔しそうに壁を思い切り殴る。


「――クソがぁああ!!」


 ***


「フェルマ、貴方が居てくれて助かりました」


 フェルマは何のことだかわからず、キョトンとしている。


「は? あ、いや……」


 そこに追い討ちをかけるようにフェルトも感謝を述べる。


「いや、ホント! ガルマの親父さんには助かりました」


「そ、そうか?」


 そんな事情を知らないフェルマにエメローラはとある指示を出す。


「そんな貴方に少しお願いがあるのですが……」


「はっ! 何でしょうか?」


「王宮騎士達の警備配置を少し変えてほしいのです」


「は、はあ……」


 エメローラ以外、フェルトですら、その意図には理解し兼ねる。

 エメローラの父であり、この国の国王陛下であるオルディバルをはじめとする重鎮が参列するため、緊急的な警備配置などしなくても、警備は可能と思われるし、警備配置が外から漏れ出している対策にしても急過ぎると感じたフェルト。


 そんなエメローラは、フェルマのみに伝えるためかこっそりと耳打ちすると、


「わ、わかりました。ではそのように……」


「お願いします」


「ティア、ヤクト! 姫殿下の護衛、任せるぞ」


「「はっ!」」


 意図がわからないまま、フェルマはフェルト達の元を去っていく。


「姫殿下、どういうつもり?」


「……貴方の情報を有効活用するための作戦です」


「はあ……」


 情報漏洩を避けるためなのか、詳しくは答えてくれなかった。


「あの……つきました」


 ライクがそう言って案内したのは、闘技場のある一室。

 扉を開けた先にネフィはいた。


「あ! 貴方様は……!」


 ネフィはすぐに跪こうとするが、


「それは止めろ。……こうして会うのは二度目か」


「は、はい。それに姫殿下様も……」


「お久しぶりです。今日はフェルトさんからお話があるようです」


 時間も無いとすぐに切り出されたが、その前にフェルトはある確認を取る。


「姫殿下。そういえば確認、どうでした?」


「大丈夫なようですよ。しっかりとした証拠を固めている最中だそうですが、貴方の指示通り、聖女祭までには来るそうです」


「そうか。ありがとな」


「いえ」


 確認を終えるとフェルトは、ネフィと話をする。


「俺はこのふたりからアンタを助けてほしいと言われた。そしてアンタの嵌められた内容についても大方知っている」


「嵌められた……? まさか、ネフィ様がこうなっているのは、アスベル・カルバドス達に……?」


 ある程度、抜粋した手紙の内容のみのため、エメローラはそのあたりの詳しい内容は知らない。

 だが、


「悪いが今語る必要は無い。どうせ時期にわかることだ」


 フェルトはそう言いながら首を横に振るが、エメローラは納得いかない様子。

 しかしフェルトは無視してネフィに問う。


「正直、このまま順当にいけば、アンタを助けられる」


「!」


「アンタが嵌められて奴隷にされたことも公となり、嵌めたアスベルは勿論、その手下として動いた聖堂騎士、そしてアンタの妹ラフィも罪人として、祭り上げられるだろう」


「……!」


「だがこれはあくまでこのふたりの願いを叶えるものだ。あまりに不憫かつ、自分達が尽くす人物であるアンタの人生を救いたいという願いの元での話だ。だが、俺はアンタから助けてほしいとは聞いてない」


「……」


「アンタの気持ちはどうなんだ? ネフィ・リムーベル」


 フェルトのその問いには一同は首を傾げ、ライクが尋ねる。


「リーウェンさん! そんなことを今更聞いてどうするんです? というかそんなこと、聞かなくても……」


「そうだろうな。聞かなくたって、普通なら助けて欲しいだろうさ。自分は無実の罪をなすりつけられた挙句、奴隷としてタダ働きさせられてる挙句、男どもの欲望の捌け口にされて、短命な人生を終えるなんざぁ、俺だったら絶対嫌だね」


「そ、そうだろ!? だったら――」


「だったら何故、この聖女はもっと助けを求めなかった?」


「!」


「確かに【絶対服従】は強力な能力だし、聖都は洗脳された住民がほとんど。挙句、記憶の残った人間は【絶対服従】を持つラフィ、それを管理する聖堂騎士に楯突くことも敵わないのはわかる。だが、それでももっと抵抗はできたはずだ。もっと必死になれば、あんな阿保共の度肝のひとつやふたつくらいどうにかできたはずじゃないのか?」


「つまりフェルトさんは、ネフィ様が助けを求められていないと思っているのですか?」


「……ああ」


 実際、ネフィの扱いは想像に難しくない分、抵抗の方法も同時に想像は難しくなかった。

 男の元へ行く道中など、手薄になったところを走って逃げることだってできたはずだ。

 そこには【絶対服従】を持つラフィが同席しているようなことはない。

 その逃げ出す際に、誰かしらに聖都の情報をばら撒けば、少しは状況も変わったというもの。


 だがネフィはそれをしなかった。

 フェルトはそれが気に入らなかった。


「答えてくれ。ネフィ・リムーベル。アンタは本当はどうしたい?」


「……わたくしは助けて欲しくなどありませんでした」


「……!」

「!?」


 予想外の返答にエメローラは驚くが、フェルトはやはりと言った表情で、少し眉がひくついたくらい。


「ネフィ様!」


「……わたくしは言ったはずですよ? フェルト・リーウェン様に危険が及んでしまうと。あの【絶対服従】に必ず抵抗できるかもわからないと……」


「そ、それは……」


 勝手な行動をしたとゴルドとライクは反省するように、しょぼんと落ち込む。

 ネフィのためとはいえ、本人の意思がない救出は迷惑だろう。


「つまりは何だ? 俺のことを思って助けて欲しくねえと?」


「要らぬ心配かもしれませんが、わたくしはそう思っています。ラフィの持つあの左足はそれだけ恐ろしい力を持っているのです」


「左足……」


 エメローラはそれがクレア達を洗脳したものだと呟く。


「わたくしはこれ以上、皆さんが傷付くのを見たくはありません! 聖都の皆さんが……今、どれだけ苦しい思いをされているか……。本当は……本当はわたくしが……」


 思い詰めるネフィにフェルトは、


「ふざけるな」


「!」


「アンタ、他人を気遣う余裕なんて無いくせに、他人を想ったんじゃねえ!!」


「……!」


 ムカつくとばかりに眉間にシワを寄せて説教を始める。


「他人を思いやる気持ちは確かに大切だし、心配するのも結構なことだ。聖女としてはそれは正しいだろう。だがな! 自分の人生も守れねえような奴に心配なんかされるのは癪に触るんだよ!」


「フェルトさん……」


 少し言い過ぎだとエメローラは止めようとするが、フェルトは止まらない。


「人間確かにできることとできないことがある。アンタが魔物なんかを討伐できないから、このふたりがついてんだろ?」


「は、はい……」


「だったら何でもっと頼らない。自分は聖女だから万能だと? 人に頼ってはいけないと? ざけんな! 奴隷にまで貶められてる奴がそんなこと言う資格はねえ! ――そういうのは自分の生き方を真っ当できる人間が吐くセリフだ!」


「……!」


「だから俺達を心配したいなら――先ずは助けられろ」


 フェルトはそう言って手を差し伸べ、更に、


「そしてアンタの本心を聞かせろ。本当はどうしたいんだ?」


 ネフィの意志を聞かせてほしいと、まっすぐにネフィを見つめた。

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