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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
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27 思惑が錯綜する夜会 5

 

 ――エメローラ達が乗る馬車を見送ったティアは、そこにいるアスベルに提案する。


「先程は同僚が失礼した」


「い、いえ」


「それでどうだろう? お詫びというわけではありませんが、私も聖女様の護衛を致しましょうか?」


「「!」」


 これは嬉しい誤算だとふたりは、しめたと視線が合った。


「こちらとしては願ったり叶ったりですよ。まさか姫殿下の直属の護衛の方に守っていただけるのですから。……情けない話、ちょっと事情がありまして、人数が少ないのです。今日帰り道だけでもご一緒していただけるならば幸いです」


 ティアは確かに露骨に少ないと感じた。

 実際、ラフィの護衛はアスベルとふたりほどの聖堂騎士のみ。

 ブラックギルドを警戒し、フェルトの護衛を買って出るほどならもう少し居てもおかしくない。


 だがティアはフェルトの手紙を細工する際、その手紙の内容を読んでおり、護衛をつかせている理由に関してはわかっている。


 だがそれでも確信のある情報が欲しい。


「ご迷惑にならないのでしたら是非。ではどういたしましょう? 馬車の用意等はされていないので?」


「ええ、まあ……。なにぶんここから近かったもので……。それに聖女とはいえ彼女も平民。貴族のように馬車で来るのもどうかと……」


「そうですね。指示を仰げてはいるものの、良しとしない貴族もいるでしょうからね」


「ええ。余計な揉め事は避けたいですからね」


 そう言うアスベルだが、その不穏分子を潰すための社交会だったりもする。

 隙があればその貴族達のところまで赴き、【絶対服従】をかけるつもりだった。

 あの社交会はそのための厳選とも言える。


 だが今の最優先はとにかくフェルトの思い通りにはさせないこと。

 これに尽きる。


「では滞在先まで護衛致しましょう」


「お願いします」


 その道中、しばらくは無言が続く。

 元々ティアはお喋りではないので、本当に護衛の仕事を真っ当している。


 アスベル達から見ても本当に献身的にエメローラに尽くす人物なのだと思わせるくらいだった。


「ティアさんは確か、先任であった学生の護衛を継いで護衛騎士に任命されたのですよね?」


「よくご存知ですね」


「はは。聖都にこもっていると、あまり貴族だと思われないのですかね。一応、貴族なのですよ」


 ティアはそう言うアスベルにパチクリと目を見開いた。


「……失礼」


 本当に忘れていたようで、申し訳なさそうに謝った。


「いえいえ」


「それならヴォルノーチェ兄妹が解任されたこともご存知なわけだ……」


「はい。相手がブラックギルドだったとはいえ、やはり姫殿下を攫わせてしまったのはマズかったですね。ヴォルノーチェ兄妹、ひいてはヴォルノーチェ家に同情致します」


「まったくですね。姫殿下の我儘が無ければ、私がこの任務につくこともなかったでしょう。とはいえ、姫殿下の我儘を通したヴォルノーチェ兄妹にも非がありますから、当然と言えば当然の処罰でしょう」


「ヴォルノーチェ騎士団長も立場も危ぶまれているのでは?」


「そうですね。少なくとも表向きはあまりですが、裏ではネチネチと他貴族達から言われているそうですよ」


「はは。嫌な貴族の風習ですな」


「……まったくです」


 先ずは共通の話題からの雑談を交えていく。

 語れないわけではないと悟ると、この会話の間にラフィを入れるという展開がアスベルにとって望ましい。


【絶対服従】をかければその間の記憶の類いが無くなるとはいえ、違和感の少ないかけ方をしたいところ。


「私も驚いたわよ。あんな綺麗な場所や豪華な食事があるにも関わらず、そんなやり取りが一般的だなんてね」


「貴女は夢を見過ぎなんですよ」


 割り込んできたことには喜ばしいことだが、やはり幼稚な部分は抜けてほしいと思うアスベル。

 いくら傀儡の聖女とはいえ、多少は融通が効くくらいの知性は持ってほしいと思う。


「良いではありませんか。夢を無くした大人ほどつまらないものはありませんからね」


「でしょ! でしょ! アスベルったら口を開けば現実を見ろ、現実を見ろって言うのよ!」


「立場をお考え下さいと言ってるんです」


 どうしても主従の関係となると、気心が知れるのだなと自分のことのように思うティア。

 だからこそ、アスベル達の懐を知らなければならないと秘めるティアは、


「こちらの方を確認して参ります」


 そう言って指差しした箇所は裏路地。

 人が隠れるのに適した環境であり、アスベル達が尻尾を出すには良いところでもあった。


 危険な賭けではあるが、元々承知で敵陣に乗り込んでいるが、少なくとも命を狙われるようなことはないだろうと踏む。

 アスベル達の目の前でエメローラと別れていることから、ここでティア自身の身に何か起きた場合、疑いの目は確実にアスベル達へと向けられるとわかるからだ。


 するとアスベルは、


「それは丁度いい。そこは近道なんですよ。本当は危ないので人の目がある箇所を通るのが正解とは思いますが、貴女がついているならば、多少なりとも早く戻れる方が彼女のためでしょう。ねえ?」


「そうね。私も早くこんな窮屈なドレス、脱ぎたいわ」


「脱ぎたいとか言うものではないですよ。はしたない……」


 ティア自身の提案ということもあり、裏路地に入る口実ができたと乗ってきた。


 ティアは答えは出ているとはいえ、一応の悩んだフリを少しした後、


「……わかりました。前は私が。貴方達は後ろをお願いします。聖女様、私の後ろへ」


「はーい」


 そして裏路地へ入っていく。


 勿論、エメローラの危険がないかの確認も本当のため、誰かしら潜んでいるのかの確認も怠らない。

 とはいえ、特に障害物も見当たらない裏路地。

 ゴミ箱ひとつも見当たらず、裏路地の中間地点あたりを歩いていると、ティアは肩をつつかれる。


「……? どうかされましたか?」


 そこにはニコッと笑うラフィの姿があった。


「いや、ちょっと聞きたいことがあって……」


「何でしょう?」


 そう言ってチラリとアスベル達、聖堂騎士のところへ視線をやると、うすら笑みを浮かべていた。


 警戒心を強めるティアに――チリーンと鈴の音が響く。


 鼓膜を響くのではなく、直接頭を響くような鈴の音。


「『アスベルの質問に答えてくれないかな?』」


「……!」


 するとティアの瞳は生気を失ったように光を失い、腕はだらんと下がった。


 ラフィはふんっと少し不機嫌そうにアスベルに振り向く。


「これでいいのよね?」


「ああ」


「まったく! 世話がかかるんだから……」


「何馬鹿なことを言ってる! お前がもっと注意深くアレクベートの娘に【絶対服従】を使っていれば、こんな神経を使うようなことはなかったんだ! 尻を拭うチャンスをくれてやったんだ、感謝しろ!」


「ハッ! 私の力が無いと何もできないくせに……」


 クソガキの話にムキになる方が時間の無駄だとアスベルは、そんな文句を垂れるラフィを無視して通り過ぎ、意識が朦朧としているティアの前にいく。


「さて質問だ、ティア。フェルト・リーウェンから手紙は預かったな?」


「はい」


 ティアは質問に即答する。

 しっかりと【絶対服従】が発動している証拠だった。


「その手紙は今も持っているな?」


「いいえ」


「「!?」」


 その答えには想定外だったアスベルは、焦りながら問い詰める。


「も、持っていないだと!? いつだ!? いつ、誰に渡した!?」


「エメローラ・オルドケイア姫殿下にお渡ししました。先程、夜会の場で渡しました」


「ば、馬鹿な……」


 アスベルも手紙を渡しているところは確認している。

 だがその手紙の内容はドレスを仕立てているお店のメッセージカードだったと、ちゃんと手に取り確認している。

 魔法での細工も特には無かったし、封書の中もエメローラの懐にあったとはいえ、中身は確かにメッセージカードだけだったと確認もしている。


「あの封書の中身はメッセージカードだけか?」


「はい」


「そのメッセージカードに何かしらの暗号でもあったのか?」


「いいえ」


 聞けば聞くほど訳がわからなくなってきたアスベルは、とにかく手紙の内容を尋ねることにする。


「お前は手紙の内容を知っているか?」


「はい」


「どんな内容だった?」


「聖堂騎士がこの国を乗っ取るためのクーデターを行なう計画を立てており、聖都が極めて危険な状態になっているということの報告と、その証拠を上げるための人間を動かしていることが報告されていました」


「!?」


 衝撃の真実を告げられ、アスベルは混乱する。


 クーデターなどのことはある程度、神眼で見通されている、もしくはライク達にやはり聞いていたからわかっているとは思っていたが、その証拠を上げるための人手を既に動かしているだとっ!?


 監視は付けていたんだぞ!?


 そんなことができるのか……!?


 そんな思い悩むアスベルに、ティアは更に話を続ける。


「更にエメローラ姫殿下にはその調査をしている人物の調査状況を調べてほしいということと、この件に関し、下手な手出しは控えてほしいと書かれていました」


「なに!?」


 調査状況を調べてほしいという理由は思い当たらないでもなかった。

 監視の目がある以上、証拠を探している人物との連絡は取れないと判断できるからだ。


 だがもう一方の手出しは控えてほしいとの指示については不明な点がある。

 普通に考えれば、エメローラに報告している時点でその解決を王宮に委ねればいいだけの話。


「……【絶対服従】を警戒してか?」


 フェルトは【絶対服従】を知っていると、ライク達を使って意図的にアスベル達に教えている。

 それを警戒してならば、エメローラに控えてくれと指示する理由も納得がいくが、さすがにアスベルも王宮を全体相手にするのは、いくら【絶対服従】の力を持つラフィがいたとしても多勢に無勢、押し切られる可能性の方が高い。


 それをフェルトがわからないはずもないと思うアスベルはその真意を考えるが、


「ちょっと! アスベル! 話が違うじゃない!!」


 ガッとラフィに掴まれる。


「あの姫殿下に私のことがバレてるならもうおしまいじゃない!! いやよ! 私、牢獄に入れられるなんて!!」


 するとついてきていた部下達もアスベルを問い詰める。


「そ、そうですよ!」

「俺達だって……!」


「わかってる! 少し黙っていろ! 考えがまとまらない!」


 そんな風に揉めて、質問が来なくなったせいか、ティアの目に生気が宿る。


「……!」


 だがアスベル達は揉め続けており、そのことに気付いていない様子。


 ティアは冷静に考えをまとめる。


 自身の記憶がどこまであったのか、今何故揉めているのか。

 その聞こえて来る内容を聞く限り、自分から情報が発信されたと気付き、クレアの状態が思い浮かんだ。


 ――やはりか……。


 エメローラが耳打ちして指示を出していたのも、クレアに精神汚染系の魔法がかけられたのではないかとの指摘から、それを知っている可能性が上げられたフェルトに尋ねるかたちとなり、あの手紙の内容が自身の今の状況と一致した。


 危険な賭けをした甲斐があったと、確信を得たティアはこの状況からの脱出を考える。


 この精神汚染のことをアスベルは性格上、詳しく調べているため、命令を放棄された場合、今のように命令が解除されることはわかっているはず。

 ならばここで我に帰ることはわかっているはず。


 つまりここで元の人格に戻り、何かしらのアクションを取っても違和感はない。

 その不意をついて違和感の無い脱出が望ましい。


 ティアは目線だけを動かし、まだ精神汚染がかかっている風な姿勢で辺りを確認する。


 すると、裏路地の出口の先の表通りに、酔っ払ったお兄さんがひとり、ふらっと目の前を通り過ぎた。


 ――アレだ!


「――伏せろ!!」


「「「「!?」」」」


 ティアは大声でそう叫んだ。

 驚いたラフィ達は反射的にその指示に従うように、その場で伏せた。


 そしてティアはそのまま裏路地を出て、ふらついている酔っ払いに突っ込む。


「そこまでだ!!」


「――へあっ!?」


 ティアはその酔っ払いの両手を背中に押し付け拘束し、地面に叩き伏せた。


「いだだだだっ!! な、なんだってんだよぉ!?」


「大人しくしろ!」


 そんなバタバタ揉めているところに、勿論アスベル達は駆け寄る。


「ど、どうされました!?」


「どうされましたではない! 油断し過ぎだぞ!」


 そう怒鳴られるアスベルだが、拘束しているのはただの酔っ払いに見える。


「油断って……その男はただの酔っ払い――」


「それが油断だと言うのだ。コイツはただの酔っぱらいを装い、この場に……聖女様が通りかかるであろう場所に現れた刺客だ!」


 あまりにも説得力が無いと、アスベル達はポカンとする。


 実際、その酔っ払いから感じる魔力は低く、とても脅威に感じる存在ではない。

 挙句、ティアにあっさりと捕まっていることもプラスされてか、危機感を感じない。


 しかし、


「コイツは巧妙にも魔力を隠し、あたかも一般人であると言いたげな格好に加え、油断を誘うためか、酒まで口にしている。ここまですれば貴方のように油断を誘うことができ、聖女様の暗殺や誘拐なども容易いことだろう」


「は、はあ……」


 ティアが物凄く深刻そうな口調でそう語るせいか、アスベル達はもしかしたら、本当にそうかもしれないと思い始めてきた。


 実際、アスベル達もティアのことを調べていないわけではない。

 ティアは、エメローラの我儘なども聞かない真面目な堅物タイプの女性騎士。

 その誠実な性格もあり、護衛任務を完璧に熟している印象が強い。

 そのティアが深刻にその酔っ払い男をそう評価されては、アスベル達も納得するところがある。


 そんなアスベルにラフィが耳打ち。


「コイツ、【絶対服従】解けたの?」


「……お前達が邪魔したせいでな」


 そうボソッと呟いているアスベル達に、ティアが凄い剣幕で叫ぶ。


「何をぼさっとしている!! コイツひとりではない可能性が高いんだぞ!!」


「「「「!!」」」」


「ここから滞在先は近いのだな?」


「あ、ああ」


「ならすぐにでも聖女様を連れて駆け込め! その後、厳重な警戒の元、聖女様をお守りしろ!」


「え、えっと……」


「聖女様はこの国になくてはならないお方なんだぞ!! お前達の役割は何だ!?」


 ティアはアスベルの隣にいる部下に、圧のこもった質問をぶつける。


「せ、聖女様をお守り、すること?」


「そうだろ!! わかったらとっとと行け!! 私はこの男を連行し、増援を呼び、警戒を強めておく。行け!!」


 ここまで真剣見を出されると従わざるを得ないアスベル達はラフィを連れて、この場を走り去っていく。


「……」


 それを見送るティアはその酔っ払いを起き上がらせる。


「来い!」


「ま、待ってくれよ? お、俺が何したってんだぁ!」


 ティアはそのまま裏路地へ連れて行き、アスベル達の姿が見えなくなったことを確認すると、


「すまなかった」


 ぺこりと酔っ払いにお辞儀した。


「は?」


「少し事情があってな。ああするしかなかった。強制的に協力させたこと、そして罪を偽装してしまったこと、深く謝罪する」


「お、おいおい! アンタ、その格好……騎士様だろ? 一市民にこんなことしていいと思ってんのか?」


「返す言葉もない。ですが本当に必要なことだったのだ。この通りだ」


 ずっと頭を下げ続けるティアに、さすがに悪いと思った酔っ払いは、それ以上の反論はしなくなったが、


「へへっ! でも姉ちゃん、結構いい女だな。そ、そうだなぁ……詫びってんならその……」


 酔っ払いはそろっといやらしい手つきをしてティアに近寄ると、


「……本当に捕まりたいのか?」


 そう言ってキッと睨みを効かすティアに、酔っ払いは酔いが冷めるほどの恐怖を感じた。


「は、はは。じょ、冗談ですよ」


「貴方には協力してもらった恩がある。今の発言や態度は見ななかったことにしてやる。どうかなぁ?」


「そ、それでよろしいかと思いまーす……」


 するとティアはふうと呆れたため息を吐くと、


「ですが酔っ払いを夜道ひとりで歩かせるのもアレなので、礼も兼ねて送って差し上げます」


「!」


「家はどこです?」


「え、えっと……あっちです」


 その指差した方向はアスベル達が向かった反対側だった。

 すると更にティアはため息を吐いた。


「ならば貴方、行く方向は反対だったのではありませんか。色んな意味で貴方を利用して正解でした……」


 この酔っ払いが酔って歩いていた方向はその逆だったことから、ティアはそう指摘する。


「は、はは。すいやせん……」


「まあ、私としても都合が良いですが……」


「は?」


「いや、こちらの話です」


 もしこの酔っ払いがアスベル達の滞在先に近いのであれば、捕まったはずなのに何故という問答になるところだが、目につかない場所であれば、問題はない。

 アスベル達もこの酔っ払いの顔をそこまで覚えられるほど見せてもいない。


「では参りましょうか?」


「は、はい……!」


 酔っ払いは美人の騎士様に送り届けてもらえるということに浮かれてか、先程のティアの所業を忘れたように、嬉しそうに連れて行かれるのであった。

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