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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
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26 思惑が錯綜する夜会 4

 

「――姫殿下。ティア、ただいま戻りました」


「あら、ご苦労様」


 社交会が終わり、クレアと談笑する最中、サッとティアは戻ってきた。

 それを見たアスベルは、先程連絡があったダミエルより、フェルトから手紙を受け取っていると聞いている。

 阻止できなかったことを追求することができず、こちらで何とかせねばと思うのだが、


「姫殿下。こちらを預かっております」


「手紙……?」


 ティアが手渡したのは一枚の封書。

 受け取ったエメローラは早速開いて中を確認する。


 アスベルが対策をとる間も無く、あっさりと手渡される。


「……」


 そして一枚の手紙を取り出し、開いて中身を見る。


「……」


 するとクレアがひょっこりと覗き込む。


「誰からの手紙?」


「……どうやらドレスを頼んだところからのメッセージカードのようです。遅れてしまって申し訳ないということと、ドレスの詳しい詳細が記されているようです」


「……!」


 軽く目を通したエメローラは封書の中にそのメッセージカードと言ったそれを戻した。


 そんな馬鹿なと驚くアスベル。


 確かにエメローラはティアを行かせる口実に、聖女の巡礼の儀式に着ていくドレスが遅れているための確認に向かわせたと言っていたが、あれはあくまでカモフラージュだと考えており、ダミエルからは確かにフェルトから手紙を受け取っているとも聞いている。


 その手紙がそんなメッセージカードであるはずがないと思うアスベルは、


「へ、へえー、とても律儀なお店なのですね。どういうメッセージカードなのか見せて頂きたいものです」


 そう尋ねるが、それを疑問に抱いたティアがくるっと振り向いて尋ねる。


「何故そんなことが必要なのですか? 姫殿下宛のものを貴方に見せる道理はないかと……」


「そ、それはそうですが……」


 するとエメローラはクスクスと微笑み、


「そんな意地悪を言うものではありませんよ。勿論、内容によっては見せられないものもありますが……」


 先程戻したばかりのメッセージカードを取り出す。


「このようなメッセージカードくらいなら構いませんよ」


 そう言ってアスベルに手渡した。


「ど、どうも……」


 受け取ったアスベルの目に飛び込んできたのは、確かにエメローラの言う店からのメッセージカードだった。

 縁部分が花のイラストで飾られた女性が喜びそうなデザイン。


 すると気になったラフィも覗き見る。


「何よ、普通のメッセージカードじゃない」


「あ、ああ……」


「……? 何と思われたんですか?」


「へっ!? あ、い、いえ! 別に……」


 アスベルは動揺しながらもメッセージカードを返し、エメローラは再び封書の中にしまった。


「それではそろそろ帰りましょうか」


「うん。そうだね。ボクもう疲れたよ〜」


「馬車を待たせております。そこまで参りましょう」


 そう言いながら帰路に立つ一同を、少し遠巻きに見ながら歩くアスベルとラフィ。


「ねえ? ダミエルからはフェルト・リーウェンがあの女ぬ手紙を渡したって言ったのよね?」


「あ、ああ。確かにそう言っていたが……」


 だが確認した結果、エメローラに手渡された手紙は確かにメッセージカードであった。

 だからか、アスベルは別の可能性を考える。


「俺達がいなくなってから渡すつもりか……?」


「あのメッセージカードはカモフラージュってこと?」


「そう考える方が納得がいく」


「なら話は簡単ね。あの護衛の女に【絶対服従】をかけて――」


「お前! さっき注意したことをもう忘れたのか!? 不用意に使うなと言っただろ!」


 揉めているのが聞こえたのか、エメローラ達は後ろのアスベル達に振り向く。


「……?」


 何でもないとアスベルとラフィは愛想笑いをすると、エメローラ達は前を向き直した。


「とにかく、今この状況では使うな。でなければ俺達への不信感は募るばかりだ」


「でも手紙の受け渡しは阻止しないとでしょ? 時間、ないけど?」


 ヤクトが言った、用意されているであろう馬車がもう見えている。


「そんなことわかってる! だがお前の【絶対服従】を使う場合、他の人間に見られないようにするのが鉄則だ!」


 そんな焦りばかりが先行して、結局対応が追いつかなくなったのか、馬車前に到着。


 するとアスベルはせめてクレアからもう少し詳しい詳細を【絶対服従】で聞き出すために提案する。


「アレクベート嬢はどうやって帰られるので? 確か貴族寮でしょう?」


「えっと、ボクは――」


「彼女はわたくしがお送りしますよ。ドレス姿の貴女を徒歩で帰すわけにはいきませんから」


「そ、そうですか……」


 アスベルはどうにもこうにも上手く事が運ばないと内心イラつき始める。


「ですが折角の機会ですから、少しお話しながら帰りたいと思ったのですがね。護衛なら我々聖堂騎士でも賄えますから」


「聖女様と徒歩で、ですか?」


「ええ! 是非!」


 食い気味に語るアスベルに、クレアは何か企んでいるなと少し不安そうな表情を浮かべた。

 いくら危険とわかりながらも囮を引き受けたとはいえ、やはり我が身に降りかかるとなると、恐怖が前に出る。


 それも【絶対服従】をかけられる前なら引き受けたかもしれないが、クレアはその【絶対服従】について知らない状態で【絶対服従】にかかっており、記憶が一部欠落している。


 何をされるかわからない恐怖は本当に恐ろしいとエメローラに少し寄り添う。


 するとアスベルの焦りとクレアの恐れを読み取ったのか、ヤクトがエメローラ達を庇うように前に出る。


「先程から何ですか? 貴方」


「な、何がでしょう?」


「先程から挙動不審だと言ってるんです。まるで何かを探りたいような素振りばかり……」


「……!」


 ヤクトに図星を突かれるアスベルは更なる追い討ちを受ける。


「先程のアレクベート様の時もそう。何やら聖女様が質問したことに苛立ちを覚え、それを答えていたアレクベート様に対し、おかしな反応をしてみたり。私からすれば貴方の方がよっぽど怪しく、とてもじゃないがアレクベート様と同伴させることなどできない。それに安全面を考えるなら、明らかにこの馬車に乗る方が確実だ」


「そ、それはそうですが……」


「我々が護衛することはもちろんのこと、こんな町中で姫殿下の乗られる馬車を襲撃なんてしようと考える阿呆はいないでしょう? ましてや貴方達が警戒なされているブラックギルドがそんなマヌケとは思いません」


 事情の知らないヤクトは全力で正論パンチを打ち込む。


 それに助け舟を用意したのはエメローラだった。


「まあまあ。確かに不審な点はあったかもしれませんが、それもわたくし達を思ってのこと。そうですよね?」


「え、ええ」


「ずっと神経を張り詰めていれば、どこかしらか変な綻びも起きますよ」


「私はそんなことありませんが……」


「……貴方とティアが少し異常なだけです」


 エメローラはもう少し余裕を見て自分を警護してほしいと嘆く。


「とにかくそんなに責め立てないで下さい」


「姫殿下がそう仰られるのであれば……」


「とはいえ、ヤクトの言っていることもその通りです。クレアに町中を歩かせて帰るより、わたくしの馬車に乗せて連れて帰った方が安全なのは目に見えてのこと。もしかしたらわたくしに真っ直ぐ安全に帰ってほしいと考えての発言なのかもしれませんが、少し説明不足ではありませんか?」


 するとアスベルはその助け舟にしがみつくように跪き、態度で示した。


「姫殿下にわざわざご説明させてしまい、申し訳ありません」


 今はヤクトが抱いてしまった不信感を少しでも払拭させた方がいいと、あっさりその言葉に縋り、従うことにした。


「それでは聖女様も一緒に帰りましょうか?」


「「!」」


 アスベルは、しめたと考える。

 密室となる馬車内でならば全員に【絶対服従】をかければ、怪しまれず情報を聞き出すことが可能と考えた。


 だが、


「それはいけません姫殿下」


 またもやヤクトが警戒心を持って否定する。


「何故です?」


「姫殿下は彼が気を遣っていると語りましたが、私はその意見には疑念があります」


 勿論、全否定するつもりはありませんと補足を加えた上で、その同席させない理由を語る。


「私には何か別の狙いがあるとしか考えられません」


「……!」


「そんなことはないと思いますが……」


 そう発言するエメローラにヤクトは少し疑問が過る。


 先程、ティアを使いに行かせた理由はクレアを少し問い詰めた時、ラフィ自体に何かしらがあるのかを確認に行かせたはず。

 それなのに、不用意に同席させるという理由をヤクトなりに分析した結果、


「とにかく私の疑念が晴れないうちは、聖女様はともかく……」


 ギロっとアスベルを睨む。


「この男を含む聖堂騎士の同行は遠慮願いたい。だがそれは貴方達の本来の仕事には反するはず。私の言いたいことはわかるな?」


「……つまり、我々には歩いて帰れということだろ?」


「そうは言いません。適当に馬車を見繕うなり、好きにはすればよろしいですが、姫殿下やアレクベート様との同席は避けさせてもらいたい」


 そしてヤクトはラフィに頭を下げる。


「聖女様。不快に思われるかもしれませんが、私の仕事はこの命に換えても姫殿下をお守りすること。貴女の護衛に不審な点がある以上は、ご配慮願いたい」


「わ、わかってるわよ。今のはアスベルが悪い……」


「……」


 ヤクトはその怪しいとされるラフィに敢えて配慮するという手段を取り、同席させないよう誘導した。


 するとそれに乗っかるようにエメローラも謝罪する。


「本当にごめんなさいね、聖女様。ヤクトはどうも頭が硬くて……。お互いのためにもそうしてもらえると助かります」


「そ、そうね。そ、それでいいんじゃないかしら?」


 アドリブの効かないラフィはしどろもどろとしながら答えた。


「ではアレクベート様。お手をどうぞ」


「ありがとうございます、ヤクトさん」


 クレアはヤクトの案内の元、先に馬車に乗っていたエメローラと合流する。


「それでは聖女様。明日の儀式、お願い致しますね」


「も、勿論よ」


 とは言ったラフィだったが、既にネフィによって終わっているとは言えない。


 するとティアが何故か馬車から降りると、エメローラに跪く。


「姫殿下。暫し護衛を離れることをお許し下さい」


「「「「!?」」」」


 一同は驚くが、その思うところははバラバラだった。


「どうしたというのです?」


「は! 姫殿下の帰路ということもあり、どこかしらか見張っている輩がいるかもしれません。辺りを散策した後、報告含め、合流致します」


 アスベル達からすれば予想外の幸運。

 フェルトから情報を得たであろう人物であり、まだフェルトから預かった手紙を持っている可能性がある。


 エメローラ達から離れてくれれば、手紙を奪う隙が出来ると睨む。


「……まったく。仕事熱心なことです。そういうことならわかりましたが……」


 チラッとヤクトを見ると、視線があった。


「ご安心を姫殿下。このわたくし、この命に換えてお守り致します」


「重い重い」


 思わずクレアからもそんなツッコミが飛び出すが、ティアは安心して任せられると、


「では任せたヤクト。姫殿下の御身は任せるが、ちゃんと()()()()()()()()()()


「……? 当然だろう。何を言っている?」


「……何が当然ですか。わたくしの我儘なんてひとつも聞かないくせに……」


「それは別問題です!」


 ヤクトは少しくらい融通が効いてほしいという意見をバッサリと切り捨てると、運転手に出してほしいと指示する。


「それでは失礼致します」


「え、ええ。姫殿下こそ気を付けて帰って下さい」


 エメローラ達はそう言われ、ラフィ達に見送られた。


 そして馬車内ではクレアが疲れたと一息吐く。


「ふう。やっと終わったぁ〜」


「お疲れ様です」


「それにしても驚いたよ。あのテコでもローラから離れないぞって感じだったティアさんがあんなにあっさりと離れるなんて……本当にローラ想いなんだね」


「そうかもしれませんが、きっと思惑は別ですよ」


「へ?」


 エメローラは少し険しい表情へと変わった。


「きっとティアは自身を犠牲にして、彼らのことを調べるため、わざとひとりになったのでしょう」


「!?」

「……」


 クレアは当然驚くが、ヤクトはやはり何かあるのかと無言で受け止める。


「クレア。先程わたくしは聖女ラフィのことについて尋ねましたね?」


「う、うん」


「そしてわたくしはティアに頼みました。フェルトさんから事情を聞いてきてほしいと……」


 するとエメローラは封書を出す。


「そしてフェルトさんのこの手紙の内容を知ったからこそ、その証拠を自身で確かめるつもりなのでしょう」


「て、手紙って……それメッセージカードじゃ……」


 そう覗き込んだクレアだったが、


「……えっ? ええっ!?」


「中々器用ですよね」


 ティアのフェルトから渡された本命の手紙の隠し方に、クレアは驚愕した。


「正直、あの場の流れ的に許可してしまいしたが、後で説教ですね」


 自己犠牲は望んでいないと険しい表情で言うエメローラだが、


「無事に戻ってくるのでしょうか?」


「それは大丈夫でしょう。彼らからすればわたくしの前で離れた彼女に何かあれば真っ先に疑われることくらいわかっているはず。下手な手出しはしないでしょう。ですが……貴方の言う通り、あれだけ焦燥感を隠し切れていないあたり、ティアに手を出す可能性はあるでしょうね」


「そ、それをわかってティアさんは……」


「ええ。まったく……」


 クレアは自分はそこまで危険な賭けには出られないと、さっきまで怖がっていたことに落ち込む。


 そしてエメローラは本命の手紙を開くとそこには、


「……なるほど」


 フェルトの手紙を見たエメローラは先程よりも険しい表情へと変わった。


「な、なんて書いてあったの?」


「貴女が吐かされていた聖堂騎士や聖女が怪しいという内容が書かれていますよ。まさか、こんなことがね……!」


 事情を知らないクレアには情報を濁しながら伝えると、エメローラは追伸に目をやる。


「――下手に動かないでほしい……ですか」


「ああ、うん。今だから言うんだけど、フェルト君がボクを囮みたいに使った理由もそれだと思うんだよね。敢えて知らなかったのは聖堂騎士を分散させるためだって……」


「……なるほど」


 エメローラは手紙に書かれている聖堂騎士達の狙いが本当だとして、フェルトの狙いを推測する。


 おそらく王族である自分すら監視下に置く状況を作らせ、元々ラフィの護衛で来た人数は少ないことから、聖堂騎士の人数を切り崩そうとしているのだと気付く。


 それならばフェルトが敢えて聖堂騎士の護衛をついていることにも説明がついた。


 そして囮になっている理由も手紙には書かれていた。


「ヤクト」


「は! 何で御座いましょう?」


「貴方に確認してきて欲しいことがあります」


 するとヤクトはピシッとした表情で、


「それはできません。私は――」


 頑固として厳しく否定するが、エメローラに胸ぐらを掴まれる。


「!?」


 ヤクトの目の前にいるエメローラの表情は笑顔なのだが笑っていない。

 そんな恐怖を覚える表情を浮かべながら、エメローラは指示を出す。


「先程のティアの話を聞いていなかったのですか? わたくしの言うことを聞けと。あれは意図することだとわかっていますよね?」


「は、はい……」


 エメローラはパッと胸ぐらから手を離す。


「いいですか? これはとても重要な案件です。この国の未来を左右するほどのものです」


「「!?」」


 事情の真意を知らないふたりは驚愕する。


「その解決に動いてくれている人物達がいます。その者達の進捗を確認してきて欲しいのです」


 ヤクトはエメローラの真剣な表情、そしてティアの真意を考えると、とても断ることなどできなかった。


「……畏まりました。そこまで仰られるなら、お引き受け致します。ですが、せめて姫殿下がお城にお戻りになられるまでは護衛をさせて頂きたい」


「わかりました」


「それで、その動いている者とは誰でしょうか?」


「それは――」


 エメローラはその人物達について説明を始める。

 そしていくつかの注意点を挙げた。


 それはその人物達の様子を特に気を付けてほしいとのこと。

 クレアのように何かに操られているような状態の可能性もあるため、確認だけとはいえ、慎重を期すようにとの命令を出し、無理強いせずに、しかし迅速に情報提供せよとのことだった。


「――畏まりました」


 それを横で聞いていたクレアは驚く。


「あ、あのさ。フェルト君はどうやってこの人達を動かしたの? 確か、聖女祭の前から聖堂騎士のふたりに護衛……じゃなかった。その話が本当なら監視だよね?」


「そうなるでしょうね」


「だったらどうやって指示出したの? あのふたりの様子を見たことがあるボクならわかるけど、下手に探りを入れるような怪しい素振りなんてすれば、聖堂騎士が阻止しようとするんじゃない?」


 するとエメローラはクスッと微笑む。


「フェルトさんは誰かを出し抜いたりするのがお得意のようですから、むしろ監視されること自体が狙いだったのでは?」


「えっ!?」


「貴女がアーディルという奴隷商から解放させた時も、上手く嘘をついていたではありませんか」


「あっ!」


 クレアは確かにと閃く。

 確かにあの時、迫真の演技でアーディルにあたかも背後に仲間がいるかのように叫んでみせたことで、隙が出来たと思い出す。


「その監視させてる聖堂騎士の油断を誘うために、わざと護衛を付けることを引き受けたのなら、その深層心理をついていくはず。きっと上手くやったのでしょうね。ですが……」


 エメローラはフェルトからの手紙を元に戻す。


「さすがに確認する術までは無かったから、様子を見てきてほしいと手紙に書いたのでしょう?」


「そっか。ふたりも監視がいる状態じゃあ、さすがに状況確認まではできないよね」


「ええ。ですから……」


 キッと真剣な眼差しで改めてヤクトに命令する。


「頼みましたよ。ヤクト」


「畏まりました。お任せ下さい」


 そして、その状況を作り出してくれたクレアを送り届ける女子寮に到着。


「クレアもありがとうございます」


「ボ、ボク?」


「ええ。貴女がいなければわたくしは聖堂騎士……いえ、アスベル・カルバドスの企みに気付くことがありませんでした。とはいえ、この手紙のことと貴女のことを照らし合わせると、フェルトさんは貴女に危険なことを頼んだようですね。無事だったからよかったものの……」


 エメローラは社交会の時のクレアを思い出し、嘆いていると、


「ち、違うよ! あれはボクが頼んだことなの!」


「!」


「それに今回こんなことになったのもボクのせいなんだ」


「どういうことです?」


「じ、実は……」


 クレアは自分が無理やりふたりっきりになった経緯を説明した。


「――なるほど。つまりこの作戦自体、完全にアドリブだったんですね」


「そ、そうみたいだね。だからボクも協力しようと思ったんだ。ボクの行動が原因だったし。だけど……」


「?」


 落ち込むクレアに首を傾げるエメローラ。


「ボク、ダメダメだね。いざ聖堂騎士のアスベルさんを前にした時、すくんじゃった。結局、何もできなかったね」


 するとエメローラがそっと手を握る。


「そんなことはありませんよ、クレア。言い方が悪いですが、貴女が彼女達の術中にハマったおかげで、こうしてわたくしもアドリブを効かせて、フェルトさんから事情を秘密裏に聞くことができました。感謝しています」


「ローラ……」


 ニコッと笑顔で励ますエメローラだが、チラッと遠くに見える平民の男子寮を見る。


「しかし、理由がクレア側にあるとはいえ、女性を囮に使おうというのは頂けませんね」


「そ、そうだねぇ……」


「それともうひとつ」


「?」


「このアドリブが無ければ、わたくしは事情すらわかっていなかったことになります。いくらわたくしが聖女ラフィと接触する機会が多いとはいえ、秘密にしておくというのは、少し腹立たしいですね」


「はは……」


 フェルトに対する文句には、聞いているクレアも納得のいくものだった。


「まあフェルトさんへお説教は保留としましょう。大きな仮をまたひとつ作られそうですしね」


「そうだね」


「だからクレア。そんなフェルトさんにちゃんと協力し、貢献している貴女がお役に立ってないということはありませんよ」


「……ありがと、ローラ」


 そう言ってヤクトのエスコートの元、馬車から降りた。


「でもこんな近くなのにフェルト君から事情を聞けないなんてね」


「ええ。ですがそれもことの解決のためというなら、今はフェルトさんに任せましょう。ではクレア、今日はゆっくり休んでくださいね」


「そうします。慣れない社交会に囮役までやって、もうへとへと……」


 すると貴族寮の扉が開いた。


「あっ! お待ちしておりまし――たばっ!?」


 駆け寄ってきたメイドがひとり、何故か階段で蹴躓(けつまず)いて、顔面スライディングを決めた。


「ちょっ、ちょっとアリスさん! そんな急がなくていいわよ」


「うう……ご、ごめんなさい〜。で、でもクレア様だけご帰宅が遅かったものですからぁ〜」


「ハルマさんにアリスちゃん! 待っててくれてたんだね。ごめんね、遅くなっちゃって……」


「いえ。これが私達のお仕事ですので、どうかお気になさらず……!」


 するとハルマとエメローラの視線が合うと、ハルマが深くお辞儀する。


「お久しぶりですね。お仕事の方はどうですか?」


「はい。お気遣い頂き有難うございます」


 するとクレアは当然の疑問をぶつける。


「あれ? ローラ、ハルマさんのこと知ってるの?」


「ええ。ちょっと事情がありまして……」


 その物言いと作っただけの笑顔を見ると、触れてほしくない部分だということをクレアは悟ったのか、それ以上は尋ねなかった。


「そっか。じゃあローラ、また明日」


「ええ。また」


 そう言ってクレアが寮に戻ったことを確認すると、馬車も城に向かって走り始める。


「ヤクト」


「は!」


「この寮内の護衛騎士にクレアの護衛を強化するよう、伝えて下さい」


「畏まりました。姫殿下が言われたお使いに行く前でも構いませんか?」


「ええ」


 今回の件で、クレアは確実に聖堂騎士に目をつけられているはずだと、護衛を強化するよう促した。


 そして、


「ふう……」


 さすがのエメローラも疲れたのか、頬杖をついて窓の外を眺めながらため息と同時に文句も垂れ流れる。


「事情が事情とはいえ、フェルトさんにも困ったものです」

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