25 思惑が錯綜する夜会 3
『――すまん! あの馬鹿が姫殿下の前で【絶対服従】を使ったせいで、フェルト・リーウェンの元に使いをやった可能性が高い』
「…………」
ダミエルは自分達の失態から起きたこととはいえ、それを聞いて失望の脱力を全身で感じる。
「……わかったが、それは対処できると思うか?」
『やはり難しいか……』
「当たり前だろ。姫殿下の使いを門前払いできるはずもない。フェルト・リーウェンと会わせないなんて、ほとんど不可能だ」
王族がこの国での最高権力者なのは言わずもがなであり、聖女というラフィの立場であっても、門前払いなんて無礼極まる。
そんなことがいくら恩人とはいえ、フェルトでも許されるわけではない。
というより、
「フェルト・リーウェンが接触を断る理由が無い」
『そうだな。むしろフェルト・リーウェン自身が求めた展開かもしれない。何としても阻止したいが……』
「こちらでもできる限りの抵抗はしてみるが期待はしないでくれ。何かあれば連絡は入れる」
『わかった……』
アスベルは落胆したようにそう返事を返すと、通信を切った。
「おーい、ダミエルさんよー」
「!」
「また誰かと連絡かい?」
フェルトがそう尋ねると、ダミエルは通信用の魔石を懐に仕舞う。
「え、ええ。アスベルがどうにも聖女様に手を焼いているようでね。少し愚痴を……」
「ふーん」
どうせそんな連絡じゃないだろうなと、ジトっと見るフェルト。
「聖女様って今は社交会だっけ?」
「らしいな。昼間、クレアから聞いた。聖女様が巡礼を無事に完遂できるようにって陛下や貴族達から激励をもらう夜会だとさ」
「まあ聖女様のおかげで今、こうして僕達は生活できてるんだ、当然だな」
そんな会話をしながら男子寮ではババ抜きを嗜んでいる。
かたや煌びやかなパーティー、かたや野郎でトランプ大会とは格差を感じる。
「そっか……じゃあ今頃、聖女様は凄えご馳走にありつけてんだな。羨ましいぜ!」
「何を言ってるんだ、カルケット君。貴族の社交会なんてロクなもんじゃないさ」
サッとカードを取りながら、グエルの視線がダミエルと重なった。
「あっ! いえ、別に侮辱しているわけでは……」
ダミエルも貴族故に失言だったと訂正するが、ダミエルは別に構いませんと軽く首を横に振った。
「いえ、まったくその通りです。貴族の社交会など自分達がどれだけ利益を生む人材を見つけられるか、関係値を高められるか、そんな腹の探り合いを行なうような場所。彼の言う通り、ロクな場所ではありません」
「そーそ。そんなパーティーに比べれば、ここでのトランプ大会の方がよっぽどマシってもんだ」
格差は感じるが、別にあちらを羨ましいとは感じない。
フェルトはスッと隣のユーザのカードを取ろうとすると、
「……」
右隅のカードを取ると、しゅーんと落ち込み、左から二番目のカードを取ろうとすると、パァっと明るくなった。
ポーカーフェイス下手くそかよ。
「ほい」
「あっ!?」
「おっ?」
フェルトはカードが揃ったので、ひらりとカードをテーブルに置いた。
「はい、あがり」
「ぐがぁああああ!! またフェルトが一番かよ!」
「リ、リーウェン君、強すぎるよ」
「おめぇらが弱すぎるだけ。つか、ババ抜きは運とポーカーフェイスだろ?」
実際、『強欲の義眼』を使えば更に圧勝できるが、さすがにそれはズルすぎると、フェルトは苦笑い。
「それにしたって強過ぎるだろ!! どうして俺は勝てないんだ?」
それを聞いた一同は全員苦笑い。
「……カルケット君の場合は顔に出過ぎだ。ババ、持ってるだろ?」
「ええっ!? べ、べべべ、別にぃー……持ってないし」
ポーカーフェイスができないどころか、嘘も下手である。
するとフェルトが抜けたことで、ユーザのカードを取るのがアルスに変わると、そのアルスもあっさりとババを避ける。
「あ、ああっ……!」
「……本当に顔に出過ぎて、勝負にならないよ。やってて可哀想になってくる」
「そこまで!?」
「次抜けるのはパイセンかなぁ?」
フェルトがつまんなさそうに頬杖をついて尋ねる。
「はは。おそらくそうだろうね」
「俺が弱すぎってことぉ? はぁ……ポーカーフェイスなんて必要あるのか?」
「ん? あるさ。勝負の駆け引きをする時なんて特に重要だぜ?」
「へ?」
ユーザはポカンと、ダミエルが近くに立つ席に移動したフェルトを見る。
「例えば相手との斬り合いの時、相手の表情や視線の先なんかを見ておくと戦況が見えてくる。それを相手に悟らせないようにするためにはポーカーフェイスは必要だぜ」
「え、えっと……」
「つまりリーウェン君が言いたいのは、その表情を見れば作戦がバレる可能性もあるってことさ。必死な表情をしていれば、余裕が無いと判断でき、攻め時だと受け止められるし、余裕を持った表情をされていれば、相手に驕りがあり、隙を窺ったりできるということだ」
そう言ってグエルはユーザからカードを取ると、
「先輩、お先に失礼します」
「ありゃ〜」
二番目にあがったのはグエルだった。
「まあつまり今のお前はババという弱点を教えている馬鹿ってわけ。戦闘時に例えるなら、自分に余裕が無いって相手に教えてるって感じか」
「な、なるほど……」
ユーザは飛空艇での戦闘を思い出す。
「だ、だからあのアーディルって奴は簡単に俺を攻めてたのか」
「そうかもな。お前が堂々不敵に構えてたら、相手が怯む可能性だって十分あったはずだからな。ま、実力差は最初から測られてたと思うから、あんまり意味無いかもだけど……」
アーディルは魔力等で実力を測っていただろうから、ポーカーフェイスはほぼ意味が無いないかもしれないが、それでも何かあると思わせるための表情をしておけば、少しは変わったかもしれない。
「まあ少なくとも向こうに余裕を持たせて攻めさせるのは良くなかったってことだね。まあ僕の場合は、もっと情けない結果になってたかもしれないけど……」
「お前は魔法使いなんだから、多少は仕方ないだろ」
グエルはふるふると首を横に振る。
「いや、そんなものは関係ないだろ。僕はそのあたり、しっかりとしないとね」
「はは。精進あるのみだな」
「その点、フェルトはいつも余裕あるよな。なんていうか、何でも出来そうって感じ」
「んなことねえよ。俺にだってやれないことはある。けど、わざわざ弱点晒す理由にはならねえだろ? だからやれないことは思いっきり頼んで、やれることは全力でやるのさ。パイセンがグリフォン乗って、俺達を連れて行ったようにな。俺、グリフォンなんて乗れねえし」
「……敵のワイバーンに乗り移って、操ってた奴がよく言うよ」
「はは。あれ半ばヤケクソだったし。な?」
「おう!」
確かに『強欲の義眼』でワイバーンを大人しくさせる急所はわかっていたが、騎乗に関してはほぼ現代世界で見たアニメや漫画の知識頼り。
ヤケクソは実は本当だったりする。
そしてそれは同意を求めたユーザもそうだった。
「まあとにかく表情で相手に情報が伝わる場合があるから、気をつけなってことだな。じゃないと聖堂騎士様みたいな優秀な騎士様にはなれないぞぉ〜。ね?」
隣に立って見守るダミエルにわざとらしく尋ねると、
「え、ええ……」
ダミエルはよく言うよと、眉をひそませながらフェルトに笑顔を向けた。
ダミエルからすれば、フェルトのポーカーフェイスにすっかり翻弄されているというのにという心境。
「そっかぁ。やっぱり優秀な騎士はそういうのもしっかりしてんだなぁ」
「だと思うよっと!」
「ああっ!?」
アルスもカードが揃ったようで、パサッとカードテーブルに投げた。
「はい、あがり」
「ううっ! また俺がババ!」
「お前、ホント弱いな」
「もう一回! もう一回。な?」
懲りないねえと席に戻ろうとするフェルトだったが――コンコンとノックが鳴った。
玄関の方だ。
「!」
「おっ?」
ダミエルは深刻な表情で音のなった方へ振り向き、フェルトはそのノック先へと向かう。
「ほいほーい。どちら様ですかぁ〜?」
「い、いけません!」
行かせるわけにはいかないとダミエルが止めて入るが、フェルトは首を傾げる。
「はあ? 何で?」
「もう夜も遅い中の訪問。警戒せねばなりません」
そう言うダミエルだが、フェルトからは焦った表情が隠しきれていないと踏むと、
「じゃあアンタも一緒に来れば〜? それなら問題ないだろ?」
「い、いえ、わたくしが出ますから……」
「それこそ危ないだろ? ひとりよりふたりだ」
そうおしのけ、フェルトは玄関へ行き、扉を開ける。
「はーい、どちら様です……か?」
すると目の前にはあまり見覚えのない人物が立っていた。
その人は丁寧なお辞儀をすると、その場で名乗り出た。
「失礼致します、リーウェン様。わたくし姫殿下の護衛騎士をさせて頂いております、ティアと申します」
「姫殿下の護衛騎士?」
ダミエルは来てしまったとフェルトの後ろで深刻な表情で俯くが、すぐに駆け寄るとフェルトを腕で下がらせる。
「おっ?」
「お下がりを……」
その妙な行動を不快に思ったのか、ティアが警戒心を持って睨む。
「何ですか? 私はリーウェン様にご用事があるのですが……」
「そんなことはわかっている。このブラックギルドの刺客めがっ!」
「「!?」」
とんでもないことを言い出し、フェルトとティアは驚く。
「わざと堂々と正面から来れば、疑われないとでも思ったか? しかも姫殿下の護衛騎士を名乗るとは……。いや、その姿は偽装か?」
「貴様……言いがかりを……!」
唐突な言いがかりに不快感を露わにするティアと、明らかに虚言と捉えられる発言を口にするダミエルだが、
「「!?」」
スラリと腰の剣を抜き、フェルトに本当だとアピールするような雰囲気まで出し始めた。
「おいおいおい! その人は姫殿下の護衛騎士に間違いねえだろ。俺も遠巻きにだが、見たことあるぞ」
「よくお考えになってください、リーウェン様。今、姫殿下は聖女様の巡礼の成功を願う社交会にご出席のはず。この国の重要人物の護衛の方が、平民寮を訪ねることが不自然かと……」
一理ある意見ではあるが、先程のダミエルがアスベルとの通話をしていたことを考えると、何かしら問題があったように考えられる。
その問題とは何かと考えると、フェルトが心配しているクレアへの対処である。
おそらくダミエルはアスベルにクレアを警戒するように伝えてあるはず。
そのクレアを対処する場合、周りの影響のことを考えると、危害を加えることは極めて低いことから、想像がつくものではやはり【絶対服従】により、情報を聞き出すことと推定できた。
【絶対服従】は確実に情報を得られる挙句、そのかけられた者自体は記憶も曖昧になるため、起用するには十分な理由と考えられる。
だがそこで何かしらのアクシデントがあったことで、先程揉めていたのではないかと思われる。
その証拠に、そのアクシデントの元と思われるエメローラの護衛騎士がこうして訪問してきた。
そしてそれを良しとしないダミエルが無理やりにでも追い返そうと、こんな行動に出ると考えられる。
「なら……」
そう仮定付けて考えたフェルトは、それを立証するために、
――【識別】
「!」
『強欲の義眼』でティアを見るとやはりというべきか、ダミエルの虚言であったことが判明した。
「ダミエルさん、剣を収めて」
「リーウェン様はすぐにお部屋へ――」
「……その胡散臭いやり取りはよそうや、ダミエルさん」
「……!」
フェルトは冷ややかな視線でそうダミエルに吐き捨てる。
まるでダミエルの狙いである、エメローラの息のかかった護衛騎士であるティアと接触させるわけにはいかないということが透けて見えてるとでも言いたげに。
「この人は本物だよ。ブラックギルドの誰かしらが化けてるもんじゃねえよ」
「し、しかし……」
するとフェルトは『強欲の義眼』をコンコンとつつく。
「確認したって。アンタならわかるだろ?」
「……!」
ダミエルは観念したのか、抜いた剣を戻し、ティアに向かって深くお辞儀した。
「早とちりしてしまい、申し訳ありません。なにぶん、気を張っていたもので……。こんな時間に姫殿下の護衛が訪ねてくるなんてと思うと……」
するとティアも表情を和らげ、
「いえ、こちらこそこのような時間に訪ねてしまい、申し訳ありません。護衛をなされていたことを考えると、こちらもそのこと考慮するべきでした」
ダミエルは怪しまれないよう素直に謝罪するが、ティアはともかく、フェルトは明らかに社交会の会場で何かあったと気付く。
なのでそのダミエルが止めたかった人物であるティアに尋ねる。
「それで? その姫殿下の護衛をすっぽかしてまで来られたティアさん、だっけ? 何しに来たの?」
「エメローラ姫殿下の護衛に関してはもうひとりのヤクトが命を賭けて、その役目を全うしておりますので大丈夫です」
大袈裟な……。
そんな風に考えていると、ティアは何故か不思議そうな顔をする。
「……? お気付きでないですか?」
「……は?」
心当たりがないとティアと同じように不思議そうな顔をする。
するとティアは呆れた様子を醸し出す意味深なため息を吐く。
「……やはりお忘れでしたか。以前、姫殿下より自分を救ってくれた英雄として平民を代表し、今日の夜会に出席なされるよう、連絡があったはずですが?」
「……は?」
そう聞いたフェルトの脳裏では瞬時に大混乱が発生した。
いやいやいやいや!!
そんな話は聞いていない。
まるでそんな話をしており、まるで俺が完全にすっぽかして忘れていた風に言われても困る。
そのまったく心当たりが無いことに全否定する中、待てよと一瞬過る。
先程のダミエルの反応から、エメローラは何かしらに気付き、それを阻止してくれとアスベルより通信用の魔石で連絡があったと思われる。
そしてその使いが目の前におり、その使いであるティアは、まるでフェルトが夜会に参加するよう、言っていたと虚言を吐く理由としては、もしかしたらダミエルを出し抜くための嘘ではないかと思った。
そしてそこから考えられるのは、エメローラが情報を欲しているということ。
ならばとフェルトが出した答えは、
「あ……ああああああっ!!!!」
「!?」
「思い出されましたか?」
まるで自分の話が嘘でないように、澄ました顔でフェルトにそう尋ねるティア。
するとフェルトの叫び声に、食堂にいたユーザ達が何事かと覗きに来た。
「おい、どうしたんだ、フェルト」
「ユーザぁ! 俺、やっちまった!」
「は?」
「ほら、今日、聖女様の夜会があるだろ? あれ、実は俺も呼び出しくらってたのを思い出したんだ」
「な、何故、リーウェン君が?」
「俺達は姫殿下を助けに行ったろ、グエル。それで平民代表として救ってくれた恩人を紹介するって話だったんだよぉ〜」
それを聞いたユーザ達もマズイのではないかと驚く。
「ちょっとリーウェン君。それが本当ならマズイぞ」
「しっかりしてるようで、抜けてるところもあるんだな。でも、さすがにそれは抜けちゃダメだろ」
「パイセンからガチの指摘をされた!?」
「……」
まるでその話が本当であるかのように、場の空気が作られていく。
事の真意を知らず、誘拐救出の件に関係しているユーザ達を巻き込むことで更に信憑性が増したのだ。
勿論、ダミエルはフェルトに限ってそんな大事な用件を忘れるはずがないと思ってはいるが、それを否定する証拠が提示できないダミエルは、この状況を黙って見ることしかできなかった。
「なあ? どうすればいい?」
フェルトが珍しくユーザ達に助けを求める中、ティアがとある提案を行なう。
「今頃向かったところでどうしようもないので、謝罪を含めた手紙などをしたためて頂くというのはどうでしょう?」
「!?」
ダミエルは酷く驚いた顔でティアに振り向いた。
それはマズイと。
このセリフはフェルトは勿論、ティアも狙うところではあった。
フェルトは軽快に指パッチン。
「そいつはいい! 今向かうのは危ないし、そんな夜会に平民である俺が遅れて登場するのも失礼だからな。祝辞みたいなものを用意してたって体にしておけば、文句も出ないだろう」
「……!」
ダミエルはここに来て、再びブラックギルドの仕業にしていたことを後悔する。
そう言われてしまうと、ダミエル側の護衛ふたりはこの寮での護衛を余儀なくされる。
「それでいいのか?」
「だってパイセン。平民が貴族、ましてや王族の意見を忘れてたって、マズイでしょ?」
「あ、ああ。最悪、物理的に首が飛ぶな」
「でしょ? 俺、できればまだ胴体とは仲良くしておきたいので、それで誤魔化し効くなら頼んだ方がいいでしょ?」
「そ、そうだね。頭と胴体はずっと仲良しでいてほしいよね……」
「それを提案するってことはティアさんも姫殿下のご機嫌取り、してくれるんでしょ?」
「勿論。全力を尽くします」
それなら決まりだと、フェルトはタタッと自室へ向かう。
「じゃあちょっと待ててくれるか? サッと書いてくるよ」
「それは構いませんが、懇切丁寧にお願い致します」
「はは。了解!」
自室に戻ろうとするフェルトをダミエルが止める。
「お、お待ちを……」
まるで情けをかけてほしいように、縋る手が伸びる。
「どうかしました? ダミエルさーん?」
「……い、一応、手紙の内容の確認など……」
「は? 必要ないだろ。護衛対象の俺が書くんだぜ? 失礼の無い内容の確認なら、ティアさんがやるよ」
「くっ……!」
「ねえ? ティアさん?」
「はい」
表情ひとつ変えずに返事をするティアとどこか楽しげなフェルトに、完全にダミエルは翻弄されつつ、確実にエメローラへ情報が伝わってしまう経路ができたことを焦る。
何とかしなければと思うが、妙案を思い付かないダミエル。
「そんじゃ、ちょっと待っててくれ」
「はい。お待ちしております」
自室に戻るフェルトを、ペコリとお辞儀して見送るティア。
ダミエルはもう時間が無いと焦燥感に駆られ、食堂からはレックスもダミエルの表情からマズイ事態が起きていると自覚しながらも、フェルトを見送るしかなかった。
そしてフェルトは自室に戻ると宣言通り、エメローラへの手紙を書く。
「さてさて、何を書こうか……」
聖堂騎士達のクーデターのことは書くとしても、それ以外はどうしようかと悩む。
ラフィが【絶対服従】の能力を持っていることは、敢えて黙っておこうと考える。
何かしらがあると気付いてティアを寄越したものと考えられるが、それをわかっていると話すと説明をしなければならなくなる。
さすがにこの段階で『大罪の神器』について、王族であるエメローラに語るのはリスキーである。
次に聖都が【絶対服従】により、住民達を支配していることはゴルド達から聞いているが、それを語るのもよしておこうと考える。
証言者がその聖堂騎士では説得力が無いこと、そして今、裏で動いていることを考えると、その証拠を提示してもらった段階で知ってもらうのが一番と考える。
だがフェルトとしても、裏の動きの把握ができていないことは、何とも心苦しい。
「――なら、こうかな?」
しばらくしてフェルトが部屋から出てきた。
「お待たせしました」
「いえ。さほどお待ちはしておりません」
フェルトはスッと手紙をティアに手渡す。
「それじゃあ、よろしく! 必ず届けてくださいね?」
「勿論で御座います。お手数をお掛けしました」
ティアは中身を確認することなく、懐にサッと仕舞い込んだ。
「いやいや。俺こそ忘れてたんだ、聖女祭が終わった後にでも跪いてくるよ」
「……それでは」
ティアは一礼すると、男子寮を後にした。
「リ、リーウェン君。本当に失礼の無いようにしたんだよね?」
「そんな心配しなくても大丈夫ですってパイセン! ちゃんとしたのを書きましたから。それにあの姫殿下なら多少の無礼も許してもらえますよ」
「そ、そんな楽観的なぁ!」
ダミエルとレックス以外がそんなことを言うフェルトを心配するが、
「ほらほら、もう夜も遅いんだから撤収、撤収! 寝ますよー」
全員寝るように、手で追い払う仕草を取り、一同はそれに従うように各自部屋へと戻った。
そんなポツンとなった玄関前でダミエルが深刻な表情で尋ねる。
「……フェルト・リーウェン。手紙には何と書いたのだ?」
いつも以上に怖い表情をするダミエルだが、フェルトは不敵に笑う。
「は? そんなもんティアさんに指示された通り、謝罪を含めた聖女様への激励の――」
「そんなわけあるかっ!!」
もう本当に余裕が無いのか、声を荒げるダミエル。
当然の反応だった。
ダミエルにとっては、今日の昼間のふたりきりになる出来事はこのための布石にしか捉えられなかった。
そして全てのことがエメローラに明るみになれば、自分達の立場が危うくなることから、もう余裕はない。
するとフェルトは表情は変えずに指摘する。
「おいおい、ダミエルさんよぉ。アンタもユーザみたいなマヌケさんかい?」
「!」
「――ポーカーフェイスは作ろうぜ。な?」
「!!」
フェルトはアンタ達なんか手玉に取れるよと挑発。
「本当は何を書いたかは内緒さ。せいぜい妄想を膨らませるこったな」
そう言ってフェルトも自室へと戻っていく。
「あっ! そうそう。護衛はちゃーんとよろしくな」
フェルトは自分の左眼を指す。
「ちゃんと視えてるからな」
「「!?」」
「それじゃ、お休み〜」
飄々とした態度で部屋へと戻っていった。
ダミエルはその扉を睨むことしかできない。
今、変に行動を起こしたり、それこそフェルトを襲おうとするなど論外であった。
だからか、事の行き着く先がマシであることを祈るしかなかった。




