23 思惑が錯綜する夜会 1
「――なに!? それは本当か?」
『ああ。すまない……』
アスベルは夜会、所謂社交会の準備を進めるラフィを待つ傍ら、緊急連絡を受け取っていた。
その内容は、エメローラと親交が深いクレアが、フェルトからアスベルの計画について語られた可能性があるとの連絡だった。
「お前がついていながら、何してるんだ!?」
『本当にすまない。まさかフェルト・リーウェンではなく、彼女があんな行動に出るとは……』
本当に予想外だったと悔しそうに語る。
『アスベル。俺は今、護衛という立場を逆利用されて、この場から離れられない。他の生徒は勿論、そちらへ接触した場合、それこそクレア・アレクベートに何か言われる可能性がある。だからクレア・アレクベートへの対処はお前に任せることになる』
「対処と言われてもなぁ。下手に口封じもできないしな」
『ああ。だからせめてフェルト・リーウェンから何を聞いたのか把握できれば、対処の仕方も定まるだろう』
するとアスベルはダメ元で尋ねる。
「フェルト・リーウェンから聞き出すことは?」
『できると思うか?』
「思わないね……」
自分もフェルトと同じ立場なら、語らないだろうなと悔しそうに笑う。
「わかった。クレア・アレクベートへの対処はこちらでする。幸い、こっちには尋問のプロがいるしな」
『……ラフィのことか? 【絶対服従】は確かに強力で確実だが、フェルト・リーウェンがそのあたりを対策している可能性もあるんじゃないか?』
ライクとゴルドみたいに【絶対服従】の対策がされているのではないかと、ダミエルは力に驕るなと注意する。
「わかっている。さすがにあのふたりみたいに卑猥な内容という手段は取らないだろうが、他にもありそうだからな」
『ああ。用心するに越したことはない。それとやはりと言うべきか、聖女祭初日から仕掛けてきたな』
「それを考えると上手くやられたというわけだな」
『……す、すまない』
ダミエルでも失敗するんだなと、軽いため息を吐く。
「まあいい。ダミエル、今逆利用されてるなら、お前もまたフェルト・リーウェンの動きを封じる監視ができると切り替えろ。今のところ、クレア・アレクベート以外に怪しい人物はいないんだろ?」
『そうだな。今のところ、確実に危険だと感じるのはクレア・アレクベートだけだ。他に誰も接触しないよう、フェルト・リーウェンはこちらで見張る』
「ああ、頼んだ。これ以上の厄介事は御免だからな」
アスベルはブツっと通信用の魔石の通信を切断した。
「……お前の思惑通りにはさせんぞ。フェルト・リーウェン」
すると扉が開き、ラフィの着付けを行なっていたメイド達が出てきた。
「カルバドス様。聖女様の準備が整いました」
「ああ、ありがとう。結構騒がしかったようですが、聖女様がご迷惑をお掛けしませんでしたか?」
アスベルはダミエルとの通信の傍ら、壁に寄りかかっていたこともあり、扉の向こうで格闘するラフィの声が聞こえていた。
「いえいえ、とんでもございません。こちらこそ、少し準備に手間取ってしまい、申し訳ありません」
「いや、構いませんとも。それよりも、よくまあ……」
開いた扉の先のラフィをアスベルは見る。
「こんな綺麗にしてくれたなぁと、感心するばかりです」
ラフィは派手な装飾が施された豪華なドレスを着ていた。
銀髪を映えさせるためか、透き通るような水色のドレスに身を包んでいる。
だがそのラフィ自身は不満がたらたらあるようで、口元をへの字に尖らせながら文句を呟く。
「まったく何なのよ。このコルセット! キツイったらありゃしないわ!」
「まあドレスなんてそんなものじゃありませんか? 聖女様」
メイド達の手前、普段の接し方と違い、猫をかぶるアスベルにラフィは、
「……相変わらず人前のアンタは気持ち悪いわね」
「ははは。黙りやがれですよ、聖女様?」
そんなやり取りを見たメイド達は、長年連れそうと自分達の知らない関係値が組まれているのだと微笑ましそうに見ると、一礼してその場を去っていった。
「まあでもこれはこれでいいわね。私のような女にはこういうのが良く似合う」
「はいはい」
ドレスをひらつかせるラフィにテキトーに返事をすると、アスベルは問題解決のために指示する。
「おい、ラフィ。頼みができた」
「はあ? 私達に協力してくれそうな貴族の選別以外に何かあるの?」
「……この国を取るクーデターの内容を王族共に知られる可能性が出てきた」
「!?」
「クレア・アレクベートという娘が、フェルト・リーウェンより情報を預かった可能性がある。その娘から先ず、預かったとされる情報を探りたい」
折角ドレスを着て、気分が上がったのにとラフィは落胆。
「めんどくさっ! そんなもん、聖都の連中みたいにすれば一発でしょ?」
「馬鹿かお前は。そんなことをすれば、お前に【絶対服従】があることが公になるだろうが! それにあの催眠方法は時間もかかる。おいそれとそんな状態にできるか!」
「はあ……折角、私のためのパーティーなのに……」
そう呟くラフィに呆れた様相でアスベルは、その呟きに答える。
「私のため、ね。今回の社交会に出席するほとんどの面々はお前との関係を築こうとする者達ばかりで、お前のご機嫌取りはするだろうが、誰もお前のためなんて考えてないぞ。むしろ自分のこと、家のことを考えてる連中がほとんどだろう。ま、聖人君主みたいなこの国のためになんて御大層な輩もいるだろうが、どちらにしても誰もお前のためなんて考えてないさ。あくまで間接的に――」
「アンタってさ、顔は良いけど性格は本当に最悪ね」
「ハッ! 面食いの性悪聖女に言われたくないな。自分にもそれが返ってくること、わかってるのか?」
お互いに文句を言い終えると、改めてその必要性を説明する。
「いいか? 俺達の計画が露呈すれば、お前の立場も一気に悪くなり、いくらその左足の力があれど、覆すのが難しくなる。出る杭は打てる時に打つべきだ」
「チッ! わかったわよ。でもそのクレア……だっけ? 私、どいつかわからないんだけど?」
「お前は基本、俺と行動するだろうが。どうせ他の貴族を相手取る時もこっちで指示を出んだ、俺の言う通りにすればいい」
いつも通りだろうと語るアスベルに、またラフィは不満をぶつける。
「……フン! こんなに着飾ってもやることが貴族を引き込むための勧誘と情報の収集だなんて……おかしいんじゃない?」
「おかしいのはお前だ。社交会のそもそもの目的は人脈を築くことだ。豪華な飯を食って、踊って、持てはやされることが正しい貴族のパーティーだなんて考えるのは、お前みたいな阿保だけだ」
「ああっ! ムカつくわね、ホント! この左足を使ってその嫌味、吐けないようにしてやろうかしら!」
するとアスベルは冷ややかな視線を送る。
「誰のおかげでそれを手に入れられたと思ってる?」
「!」
「誰のおかげでここまで上手くやれてると思ってる?」
「そ、それは……」
「お前の子供じみた我儘を通し続けられているのは誰の――」
「だああああーっ!! わかってるわよ! ちょっと揶揄っただけじゃない!」
少し脅してやれば簡単に折れるところは、気楽だとアスベルは鼻で笑う。
「むやみに使うなとどれだけ言えばわかるんだ。お前のそれは絶対であって絶対ではない。ボロも出る能力なんだ。それで不利益になるのは――」
「あーあ、はいはいはい。わかりましたぁー」
説教は懲り懲りだとラフィは、足早にアスベルの元を離れると、そのアスベルも相変わらずだとため息を吐いて、付いていった。
「おい、本当に頼むぞ」
「しつこい! わかってるわよ!」
***
月が暗夜を照らす中で、地上では華やかなパーティーが行われている。
その舞踏会場は、夜とは思えないほどに眩く、美しく清楚に着飾った者達が集まっていく。
その会場内では豪華な食事が用意され、音楽隊がその雰囲気を助長させるように、心地良く参列者達の耳をくすぐる。
そんな中、人混みを作る者達がいた。
「聖女様、今宵もお美しゅう御座います。お目通りできたこと、光栄に思います」
「え、ええ。わ、わたくしもお会いできて光栄ですわ」
貴族達が次々とラフィに挨拶していく。
貴族達は慣れた社交辞令を繰り出す中、貴族パーティーなどに慣れているはずもないラフィは、ぎこちない返答を繰り返しながら、疲労も隠せていない。
その隣にいるアスベルはやれやれと内心考えながらも、澄ました顔で横に立ち続ける。
すると、そのアスベルの袖がくいくいと引っ張られる。
「……?」
「ちょっと! まだ続くの? これ?」
周りに見られながらも、こそっとラフィは尋ねる。
もう疲れたと言いたげな表情だが、
「当たり前だ。この貴族達全員に挨拶を終えたら、休ませてやる。我慢しろ」
「……」
ラフィは現実の社交パーティーを目の当たりにし、絶句する。
聖女とはいえ、ラフィは平民。
しかも煌びやかな一面しか想像しなかったラフィにとっては中々過酷な現実を知ることとなった。
――一時間後。
「――ぷはぁ! やっと休憩できる」
「お疲れ」
疲れひとつ見せないアスベルにラフィはキッと睨む。
「ちょっと聞いてないわよ! あんなに貴族と挨拶するだなんて。アレ全員協力者にするわけ?」
「そんなわけないだろ。ほとんどは社交辞令の挨拶に決まってるだろ」
「……!」
「お前、貴族の社交パーティーを舐め過ぎ……というより夢見過ぎだ。煌びやかな会場で豪華な食事でもしながら談笑する会だとでも思ったのか?」
「ち、違うの?」
アスベルはでっかいため息を吐いた。
「違うに決まってるだろ。あんな食事をほいほい口にするのは、間抜けか他の貴族達と人脈を作れない無能だけだ。ほとんどの者達は会話の中であらゆる情報交換や交流を行なう。自分達の家の利益や国のためだのとかな」
ラフィは再び絶句。
「お前への挨拶だってそうだ。お前は国を担う存在だから貴族共が次々と挨拶しに来たんだろ? そもそもの話、平民であるお前がこの場にいること自体、本来はおかしいんだぞ。前聖女までが貴族位をもらわなかったのは、一部の貴族に肩入れしないことも理由に上がっている。それをお前は聖女祭なんてものを開きたいとか、自分を歓迎してほしいなんて言えば、貴族共はお前を取り入れようと考え、ゴマすってくるなんて当然だろ」
これだから考え無しはとスンとした表情で、呆れた声で説教した。
「そ、そんなこと知るわけないじゃない! わ、私、平民なのよ?」
「でも聖女だからちやほやされたい、だろ?」
「うっ!?」
「そして貴族達にちやほやされれば気分もいい、だったか?」
「うぐっ!?」
「……本当に馬鹿だな」
アスベルは、ハンっと笑った。
「ああああっ!! ムカつくわね! それで更にムカつくのはアンタが平然としてることよ!」
「……お前、俺が貴族だって知ってて言ってるのか?」
「あ……」
「こんな社交会、ガキの頃から慣れてるよ」
「――ムキィィィィッ!!」
するとアスベルの更なる追い討ちでラフィは、更に更に絶句することとなる。
「前回はお前に気を遣ってやったが、これからはガッツリ宣伝もしてるから、これから政治にも関連してくる」
「は……?」
「当然だろ? 俺達がこれから仕切る国だ、その最高位につく予定のお前にはこれから頑張ってもらわなきゃいけないことは山ほどある。そのほとんどが政治関連だ。聖女としての役割はあの奴隷に任せ、お前はとにかくこういう場には常に出てもらうぞ」
「いや、はあ!?」
「何も中身までしっかりしろとは言わん。こういう貴族のご機嫌取りだけしろと言ってるんだ」
「いや、でも……私は……」
「娯楽を貪りたい気持ちもわかるが、そのためにはやることはやらないとな。覚悟しておけよ」
「……」
ラフィは甘やかされていたんだと今やっと思い知り、愕然とするが、それは理不尽だと暴れ始める。
「ああああっ!! こんなことなら聖女祭なんて開くんじゃなかったわ! ていうか、そういうのも全部あの豚女に任せられないの?」
「……幸い、顔は同じだからやろうと思えばできるだろうが……」
「でしょ? なら――」
「あの奴隷が死んでからはどうするつもりだ? 聖力の関係上、先にくたばるのは向こうだろ?」
「うっ……」
「だったら今のうちに慣れておくんだな。その方がお前のためだ……!」
そんな風に庭園のベンチで語っていると、こちらに近付いてくる人影があった。
「ほぉら。その政治関連でこれから厄介になるであろう人物のお出ましだ」
「!」
「ごきげんよう。休まれていたところですか?」
そうニッコリと疲れを見せず語りかけて来たのは、エメローラだった。
その隣にはクレアがおり、更にエメローラの護衛がふたりが背後にいる。
アスベルはダミエルに言われた通り、クレアを何とかしようと模索する。
「ええ。姫殿下とは違い、聖女様はこのような社交場はまだ不慣れなもので、あまり無理はさせてはいけないと、このような場で休ませていただております」
その聖女であるラフィは、よく言うよと言いたげな視線を向ける。
かなりの人数を相手にさせられていたためである。
「フフ。わたくしも少し疲れましてね、夜風にあたりに来たのです。彼女と一緒に」
クレアはスカート少々たくし上げて、貴族嬢特有のご挨拶。
「これはこれは聖女様。先程のご挨拶ぶりですね」
「……そうね」
そんなお互いの思惑は似ており、どう対応しようかという視線を互いに気付かれぬよう振る舞う。
それはアスベルも同様だった。
「確かアレクベート家の御息女様でしたか。お父上の手腕は勉強させられます。とても良好な領地管理をなされており、領民達からの信頼も厚い」
「お褒めに預かり光栄です、カルバドス様」
そうニッコリと微笑むクレアだが、内心はハラハラしている。
フェルトから全容は聞いてないとはいえ、『聖女には気をつけろ』『聖堂騎士が何か企んでいる』ことは知っている。
その主犯と思われるふたりが目の前にいるのだ、向こうの思惑次第ではやはり危険な目に遭う可能性を想定すると、いくらフェルトから予防線として情報を開示されていないとはいえ、少しばかり恐怖する。
「ですが彼女は中々その優秀なお父様の言うことを聞かず、このような社交会にも中々参加しないということで頭を抱えております。優秀な領主でも娘には肩無しということでしょうか」
「ハハ。姫殿下がそれを仰いますか? 聞くところによれば先の誘拐の件、実は姫殿下の我儘でこっそり学友の寮に遊びに行き、誘拐されてしまったと聞き及んでおります。国王陛下の心労を察するばかりです」
「あら? これは耳が痛いですね」
エメローラとアスベルは談笑する中、クレアはもう立ち疲れたと、ラフィが座るベンチへ向かい、
「お隣よろしいですか?」
「……好きにすれば」
「ありがとうございます」
クレアは警戒しろと言われたが、露骨にそれを出してしまうこと自体がマズイと考えたのか、大胆にも側につくことにした。
それにクレアの周りにはエメローラと護衛のふたりの騎士がいる。
少なくともどうこうなる問題ではないと踏んでの行動。
「聖女様。貴女はこの国で重要な人物であるとはいえ、彼女達は貴族です。口の利き方には気をつけて下さいと言ったはずですよ」
そうアスベルに指摘を受けたラフィは、気に食わなそうな表情をしながら、投げやりに返答。
「わかりましたよ! 申し訳ございませーん」
「聖女様?」
「まあまあ構いませんよ、今夜のパーティーの主役はラフィ様ですから。クレアも特に気にしないでしょ?」
「うん。ボクは全然」
それでもアスベルは申し訳ないと頭を下げる。
「気を遣わせてしまい、申し訳ありません」
「いえいえ。ラフィ様も今は休憩中のはず。少しでも気を楽にしていただいた方がいいですよ。どうですか? パーティーは楽しまれてます?」
尋ねられたラフィは、仏頂面で正直に答える。
「いえ、全然! こんな挨拶ばっかりのパーティーだなんて思いもしませんでした」
「聖女様ぁー?」
そんな風に言えとは言ってないと、怒りを交えた口調でアスベルは威嚇する。
「アスベルさん、構いませんよ。実際、クレアだってヘトヘトということでここにいるのです。不慣れならば当然のことですよ」
「本当に申し訳ありません! 姫殿下をはじめとする方々が折角聖女様のために開いてくださったのに……」
「構いませんよ。わたくしだって幼少の頃はよく不満を持っていたものです。わたくしのためのパーティーではなかったのって」
「あー、わかる。ボクもさ、色んな大人に挨拶しておきなさいって言われてたもん! 貴族のパーティーなんてそんなもんだよねー」
「それを考えれば、平民であるラフィ様は更にご苦労なされているはず。不満のひとつやふたつくらい、構いませんよ」
「良かったですね、聖女様。理解のある方々で……」
「そーですねー」
「聖・女・様ぁ〜?」
さっきから態度が良くないと何とかしようとするアスベルだが、ラフィはもう不満の大爆発寸前の状態だったりする。
アスベルからは予定に無いこれからのご機嫌取りの話、思っていたパーティーとは違うこと、結局、アスベルの言いなりなっていること、そして――隣にいるクレアから情報を得なければいけないこと。
何もかもが煩わしいと思っている。
【絶対服従】という力を持っているにも関わらず、どうしてもっと自分の望んだ世界にならないのかと、不満が腹の内に溜まっていくのがわかる。
すると、
「――貴女、フェルト・リーウェンとはどういう関係なの?」
「……は?」
急に前振りの無い斜め上からの質問にクレアは勿論、エメローラ、アスベルら一同もパチクリと目を見開く。
「い、いきなりどうしたんですか?」
「いやぁ? 確か、貴女も攫われた貴族のひとりだったよねーっと思ってさ」
「ま、まあそうですけど……」
それにしたって、突拍子もないと驚く一同の中、アスベルは嫌な予感を過ぎらせる。
こういう時、気分屋は何をしでかすかわからない。
絶対にマズイことをするのではないかと。
「どうなの?」
「え、えっとぉ……」
「せ、聖女さ――」
クレアが困惑しているところをフォローに入るかたちでアスベルが何とかラフィの暴走を止めようとするが、
「あらあら。聖女様もウワサの彼が気になるのですか?」
そこに恋バナの予感とウキウキでエメローラが介入。
ふたりが座るベンチに相席する。
「なっ!?」
一国の姫が話に乗ったとなると、さすがに止めづらいアスベルは引っ込むしかない。
そのエメローラも、ヴォルノーチェ兄妹解任後のお堅い監視がふたりもついて、そんな話をすることなどなかったせいか、ノリノリでその話に乗ってくる。
「ええっ!? もう! 何でローラまで!?」
「良いではありませんか。確か今日、この夜会の前にバーチェナさんと一緒ではありましたが、聖女祭を見て回っていたんですよね?」
「う、うん……。しかも彼女は高熱を出して寝込んでたから……」
「あら!? てことはふたりきりでですか!?」
「ち、違う違う!! ほ、ほらフェルト君って今、聖堂騎士の護衛さんと一緒でしょ? だから正確にはふたりきりではなかったんだけど……」
アスベルの悪い予感は的中しそうだと、華やかな女子トークが繰り広げられる中、冷や汗が流れる。
アスベルが聞き出したいのは、そのデート内でダミエル達の監視を逃れている間の情報。
しかし、それはあくまでクレアを他の人から引き離して聞き出すことが条件。
でなければクレアが【絶対服従】を受けた時、周りがその反応をおかしいと勘繰る可能性が高いからだ。
しかしラフィのこの露骨なまでの聞き出し方は、まるで面倒だからさっさと終わらせたいという、こちらの都合を考えないやり方。
フェルトの話題を振られれば、クレアは今日の話題をする可能性は高く、そこから【絶対服従】で聞き出す流れはいいものの、側にはエメローラとその護衛ふたりがいる。
アスベルは、護衛のふたりがどれだけ頭がキレるのかは理解していないが、護衛を任されるあたり、無能ということはないだろう。
そして英才教育をしっかり施されたエメローラがキレ者であることは、考えるまでもない。
その予感は的中しているのか、クレアが今日フェルトと聖女祭を楽しんだ内容を語っているその横で、妬ましそうな不快感を覚えた視線を向けている。
「お、おい! ラ――」
思わず、いつもの裏での呼び方にまで変わってまで止めようとしたアスベルのことなど気にするわけもないラフィ。
――チリーン。
鈴の音が響く。
「『ねえ、クレアさん。今日フェルト・リーウェンとふたりっきりの時に話した内容を教えて?』」
するとクレアは、エメローラに気恥ずかしくも嬉しそうに喋っていた表情は一変。
「……クレア?」
まるで表情を失くしてしまったかのように、スンっと澄ました表情をすると、くるっとラフィの方へ振り向いた。




