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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
83/177

22 ふたりっきりのデート? 2

 

「「はあ、はあ、はあ……」」


 フェルトとクレアは人混みの中を強引に走り抜け、息が荒れたため、裏路地で整えている。


「お前なぁ、急にどうした?」


 フェルトの質問としては当然のものだった。


 一応、あのふたりの同席を許しているはずのクレアが急にふたりっきりになれるよう、走り出す動機がわからなかった。


 するとクレアは自分が感じた不信感を語る。


「だって、あのふたりの護衛……ううん。アレは監視じゃないかなって」


「! ……どうしてそうだと?」


「あのふたりはブラックギルドの襲撃に備えて、フェルト君を護衛してるはずなんだよね?」


「ああ」


「なのに周りよりもフェルト君を見てることの方が多かった。というより、ほぼフェルト君を見てた気がする」


「なるほど……」


 つまりクレアはその隣にいて、視線をずっと感じていたため、それを不審に捉えたというわけだった。


「ねえ? フェルト君」


「何だ?」


「もしかしてなんだけど、聖堂騎士と何かあった? もしくは目をつけられてる?」


「……」


 そう不審に感じたのなら、当然の質問だった。

 だがどう答えるかによっては、クレアの身が案じられる。


 正直、フェルトとしては今回のデート、ダミエル達が混乱する要因のひとつになればいいかなと思う程度のものだった。

 何せラフィは『傲慢の左足』を持ち、【絶対服従】を確実にかけられる。

 聖都のような操り人形になることは、すぐにはならないにせよ。あまり変に被害者を出すことはよくない。


「フェルト君ならこれくらい気付いてるよね? 聖堂騎士のアレが護衛じゃなく、監視ってことくらいさ」


「まあな」


 実際、わかった上で了承してるからな。


 するとクレアは更に閃きを効かせる。


「もしかして……ファバルス王国の時みたいなこと、ある?」


「はは……」


 図星を突かれたフェルトは咄嗟に苦笑いが出た。


 聖堂騎士は、この国に関わる聖女を守る組織。

 それに不穏な動きがあり、自分が警戒されていると考え、更にはファバルス王国での一件も知っているクレアには、そんな答えも出てしまう。


「えっ……? まさか、本当に……?」


 ここまで察しされると、さすがに黙っている方が危険だと感じたフェルトは、


「まあ、なんだ……。互いに腹の探り合いをしてる段階なんだよ。俺はアイツらの計画をバラさないかを見張られててな」


「てことは、ある程度は聖堂騎士の悪事を把握してるってこと?」


「まあな。だが把握はしてるが、証拠を提示できないって段階だ」


「……なるほど。あれ? てことは、ボクが今してる行動って……」


 するとフェルトは、やれやれと呆れたジト目を向ける。


「奴らからすれば本気でヤバイ状況だろうな。奴らの悪事を知る俺から目を離した挙句、姫殿下と良好な関係にあるお前とふたりきり。しかもお前、確か今夜、聖女ラフィを労う夜会に出席するんだろ?」


「う、うん。ボクのお父様の領地を通るから、ご挨拶しとけって言われてる……」


「つまり奴らからすれば、俺がお前を情報の橋渡しをするんじゃないかって思ってるってことだ。だからダミエルは護衛もとい監視をするって聞かなかったしな」


「な、なるほど……」


 思った以上に、聖堂騎士にとって不利益になる行動をしたことに、やったクレアが一番驚いている。


 だがフェルト自身もこれは想定していなかったので、どうしようかと考える。


「さて、どうしたもんかねぇ……」


 頭をかいて悩んでいると、クレアが真剣な眼差しで提案する。


「フェルト君」


「うん?」


「ボク、橋渡しになるよ」


「は?」


「ボク、力になりたいんだ」


「お前なぁ……。これがどれだけ危険なことか、わかってんのか? ファバルス王国の場合、あの大臣が他国の人間だからって舐めてくれてたから、ある程度の危険はなかったが、今回は違うぞ。お前は姫殿下と親しい仲にある、それは向こうも知ってる情報だ。下手したら口封じされる可能性だってあるんだぞ」


 何せ聖堂騎士達が行おうとしているのはクーデター、反乱である。

 国を乗っ取ろうと考えてる奴らが、多少の犠牲を出すことくらい躊躇わないだろう。

 ましてや自分達の計画を露呈してしまう可能性が高く、戦闘能力が低いクレアは始末しやすいだろう。


 だがクレアは断固として聞かないようで、


「それでもだよ!」


「!」


「聖堂騎士はこの国を守ってくれている聖女様の護衛だよ? その人達に不穏な兆しがあるなんて、この国の一貴族として放っておけない」


「クレア……」


「それに……」


 国を支える貴族の義務以外にも理由があると語る。


「ボク、心配なんだよ。フェルト君のこと」


「……どの口が言うんだか。お前の方が囚われのお姫様だったろうが」


「そ、それはそうだけど……。ボク、不安なんだ……あの日のフェルト君を見てから……」


「あの日?」


 心当たりの無いフェルトが首を傾げて尋ねる。


「うん。あの白ローブの人と会った時のフェルト君を見てから……胸騒ぎがするの」


「!」


 フェルトは、確かにあの時の自分はあの状況に呑まれており、焦っていて不安を煽らせたかもしれないと反省した。

 実際、あの白フードの男について、口止めもするように言った手間、余計に不安にさせてしまったのだろう。


「何か、ボク達の知らないモノと戦っている気がして……」


 人の勘とは恐ろしいものだと、不謹慎ながらもフェルトは感心する。


「……悪かったな。あの時は余裕が無かっただけだ」


 勿論、本当のことなんて言えるはずもなく、あくまで砂漠地帯を歩く中で、その疲労による不安感があったと語る。


「……本当にそうなの?」


「……ああ」


 こんな付け焼き刃の言葉で拭えるほど、クレアが自分のことを思ってくれる想いは、本物なのだと気付く。


 だがそのクレアも踏み込んでほしくないということを察したのか、


「……わかったよ。それで今は納得してあげるよ」


「……ありがとな」


 本当のことは語れないんだよと、罪悪感が募るフェルトは、クレアの思いに報いるために、危険は承知で協力を仰ぐことにした。


「でもまあ折角できたチャンスだし、それにお前もこの国を想う貴族のひとりなら、確かに協力してもらうに越したことはないか」


「! ホ、ホント!?」


「ああ」


「――やったぁああっ!!」


 クレアは力になれるんだと思い、その場でぴょんぴょん跳ねて喜びをアピール。


「それで? ボクは何をすればいいの? あっ! 橋渡しをするんだっけ? よしっ! 任せて。ちゃんとローラに伝えるよ」


 任せてとドヤるクレアだが、もちろん危険度を最小限にする必要があるので、やらせることは控えめにすることにした。


「まあまあ落ち着けよ。やってほしいことなんだがな……」


 そう言ってフェルトは、周りを気にするような仕草をしながら、クレアの耳元に近付く。


「うんうん」


 クレアもやる気に満ちているのか、そっと耳を近付ける。


「『何もしない。何も知らない』をしてほしいんだ」


「うん! わかっ……らないっ!?」


 一瞬、喜んだ表情が一転、シワを寄せて疑問をぶつけた。


「何もしないをしてほしいって何!?」


「いや、だから、何もしないをしてほしい。何も知らない状態で」


「はあ!? そ、それじゃあ意味ないよぉ〜!」


 するとフェルトはゆっくり首を横に振る。


「いーや。意味ならあるぜ」


「無いよ!」


「おいおい、今の状況を考えてみろよ」


「今の状況?」


 そう言われてクレアは手を組んで考える。


「えっと……今ボク達は何かを企んでいる聖堂騎士を出し抜き、密談ができる状態である……」


「そう。その企み事を知る俺が、姫殿下に接触が容易なお前と密談しているとダミエルは考えて、今必死で探しているところだろうな」


「うん」


「そんなアイツらが俺達を見つけた時、ダミエル達はどう思う?」


「そりゃあ、フェルト君から何か聞いたんじゃないかって……あっ!?」


 フェルトは何か閃いたクレアに指を鳴らす。


「気付いたか?」


「うん! つまりフェルト君に何か聞いたんじゃないかって誤解させることが目的ってこと?」


「そゆこと」


「なるほどぉ……?」


 その目的はわかったが、クレアは再び疑問を抱える。


「それ、何か意味ある?」


 クレアからすれば、素直にエメローラに情報を提供し、聖堂騎士の悪行を暴く方が正解だと思うからこその疑問。


「あるある。俺、さっき言ったろ? アイツらの悪事は見破ったが、それを証明できる証拠が無いって……」


「うん……」


「お前がダミエルの立場だったらさ、その情報を聞いたと思われるお前にどう俺から聞いたことを聞き出す?」


「それとなーく、勘付かれないように聞き出すか、どこか裏通りにでも追い詰めて強引に吐かせる、かな?」


「つまりボロが出るってことだよな?」


「! つ、つまり証拠を出させる囮りってこと?」


「そうだ」


 クレアはかなり危険な状況だと認識したのか、息を呑むが、フェルトはそれを否定。


「まあ心配するな。奴らが手を出すことはねえよ」


「ど、どうしてそう言い切れるの?」


「アイツらは聖堂騎士で、その悪事の内容はこの国に関わる問題、つまりは国民の信頼あっての作戦。お前のようなか弱い貴族に手を出すような騎士は信頼を損なうだろう?」


「う、うん……」


「ましてやお前は姫殿下と親交が深い。そんなお前に危害を加えようものなら、王族である姫殿下に直接伝えるようなもんだ。そう考えれば百パーとは言わないが、ほぼ襲ってくるなんて強引な真似はしないさ」


「な、なるほど……」


「だからそのお前の立場を利用し、ボロを出させるよう促しながら、お前からも監視の目がいくようにする」


「な、なるほど! その間にフェルト君が別の証拠も見つけようって魂胆なんだね?」


 そう言われたフェルトは視線を逸らす。


「いや、そう言うわけでもない」


「えっ?」


「まあとにかく、奴らが目を向けなければならない対象になって、せいぜい奴らの状況をかき回してほしいのさ」


「なるほどね。だから何も知らない状態で、何もしないをしてほしいのか。そうすれば仮に捕まってもフェルト君のしたいことがバレるわけじゃないもんね」


「そういことだな」


 するとクレアはわくわくしたような子供じみた表情に変わる。


「ちょっと面白そうだなぁ! つまり悪い奴らを撹乱しろってことでしょ? ボクは何も知らないのに……」


「まあな。でも危険なことがあるのも事実だ。それも――」


「わかってるよ。ファバルス王国の暗躍の真相を知るボクだよ? 命の危険があることくらいわかってる」


 クレアはコロっと真剣な表情へと変わった。

 ちゃんと事の重大さがわかっているようだ。


「でもさ、そしたらどうするつもりなの? 奴らの悪事の証拠……」


「おいおい、それを教えたらお前の役割は無くなっちまうぞ」


「あっ!? そうだった!」


「真相はそのうちわかるって」


 するとファバルス王国でのフェルトを知るクレアはニッコリと笑い、


「期待してる! 名探偵さん」


「やめろ、馬鹿! 俺は知ってることを並べてるだけだ」


 実際、『強欲の義眼』で知っていることを並べているだけなので、罪悪感があるフェルト。


 だが一番注意すべきことは、ちゃんと教えようとフェルトはガラッと雰囲気を変える。


「……クレア」


「なに?」


「ひとつだけ、絶対注意しておくべきことがある」


「……こ、怖いなぁ。武装してる聖堂騎士より気をつけなきゃいけないのってなに?」


「――聖女ラフィとは極力接触するな」


「!」


 フェルトは知っている。

 ラフィが自分と同じ『大罪の神器』を持っていることを。

 だからこその注意喚起。


「な、何で? 確か、前にもそんなこと……? でも聖女様は関係ないんじゃ……、ま、まさか!?」


 この注意喚起で気付くことも想定内のフェルトは、落ち着くようクレアの両肩を手で押さえる。


「落ち着け。気付いたのなら、尚更俺の言った何も知らずに、何もしないをしろ。そうすれば危険は回避できる」


 クレアは無言でこくこくと頷いた。


 フェルトのクレアへの指示は、撹乱と同時にクレア自身を守る指示でもあった。


 今の聖堂騎士にリスクを冒す余裕はない。

 何せ、王都に来ているメンバーの少なさは勿論、王都である以上、戦力差は歴然でもある。

 それをわかっているフェルトは、クレアに何も教えないということで、仮に聖堂騎士から『傲慢の左足』を使ってまで自白させられても知らないのなら、下手に危害は加えないだろうと考える。


 少なくとも知っているよりはマシなはずだと。


 とはいえ『傲慢の左足』が強力であることを知るフェルトとしては、しなければならない注意喚起だった。


 するとそれを察したクレアは少し落ち込む。


「ご、ごめんね。ボクがこんな行動を取らなかったら、ここまで気を遣うこと、なかったんじゃない?」


 するとフェルトは鼻で笑う。


「まあそうだけど、なっちまったもんはしょうがねえし、せいぜい利用するさ。それに今回のことが無くたって、お前には多少の警戒はされただろうよ」


 今の状況ほどじゃないがなと、軽く笑った。


 そう深刻に言わないフェルトに救われたクレアはニコっと返すように軽く微笑む。


「ありがと」


「おう」


 フェルトはそれにしても見つけてくれないなと、裏路地をキョロキョロする。


「しかしま、あんな人混みのせいか、中々見つけてくれないな」


「ま、その方がいいよ。そうして焦燥感を駆らせて、想像を駆り立てるのが目的なんでしょ? この悪い子ちゃんめぇ〜」


「いやいや、そのきっかけを与えたお代官様ほどじゃあないさ」


「お代官?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げるが、


「ああ、気にすんな。共犯者だろっていう、比喩的な意味で言っただけだ」


「共犯者、か。協力者じゃないんだ」


「実際、奴らを騙すんだ、ちょっと悪い方がドキドキするだろ?」


「……! うん!」


 ふたりだけの秘密という感じで、高揚感に溢れた返事をした。


 すると、


「み、見つけたッスよ……」


「およ?」


 先にたどり着いたのはレックスだった。

 血眼になって探していたのだろう、かなり必死な息づかいをしている。


 するとドカドカと近付いてくるレックスは、必死になり過ぎたのか、


「フェルト・リーウェン! 余計なことは言ってないッスよね? それとも何か話したッスか!?」


「はあ?」


 あっさりとクレアの前で隠し事をしていますと猛アピール。


 あまりの余裕の無さにフェルトは同情すら感じてしまった。


「どうなんッスか!?」


「おいおい……」


 するとクレアがニンマリと口元を緩める。


「ええー? 何かぁ、ボクの知らない隠し事でもあるんですかぁ?」


 まるで実は知ってますよーっと煽るように語ってみせると、余裕の無いレックスは焦り始める。


「えっ!? あ、いや……あれぇ?」


「ええー? ボクにもぉ、わかるように教えてほしいな? 隠し事なんて嫌ーい」


「えっ!? いや、えっ!?」


 レックスは元々頭の回らなさそうな奴ではあったが、ここまで翻弄されるとはと、フェルトは苦笑い。


 すると、


「――いでぇ!?」


 レックスに向かって渾身のゲンコツが与えられた。


「何をしている! 見つけたなら、即時報告せよと言ったはずだ!」


「サ、サーセン!!」


 遅れてダミエルも到着。


「おおー、兄貴。俺に悪い虫がついてないか、そんなに心配してたのかーい?」


「……そのネタはもうやめてください」


 そう語るダミエルは、チラッとクレアを見ると、


「勝手な真似は慎んでもらいたい。ブラックギルドがどこから貴方を狙っているのかわからないのですよ」


「過保護だねぇ……」


「アレクベート嬢もです。貴方も幼い頃より、誘拐などあったとも聞いています。ましてや先日もあったでしょう? 攫われるリスクのある行動は慎んでもらいたい」


 そう注意を受けたクレアは悪ふざけに、


「過保護だねぇ……」


 フェルトと同じセリフで返すと、ギロリと目力込めて睨む。


「――! ご、ごめんなさい……」


 本気で心配もされたんだと、しゅんと落ち込んだ。


 だがダミエルの本心はやはり違うのだろうと、フェルトは思う。

 本心としてはやはり、クレアに何か吹き込まれたのではないかと強い警戒心を覚えているようだ。


 するとそのダミエルはレックスに耳打ちする。


「お前もお前だ。余計なことを口走るな! 知られている可能性が極めて高いとはいえ、自白しようものなら本末転倒だろ」


「す、すみません」


 レックスもクレア同様にしゅんと落ち込んだ。


「まあまあダミエルさん。無事だったんだから、良かったでしょ? それぐらいにしてさ……」


「貴方という人は……! まったく……」


 注意しても無駄だと悟ったダミエルはひと息吐くと、


「それで? ふたりきりのお時間を過ごされたようですが、これからどうなさりますか?」


 あくまで何も後ろめたいことがないように、クレアの前ではそう振る舞う。


「ごめんなさいって。そんな拗ねないで下さいよ。でもそうだなぁ……フェルト君、どこか別のとこ行く?」


「……そうだなぁ」


 するとフェルトは買い出しのメモを取り出す。


「ちょっと買い物がしたいが、いいか?」


「ちょっ、ちょっと! ボク達がいるのに、今晩の買い出し?」


「そりゃあな。夜会のあるお前さんと違って、俺達は自炊の身なもんで……」


 そんな意地悪を言うと、クレアは少し不機嫌そうにするも、


「わかったよ! お付き合いしまーす」


 そう言って、腕を組んできた。


「おいおい……。歩きにくいだろ?」


「感想それ? もっと喜ぼうよ」


「あー……ヤワラカイモノガアタッテ、ウレシイナー」


「ちょっと! 棒読みは酷い!」


 フェルトは悪い悪いと笑った。


「というかお前。夜会の準備はいいのか? ドレスとか着るんだろ?」


「まだ平気。買い物くらい付き合えます」


「ふーん」


 するとフェルトはクレアを囮りに使うのだからと、夜会について、ダミエルに聞こえるようにクレアに尋ねる。


「そういえば今日の夜会、他に誰か参加するのか?」


「ローラ以外? うーん……王都にいるほとんどの貴族は参加するんじゃないかな? 何せ聖女様と仲を取り持っておきたい貴族は大勢いるからね。ボクだってお父様にそう言われてるし……」


「だったな。てことはヘヴンのヤローも参加するのか?」


「するんじゃないかな?」


「そっかそっか……」


 フェルトはそう言いながら、煽る視線をチラッとダミエルに向けた。

 見張る相手が多くて大変だなとでも言いたげな。


 それを悟ったダミエルは眉間にシワを寄せる。


「しかし、貴族ってのは面倒だねぇ。他人様との関係をこれでもかってほど気を付けなくちゃあいけねえからな」


「まあね。ボクも本当は面倒だから、テキトーにやってくるつもり」


「おいおい、それはいいのか?」


「うーん……お父様には渋ーい顔、されるけどね」


 ふたりは楽しそうに笑い合う。


「ま、せいぜい頑張ってくるこった。俺達下々の者はひっそりと夜を過ごさせてもらうよ」


「お友達とでしょ? そういうワイワイやれる方が羨ましいよ……」


 ふたりは他愛無い会話を続けるが、ダミエルとレックスの内心はそんな和やかなふたりを暖かい目で見れることはなく、そのあとの買い物にも余裕の無さからか、指摘していたはずのダミエルも、無意識的に警戒心がこもった視線を向ける続けていた――。


 ***


 ――そして夜会があるクレアを早めに貴族女子寮に送り届けたフェルト。


 クレアは足早に寮内に戻ると、メイド達に焦り気味に準備を迫られており、フェルトは苦笑いで見送った。

 そしてダミエルは結局、何もできなかったと悔しそうに女子寮を見つめている。


「おいおい、ダミエルさんよぉ。いくら溜まってても未成年の女子にそんな熱のこもった視線送ってんじゃねえよ」


「……! んっ! 誤解を招く言い方はやめてもらいたい」


「そお? じゃあ戻ろうか」


 するとダミエルはペコリとお辞儀をする。


「いや、大変申し訳ないのですが……」


 ダミエルは離れるような口ぶりをしたので、


「おいおい」


「!」


「あれだけブラックギルドがどうとか言ってたのに、まさか離れるなんて言わないよなぁ?」


「!!」


 フェルトは先手を打つ。

 クレアが与えた状況を最大限利用するために。


「ちゃーんと護衛してくれよ? 優秀な聖堂騎士様ぁ?」


「……き、貴様ぁ……」


 するとフェルトは不敵な笑みを向ける。


「おいおい。下手なことして勘付かれたくないだろ? 優しさだよ、優しさ」


 フェルトはそう言いながら手をヒラヒラさせて、ふたりに戻るよう促すと、


「……くっ」


 確かに下手に行動はできないと、ダミエルは懐から通信用の魔石をチラッと確認しながらも、渋々ふたりはフェルトと共に男子寮へ戻っていった。

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