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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
82/177

21 ふたりっきりのデート?

 

「おっまたせっ!」


 明るく呼びかける声が聞こえる。

 この日を楽しみにしていたのか、弾んだように聞こえた。


「ご機嫌だな、クレア」


「まあね。それより、どうどう?」


 クレアは普段は見せない私服姿をヒラヒラと披露してみせる。


 フェルト達が待ち合わせた広場には、大勢の人達がごった返している。

 それを想定してか、動きやすくも可愛いげのある白を基調のに、肩出しでフリルが多くあしらわれた服装に、ミニスカートの組み合わせ。

 貴族嬢にしては少し肌の露出は多いと思ったフェルトだが、


「とても良くお似合いですよ。お嬢様」


 と、少し揶揄い気味に褒めてみせると、少しむくれるクレア。


「もうちょっと普通に褒めてほしかったなぁ」


「そいつは悪かったな。……それで? チェンナの奴は何処に……?」


 フェルトは聖女祭初日、ふたりからデートして欲しいと言われ、寮内のヤロウ共と回るのは別日でもいいだろうと、特に断らなかった。


 するとクレアが嬉しそうに笑う。


「それが聞いてほしいんだよ! 実はね……」


「ほうほう」


「楽しみ過ぎたせいか、高熱出して寝込んでるんだって!」


 それを聞いたフェルトは色んな意味で苦笑いを浮かべた。


 先ずはチェンナに対し、遠足を楽しみにし過ぎて、熱を出した子供みたいだと思ったこと。

 そして、それを嬉しそうに語るなとクレアにツッコミたかったと思う。


「迎えに行ったら、そう言ってたよ。だから今日はボクとふたりっきりのデート……」


 そう嬉しそうに語るクレアだったが、フェルトがちょいちょいと親指で後方を指した。

 そこには澄ました顔でお辞儀するダミエルと、申し訳なさそうにお辞儀するレックスの姿があった。


「えっ……?」


「残念。ふたりっきりではないな」


「はあ!? な、何で!?」


「俺もヤロウの護衛ふたりなんてつけたくないって、言ったんだが、どうしてもって聞かなくてな」


「当然です。今日からが聖女祭本番。つまりは護衛の効果もここからが本格的に発揮されるところ。貴方達には申し訳ありませんが、お命には変えられませんので……」


「だぁーってさ」


 するとここからクレアとダミエルの激しい問答のラリーが繰り広げられる。


「貴方達がどうしてフェルト君を護衛してるのかは知ってるけどさ、聖堂騎士が本当に護衛しなきゃいけないのは、聖女ラフィ様だよね!?」


「そこはご安心を。団長であるアスベルが行なっております」


「いやいや、そうかもしれないけど、ブラックギルドがフェルト君でなく、聖女様に向かったらどうするのさ!?」


「それは無いでしょう。有名なブラックギルドは国政には興味はないはずです。それに関わっている聖女様を狙う理由がありません。リーウェン様を狙う仇討ちの方が余程可能性があります」


「でも! フェルト君はあのヤバいブラックギルドの暗殺者を退けたし……」


「結構ギリギリだったと本人から聞いていますが?」


 クレアはギッとフェルトを睨むと、フェルトはサッと視線を逸らす。


「まあそう睨むなって。お前だって、俺がギリギリだったのは見てたろ?」


「そ、それは……」


 実際、クレアは現場にいたため、強く否定することはできなかった。

 そんな残念そうにするクレアに、フェルトも護衛を断念するよう言い聞かせたと語る。


「俺だってさっき言った通り、こんなヤロウふたり連れたくはなかったし、お前やチェンナのことも考えるとまあ、いない方がいいだろうと、お前と同じ問答をしたが、同じように返ってきたよ」


 するとクレアは、ダミエルにジトーっと視線を送る。


「このお邪魔虫!」


「何とでもどうぞ」


 ダミエルはスンと澄ました表情を変えない中、横にいるレックスはよくやるよと半笑いしていた。


 そんなダミエルの内心は、誰が監視外に置かせるものかと考えている。

 フェルトが誰かと付き合っているという話は聞いていなかった。

 つまりはこのデートはあくまで女の子と遊びに行くというだけのもの。

 それならば今、注目を浴びているフェルトにとって、そんな安易なデートは、下手な評判を作ってしまい、印象が損ねたり、貴族嬢に下手に手を出す男なんてレッテルを貼られる可能性もある。

 何せフェルトは平民であるからだ。


 だがそれでも受けた理由としては、やはり王族と強い伝手のあるクレアに接触し、エメローラを通じて情報を流すためだろうと判断できる。

 しかも女の子とのデートならば気を遣えと言われれば、ダミエル達の心境としても複雑になり、護衛を断る算段もあると考えられた。


 だからダミエルは心を鬼にし、しがみついてでも護衛という監視をしようと決意したのだった。


「諦めろ、クレア。その人、結構頑固だぞ」


「うう〜〜〜〜」


 だがダミエルの考えもわかっているフェルトとしては、正直、どちらでも良かったりする。

 護衛が離れれば、勿論クレアにエメローラに伝言があると聖堂騎士のことを伝えれば良い。

 護衛があっても、フェルトはもう種を蒔き終えているから、手遅れだけどなと思う。


 するとクレアは、テコでも動かなさそうなダミエルを見て、ガックリする。


「……わかったよ。仕方ないね」


「いいのか?」


「いいよ! 折角来たのに、すぐ帰るのも癪だし……」


 するとフォローのつもりなのか、ダミエルは、


「一応、邪魔にならない程度の距離は保っておきますので、ご安心を……」


「――いるって時点で邪魔でしょうが!!」


「た、確かに……」


 いるって認識できていると、逆に意識が向いてしまうよなとフェルトは苦笑いした――。




 ――聖女祭は一日目を迎える。


 この開催を記念し、王城広場前では演説もあったりし、王族と共に凱旋パレードなども行われた。


 一回やっただろと、フェルトが心の中でツッコミはしたが、この二回目のパレードは王族と聖女が友好的な関係であるということを示すものだとすれば、どちらにも理はあり、納得できるものと捉えられる。


 だがフェルト達はそんなパレードを観ることはなく、大通りの方で出店を見ていた。


「結構、たくさん出店してんだなぁ」


「そりゃあね。オルドケイア全域から商人が来るんだもん、突然じゃない?」


「そんなもんか……」


 商人達にとって、聖女祭に出店することには意味がある。

 この国を守っている聖女に商品を気に入ってもらえれば、注目を浴び、一攫千金が狙える可能性がある。


 そのため、普段見かけないような商品が陳列され、そういう影響もあってか、普段できない買い物を楽しむこともまた狙いだったりする。


「ほら! アレとか面白そう!」


 そうはしゃぎ、出店に向かうクレアは中々可愛げがあり、本当は別の意味でダミエル達をつけさせたくなかったが、


「ホント、アンタ達ってお邪魔虫だな」


「何とでも」


「この光景、男なら中々楽しいもんなんだけど、アンタらがいるせいで台無しだな」


「何とでも」


「……」


 本当にテコでも動かないくらいに動じないダミエルに、さすがのフェルトも面白くないと拗ねている。


「ねえ! フェルトくーん!」


「はいはい!」


 呼び出された先の出店に向かうと、


「これ、何だろ?」


 綺麗だけど何、と首を傾げるクレア。

 それは箱の中に割れないよう、陳列されたレンズのようだった。


「これは……レンズか?」


 すると店主がその通りと手を叩いた。


「おっ! 兄ちゃんわかるのかい? これはカラーレンズだよ」


「カラーレンズ?」


 ――ああ、カラコンね。


 フェルトはあっさりそう思ったが、やはり珍しいのかクレアは首を傾げた。


「そうそう。これを瞳につけることで眼の色を変えるもんでな。魔法が使えない人にでも眼の色を変えられるんですぜ」


「へえー……」


 関心はあるようだが、クレアは自身の魔法で眼の色を変えて、魔眼であることを隠している。

 あまり必要ないように思う。


 するとフェルトとクレアを見て、店主が尋ねる。


「それよりおふたりさん、デートですかい? 確かにこのあたりは珍しい商品も並んでますからねぇ。中々新鮮でしょ?」


「まあな。保護者付きじゃなきゃ、もっと良かったかもな」


「ほ、保護者?」


 そうポカンと尋ねる店主にわかるよう、後ろにいるダミエル達に指差す。

 そして店主は当然の疑問を呟く。


「保護者って……あの制服、聖堂騎士様だよな? 確か、聖女様の護衛部隊の……」


「そうだよ」


「それが何で……?」


 店主は確か向こうで聖女がパレードをしてたよなと、首を傾げる。


「まさか! アンタら、聖女様と色々関係ある方とか?」


「テキトーな推理だな。違えよ。うちの兄貴が心配性でな、悪い虫がつかないか、見張ってんだよ」


「……あのさ、その言い方だと、ボクが悪い虫になるんだけど? 普通逆じゃない?」


 ダミエルからすれば、意味合いを解釈すれば、フェルトの言っていることは色んな意味で事実である。


 でも店主は色黒のダミエルを見て、


「随分と似てない兄弟だなぁ。それとも向こうの若い兄ちゃんかい?」


「いや、色黒の方であってる。年も結構離れててな。ちなみに俺は母親似で向こうは父親似。兄貴の色黒は爺ちゃんの遺伝だな。そうだったよな、兄貴?」


 割とすんなりと答えるフェルトを見て、店主は勿論、何故かクレアも本当のことではないかと思い、


「えっ……? も、もしかして、本当にそうなの?」


 不安そうに尋ねるクレア。

 するとその対象となっているダミエルは、呆れてため息を吐く。


「リーウェン様、あまりテキトーなことを言わないで下さい。おふたりとも勘違いされているじゃないですか」


「そう? 前半部分は間違ってねえだろ? 俺にたかる悪い虫には困るんだろ?」


「……」


 図星を突かれたのか、一瞬黙るダミエルだが、


「この方はとある理由からお守りするよう、聖女様より(めい)があったまでのこと。それ以上をお話するつもりはありません」


 それらしいことを言って誤魔化した。


「おいおい、あんまりテキトーなこと言うなよ」


「貴方に言われたくありません」


「まあまあ、俺が悪かったよ。もう余計な詮索はしねぇから、まあ見てってよ」


「見てけって言ってもなぁ……」


 カラコンなんて興味無いと顔に出ていたのか、店主が説得に入る。


「いやいや、兄ちゃん。あんたのその左目、義眼だろ?」


「ん? まあ、そうだな。よくわかっ……いや、こんな商品扱ってるなら、わかるか」


「まあね。ウチは高いが義眼も取り扱ってるからねぇ」


「へえ……」


 しかし、出店に出ている商品にそれらしいものは見当たらない。


「はははっ! ここには出張で来てるんだ、魔眼なんて高級品、そうそう持ってはこれないよ」


「ああ、本店にあるのね」


「そうそう。このカラーレンズはその分、コストも売値もいい感じで調整が効くんでね。今日はコイツらが主役さ」


「どうして義眼よりもいいんです?」


 クレアがキョトンとして尋ねるので、フェルトがわかる範囲で推測を語る。


「義眼はコストがかかるのはわかるよな?」


「まあ、そうだろうね」


「このカラーレンズは、まあ義眼に比べれば明らかにコストは低いだろう」


 それはわかるとクレアも頷く。

 クレアの疑問はこれがどうして売れるのかということだろう。


「そしてこのカラーレンズが売れる理由としては、オシャレもあるだろうが、一番は簡易的に義眼を果たしてるんだろう」


「ほう……」


「簡易的な義眼?」


 その答えに店主は感心する。


「このカラーレンズ、魔力を感じる。正直、その色に見えるよう、施されてる付与魔法だと思ったが、おそらくかなり微弱だろうが、視力系の強化魔法を施してあるんだろう」


「視力系って言うと、遠見とか透視とか?」


「まあそれの微弱版だろうが、無いよりはな」


 すると当たっていたのか、店主は指を鳴らした。


「いやぁ、ご明察! 凄いね、兄ちゃん!」


「義眼にも付与魔法をつけて、価値を上げたりするらしいから、義眼を普段から売ってるなら、このレンズにも同じ仕様くらいするかもって思っただけさ」


「その通り! 勿論、薄いレンズだから、付与する魔法は兄ちゃんの言う通り、微弱なもんだが、それでも十分なもんでね。それにこの着色は魔法によるものじゃないんだ」


「! それはどういう……?」


 すると店主は自分の口元に人差し指を置く。


「そいつは企業秘密ってやつさ。ただひとつ言えるのは、職人って奴らは侮っちゃダメだってことさね」


「なるほど。つまりは特別な素材をアンタは確保するルートがあり、その特別な素材を扱える特別な職人さんがいて、その技術で成り立ってるってわけか。それでこの聖女祭に売り込んできたのは、その技術の宣伝ってところかな?」


 そうフェルトに言われた店主は、こりゃ参ったと頭をかいた。


「いやぁ、兄ちゃん。アンタ賢いねぇ〜。まあ詳しくは話せないが、まあそんなとこだよ」


「ほえー、さすがフェルト君」


「……」


 クレアは感心、ダミエルは眉間にシワを寄せている。


「しかし、兄ちゃん。俺が特別な素材を入手できるなんて、よくわかったな」


「アンタ言ったじゃないか。この色とりどりのカラーレンズの着色表現は魔法ではないってことと、それは職人の技術でできたものだって」


「た、確かに言ったが……」


「先ず、魔法でないって発言。それはアンタがこのレンズを加工する際、こういう色が出るってわかってたことになる。じゃあそれをどこで知るか……。はい! クレア君!」


 フェルトはビシッとクレアを指差す。


「は、はい!? え、えっとぉ……職人?」


「その通り。おそらくアンタはこのレンズの元の素材を職人に持っていき、そこでこんな風に加工できることを知った。つまりアンタの発言から『職人』って言葉と『魔法ではない』って言葉を解釈すれば、アンタは特別な素材を確保して、この商品を提供してるってことになるわけだ。アンタは商人だし、義眼を作ってるのがそういう職人なら、伝手もあるって考えれば、簡単だろ?」


「なるほど……」


 店主はしてやられたと、自分の発言に反省する。


「いや、ホントに参った。迂闊な発言はするもんじゃないな」


「まあ、その職人が誰かとは知らないんだ。別にいいんじゃねえか? それに宣伝目的なら多少は知られても問題ないんだろ?」


「そこまでお見通しか。やれやれ……」


 ダミエルは先程より、更に厄介だろうと認識するように、眉間にシワを寄せた。


「それで? 話が大分逸れたが、俺にそれを勧める理由は?」


「おいおい、そこまで推理できて、そこはわからないのか?」


「わかんねーから聞いてんだろ?」


「簡単さ。やはり近くで見れば義眼ともわかるが、そのオッドアイは魔眼持ちと誤認されてもおかしくはねえ。その対策にどうだってことさ、兄ちゃん」


「なるほど。でもそのレンズ、義眼に対応してんのか?」


「当たり前だろ? 俺は義眼を取り扱ってる商人だぜ? そこは抜かりない。つか、そこもわかるだろ、兄ちゃん」


「いやぁー? あくまでそのレンズは眼球専用かと固定概念を持っててな」


「まあ、それはわからないでもないか」


 とはいえ、フェルトの義眼は『大罪の神器』であるため、あまり変なことをしたくないのも事実。


「心配して勧めてくれるのは有り難いが、間に合ってるよ」


「そうかい? なら姉ちゃん!」


「ボ、ボク!?」


 クレアは魔眼の話題も出たためか、バレたのかと露骨に驚く。


「どうだい? 自分の眼の色を変えてイメチェンなんてさ」


「イ、イメチェン?」


「そうさ! これは元々貴族さん方の装飾感覚のもんでな。自分の服や宝石に合うような眼の色にしたがる連中は結構いてな。オシャレアイテムとしても起用されてんのさ」


 するとダミエルは心当たりがあるようで、


「そういえば先日のパーティーでもそんな話題がありましたっけ……?」


「ああ、聖堂騎士様は貴族様だからな。お嬢様方のウワサの元になってたのかな?」


「おそらく……」


 ダミエルの反応から、何だかラフィもそんな我儘を言っているような気がした。


「姉ちゃんの眼の色、もっと綺麗なものにしてみないかい?」


「で、でも……」


「なぁに。確かにこのレンズは直接付けるもんではあるが、魔法の補助もある。痛みは無いし、瞳にもフィットする優れものさ」


 フェルトは、それは便利そうだと感心する。


「どうだい? どうだい?」


「え、えっとぉ……」


 クレアが珍しく押されている。

 店主の商魂に押されている印象。

 ごり押されそうなので、フェルトはいっそのことと提案する。


「なら俺が買ってやろうか?」


「! フェルト君!?」


「おっ! 兄ちゃ〜ん」


 店主が茶化すような言い方をしてくるが、無視して理由を語る。


「あのふたりを止められなかったお詫びとデート記念ってことで……。まあそれがレンズってのは洒落っ気がないけどな」


 だが魔眼を隠すことができる物としては、クレアへのプレゼントには悪くないのではと思ってもいる。


 するとクレアは嬉しそうにニッコリ笑う。


「ううん! 嬉しいよ! ありがとう!」


「……どういたしまして」


 そう言ってフェルトとクレアはレンズを手に取り、品定めを始める。


「この色なんてどうかな?」


「おじさん。これ試しで付けられるのか?」


「うーん。そいつはちょっとな。まあ鏡があるから、それで確認してくれ」


 そんなデートっぽい感じの買い物をダミエルとレックスは監視し続ける。


「何やってんスかね。俺達」


「監視だろ?」


「いや、それはわかって――」


 するとダミエルは、キッと怖い顔でレックスを睨む。


「しっかり監視しろ」


「!!」


「……お前はさっきの推理を聞いていなかったのか?」


「え、えっと店主がどうのって話ッスよね?」


「ああ」


「き、聞いてたッスけど、それが……」


「だとしたら、そんな油断は捨てることだ。あれだけの少ない情報で核心に迫れるんだぞ。俺達だってどうやって出し抜かれるのか、わかったもんじゃない。俺達にも理解できないルートがあったらどうする!?」


 レックスは、フェルトの店主の話でさえ、ついていけなかったのだ。

 明らかにフェルトの方が賢いため、出し抜かれるという指摘はまったく否定できなかった。


「す、すみません……」


「フェルト・リーウェンより物事を考えられないなら、せめて視線だけでも逸らすな。その監視の目でフェルト・リーウェンの動きを封じろ」


「は、はい」


 ダミエル達からすれば、この聖女祭からが本番。

 部下の気の緩みを叱咤することも必要だろうが、緊張感がなさ過ぎると呆れもする。

 だがそれもここまでの長期任務を、しかもレックスは正規の聖堂騎士ではなく、ラフィの趣味で採用された聖堂騎士。

 つまりはダミエルのような教育は受けておらず、騎士としての任務など、むしろ続けられる方が奇跡と呼ぶべき状況だったりする。


 そんなふたりからの視線が気になるクレア。


「お待たせ。じゃあ行くか」


 フェルト達は商品選びが終わり、買い物が終わったことをダミエル達に報告すると、再び出店を見て回る。


「つか、その色で良かったのか? もっと珍しい色合いのヤツもあったろ?」


「そうだけど、これでいい。それよりフェルト君は選ばなくて良かったの?」


「俺は別にいい」


 こんな他愛無い会話をしていても、後ろのふたりの視線が刺さるように気になるクレア。


「……」


「……? どした?」


「いや、ちょっと過剰過ぎるんじゃないかと思って」


「護衛か? まあな。でもそれぐらい必要なんだろ」


 フェルトは何でもないと軽く扱うが、クレアは疑問に思うことがあった。

 ふたりの護衛の様子はおかしいと。


 フェルト達の前に集団が見えてきた。


 すると、


「――フェルト君! こっち!」


「へ?」


 クレアはフェルトの手を掴み、その集団になっている人混みに突っ込んだ。


「「!?」」


 不意をつかれたダミエル達は慌ててその集団に突っ込んだ。


「くそっ!?」


「嘘ッスよね!?」


 聖女祭はダミエル達には悪い意味で盛況であり、この長く続く集団の人混みはパレードの帰りだということが、周りの会話からもわかった。


「レックス! 早くふたりを探し出せ!」


「わ、わかってるッスけど、こんな人混みじゃあ……」


 ダミエルは周りを見れど、ふたりの人影はない。


「マズイ! あのふたりを放置しては……! くそっ! まさかあの女からこんな行動に出るなんて……!」


 ダミエルが不意をつかれたのは当然だった。


 あくまで警戒していたのはフェルトの方であり、クレアはあくまで巻き込む側だと思っていたからだ。

 この突発的な行動を取るなら、フェルトだと睨んでいたダミエルは、フェルトに対する視線を逸らすことはなかったが、その隣にいるクレアへの注意は完全に怠っていた。


 それは当然のこと。


 クレアは聖堂騎士の本当の目的など、ダミエル達が調べた経緯では知るはずもないからだ。

 だからこんな行動に出る動機もわからないでいる。


「くそっ! どこだぁ! フェルト・リーウェン! クレア・アレクベート!」


 そう叫んで呼びかけるダミエルに、ふたりが答えることはなかった。

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