18 親友との再会
――学校が聖女祭の準備期間でお休みの中、ヘイヴンに久しぶりに会ったその次の日、フェルトは再び買い出しを聖堂騎士のふたりを引き連れて、市場へ訪れていた。
千切ったメモを片手に。
「また買い出しッスか?」
「材料をストックしてるわけじゃねえからな」
「すればいいじゃないッスか!?」
レックスはまた荷物持ちは嫌だとごねるが、
「あのな。そもそも平民の男子寮にそんなことするような物好きはいねーよ。何だったら今まであのキッチン、使われてなかったらしからな。あの保冷箱だって俺が作ったんだぞ」
貴族寮や女子寮なら料理をする人がいたり、その使用人などがキッチンを使ったりすることがあり、管理されていることはあるだろうが、平民男子寮にそんな文化があるはずもなく、フェルトが手をつけるまで、手洗い場くらいに使われていたくらいだった。
そのためキッチン周りのものの設備等が整っているはずもなく、他のところより保管設備等も欠けている。
そのため、食材の買い出しなどは頻繁に行われている。
といっても寮で生活しており、みんなに料理を振る舞っていることから、フェルトのみが行なっているわけではないが、今回は味見役も増えたとのことで、フェルトが聖女祭までの間、買い出しを行なうとのこと。
そのため、必然的に護衛であるふたりも同伴ということになる。
「それとダミエルさんならまだしも、おかわりまでするアンタに文句言われたくない」
「え"っ!?」
「リーウェン様の仰る通りだ。お前は文句を言う筋合いはない」
「へ、へーい」
「だからこそ疑問だよ。アンタは文句言わないんだな?」
「……聖女ラフィの我儘に比べれば、天と地ほどの差ですよ」
それを聞いたレックスは、その通りだと同意の苦笑いをした。
「やっぱ、大分我儘なんだな」
「ええ。とても子供っぽくていらっしゃる。だからあんな煽り方をしたんでしょ?」
あんなというのは、おそらく性癖暴露のことだろう。
「ガキには刺激が強過ぎるたか? 俺からすれば、アレでも十分ガキの話だぞ」
中学生のエロガキトークでももう少しディープな内容が出てきそうだと笑う。
「まあ男性と女性では受け止め方も違いますから、一概にもリーウェン様の意見が正しいとは思えません」
「まあそれも一理あるか」
「しかし、お陰でご機嫌取りも大変なようで。アスベルに報告に戻った時、頭を抱えていましたよ」
「はは。そりゃ難儀なことしちまったな」
フェルトは悪びれる様子もなく、ヘラッとそう語った。
「……他人事だと思って……」
「他人事だろ? 俺は直接、聖女様とは関係ねえし」
思わずダミエルは大きなため息を吐いた。
原因がフェルトにある以上、多少なりとも罪の意識は持ってほしいとのため息だろう。
だがフェルトとしては、アスベル側の陰謀を崩すための布石として投じたまでのこと、ラフィが機嫌を損ね、アスベルがそれに対応しているなら、人員が割かれてよいことだ。
「つーか、そのご機嫌取りの聖女祭だろ? そして……」
商業区にいるフェルトはそのシンボルを見る。
「そのための見世物だろ?」
それは闘技場だった。
フェルトが指しているのが、聖女考案の武闘大会だと察したダミエル。
「まあ、その通りではありますが、最終日まであの状態というのも困ります……」
「ああ、一日目と二日目のイベント等に影響を及ぼすってか?」
「ええ。二日目はご存じと思いますが、聖女の儀式が行われます」
「……それのフリね」
フェルトがそうボソッというと、ダミエルにキッと睨んでくるが、こほんと咳き込み、正面に向き直す。
「……とにかく、あまり機嫌を損ねた状態で民衆の前に出るのは困るんです」
「まあそうだわな。国の象徴にしようとアンタ達が担ぎ上げようとしてるのに、その本人が情緒不安定じゃなぁ……」
「多少はその責任を感じてほしいものです」
「なら安定的な方を元に戻しゃあいいだろ?」
今度はフェルトが眼光を効かせる。
あくまでお前達の目論見はわかっているとでも言いたげな視線を向ける。
「……それができれば苦労はしません。あの奴隷聖女はもう表舞台には出られない。そう、こちらで仕向けてしまっていますから……」
「はっ! 神に仕える聖堂騎士が聞いて呆れるぜ。やってることは悪魔だよ」
それを聞いたダミエルはやはり全てを理解しているのだと、改めて警戒感を募らせた。
そう警戒心を強めた視線を感じたフェルトは、悪戯っ子のようなニカッとした笑顔を向けた。
「そう警戒しなさんな。何もしねーよ」
「本当ですか?」
「さあ? でも今のところ、何もないだろ?」
「……」
ダミエルは確かにと思い出してみる。
昨日、接触したヘイヴンは警戒すべき人物であったが、フェルトとした会話の内容は他愛無いものであり、特筆して警戒するような内容ではなかった。
何かを渡す素振りもなく、違和感を感じるほどに何もなかった。
何かあっても不思議ではなかったというのにと、ダミエルは尻尾を出さないフェルトに痺れが切れそうになる。
「貴方の本当のねら――」
「――だぁああああーっ!! どうしてダメなんだよ!?」
ダミエルが尋ねようとした時、それを遮るほどの叫び声が聞こえた。
振り向く一同だが、フェルトには聞き馴染みのある声だけに、少し心が弾むようにその声の方へと向かう。
「やっぱり……!」
フェルトの嬉しそうな視線の先には、闘技場前で文句を言っている少年と、顔立ちの整った白銀の鎧を纏った青年、そして手入れのなってない黒髭が特徴的な大柄な男性がそこにはいた。
その中の少年が理不尽だとごねている。
「何でこの聖女杯がイケメン限定なんだよ! それ、実力関係あるかぁ?」
「確かにな。俺も参加して賞金が欲しかったが、やはり無理か」
黒髭の男も理不尽だと落ち込んでいると、参加が許可されたのだろうか、三人の中では唯一イケメンの白銀鎧の青年がふたりを煽るように語る。
「まあまあ……。生まれ持った才というのが評価されるのが、何も秘められたモノだけでなく、目に見えるモノもだったというだけ。そうじゃない、かな?」
そう言いながら白銀鎧の青年はウインク。
ふたりはムカつくと反論しながら、揉めていると、
「何騒いでんだ? ディーノ」
「何って……フェルト!?」
文句を言っていたのはディーノだった。
そのディーノもフェルトに呼びかけられ、機嫌は反転する。
「おおっ! 久しぶりだな! フェルト!」
「ああ。元気そうだな」
そんな顔馴染みの様子にダミエルが尋ねる。
「リーウェン様、その方は……?」
「ん? ああ、俺と同じヴァース村出身の幼馴染のディーノだ」
「よろしく!」
「幼馴染、ですか……」
「おう」
ダミエル自身、フェルトの村について調べていた際、数少ないフェルトと同じ歳の子供として情報があったと思い出す。
一応の警戒はすべきかと認識する。
すると今度は、ディーノと一緒にいたふたりが尋ねる。
「お、おい、ディーノ。今お前、フェルトって言ったよな?」
「ああ。言ったぜ」
「てことは、あのウワサのフェルトか?」
ウワサという部分に首を傾げるフェルト。
するとそれを確認するように、ディーノがフェルトを問い詰める。
「そう! そのウワサだ、フェルト! お前、ブラックギルドとやり合ったってホントかよ!?」
「あ、ああ」
「何だよぉ! だったら俺も呼んでくれれば良かったのにぃ〜!」
悔しそうに落ち込むディーノを見てフェルトは、確かに戦力的な面を強固にするなら、子供の頃から共に切磋琢磨してきたディーノの方が圧倒的に信頼できるものだったと思うが、
「状況が状況だったんだ、悪いな」
「状況?」
「そ。当時は姫殿下達が攫われてから、かなり時間が経ってたし、救出が遅れることは避けたかったから、あの面子でいくしかなかったんだよ。実際、ユクシリア大陸目前だったことから、俺達が救出に行ったタイミングでもギリギリだったんだ、お前を呼んでる暇はなかったよ」
「そっか。そういうことなら仕方ないな」
ディーノはフェルトとの付き合いも長いためか、フェルトの言い分には物分かりが良く、あっさりと納得した。
すると質問していたふたりがウワサのフェルトだと知ると、興味を持ったように好意的に接してくる。
「はぁー、アンタがウワサのフェルト・リーウェンか。話には聞いていたが……」
「こんな彼があのシギィとやり合ったなんて、凄いじゃないか」
「それ、どこ情報です?」
一応、一般的にはヘイヴンの功績だと毎度思うのだが、フェルトの相手にしてる連中は聖堂騎士だったり、王族と繋がってる人物だったりと裏から情報を得ることが可能なことが多い。
そして彼らは冒険者。
この職業のことは、元冒険者が多い村出身のフェルトからすれば、わかりきっていたことではあるが、一応尋ねてみるが、
「フェルト、冒険者の情報網は甘くねーぞ」
「だろうな」
ディーノから思っていた通りの返答が返ってきた。
「とは言っても冒険者内だけの情報だ、広まる心配はねえよ」
「はは。さいですか」
しかし、フェルトからすれば一部の貴族、冒険者、聖堂騎士と先日の事件の本当の功労者が誰なのか、これだけ知っている人達がいる。
あとフェルトの本当のことを知らないのは、一般的な平民くらいだろうと、もう苦笑いするしかなかった。
そしてそのフェルトからも質問する。
「ディーノ。そのおふたりはもしかして、お前のパーティーメンバーか?」
「いや。俺は違うが、このふたりは同じパーティーだ」
するとディーノが手振りを添えて紹介する。
「こっちの黒髭の方がダンクさん。そしてこっちのイケ好かねーのがケレンだ」
「おい、ディーノ。これでも俺は結構な先輩だぞ!」
「ランクそこそこの人に言われてもねえー」
「お前の方が低いだろ!」
「そりゃそうだ。俺は冒険者歴、まだ二ヶ月くらいだぞ! 当たり前だろ!」
この生意気な感じは変わらないなとフェルトは、村でのディーノのことを思い出した。
「変わんねーな、お前」
するとディーノは、衝突していたケレンからフェルトへ、ニカッと笑みを浮かべながら振り向く。
「そんな簡単に変わるかよ。バーカ」
「ははっ!」
そんな心を許した状態のフェルトを一歩引いた状態で見ていたレックスとダミエル。
「フェルト・リーウェンにもあんな表情するんスね」
「……我々の感覚が麻痺しているんだろうな。本来はアレが普通だ。言ってフェルト・リーウェンも十五の子供のはずだからな」
するとそんな視線を感じたのか、フェルトがダミエル達な振り向く。
「どした?」
「いえ、別に」
「そんなとこ居ねーで、こっちこいよ」
そうフェルトが言うと、ダミエル達は一歩手前に近付き、会話に混じる。
そして呼びかけられてきた聖堂騎士にディーノ達は疑問を口にする。
「フェルト。お前、何で聖堂騎士と一緒にいるんだ?」
行く先々で聞かれそうと思い、面倒くさいと思ったフェルトは、
「ま、色んな諸事情により」
と説明を省くが、さすがは幼馴染のディーノ。
「……お前、説明が面倒くさいだけだろ」
「おっ! わかってるねー」
ケラケラと笑うフェルトに、ディーノはため息を吐くが、
「わかったよ。俺、別にその辺は興味無いし、深堀りしねぇよ」
「助かる」
「……」
ダミエルは昨日のヘイヴンと対応が違うことから、多少の不信感を持つ。
このやり取りは幼馴染であるディーノを関わらせない振る舞いであり、昨日のヘイヴンは逆に頼るような意味合いで語ったのではないかと考える。
だが、昨日は貴族嬢もいたことから、その可能性もあくまで憶測の域を出ることはなく、不用意に貴族嬢を関わらせるかと考えられれば、その考えも微妙と捉えられる。
そして今回は逆に冒険者のふたりがいるという状況にも関わらず、アスベル達のことを報告しないということにも違和感がある。
「じゃあ今度はこっちが質問。お前は何を騒いでたんだ?」
「丁度いい! 聖女様の護衛である聖堂騎士がいるんだ、これ! どういうことだよ!」
ディーノが指差したのは宣伝用ポスター。
そこには聖女杯というものが書かれており、参加者求むという広告が書かれていた。
「……特に何か書かれてるわけじゃないな」
「だろ? なのにいざエントリーしようと受付に行くとさ、貴方はダメですって言うんだぜ!?」
「あー……」
フェルトはチラリとダミエル達を見ると、そのダミエル達もやれやれと呆れた表情をしていた。
「確か、聖女様は面食いだったはず。相応に顔が整ってないとダメって話じゃないか?」
別にディーノ自身は、顔が整ってないわけではないが、特筆しているわけでもない。
所謂フツメンだ。
ディーノの話を聞く限りだと、受付嬢にある程度の基準を話しており、その主観で大会の参加の有無が決められているのだと悟った。
「だから! それがおかしいって言ってんだよ!」
「まあまあ、この聖女杯はあくまで聖女様のご機嫌取りのための見世物の試合だぜ? 実力関係無しの見た目だけで判断されるんだろうぜ」
「そんな私物化アリかよ……」
ダミエル達が無言なあたりはアリなんだろう。
というより、フェルトからすれば『傲慢の左足』がわかっているので、私物化は可能だろうと判断できた。
「てことはフェルトみたいな顔だったらイケるってか?」
「多分な。ウワサだと聖女様はいたく俺のことを気にかけてたそうな……」
幻滅されて機嫌が悪くなったという話を聞けば、容易に想像できた。
チラリと覗いたダミエルの表情もその通りだと語っている。
「まったく……。顔で判断するなんてな。人間中身だろ」
「そうか? お前だって日に日に育っていくシエラの豊満なボディに見惚れてた気がするが……?」
「い、いやっ!? そ、それはだなぁ……」
言い澱むディーノに、更にフェルトは追い討ちをかける。
「人の振り見て我が振り直せ、だな。お前だってちゃーんと見た目で判断してるとこもあるだろう?」
「う、うぅ……」
「難しい言葉を知っていますね」
「そうか?」
すると意味がわからないのか、フェルト達より大人のはずのレックスがこそっとダミエルに尋ねる。
「ど、どういう意味ッスか?」
「……」
呆れるダミエルだが、ディーノ含めた冒険者の面々も首を傾げると、大きくため息をついた。
「人の良いところは見習い、人の悪いところは自分にもそういうところはないかと反省し、直そうと考えを説くことを指す言葉です」
「「「「へえー……」」」」
「「……」」
呆然と意味を捉えたわからない一同に、フェルトとダミエルは思わず呆れた表情で見合った。
「とにかく話を戻すが、見た目の印象ってのは結構重要だ。見た目が九割って言われるほど、後にその印象が響いてくる。例えば聖女ラフィ様があのパレードで見せた姿が第一印象ならガキくさそうだなってのが、後々に引いてくるってわけだ」
ディーノ達に聖堂騎士達の前で言うかねと言いたげに見られたが、フェルトの第一印象はそれだった。
「つまりは見た目さえよければいいってことか?」
「んなわけねぇだろ。勘違いされがちだが、あくまで見た目九割ってのは第一印象だけの話だ。次からその人間の判断基準はやはり中身になってくる。性格だったり、特技だったり。そんな見た目だけで一朝一夕に判断なんてできるかよ。お前だって、別に俺の見た目だけで友達やってるわけじゃないだろ?」
「お、おう! そりゃ勿論! フェルトの良いとこはいっぱい知ってるつもりだぜ!」
「それは話さなくていいけどな」
するとフェルトは視線を感じた。
「どした? ダミエルさんよぉ」
「いえ。年齢の割にはかなり悟い方だと」
「そうか? フェルトは昔っからこうだぜ?」
「昔からですか……」
フェルトはダミエルの思っていることがある程度わかる。
神眼を昔から持っており、その力を使う過程で大人のそういう部分に触れる機会が多いのではないのかと推察し、自分達の目論見もある程度バレてしまったのではないかと考えているのだろう。
だが現実は、フェルトは元異世界人、つまりは現代世界の人間。
記憶を持っているだけという理由だ。
だがダミエルがこれだけ険しい表情をされると、フェルトとしては有難かったりする。
「へえー、だとするとケルベルト家の御曹司と一緒に事を解決できたことにも納得だな」
「俺はそのケルベルト家の御曹司は知らねーけど、正直、ほとんどフェルトが解決したと思ってるぜ。フェルト、賢いし」
この話を聞くと、どうやらファバルス王国の情報まではまだ握ってないらしい。
あくまでシギィとやり合ったという経緯のみが冒険者の間で知られているようだ。
「お前らが馬鹿なだけだろ? それにアイツは王族の直近の貴族らしいし、賢いのは当然のこと。アイツはかなり胡散臭い」
フェルトがむすっとしながらそう語ると、ディーノは楽しそうに笑う。
「ははっ! 何だそれ?」
「とにかく話を戻すが、聖女様が顔で出場者を決めてんのはもう仕方ないことだろう。そもそもは見世物の試合なんだ、実力はほぼ関係ないだろ」
するとその主催者側であるダミエルが補足を入れる。
「一応、そこそこの魔物を用意はしてるので、それなりの実力は必要にはなりますがね。大会に参加していながら、魔物にやられるようでは、聖女様のご機嫌取りにもなりませんから」
「あー……確かに」
大会に参加したイケメンが、格好悪く魔物にやられる姿はラフィの望むものではないだろう。
「なら対人戦にすればいいんじゃないか? それならどっちかの格好はつくだろ」
「……それはそうですが……」
ディーノの提案には納得した言い方をするが、困った表情をしているダミエル。
ラフィの提案は魔物との対峙。
「これは聖女様の趣味で始まってるもんだ。対人戦にしないのはそのあたりだろ?」
「趣味ねぇ……」
「おそらく王子様か英雄がカッコよく魔物を討伐する姿でも見たいんだろうぜ」
するとディーノ達が笑う。
「おいおい。現実はそんなもんじゃねえぞ」
「だね。もっと殺伐としてるし、血生臭くもなる」
「まあそういうなふたりとも。聖女様にはそんな冒険者の泥臭い事情なんてわからないものさ」
「だろうな。襲う、襲われる魔物側だって命懸けで戦ってんだ、互いに必死になれば格好がつく戦いなんてしないわな」
フェルトも元冒険者が集う村の出身。
現冒険者達の意見と合致する発言ができた。
「しかしそうなると残念だなぁ。装備とか道具の資金の足しにしたかったんだが……」
そう呟くディーノの実力をフェルトは知っている。
確かに普通に参加することができれば、賞金をもらうことは可能だろう。
「ところでディーノ。お前はソロなのか?」
ダンクとケレンが同じパーティーではないと話していたが、冒険者であるディーノ。
ソロ冒険者もいないわけではないが、やはりパーティーを組んでこそ、色んな仕事ができるのも事実。
するとケレンがむっとした表情で語る。
「いーや、このガキ、パーティーにちゃんと加入してんだが、聞いてくれ! コイツ以外女の子なんだぜ」
「!」
「お、おい!」
「ほおー……」
フェルトは面白そうな話題とニンマリと笑うと、ディーノの肩を組んだ。
「へえー。お前、ハーレムパーティー組んだんだ」
「ち、違えよ! た、たまたま組むことになったんだよ!」
「なーにがたまたまだ! 上手いことあの娘達を救って頼られてるくせに……」
「へえー」
「ケレン! もう余計なこと喋るなぁ!!」
フェルトは中学生みたいな意地悪なノリになってきた。
「今は一緒にいないのか?」
「あ、ああ。買い出しに行ってるからな」
「ほう。どんな娘達から気になるなぁ。親友が世話になってるからな。今度挨拶させてくれよ」
「――お前っ! 面白がってるだけだろ!!」
「ええっ!! いいだろ? この話、シエラやフレゼリカにしたら面白そう」
「ほーらぁ!!」
するとフェルトが閃く。
「なあ、ダミエルさん」
「……? 何でしょう?」
「やっぱりさ、この闘技大会、対人戦もいれないか?」
「! どうして急に?」
ダミエルからすれば、ディーノをおちょくっていただけの会話から急に話題を変換された提案。
あまりにも怪しいと思ったが、
「それでさ、コイツも参加させてやってくれよ。その女の子達にもっとカッコいいとこ見せさせてやろうぜ!」
フェルトがした提案は、悪ノリの提案だった。
「お前! マジでいい加減にしろぉ!!」
「いやいや。他のパーティーメンバーが女の子なら、やっぱり頼りになる男の方がいいだろ? それを証明する舞台としては丁度いいだろ。元々は男をカッコ良く見せるための大会として聖女様が提案した闘技大会だ、お前の同じパーティーメンバーも見直すんじゃないか?」
「いやっ! 別に俺、幻滅されてるわけでも、ハブられてるわけでもねぇから!!」
するとその悪ノリの提案に検討するところがあるのか、
「……わかりました。進言してみましょう」
「「!?」」
その返答に一同が驚く中、レックスがダミエルにこそっと真意を尋ねる。
「ど、どういうことッスか!? この提案、悪ふざけとはいえ、あのフェルト・リーウェンの提案ッスよ!?」
「お前の言いたいことはわかる。だが、我々としては聖女ラフィの機嫌を取ることも重要だ。フェルト・リーウェンへの監視は我々が続ければ問題ないが、あのお嬢さんのご機嫌取りは至難を極める」
実際、アスベルがかなり悩んでいたことを知っているダミエルは新たな刺激として、ラフィが避けてきたことを提案するのは敢えて良いのではないかと踏み、敢えてフェルトの提案に乗ることを考えた。
するとそのフェルトも申し訳なさそうに今一度尋ねる。
「提案しといて何だが、大丈夫なのか? 最終日とはいえ大会の運営内容を急に変えるだなんて……」
「魔物の討伐部門とは別ということで募集をかければいい。幸い、腕に自信のある者は賞金目当てに、聖女ラフィに取り入ることを目当てに参加者候補は集まるだろう。それに用意と言っても対人戦ならば、新たに用意するものなど賞金くらいだろう。費用は嵩むが、今は聖女ラフィの機嫌取りを優先したい」
闘技場はそもそも一日貸切でやるとのことから、多少長引いても問題ないと告げる。
だが、ダミエルはいくつかの注意点と提案をする。
「ただし、参加条件は変わらないだろうから、ディーノさんでしたか? 貴方の参加の有無は保証できない」
「だろうな。つか、俺、別にアイツらにカッコいいとこ見せるために参加したいとは言ってないからな!」
そう言ってディーノはフェルトを指差すと、フェルトはテヘっと舌をぺろっと出した。
「後、フェルト・リーウェン」
「何です?」
「貴方には参加してもらいたい」
「!?」
「はあ? 何で?」
「提案者だからということもありますが、一番は責任を取ってほしいからでしょうか……」
フェルトが性癖暴露なんて馬鹿な真似をさせたからだと、圧のこもった視線を向けるダミエル。
だがそんな事情を知らないディーノ達は首を傾げる。
「責任? 提案だからということ? アレ? 意味、一緒じゃないか?」
「提案した責任を取れって意味だよな?」
するとフェルトが渇いた笑みを浮かべて返答する。
「まあ、こっちにはこっちの事情があんのよ」
「ふ、ふーん」
「……わかったよ、ダミエルさん。聖女様が良いっていうなら参加してやるよ」
「ありがとうございます」
ダミエルは深くお辞儀をすると、ディーノはフェルトが参加することには納得する。
「まあ確かにフェルトの参加は盛り上がりそうだよな。町じゃあ、姫殿下を助けた一行のひとりだし、そもそも顔もいいから華があるしな」
「それに俺達、冒険者からしてもフェルト・リーウェンの実力が観られるのはいいな」
「あのシギィとやり合ったのだからね。もし、参加するようなら、お手並み拝見といこうか」
「おいおい、あんまり期待しないでくれ。やり合えたのはたまたまだって……」
「いーや! 俺はフェルトの実力知ってんだ。期待してていいぜ」
「ディーノぉー! さっきの仕返しのつもりかぁ?」
「へへーん!」
そんな賑やかな会話の中、レックスは再びダミエルとコソコソ話を始める。
「なるほど! フェルト・リーウェンに敢えて参加させることで実力を図るわけッスね?」
「それだけじゃない。大会に参加させれば、彼はこの闘技場にいなければならない。勿論、ラフィも来るわけだから、俺達、聖堂騎士も警備に当たることになる」
「監視の目を増やせば、フェルト・リーウェンは事を起こしづらくなるってわけッスね?」
「その通りだ」
事を起こす可能性として高いのは、やはり聖女祭の時だと睨むダミエル。
しかも最終日は一番油断を誘われる機会だと思っていたダミエルは、アスベルを含めた王都にいる聖堂騎士全員並びに他者の目も闘技場に集まることから、フェルトの動きを完全に止めようと考えた。
だがひとつの懸念がダミエルには過っている。
この考えをフェルトが持たないということはないのではないかということ。
レックスの言う通り、この提案自体も何かしらの狙いがあることも拭いきれないが、フェルトの神眼の力がダミエルにはわからない以上、本人の動き自体を完全に監視できる体勢を取る方が大きいと踏んだ。
「――その時は応援行くぜ!」
「冷やかしの間違いだろ?」
フェルトとディーノはお互いの拳をぶつけた。
賑やかな会話も終始がついた。
「ならダミエルさんよぉ。すぐにでも取り次いだ方がいいんじゃねえか?」
「そうですね。ではすみませんが――」
ダミエルが少し離れると口にしようとした時、
「「――ママぁああああーーーーっ!!!!」」
「「「「「!?」」」」」
子供達の泣き声が商業区に響いた。




