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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
75/177

14 フェルトの狙い

 

「よう。遅かったなぁ」


 フェルトの元から帰ってきたライクとゴルドの前に、ロマンド達、アスベル側の聖堂騎士達が待ち構えていた。


「別に。少し飲んできただけだ」


 するとロマンド達が逃げられないよう、囲みながら煽っていく。


「その割には酔った様子じゃないなぁ? 酒の匂いもしねぇ」


「仕事に差し支えるからな。程々に――」


 するとレックスがゴルドの肩を強く掴む。


「おいおいおい。嘘ついちゃあダメッスよ。どうせフェルト・リーウェンのとこにでも行ってきたんスよね?」


「……何のことだ?」


 あくまでシラを切るゴルドとライクだが、ロマンドは呆れた様子でこう語る。


「あー……はいはい。どう言い訳しようが構わないぜ。お前達だって知ったんだろぉ?」


「「……」」


 これから何をされるのか、嫌というほど理解しているふたりだが、今日は頑なな様子を見せる。

 するとロマンドが肩を組んでくる。


「じゃ、行こっか?」


 ライクとゴルドは、聖女ラフィの元へと案内された――。




「――まったく……何時だと思ってんのよ! しかもレディの寝室にこんなに入ってくるなんて……」


 いくら好みのイケメンを揃えたとはいえ、深夜か朝かというこの三時という時間帯に起こされ、寝室に入られることは不快に思うラフィは文句を言う。


「すまないな、ラフィ。でも今回はとても大事なことなんだ。できる限り迅速に知りたくてね」


 そう言ってラフィにライクとゴルドを突きつける。

 するとラフィは大きくため息を吐く。


「……アンタ達、まだ諦めてなかったの? あの豚女、確か今日はどっかのブサイク貴族の枕になりに行ったんじゃなかったっけ?」


「この……!」


 反論しようとするライクは押さえられる。


「ああ。滞在中は我々の味方になってくれそうな貴族共には、回してやるつもりだ」


「ふーん。ま、あの豚女の望み通りよね? この国の民のため、身を裂いてでも貢献したいって考えてた馬鹿にはお似合いよねぇ?」


 ネフィが夜伽の相手をさせられていることを嘲笑うラフィに、本当に双子なのかと思うふたりは、キツく睨みつける。


「なに、その目。生意気」


 ラフィはライクの頭を思いっきり踏んづけ、地面に抉るようにグリグリと押し付ける。


「バーカぁ! あの売女の犬の分際で、この私に何かできるとでも思ってるわけぇ? 私にはね、この神の左足があるのよ! 神に選ばれた私に勝てるわけないじゃない! キャッハハハハハハ!」


 悔しそうに睨もうとするライクだが、聖堂騎士に身体を押さえられ、ラフィには頭を踏んづけられ続けている。


 だが惨めさは以前よりも晴れている。

 ライクとゴルドには、もう頼もしい味方がついていたからである。


「……お遊びはここまでにして聞き出してくれないか? おそらくフェルト・リーウェンと接触した可能性が高い」


「フェルト・リーウェン!?」


 ラフィはキラキラした瞳でアスベルを見た。


「フェルト・リーウェンって、あのフェルト・リーウェンよね!?」


「ああ。姫殿下を救い、更には他国の大臣まで知略で追い込み、救ってみせた英雄さんで、お前さん好みのイケメンだ」


 ラフィはこういう話が好きだからなと、半ば呆れ気味に語るアスベル。

 そのラフィも英雄譚のカッコいい王子様の話でも見たかのように興奮した面持ちで語る。


「――きゃああああん! 剣の腕前が立って、賢くてその上、イケメンだなんて……きっと素敵な方よ!」


「だがこっちはそれで困ってるってこともわかってるよな?」


「!」


「フェルト・リーウェンから見れば俺達はお前が言う悪役だ。お前が望むかたちで味方にしたいなら――」


「大丈夫よ。いつも通り、左足(これ)を使えばいいわ」


 安易な考えだとアスベルは、頭が痛そうな様子を見せるが、下手な反論など言うのも面倒くなりそうだと思うアスベルは、


「ああ、そうだな。そのためにもフェルト・リーウェンの腹の内を知らなければならない。そのための餌を撒いたわけだが、その餌がわざわざ食いつきにいってくれたわけだ……」


 そう言ってライク達を見た。

 それをラフィも笑う。


「ホント馬鹿ね。私の力を知ってるくせに、わざわざ助力してくれるなんて、なに? アンタ達も実はあの豚女を抱きたいわけぇ?」


「お前……!」


「キャッハハハハハハ! アスベルが止めてなきゃ、いくらでもやらせてやるわよ! 自分が慕っている女を犯す。男冥利に尽きるんじゃない?」


 文句を吐き捨ててやろうと、バタバタと暴れるライクを聖堂騎士が押さえ、ラフィは踏んづけるのをやめ、ベッドに座った。


「それで? この馬鹿達からフェルト・リーウェンとの会話を聞き出せばいいのね?」


「ああ。その腹の内次第で仲間にできる算段もつけられるはずだ」


「そう! なら早速……」


 どこからともなく鈴の音がなり、必死に抵抗を試みるふたり。

 だが押さえつけられているライクは勿論、ゴルドも耳を塞がらないよう、手を押さえられる。


 そして不敵な笑みを浮かべ、ラフィはこう命ずる。


「――『フェルト・リーウェンと何を話したのか、答えなさい』」


 ふたりはその命令が耳に入った途端、口が動き出す感覚があった。

 それは抵抗できるものではなく、自分の意思とは関係なく、声も出てしまう。


「お……お……」


 ライクは出てきそう声を何とか出てこないように抵抗するが、言葉が漏れてくる。

 アスベル達は相変わらず無駄な抵抗をしていると、余裕の笑みを浮かべている。


 そして――、


「おっ……!」


 抵抗の限界がきたライクの口が緩み、情報を吐く。

 そしてゴルドも同時に口が開かれた。


「「――おっぱいの話をしてきました!!」」


 だがそれはアスベル達にとって、斜め上の返答だった。


「「「「「……は?」」」」」


 さすがに第一声だけでは理解できることもなく、一同は鳩が豆鉄砲を食ったような表情になるが、


「お、俺は巨乳が大好きだとは、話しました! や、やっぱりデカいおっぱいは触り心地が――」


「や、やはり女性の凹凸部分にはひ、非常に興味がそそられるもので――」


 耳まで真っ赤にして語るライクとゴルドの話が続くにつれて、一同の反応は様々だった。


「コ、コイツら、何の話をしてんだよ」

「性癖暴露し始めたぞ。おもしれー」


 ロマンド達、アスベルの部下達は小馬鹿にするように笑うが、そのアスベルと副団長であるダミエルの反応は違うものであった。


「おい、アスベル」


「ああ。これは……!」


 悪い予感が過ったアスベルは、すぐにラフィの方へ振り向く。

 すると予想通りの反応をしていた。


「ラフィ――っ!」


「……っ!!」


 その手の話はやはり苦手なのか、涙ぐみながら赤面している。

 だがその表情は明らかに怒っているものだった。


 そしてそこからアスベルは、ラフィが何をしでかすのかを理解することは難しくなかった。


「よ、よせ! ラ――」


 再び鈴の音が鳴ると、


「――『だ、黙れ黙れ黙れぇええええーーっ!!』」


 性癖を大暴露していたふたりは勿論、この部屋にいる全員が命令通り黙った。


「はあ……はあ……」


 興奮した勢いのままに命令したラフィの息は荒れており、


「なっ……! なんって話してんのよ! 変態! 信じられない! そんなに欲求が溜まってんなら、あの売女でも使えばいいじゃない!!」


 そう言ってライクの頭を先程より力を込めて踏んづける。


「この! この! この! フェルト・リーウェンとそんな話をしたっての! 答えなさいよ!」


「……」


 ライクは命令通り、黙っていることしかできない。


「何とか言ったらどうなの!!」


 ラフィはライクの髪を引っ張って顔を上げさせるが、ライクは喋らずにいる。


「……何で黙ったままなのよ!!」


 自分が命令したことがわかっていないのか、一切答えないライクに憤りをぶつけ続ける。

 そこにツンツンとラフィの肩をつつく者がいた。


「ああん!!」


 誰よと振り返るラフィの目に飛び込んできたのは、不機嫌そうにメモを突きつけるアスベルだった。


「何よ! アンタも喋り……ん?」


 そのメモの内容はこう書かれている。


 ――この馬鹿が! お前が『黙れ』と命じたから、この部屋にいる全員が喋れないんだ。【絶対服従】を使って『喋ってもいい』と命じろ! ――


 と書かれている。


 それを目にしたラフィは一旦冷静になり、辺りを見渡す。

 すると、確かに誰も口を開こうとはしていなかったため、ラフィはアスベルの指示通りに命じる。


「――『喋ってよし』」


「あっ! あー……はあ、良かった。喋れるッス」


 レックスがそう安堵すると次々とみんな声が出るのを確認した。


「まったく……。無闇にその力を使うなと言っただろ、ラフィ!」


「うるさいわね! そもそもあんな話をするコイツらが悪いのよ!」


 再び機嫌が最高潮に悪くなるラフィ。


「フェルト・リーウェンがそんな人だっただなんて、思いもしなかった……」


 ショックを受けるラフィだが、アスベルは既に分析できていた。


「いや、待て。これは奴の狙いだ。すまないがもう一度――」


「!?」


 だがここでアスベルは言葉の選択を誤る。


「はあっ!? もう一度命令しろって言うの!? ふざけんじゃないわよ!!」


「ま、待て! 今度は――」


 しまったと思い、命令の内容の変更を言おうとするが、興奮状態のラフィが聞く耳を持つはずもなく、


「出てって! 全員、出てって!!」


「落ち着け、ラフィ。だから……」


 すると涙ぐみながら激怒した表情でもう一度ラフィは忠告する。


「出てけって言ってんのよ……!」


 今度はラフィは【絶対服従(本気)】で出ていかせるつもりだと察したアスベル。


「わ、わかった。出て行くから、【絶対服従(それ)】は使うな」


 そしてアスベル達、聖堂騎士は全員ラフィの部屋から退出すると、


「フンッ!!」


 バァンっとラフィは近付くなと言いたげに、強く扉を閉めた。


「まあ……こうなりますわな」


 あんな話をすればこうなると、意図をまだわかっていないロマンド達は呑気に笑っているが、アスベルとダミエルは深刻な表情をしていた。


「おい。ちょっと場所を変えるぞ」


「は、はい」


 アスベルの怖い声に怯むロマンド達。

 そのアスベルの様子にライクとゴルドは少し不安そうにするが、それは上手くいったのかという心配だった。


 ――場所を移した一同。


 聖堂騎士の一同はもう眠いと文句を垂れ流しているが、アスベルがそれを許さなかった。


 そのアスベルは場所を移した部屋へ着くなり、ゴルドの胸ぐらを掴み、壁に強く打ちつける。


「ゴルド!?」


「――ぐっ!?」


「ああっ! やってくれたな! やってくれたな! フェルト・リーウェン!」


 突然の行動にロマンド達は驚くが、ダミエルは同意見だった。


「まったくだな。してやられたよ」


「はあ? な、何の話ですか? それともコイツがフェルト・リーウェンなんです?」


 ロマンドは化けてるのかと尋ねるが、


「そんなわけあるか! くそっ! あのガキぃ……」


 アスベルが苛立っている理由も、ダミエルが何かに察している理由もわからないロマンド達は尋ねる。


「あ、あの……俺達を休ませないことに理由があるんですよね? な、何でで――」


 まだ呑気な顔をして尋ねるロマンドに、アスベルは激怒の眼光を向ける。


「……!」


 触れるのはマズイとロマンド達は黙った。

 すると、怒りの感情が残りながらも呆れながらアスベルは説明する。


「お前達、馬鹿にわかるように説明してやる。何故コイツらがあんな話をしたと思う?」


「えっ? コイツらがおっぱい好きって話ですよね?」


「それ以外、何がある!」


 ライクとゴルドが帰ってきてから話した内容はそれしかなく、当然の返答。


「それは命令――」


「馬鹿! そこじゃないだろ。そんなもんはわかってる。え、えっと、フェルト・リーウェンが性癖の話を持ちかけた理由ですよね? え、えっと……と、年頃だから?」


「……そんな馬鹿な理由なわけあるか」


 もう怒る気にもならないと、アスベルは部下の無能さに呆れ果てる。

 するとその答えに気付いたダミエルが答える。


「【絶対服従】の対策だ」


「はあ? 【絶対服従】の対策?」


「そ、そんなことできるんスか?」


「実際、お前達も見ただろ。聖女ラフィの『話せ』という命令を『黙れ』という命令で止めたところを」


「え、ええ」


「そういう風に誘導したのさ」


「えっ? フ、フェルト・リーウェンがですか?」


「ああ」


 誘導の経緯は理解できるロマンド達。

 要するには、わざとラフィの嫌がる話題を上げさせ、聞きたくないと拒絶するように止める命令を出させたというのが経緯だろうと。


 たが、


「それがフェルト・リーウェンがやったことだって確証は何です? コイツらが思い付いた可能性だって――」


「そんな馬鹿なことがあるか!」


 アスベルはゴルドを更に壁に押し付け締め上げる。


「そんな方法を思い付いているなら、コイツらがとっくにやってる! 今まで無抵抗だったことに理由があるか?」


「そ、それは……」


「だから急にそんな対策ができたということがフェルト・リーウェンと接触があったという証拠だ。コイツらは入れ知恵されたんだよ!」


「ぐあっ!?」


 アスベルはゴルドを無造作に手放した。

 倒れたゴルドの元へ、ライクが駆け寄る。


「大丈夫か?」


「あ、ああ」


 そんなふたりを憎らしく見下ろしながらも、アスベルは説明を続ける。


「そしてフェルト・リーウェンはコイツらを使ってこうも言ってきた。――【絶対服従】の能力を知ってるってね!」


「「「「「!?」」」」」

「……やはりか」


 その衝撃のひとことにロマンド達は驚き、そう予想を立てていたダミエルは同意見だと呟いた。


「な、なんでそんなことがわかるんです?」


「本当に馬鹿だなぁ!! 今の説明でわかるだろ? 何でコイツらが【絶対服従】の対策なんてしたんだ!?」


「そ、それはフェルト・リーウェンに……あっ!?」


「……そうだ、馬鹿野郎共が。この対策をしたのはフェルト・リーウェンだ。コイツらが性癖を暴露したことがその全てを物語っている」


 アスベルは忌々しいと歯軋りを立てながらそう語った。


「そ、そうか。【絶対服従】がわかってないと対策なんてできるわけがない……!」


「だからフェルト・リーウェンが【絶対服従】のことを知ってるってわかるんスね。だけどそのフェルト・リーウェンはどうやって……? ま、まさか!? コイツらから聞いた?」


「それもあるだろう。実際、それを確認する機会は潰されてしまったが……」


 ロマンド達は先程の超不機嫌なラフィを思い出し納得したが、


「へっ! 確かに【絶対服従】で聞き出すことはできないッスけど、俺達が直接尋問すれば……」


「答えるわけがないだろ? コイツらにとって、【絶対服従】を知り、その対策をさらりとやってのけたフェルト・リーウェンはネフィを助ける希望だ。その希望を邪魔するような真似はしないだろう……」


「「……」」


 そう見下ろされるふたりだが、特に返事はしない。

 ふたりは黙っていることこそ、フェルトの思惑通りに動くと考えたからだ。


「しかも予防線も張られてしまった」


「予防線?」


「ああ。今のラフィのフェルト・リーウェンに対する印象は最悪だ。何せ、女を邪な目で見ているとゴルド達(コイツら)が報告している」


「た、確かに。フェルト・リーウェンとの会話を聞き出すことを前提に【絶対服従】させましたからね」


「つまりコイツらに同じ命令、もしくはあの男のことだ、多少捻った命令を出すようラフィに言ったとしても同じような返答をされる可能性が高いと考え、ラフィは嫌がるだろう」


「それって……!?」


「ああ。第一印象の刷り込みって奴だな。これでラフィはコイツらにフェルト・リーウェンに対する命令は出せず、更にはフェルト自身にも会いたくないと思わせることが目的だったんだよ。会いたくない理由はわかるだろ?」


「ぜ、【絶対服従】を受けないため……」


「だろうな」


 すると話を戻すぞとダミエルは話題を変える。


「フェルト・リーウェンの猥談作戦で明るみになった【絶対服従】を知っているというのは、もはや明確だろう。そしてそれを聞き出すことはできない。しかし、フェルト・リーウェンならばそれを知った方法は他にもあるだろう……」


「ほ、他って? 俺達は誰も喋ってませんよ!?」


「いや、あるだろう。あのガキにはひとつだけ……」


「えっ?」


「俺達は何故あの男を仲間に引き入れようと考えた?」


 ロマンド達はすぐに思い出すが、表情が青ざめていく。

 フェルトの仕掛けた本当の脅威を理解したからだ。


「確か……神……眼……!?」


「そうだ。……おそらくはパレードの際、ラフィを見て【絶対服従】の力を持つ神の左足に気付いたんだ」


「そ、それはありませんよ! だってアレ、【鑑定】でも判別不能だったんですよ!」


「フェルト・リーウェンの持つ義眼もまた神物だ! 現にあのダマス神父(ジジイ)が馬鹿みたいにはしゃいでたろ!?」


 神眼があると報告していた当時のダマス神父のことを思い出せとアスベルは怒号する。


「神の眼ならば見透すことは可能だろう」


「そ、そんな……!」


「そしてフェルト・リーウェンはわざと俺達に【絶対服従】があると教えた。それの真の意図は自分の持つ神眼の力を俺達に教えるためだ」


「ああ。しかも我々は神眼の力量を測れないでいることも計算に入れた上でだ。これで我々はどれだけの力量を持つ敵と対峙しなければならないのか、わからない」


「「「「「……」」」」」


 ロマンド達はようやくふたりが思っていた脅威に直面。

 一同、無言になる。


「……しかもそれを印象付けるためにやった彼の行為は、このふたりに性癖を暴露させただけだ。こちらの持っている情報を的確に利用した完璧な作戦だな」


「自分は最小限の代償を。相手には莫大な損害を……。くそおっ!! フェルト・リーウェンっ!!」


「どうするアスベル。フェルト・リーウェンはほぼこちらの手の内がバレていると考えた方がいい」


「わかっている!!」


 アスベルは、ダンっと壁を思いっきり殴った。

 たったこれだけのことに、ここまで振り回されるものなのかと怒りで冷静さを保てないでいる。

 これも全て手の内なのかと考えると、更に苛立つアスベル。


「ど、どうするんスか!? フェルト・リーウェンに全て知られている!?」

「つ、捕まるのか!?」

「冗談じゃねえ!! 俺達の楽園が……」


 そのアスベルの不穏な態度は部下達であるロマンド達にも伝染。

 すると、


「――落ち着け!!」


「「「「「!?」」」」」


 ダミエルの一喝で一同はダミエルに視線を集めた。


「……落ち着け。少なくとも今すぐどうこうはならん」


「……根拠を聞こうか、ダミエル」


「……確かに我々は神眼の力を測れない。自身の考えと神眼の能力を不透明化することで、俺達に先の見えない恐怖を煽ること、これがフェルト・リーウェンの狙い。だが少し考えれば神の左足同様、おそらくあの神眼もまた制限があるはず……」


「なるほどな」


「そして今すぐにどうこうならないのは、我々が今ここにいることが証明になっている」


「ど、どういうことですか? ダミエルさん」


 すると冷静さを取り戻すつつあるアスベルが閃いた。


「なるほど、確かに。フェルト・リーウェンが俺達のしようとしていることが全てわかっているのだとすれば、既にオルディバルにでも報告し、聖都を武力制圧させればいい。そうなれば、俺達はとうに牢屋の中だろうからな」


「ああ。だがそれをしないのは、明確な証拠がないことだろう。あくまであの神眼は見ることができるだけで、それらを立証するのはあくまで自身なのだろう」


「それはそうだ。見たものだけを報告するくらいじゃ、証拠としては薄い。しかもそれが神眼で見透したものなら尚更な。眉唾だと吐き捨てられるだけだからな」


「ああ。だがフェルト・リーウェンの立場上、動いてしまう可能性も極めて高いから、安心はできないがな」


 とはいえオルディバルも娘のエメローラを学校へ安全に通わせるため、生徒情報を調べている。

 フェルトが神眼持ちであることは勿論、実績も踏まえて報告した場合、動いてしまう可能性も示唆できるものとダミエルは思った。


「じゃ、じゃあやっぱりマズイんじゃ……。いっそのこと、()りますか?」


 するとダミエルとアスベルは同時に呆れたため息を吐いた。

 だがそれは露骨な手段であるということではない。


「できるならとっくに()っている。だから仲間に引き入れようと考えたんだろうが」


「な、なに言ってんスか!? いくら神眼持ちでも十五のガキッスよ? 余裕、余裕――」


「……お前、事前情報を確認してなかったのか? フェルト・リーウェンはどこと()り合った?」


「えっ? た、確か……ブラックギルド?」


「そうだ。しかも()()シギィと()り合ったと報告したはずだが?」


「あっ……!」


 聖堂騎士には一律して、情報を提供してある。

 一般的にはケルベルト家の御子息がやったとなっているが、聖堂騎士、アスベル達はフェルトのことを調べる過程で、一連のことについてはちゃんと理解している。


 そしてシギィは、悪名高いギルドの中でも最も凶悪とされるブラックギルドの人間。

 しかもほとんど情報が無い死の芸術家(デス・アーティスト)の中では、唯一と言っていいほどの知名度がある。


「シギィはこの国の最強の騎士のひとり、フェルマ・ヴォルノーチェですら、軽く相手取る化け物だ。フェルト・リーウェンはそれと互角に戦い、挙句生き残っている。少なくともフェルマ・ヴォルノーチェより格上だ」


「……!」


「レックス。お前、フェルマとタイマンで余裕で倒せるか?」


「そ、そんなの……」


「無理だろ? ならそれを超えていると推定できるフェルト・リーウェンの相手なんてできるわけがない。しかも奴は神眼持ち。能力の詳細がわからない以上、不意打ちも効かないだろう」


「そんな……」


「しかも戦闘面も神眼を使っている可能性が高い。そうなれば、俺達が束になって、かなり甘くみて互角かどうかだ。頭がキレるのもこの追い込まれている状況からわかるだろ? 駆け引きも上手いに決まってる……」


 考えれば考えるほど、フェルトの厄介さが際立ってくると、アスベルはくしゃくしゃと髪をかき乱す。


「ああっ! クソッ!」


「アスベル。フェルト・リーウェンの対策はとりあえず後回しだ。対抗しようと考えると想像以上の労力になるだろう」


「……そうだな。今やるべきは、我々の情報を外へ漏らさないこと……」


「そうだ。それを知っている可能性が極めて高いフェルト・リーウェンは厄介だが、要するにはその神眼で見たであろう情報を伝えさせない、もしくはそれを誤報のように捏造すればいい」


「そうだな」


 フェルト自身を何とかするのではなく、フェルトからの情報提供をさせないことと、伝わる情報を何とかすることに専念する。


「ロマンド……」


「はい」


「今すぐ一部を連れて聖都へ戻れ。消せる証拠はできる限り消してこい」


「えっ!? い、今からですか!?」


 少し嫌そうに返答したロマンドにアスベルは、睨みを効かせて尋ねる。


「何だ? じゃあお前は好みの女を抱き枕に、柔らかいベッドで休む未来より、冷たい牢屋の中でむさ苦しい男に見られながら眠る硬いベッドの方がいいのか?」


「そ、それは……」


「今、その選択を迫られる危機に陥っているという自覚を持て! 今の生活水準を落としたくないなら、行けっ!!」


「は、はい!!」


 するとロマンドは一部の聖堂騎士を連れて、その場を後にした。


「後はフェルト・リーウェンか」


「ああ。ダミエル。フェルト・リーウェンがすぐにオルディバルのところへ向かうと思うか?」


「いや。さすがにすぐとはいかないだろう。何せ向こうは王族だ。こんな夜中に謁見など許可されないだろう」


「そうだな……」


 するとダミエルは提案する。


「とりあえず聖女祭まで持ち堪えるように振る舞うしかないな」


「なに?」


「要するにフェルト・リーウェンが情報を提供し、それで我々の計画が明るみになることが問題なのだ。そのための証拠の隠滅は今、ロマンドに任せたとはいえ、付け焼き刃に過ぎない。確実に証拠を隠滅するならば……」


「ラフィの【絶対服従】がいるな」


「ああ。だから今回の聖女の巡礼、ネフィにやらせよう」


 アスベルは不思議そうな表情を浮かべ、尋ねる。


「……? 元々そのつもりだろ?」


 聖女の巡礼の儀式は影武者としたネフィにやらせるつもりで、奴隷にしたのだから当然だろうと首を傾げるが、


「いや、巡礼自体をネフィだけにやらせる」


「! ……なるほど。伊達に双子じゃないからな」


「ああ。ネフィにブルカでも付けさせ、顔を認知しづらくすれば、ラフィが巡礼しているように見えるだろう」


「その巡礼自体をネフィに回らせ、ラフィを聖都に戻し、フェルト・リーウェンの証言が合わないよう、対処させる腹づもりか。本当なら今すぐにでも戻したいが……」


「ああ。ラフィはこの王都で大々的に顔を見せてしまった。いくらネフィと見た目がほぼ一緒でも誰かしらに勘付かれる可能性は高い。ましてやフェルト・リーウェンにそれを気づかれるのは……」


「自滅行為に等しいか……」


 ラフィは性格すらわかるようにパレードで楽しそうな様相を見せている。

 ネフィにラフィそっくりに演じろと言われてもボロが出てしまうと考えた。


「わかった、それでいこう。……こんなことになるなら、下手にフェルト・リーウェンなど、つつかなければよかった」


「プラスに考えよう、アスベル。我々が国取りを行なう障害の力量を見る機会だとな」


「ああ……」


 するとゴルドがアスベル達に話しかける。


「……アンタ達は負けるよ」


「「!」」


 バッとふたりはゴルドに振り向く。


「そんな守りの態勢で、あのフェルト・リーウェンに勝てるわけがない。必ず今までの報いを受けることだろう」


 そう自信満々に答えるゴルドにレックスが掴みかかる。


「何だとぉ!!」


 だがゴルドは、すんっとした表情で見る。


「くっ……!」


「言わせておけ。所詮は無能の戯言だ」


「は、はい」


 レックスはそう言われ、ゴルドを離した。


「それで? その無能はもう戻っていいんだよな?」


 皮肉混じりにゴルドはそう尋ねる。


「ああ。ネフィを迎えに行くまで時間があるだろう。それまで休んでいればいい」


「……わかった。いくぞ、ライク」


「あ、ああ……」


 そう言ってふたりはあっさりとアスベル達の元を後にした。


「い、いいんですか!? あのふたりを大人しくさせて……」


「あれでいい。フェルト・リーウェンの情報を吐かないなら、泳がせておくしかない」


「!」


「おそらくフェルト・リーウェンの指示を何かしらされているはずだ。それを探る。おい、誰でもいい、奴らを監視しろ。自然にな」


「はい!」


 すぐ側にいた聖堂騎士のひとりが、ゴルド達の後に続くようにその場を去っていく。


「おい、ダミエル」


「何だ?」


「俺はラフィの側にいなければならない。だから……フェルト・リーウェンを任せていいか?」


「……わかった」


 ふたりの考えは同じようで、それを察したダミエルはすぐに返答した。

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