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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
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13 またまた予想外の訪問者

 

「ふー、さっぱりー」


 フェルトは今日の疲れが癒えたと、風呂上がりの髪をタオルでゴシゴシ拭きながら、食堂へと向かった。


「しかし、今日は色々あったな……っと」


 食堂に入ると、寝付けていなかったのか、グエルがいた。


「あれ? リーウェン君」


「あっ、グエル。どした? 喉でも渇いたか?」


「まあね。君もかい?」


「俺は今、風呂出たばかりだから、水分を求めてるの」


 いつもより遅めの風呂だぞと、何故か自慢げにするフェルトに、


「何だい、それは。ほら……」


「おっ。サンキュー」


 冷蔵庫もどきの中から、冷えたミルクを貰ったフェルト。

 ちなみにこの冷蔵庫もどきを作ったのもフェルト。


 この世界には冷蔵庫は無いが、魔法で冷やす技術はある。

 でも魔法を使えないフェルトとしては、やはり冷蔵庫が欲しかったわけで、そのもどきを作ったのだ。


 実際、実家にもあり、これもマルコ神父との『強欲の義眼』の特訓の合間に相談に乗っていたことだったりする。


 フェルトは受け取ったミルクを一気に飲み干す。


「ふーっ。やっぱり風呂上がりには冷えた飲みもんだよな。出来ればフルーツ牛乳かコーヒー牛乳が望ましいが……」


「また何か新しい料理かい?」


 聞き馴染みの無い飲み物の名前に、少し呆れた様子で尋ねるグエルに、フェルトはまあなと答え、ミルク瓶を洗う。


「それより聞いたよ。パレード、途中から見なかったんだって?」


「ん? まあな」


 結局、グエル達はクレア合流後、最後までラフィの凱旋パレードを見たという。


 フェルトは、ヘイヴンから双子の聖女の事情を聞いた後、少しばかりして夜、女神イミエルより聖女ラフィが所有者となっている『傲慢の左足』の詳しい概要を聞き、最後には偶然接触したアスベル、元聖女ネフィ含む聖堂騎士と会っている。


 今思えば、結構濃い一日だったなぁ。


 フェルトはそんなことを思いながら、掠れた笑いをした。


「どうしてだい?」


「ん? 別に。見る価値が無いって思っただけ」


「ず、随分な言い方だね。……確かに聖女ラフィ様はこういってはアレだが、性格は子供っぽく、難がありそうではあるが、それでも聖女様だぞ? 見ておく価値はあると思うがね」


「そんなもんかね」


 フェルトからすれば、どちらにしてもくだらないことだと思った。


 あやかるという意味でも、あんな担ぎ上げられ、調子に乗っているガキ臭いみたいな聖女にはそんなものはないと思った。

 そして、『傲慢の左足』を身につけたある程度の経緯も予想できたフェルトからすれば、あれは悪意にしか見えなかった。


「それより例のもの、出来てる?」


 フェルトは夜、イミエルの元へ向かう前に、【絶対服従】の能力を持っていると予想を立てていたため、その対策用にと、グエルに作成を頼んだものがあった。


「一個だけなら。言われたの、夕方だぞ」


「悪い悪い」


「しかし、あんなものどうするんだ? また奴隷商の船の時みたいに爆弾みたいな使い方をするんじゃないだろうな?」


「しねーよ。じゃなきゃ、中身の魔法の要求までするかよ」


「……それもそうか。しかし、サイレントの魔法を施したけど、アレは一体……?」


 魔法玉は発動させた場所の範囲内でしか効力を発揮せず、潜入の時みたいな使い方はできないがと、グエルは首を傾げる。


「別に難しい話でもないだろ? 音、つまりは声を使ってくる魔物の対策になるし、そもそも詠唱の遮断もできる」


「な、なるほど。サイレントの使い道なんて、隠密に使うくらいしかイメージがなかったが、確かにそんな使い方が……」


 ただフェルトの本当の目論見は、ラフィの持つ『傲慢の左足』の対策。

【絶対服従】はあくまでラフィの口から発された言葉の指示に従う。

 鈴の音は対策不可能とイミエルには言われているが、ラフィの口から発される声自体を対策すればいい。


 しかも魔法玉なら魔力を少量込め、投げつければ自動で発動する。

 これならば魔法の使えないフェルトでも問題はないが、そもそもフェルト自身は効かないから本来、こんな対策を用意する必要はない。


 だが自分の味方である人達を【絶対服従】から守ることや、ラフィ達の思惑を素早く対処するためには、念の為、必要だと思い、以前魔法玉を用意していたグエルに依頼した。


「僕も護身用にいくつか作っておくか……」


「おう。それは良い手かもな。連携を取る敵とかからも口頭連絡の遮断にもなるしな」


「な、なるほどな。さすがだ、リーウェン君」


「別に。ちょっと考えればわかるだろ」


 もう夜も遅いし寝るかと、ふたりで食堂を出ると、玄関から足音が聞こえてきた。


「ん?」


 何か少し話し込んでいる声が、扉越しに聞こえる。


 そして――コンコンコンと玄関の扉がノックされたため、出ないわけにもいかず、


「はーい。こんな夜中にどなたです――」


 フェルトが扉を開け、その訪ね人を見ると、言葉を詰まらせた。


「あっ……えっと」


 そこにいたのは、童顔の聖堂騎士と幸の薄そうな長髪の聖堂騎士が立っていた。

 フェルトはふたりに見覚えがあった。

 先程、教会にいた聖堂騎士で、ネフィを乱雑に扱われていた際に、他の聖堂騎士とは違う反応をしていたふたりだった。


 そしてフェルトは、このふたりがネフィ派閥だということも理解している。

【識別】で聖堂騎士全員を見た際、このふたりだけがネフィ派閥だったのだ。


「あれ? 聖堂騎士様?」


 フェルトの後ろでグエルも驚いた様子だが、フェルト自身もさすがに予想外の行動に驚いている。


「は、初めま――」


 フェルトはこのふたりを見た瞬間から、対応策を巡らせていた。

 これからアスベル達に仕掛ける作戦も踏まえて、瞬時に考えをまとめる。


 その結果――、


「いやぁ!! 久しぶり! マイケル! ジョージ!」


「「は?」」


 フェルト以外、ポカンとした反応をするが、フェルトはお構いなしに聖堂騎士ふたりの顔を引き寄せるようにガッと腕を回し、引き寄せた。


「いやぁ、さっきは話できなくてごめんな。アスベルさんとの話で盛り上がっちゃって……」


「いや、俺達は――」


 何か余計なことを言いそうなふたりに、後ろのグエルに聞こえない程度の不機嫌そうな声で言い聞かせる。


「黙れ。俺に合わせろ」


「「……!」」


 そう言うと、パッと手放し、先程の怖そうな声を出したのとは一転、まるで久しぶりにあった知り合いとの会話に興じるような、明るい素振りをフェルトはみせる。


「でももう夜中だぜ? 聖女様の護衛の仕事が忙しいからって、こんな時間に会いにくるなよぉ〜」


「は、ははは。わ、悪い悪い。で、でも今しか時間がなくてなぁー」


 演技が下手くそなのか、その棒読みにフェルトはギロっと睨む。


「リーウェン君、知り合いだったのか?」


「おう。この間のアスベルさんは初対面だったが、コイツらは知り合いでね。いやー、驚いたよ。アスベルさんの両隣で同行してたのを見たのはさ」


 本当は別の聖堂騎士だったのだが、話を盛る。


「そ、そうそう! だから俺達も久しぶりには、話したいなぁーって思ってたんだよな? な? ゴルド?」


「ゴルド?」


 グエルは、マイケルとジョージという名前をフェルトから聞いたばかりなのに、違う名前が出てきたと首を傾げた。


 幸の薄そうな長髪をそう呼ぶ童顔聖堂騎士に、フェルトはそうじゃないだろと、笑顔を引き攣らせながらフォローする。


「おいおい、ファミリーネームで呼ぶなんて、堅苦しいな、マイケル」


「へえ!?」


 ここで童顔聖堂騎士の方はマイケル、幸の薄そうな長髪聖堂騎士ゴルドはジョージと、とりあえずなった。


「あ、ああっ!! ご、ごめんよ〜。え、えっとジョージ・ゴルド? し、仕事の時の癖でさぁ〜」


「そ、そうかぁー」


 何だかふたりの様子が明らかにおかしいとグエルは指摘する。


「……聖堂騎士の仕事でフルネーム? それに言い直してフルネームもおかしくないか?」


 フェルトは早めに切り上げようと、何とか苛立ちを隠しながらグエルを説得する。


「聖堂騎士の仕事のルールなんてわかんないもんだろ!? 知り合いの俺だって知らないんだ、きっと訳があんだよ」


「な、なるほど……」


「それより、お前はもう休め。俺はマイケルとジョージが来たから、ちょっと話したら休むからさ」


「何か飲み物を用意――」


「ああっ! いい、いい! どうせすぐに帰らないとマズイんだろ?」


 フェルトはくるっとふたりに同意を促すが、その表情は結構怖い表情をしており、ふたりは青ざめた表情で無言で頷いた。


「と、いうことだからさ。お前はもう休みな」


「あ、ああ……」


 ほぼほぼ強引にグエルを部屋へ追いやると、フェルトはふたりを自分の部屋へと案内した――。




 ――部屋へ着くなり、フェルトはふたりを床に座らせ、自分はベッドの上に座り、説教の体制に入る。


「さて、マイケルとジョージ……」


「あ、あの……それ、まだ続けるんですか?」


「ああ、そうだよ。マイケル、ジョージ」


「いや、俺達の名前は――」


「マイケルとジョージ!」


 ふたりはどうしてもその名前で呼ばれなければならない理由がわからない。

 だがフェルトの怒った様子から、何かしらの意図はあるものと考えられた。


「も、もしかしてさっきの少年に初対――」


「よし! マイケル、ジョージ! 話をしよう」


 意図を確認しようとしたゴルドだったが、フェルトが遮る。


「は、話ですか?」


 ふたりはここへ来た話を悟ったのではないかと、息を呑んだ。


「ああ、そうだ。聞きたいことがあってな」


「……そ、そうですか。やはり俺達とアス――」


「お前達が――おっぱい派なのかお尻派なのか、聞きたい」


「「……」」


 ふたりは予想より更に斜め上の質問に言葉を失った。


「どっち派だ?」


 ニッコリとそう尋ねてくるフェルトに、動じすぎてしどろもどろになるふたり。


「えっ……? い、いや、何でそんなことを……」


「お、おっぱい? お尻? な、何のことを……」


 動揺するふたりを置き去りに、フェルトは当たり前のように話を進めていく。


「何のって決まってるだろ? 女の趣味の話。性癖? 猥談かな?」


「「ええっ!?」」


 ふたりは初対面でする話ではないだろうと、困惑を隠せない。


「い、いやいやいや! わ、我々はそんな話をしに来たわけでは――」


「そ、そうそう! 俺達がここへ来た理由は――」


 ふたりの言い分を遮るように、フェルトは強くテーブルを叩いた。


「「……!」」


 そしてフェルトはニッコリ笑顔で、しかしどこか怒った様子で、もう一度尋ねる。


「いいからするぞ、猥談。おっぱい派かお尻派か、とっとと吐け」


「「は、はい……」」


 ふたりはフェルトの意図をまったく理解できないまま、何故か開かれた性癖暴露大会が開催された――。


 ――一時間後……。


「――なるほど。ふたりともおっぱい派だと……」


「な、何故こうも一方的に性癖を暴露されなきゃいけないのだ……」


「は、恥ずかしい……!」


「そうだな。恥ずかしいなマイケルは。豊満ボディに顔を――」


「――だああああああああっ!!!!」


 フェルトから一方的に性癖を暴露させられたふたりは、赤面している。


「しかし、その発想はマザコンの説はないか?」


「それ! 深堀する必要があるのか!?」


「いやな、実はこの質問、どっちを答えてもダメなんだよ。おっぱい派だって答えるとマザコンって言われるし、お尻派だっていうと変態って言われるんだ。理不尽だと思わないか?」


「た、確かに……」


 男たるもの、女性としてついているものをやらしい目で見るのは致し方ないものではないかと思うのだが、そうはならないのが女心なのだろう。


「――じゃなくて!! 何でこんな話をしているんだ!! 俺達は――」


「アスベルを何とかできないか、相談に来たんだろ?」


「「!?」」


 ふたりは気付いていたのかと驚くが、フェルトは当たり前だろと言いたげな呆れた表情で、軽くため息を吐いた。


「ネフィが跪かされた時のアンタ達の反応見りゃわかるよ。概ね、俺が神眼持ちで、姫殿下を救った英雄って言われてるもんだから、頼りに来たんだろ?」


「そ、その通りだ。だ、だからこそ驚いた。何であんな話を……」


「性癖暴露大会のことか? そんなもん、【絶対服従】対策に決まってんだろ?」


「「!?」」


 ふたりは更に予想外の一言に驚愕する。

 ふたりの反応は当然だろう。

 フェルトが【絶対服従】のことを知っているなど、思ってもいなかったのだから。


「ま、この状況の場合は、諸刃の剣だけどな」


「な、なんで今の話が【絶対服従】の対策になるんです!?」


「……質問を質問で返すようで悪いが、今の話、女に聞かせたらどうなる?」


「嫌がるものじゃないですか? 男性がその、おっぱいだのお尻だの……」


「だろ? だからだ」


「「……?」」


 まだ話が見えないとふたりが首を傾げていると、フェルトはちゃんと説明を始める。


「そもそもの話だ。【絶対服従】って聞けば、強力なように聞こえるだろう。まあ実際、強力なわけだが……弱点は多い。例えばその所有者の口を直接塞いだり、喉を潰したり、魔法ならサイレントを使えばいい。耳を塞ぐ場合は、小さくても聞こえる可能性が高いから、確実に命令をさせない、確実に音を遮断する。こうすれば対策は可能だ」


「……な、なるほど」


「だがそうさせないための聖堂騎士だろうから、仮に命令を受けてしまった場合、『死ね』とかの外傷を与える系の命令は防ぐことは不可能だが、『話せ』って類の命令なら抜け道がある」


「そんな方法があるんですか?」


「そうだな。仮に今の状況から説明すると、アンタ達はおそらくこれから戻った時、尋問される可能性が高いんじゃないか?」


「ああ。おそらくされるだろう。我々はネフィ様をお送りしてきたところだ。あの屋敷から今寝泊まりしている場所まではそうかからない。もう一時間も経っているから、何をしていたのか聞かれるだろう」


「アンタ達はネフィ派閥だ。つまり俺との接触を持とうと向こうも予想するだろう」


 派閥は分かれており、いくら敵対しているとはいえ、同じ聖堂騎士。

 フェルトの情報は敢えて共有していたと考えられる。


「まあ泳がされているんだろうな」


「だから『この時の会話を話せ』って命令されると考えられるわけだ」


「あ、ああ……」


 ふたりは何故、フェルトが不機嫌だったのかを理解し、今の自分の浅はかさに青ざめていた。


 泳がされているとわかっていながら、結局ネフィの奴隷の扱いの憤りに駆られたまま、冷静さを失い、フェルト・リーウェンとの接触を持ってしまったことを後悔し始めている。


 だが、フェルトはなんてことはないと、ハンっと笑って解説を続ける。


「つまりは()()()()()()()()()ってだけで、そこでアンタ達が考えていることを暴露しろってわけじゃない」


「!」

「えっ……?」


 ゴルドはピンと来たようだが、ライクはよくわかっていない様子。


「俺がアンタ達の口から『初対面』って言葉を話さないよう遮ってたのは、無駄骨かもしれないが、実は本当に知り合いだったのではないかと、アスベル達に誤認させるためだ。『初対面』ってアンタ達が口にしなかった場合、それは()()()()()にはなってないから、さっきの命令をされた場合、話せないよな?」


「な、なるほど……!」


 そんな抜け道があったのかと、ゴルドはフェルトに尊敬の眼差しを向けるが、


「な、なあ? どういうことだ?」


 まだわかっていない様子のライクに、ゴルドが説明。


「つまりここで話していない内容は語れないってことだ。命令の内容は『この時の会話を話せ』だ。フェルト・リーウェンの目論見は勿論、俺達の腹の内を話せということじゃない」


「つまり喋らなかったら話せないってことか?」


「やっとわかってくれた? マイケル」


「えっと……それはまだ――」


「いや、もう続けなくて大丈夫だ、ライクさん。じゃなきゃこんな種明かしはしない。ちなみにグエルに知り合いだと思ってもらったのも、対策のひとつだ」


「知り合いって以外の情報を知らなければ話せないってことか……」


「そういうこと。奴らが直接聞くなり、【絶対服従】で強引に聞くなり、同じ答えがくるなら誤認しやすくなるだろ? しかもこれはグエルを守ることにもなるからな」


 それ以外の情報を知らないとなれば下手なちょっかいは出しづらい。

 余計な痕跡はアスベル達も残したく無いだろうとのことから、そう言える。


「そして逆に話すことを利用する手として、今回は性癖暴露大会をしてもらったわけだがな」


「話すことを逆手に……?」


「そ。聞くけどさ、ラフィって面食いってところを聞くあたり、多少男に対して美化された妄想とかあるんじゃないか?」


「そ、そうだな。実際、闘技大会をやらせるのもそのひとつだろう」


 アレのことかとフェルトは、クレア達が案内していた時に見た闘技場で、用意が進んでいる光景を思い出した。


「しかもあのパレード見るに、ガキっぽい性格なんだろ?」


「あ、ああ。我儘もよく口にするし、自分の思い通りにならないと機嫌も簡単に悪くなるしな」


「じゃあそんなお子様聖女様に、さっきのアンタ達の性癖を素直に暴露してみろよ。おっぱいだのケツだの。どんな反応するかは容易に想像できないか?」


「そうだな……。性奴隷を見下すことはよしとする様子も見せるが、直接的に見ていることはなかったな」


「というかさ、ゴルド。普通にそんな話するなって激怒するだろ? あの聖女は……」


「じゃあもうひとつ。アンタ達はおそらくこれから【絶対服従】で尋問されるだろう。どんな命令がくると思う?」


「え、えっと……おそらくキミと接触したことを疑われるだろうから、『フェルト・リーウェンと話したことを全部話せ』じゃないか?」


「そうなるだろうな。じゃあ、どんな内容が話される?」


「それは今話してる内容……あっ!?」


 ゴルドは閃くようだが、やはりライクは鈍いようだ。


「えっ? なに? どうした?」


「つまり彼が言いたいのは、今から話す重要な話もそうだが先程話した、その……我々の女性の趣味も話さなくてはならないというわけだ」


 ゴルドが赤面しながらそう語ると、ライクは気付く。


「そっか! さっき話した内容も『フェルト・リーウェンとの会話』になる!? そういうことだな?」


「ああ。だから一番始めに自己紹介もなく、あんな話をしたんだよ。自己紹介がなければ向こうは知り合いだと思ってくれる可能性もあるから、そんな話をしていてもギリギリ違和感はない、と思う。でも本当の目的は、嫌がるラフィに強制的に【絶対服従】を発動させることにある」


「強制的に!? どうやって!?」


「馬鹿か、ライク。さっきお前も言っていただろう。ラフィがそんな話をされれば激怒するって」


「お、おう……あっ!?」


「そう。アンタ達が意気揚々とおっぱいだーい好きって言ったあと、詳しくどうしておっぱいが好きなんだとさっき俺に語り聞かせてた内容を話してみろ、絶対ラフィは途中でこう言うだろう……『黙りなさい』ってね」


「そ、そうすれば、これから話す内容は秘匿される……」


「そ。ラフィは【絶対服従】によってアンタ達におっぱいの話をさせてるんだ、止める手も【絶対服従】しかない。そしてその後、冷静さを欠いたラフィが『その話以外の内容を語りなさい』なんて命令すると思うか?」


「お、思わない。少なくともラフィはしない」


「だろうな。一緒に聞くであろう、アスベルならもう一度そう聞けっていうかもしれないが、ガキっぽくて我儘な性格の奴が怒ってるんだぜ? そんな言うこと聞くと思うか?」


「お、思わない……。むしろ【絶対服従】を使ってでも俺達を追払いそうだ」


「そりゃそうだよな。『その内容以外』が今度はケツとか下半身の話なのかと想像もするだろう。しかも男に多少メルヘンな妄想もしそうな面食い女だ、そういうセンシティブな内容は聞きたくないと思うのが自然だろう。つまり、これからアンタ達と話す内容はバレる可能性が低くなる」


「「……」」


 ふたりは話したこともないラフィの性格をここまで分析し、【絶対服従】の対策を語るフェルトに、もう言葉を失うしかなかった。


「ま、これはあくまで聖女ラフィ様がぁ? ウワサ通りの面食い我儘聖女だった場合の話だ。それに話す内容と順番が異なる可能性もあるから、必ずしも回避できるというわけではないが、それでも性癖暴露は結構なインパクトのある話だ、最初に口に出されても不思議じゃない。……ん? どした?」


 ポカンとしているふたりに尋ねるフェルト。

 するとライクがベッドに座るフェルトに向かって跪く。


「す、凄えよ、アンタ。い、いやリーウェンさん! アスベルのことも、そ、それにラフィの【絶対服従】のことまで知ってた挙句、その対策まで……! お、俺達じゃ、そこまでの考えには至らなかった」


「別にそんなに難しいことでもないだろ? いくら【絶対服従】とはいえ命令する内容なんて、状況やその人間の性格とか考えれば、どんな命令をされるか容易に想像できる。大体、尋問用の命令なんて『〇〇と何を話していた?』とかじゃないか? わざわざ『その腹の内まで想像して語れ』とか言わないだろ? なら話したくない内容は敢えて口にしなければいい。何だったら筆読にすれば、『話せ』って命令は成立しない」


「た、確かに……」


「強制的に人を従わせることができるって強力な文言のせいで、その盲点に気付くことも使用者からすれば想像もしづらいだろうな。そこを逆手に取れば、相手にわざと嘘をつき、必要な情報も秘匿できる」


「つ、つまり行動的な命令はされる前に妨害を。尋問系の命令は状況に合わせて、回避または利用しろということか……?」


「そういことだな」


 するとゴルドも跪く。


「お、俺達は正解だったんだ。貴方に頼ろうと訪れたことは正解だったんだ……」


 そう感動するふたりだが、フェルトはニッコリと笑顔で怒る。


「いやぁ? どちらかと言えばどっこいどっこいだぞ? 今日どれだけのことがあったと思ってる。少しは休ませろ!」


「「す、すみません……」」


 今日のフェルトに起きた出来事は、パレードで聖女ラフィが神器持ちだと知り、その過程から全ての辻褄を確認するため、双子の聖女のこととラフィが所有する『大罪の神器』のことを知り、更には接触予定のなかったアスベルと再会した後、このふたりの訪問である。


 何だったら、そろそろ日を跨ぎそうでもあり、フェルトの怒りは尤もだったりする。


「行動が早いことは結構なことだが、それにしたって早過ぎる。ちょっとはこっちの都合も考えて欲しいもんだね。まあ、概ね予定通りになりそうだが……」


「よ、予定通りとは……?」


「ん? ちゃんと考えてあるってことだよ。アスベルとラフィを何とかしつつ、アンタ達が慕う聖女ネフィを救出する方法が……」


「「!?」」


 ふたりは自分達が考えているより、先のことを考えていたフェルトに、再び言葉を失い、感銘した。


 するとふたりは改めて頭を下げる。


「お願いします!! おこがましいことだってことはわかってる。けど、もうアンタに頼るしかねえ!」


「本当に情けない話、俺達は貴方に頼るつもりでここに来た。……無理だったんです! 俺達では! あの【絶対服従】も、それを守るアスベル達にも。でも貴方ならきっとできると信じられる。ここまで見通し、ネフィ様を助けられる策を練られる貴方なら!」


 ふたりの決死の願いに、フェルトは不敵に笑う。


「おう。任せなって」


「「……!」」


 ふたりは余裕を感じるフェルトの笑みに安心した様子を見せるが、フェルトは衝撃のひとことを呟く。


「とはいえ、俺はほとんど何もしないんだけどな」


「は?」


「まあ気にすんな。アスベルの性格や向こうの見立てを考えれば、やりようはある」


 するとやはり頼ってばかりはいられないとふたりは、互いを見て頷く。


「俺達に何かできることはあるか?」


「何でも言ってほしい」


「なら、早速なんだけど――今、聖都はどうなってる」


「「!」」


 ふたりは再び顔を見合い、フェルトになら話そうと語り始める。


「……はい。聖都は今――」


 ゴルド達が話してくれた聖都の状況は、イミエルのところで想定していた通りだった。


 エドワード王子殿下を始めとするほとんどの住民は、忠実な人間兵にされているとのこと。

 意識のある住民達も、聖堂騎士の武力、【絶対服従】の力ということから、逆らえないと自分達同様、泣き寝入りを決めているとのことだった。


「やっぱりそんな感じか」


「はい。我々もわかっていても、どうしようもなく……」


「陛下の調査隊がやられた理由もそのあたりだな」


「は、はい。王宮の方が一般人を攻撃できるはずもなく……」


 多少の抵抗は行なったのだろうが、それでも一般人に危害を加えることなど、そうそうできなかったのだろう。

 そのまま捕まり、【絶対服従】で『問題無しで報告しろ』とでも命令されたのだろう。


「でも逆にそこまで聖都をめちゃくちゃにしておきながら、隠し通せていたことに驚きだ」


 いくら【絶対服従】が味方であっても限度があると考えるフェルト。


「それはおそらく奴隷商の影響かと……」


「なに?」


「勿論、アスベル自体が情報制限をかけたり、【絶対服従】の影響もあるが、奴隷商が更に外での情報管理をするように指示されている」


「なるほど。奴隷商からすればアスベルは上客であり、聖都は稼ぎ場所としては都合が良くなってる。協力することもやぶさかではないって話か」


 奴隷商の出入りがされてるというウワサも、これならわざとな気がしてくる。

 敢えて注意を惹きつけることで妙な疑心を与え、調査隊を派遣。

 その調査隊が空振りし続ければ、オルディバルは調査を躊躇ってしまうという心境に落とすことができていたのではないかと推測できる。


「ほぼ支配しているのはアスベルか?」


「いえ、もうひとり、副団長のダミエルもです」


「ふーん」


「あの色黒の男です」


「ああ、あの人か」


 フェルトはさっきの聖堂騎士との接触時に見かけ、あの中では、このふたりを除くと一番まともだった人物だと思い出す。


「それで? 俺達は他に何をすればいい? どうすればネフィ様を助けられる?」


 そんな必死なライクに尋ねる。


「アンタ達にとってネフィは大切な存在なんだな」


「勿論だ。……俺達は下級貴族で、アスベルやダミエルとは違う環境化にあった。本来なら聖堂騎士になれるなんてことはなかった」


「特にライクは恩義に感じているだろう。没落寸前だったところをネフィ様に拾われて……」


「……なるほど」


「でも、それだけじゃねえ!! ネフィ様はこの国のことをちゃんと想い、そして短命であるとわかっていても、先代であるユフィ様同様、聖女としてよ役割を真っ当しようと考えておられたんだ。あんな……あんな幼い頃から……」


 ふたりは見た目的にも、フェルトの場合は【識別】でも判断しているため、二十代だとわかる。

 ライクは童顔だから多少は若くも見えるが、幼いネフィも見てきたのだろう。


 そしてそのネフィの誠実な立ち振る舞いに、この言い方を聞く限り、感銘を受けたのだろう。

 自分よりも年下で、短命という運命がありながらも、懸命に役割を果たそうとする姿に、このふたりは胸打たれたのだろう。


「なのにアスベルの野郎は私欲のためにそれを踏み躙った! 妹のラフィもそうだ! あの我儘娘、ネフィ様のように努力することもないくせに、自分が優遇されてないなんて、馬鹿なことばかり吐きやがって!」


 ラフィを【識別】できないから正確には判断できないが、ヘイヴンと今のライクの話、そして先程【識別】したネフィの聖力を考えると、おそらくラフィの聖力は極めて低いのだろう。


 ラフィがどんな堕落した生活をしていたのかは、容易に想像がついた。


「だからネフィ様を助け出すためにも、情けなく頼りに来た俺達だが、何かやれることはないか?」


「頼む! 力になりたい!」


 そう言われたフェルトだがその返答は、


「いや、特に何もしなくてもいい」


「「えっ?」」


「それがアンタ達のやれることだ」


 ふたりには理解ができないものだった。

 意図が汲み取れないと首を傾げるふたりだが、先程の分析同様、きっと何かしらの意図があるのだと、信じるしかなかった。

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