10 傲慢の左足
「いやぁー、お久しぶりですね! フェルトさん。お元気にしてましたか? 私はとっても元気ですよ」
「…………」
「な、何か言ってくださいよぉ〜。そ、そんな怖い顔されても困りますぅ〜」
「…………」
フェルトはヘイヴンとの話の後の夜に教会を訪れ、こうしてイミエルと対面しているのだが、フェルトは物凄く険悪な顔をしてイミエルを睨む。
「あ、あのぉ……」
「……お前知ってただろ?」
「な、何のことでしょう……?」
イミエルは誤魔化すような素振りを見せながら、逃げようと距離を取るが、怒鳴られて止められる。
「とぼけるな! 知ってたんだよな!? 聖女ラフィ、あの女が『大罪の神器』の所有者だって」
「うう……」
フェルトがラフィを【識別】した時に見た光景は、『暴食の仮面』の所有者である人喰いや白フードの男性と同じものだった。
それが示している答えはラフィも『大罪の神器』の所有者、つまりは神器持ちだということだった。
そしてそれを事前に知っていたであろう、回収を依頼した本人、イミエルに追及しているのだ。
「どうなんだ!!」
「は、はい……知って、ました」
「やっぱりな」
フェルトは予想通りだったと呆れたため息を吐いた。
ラフィが普段住んでいるところは、聖都オルガシオン。
そこは大きな聖堂もあるほどの都であり、挙句聖堂騎士まで配下についており、当人達も聖力という、本来神の類でなければ身につかない力を持つ聖地。
そんなラフィが『大罪の神器』を所有してから、聖堂などで祈りを捧げていないはずもない。
いくら面倒くさがりの我儘聖女でも、一回くらいはかたちだけでも聖女っぽいことをしたはずだとフェルトは考えた。
そしてイミエルは下界を覗くにも限度があると言っていたが、神に近しい場所ならば、見られるとのこと。
干渉が無かったと考える方が不自然だった。
だからフェルトは強く問い詰めている。
「どうして言わなかった?」
「し、仕方ないじゃないですか。あの時は貴方、人喰いの件があったばかりで、ナイーブになっているのではないかと気を遣ったまでですぅ」
「うっ……」
それを言われると、あまり強く出られないフェルト。
確かに当時はマルコ神父の手紙で多少はマシになったとはいえ、事件からしばらくは心身の状態が良かったとは言えなかった。
そこでこの国の聖女のひとりが『大罪の神器』の所有者と言われても、何もできなかっただろう。
「それに話したところで、ヴァース村から聖都オルガシオンまでどれだけ距離があると思ってるんです? 話したところで当時十二の少年である貴方が、対処なんてできるわけないんですよ」
「……そ、そうだな」
頭ごなしに怒ったことを反省するフェルト。
少しずつ覇気が弱くなっていく。
「わかりましたか? 感謝されこそあれ、怒られるようなことは――」
「いや、でも王都についた時に一度会ってるよな? しかもかなり早い段階で。その時に言えば良かったんじゃねえか?」
「うっ……そ、それはほら! 貴方の新生活を邪魔しちゃいけないかなぁーって……」
「俺がそもそも王都に来た理由は『大罪の神器』の情報収集だったはずなんだが……?」
再び立場逆転。
イミエルは青ざめた表情と冷や汗が止まらない。
「いや、ですから、その……」
「はあ……どうせ忘れてたんだろ? その様子だと」
「は、ははは……」
フェルトはジトッと見ると、イミエルはギクリと反応した。
――コイツ、女神の割にはどことなく人間っぽいんだよな。
そんなことを呆れたため息を吐きながら思ったフェルトは、そろそろ本題に入ろうと尋ねる。
「まあいい。今度はちゃんと話してくれるんだよな?」
「も、勿論です! 彼女は聖堂にもたまーに来ていたので、能力も確認済みです」
たまーにね。
「ていうか、その時に祭壇近くにいたなら、『大罪の神器』の中和? みたいなのはできなかったのか?」
イミエルは回収した『大罪の神器』を輪廻の間にてどうにかすると話していた。
たとえ持っていけなくとも、干渉はできるのではないかと思った。
能力も確認済みと言っていたことも含め、できるものではないかと思ったのだが、
「残念ながら無理です。その神器持ちが協力的ならまだしも、彼女は貴方もご存知かも知れませんが、人の言うことを聞かない権力に頼った我儘なタイプの人間です。下手に女神である私が干渉して左足の神器に信憑性を持たせるくらいならと、声もかけませんでした」
その言い分には納得のフェルト。
ラフィは自分の都合の悪いことには、相手を否定するだろうが、自分の都合の良いことに関しては、全肯定する性格だろう。
イケメンを無理やり聖堂騎士にしていたり、聖女祭なんてものを開かせたりなど、その傲慢ぷりはラフィと語らずともわかることだった。
「そうか。なら結局、俺が回収するしかないのか」
「殺すですか?」
「そういうもんなんだろ? どうしようもないじゃないか」
だからと言って無慈悲に奪うつもりはない。
ラフィはネフィを陥れているということが、ほぼわかっている。
罪に問いさえすれば、いくらでもそのあたりはやりようがあると考えた。
「それはまた後で考えるとして、あの女が所有している『大罪の神器』は何だ?」
大方の検討はついているものの、答えを知っているイミエルから聞く方が正しい。
「彼女が所有しているのは『傲慢の左足』です」
「傲慢……」
「はい。彼女にピッタリではありませんか?」
そう言われたフェルトは、姉ネフィを陥れた背景を思えば、しっくりきた。
「そうだな。それで能力のひとつは【絶対服従】じゃないか?」
「おっ!? さすがですね。その通りです」
「……やっぱり」
フェルトは今までの情報と傲慢という名で、あっさりとその能力にたどり着いた。
オルディバルが派遣した調査隊の統一された返答、帰ってこない王子殿下、聖女祭や聖堂騎士の要望が絶対に通っていたこと、手のひらを返したネフィ派閥の証言など、上げればキリがないほどに【絶対服従】の能力があると言わんばかりだった。
「しかしよくわかりましたね」
「はっ! 今までの聖女の情報を漁れば何となくな。それに聖女という権力に明らかに縋っているような奴だ、傲慢ってのは驕り高ぶって見下すって意味だったはずだ。あったことは無いが、ウワサされるあの女の性格とピッタリ合致する。さながら【絶対服従】はその傲慢な態度を取りやすくするよう、神器がとりなしてるみたいだな」
「見事なまでに当たってますね。ビックリですよ」
「ま、さすがにもうひとつはわからんがな……」
するとイミエルは説明しましょうと、得意げな表情で語る。
「ではでは。『傲慢の左足』、【絶対服従】の能力の概念について説明しますね」
「おう」
「先ず、この能力は文字通り、命令された相手はその命令に絶対遵守します」
「だろうな」
「ただ能力が強力な分、発動条件は厳しめです」
「というと?」
「先ず、絶対に防ぐことができない鈴の音のようなものが響きます」
「絶対防げないのか?」
「はい」
確かに大体の『大罪の神器』は、ほぼ回避する方法が避けるなどの行動でなければならず、魔法で防ぐことは不可能。
それならば魔法を封じられているはずの法廷であっても、【絶対服従】は効いたままだろう。
「その鈴の音は貴方の『大罪の神器』同様、発動しようと思えば、発動できます」
「だろうな」
「そしてその後、その鈴の音を聞いた人物、もしくはその集団などに命令すれば、発動完了です」
「その鈴の音の聞こえる範囲は?」
「うーん。大体その所有が見えている範囲でしょうか?」
「……大雑把だなぁ。もっと正確にわからないのか? 意外と重要だぞ」
「そう言われましても。そこまで詳しく知れるのは『傲慢の左足』の神器持ちくらいでしょう」
おそらくイミエルは、以前よりの戦乱を元にその能力の範囲を理解している程度だろう。
だが、確かにその神器持ちが認識していない範囲にまで命令権があるとは考えにくい。
「その鈴の音が鳴ってすぐに命令しないと発動はしないのか?」
「そうですね……鳴り終わって数秒くらいは問題ないかと。それに命令を口にする時間もありますしね。ただ鈴の音が鳴り終わって、数分後に命令の内容を口にし始めても意味ありませんが……」
ということは、ほぼ鈴の音が鳴ったあとに命令するかたちになる。
「で? 命令の内容はどこまで効く? 命令の内容による有効時間などは?」
「ああ、はいはい。詳しく説明しますよ。先ず命令の内容はほぼ何でもです。『死ね』と命令されれば自害しますし、『〇〇を渡せ』と言われれば渡します」
「ほぼってことは細かい命令は無理ってことか?」
「内容によりますかね。その人物がそれをできるのならば、実行するでしょう。まあ、あまりに細か過ぎるとさすがにですが……」
つまりは裁判でこう言えって指示などは、あらかじめさせておけば可能ということになる。
「なるほど……」
「有効時間ですが、これも内容によります。『〇〇を渡せ』って命令なら、渡した後の数秒後に正気に戻りますが、『〇〇を倒すまで戦え』などの条件付きの命令ならば、それが終わるまで正気に戻ることはありません」
「……」
やはりと言うべきか、かなり強力な能力だと改めて認識する。
その命令された人物の行動を強く制限できるのは、かなり大きい。
「ついでに言うと、重ねがけなども可能です」
「何?」
「仮に『とある人物に服従しろ』と命令された場合、服従するのですが、【絶対服従】はあくまで脳に無理やり命令をさせているものに変わりありません」
「つまり魔法の幻術や催眠術と同じで、自分の意思でも解くことが可能ってことか?」
「はい」
本来、魔法による幻術や催眠術の類は魔法でも解くことは可能だが、一応、耐性などがある人物もいるため、それで解くことも可能だと語る。
精神攻撃に強いタイプがそうだろう。
「ですが、フェルトさんもご存知の通り、『大罪の神器』は人の負のエネルギーを使って能力が発動します。その影響もあってか【絶対服従】の命令は浸透しやすく、『服従しろ』と命令させ続ければ、その命令に侵食されて、命令に絶対遵守する肉人形が出来上がりでしょう」
「……! つまりは何だ? 脳が命令に汚染されて人格崩壊を起こし、その人間の命令しか聞かない人間兵の出来上がりってか!?」
「ま! そんなあたりですね」
ニコッと微笑んでそう答えたので、
――ブチッ!!
「――あだぁっ!?」
フェルトは思いっきりイミエルにゲンコツをかました。
「ニコッ、じゃねえよ。舐めてんのか、あん?」
「ご、ごめんなさい!! あ、愛想良く笑えば許してくれるかなぁーって……」
どうやらイミエルもこの能力の危険度を理解して怒られるとわかっていての発言のようだ。
「やっぱりもっと早く言っておくべきだったじゃねえか。今頃、聖都は王子殿下含めた肉人形兵まみれじゃねえか!!」
「ひいぃっ!! ごめんなさいっ!!」
――こりゃあ、ほぼ確実にクーデターを企ててやがるな。
聖都の立ち入りを極端に制限したのも、奴隷商の出入りが頻繁なのも、オルディバルが寄越した調査隊が統一された返事を持ってくることも、これで説明がつく。
おそらく、ラフィまたはアスベルは住民達を聖女が神託を語るとでも呼び集め、【絶対服従】の命令をかけ続け、肉人形にした可能性が高い。
立ち入りの制限は、本来の受け答えがおそらくままならない状態である可能性が極めて高く、能力がバレる危険性を回避するため。
奴隷商が頻繁に出入りしているのは兵力の確保、もしくは性奴隷の確保もあるだろう。
そしてオルディバルの調査隊は、少なくとも多少の戦力はあると思われるが、国民に武器など向けることができるはずもなく、あっさり捕まり、【絶対服従】の命令を受けたものと考えられる。
「クソッ!!」
もう既に手遅れである可能性が高く、苛立ちを隠せないフェルトだが、イミエルに当たり散らしてもしょうがないと、今一度、冷静になる。
「正気に戻るっつったな? ということは命令された当人の記憶は無いってことか?」
「それも内容によります。当人の記憶に残らない、つまりは意識が無い状態で命令を熟す場合と、意識がある状態で命令が実行される場合があります」
「……つまりは細かな指示を与える命令の場合は意識が無い状態で、突発的な命令、例を上げるなら『止まれ』みたいな命令は、意識がある状態で命令が執行されるってことか?」
「そうですね。わかりやすく言うなら、そういう感じです」
神器持ちを強く見せるという意味で記憶が残るよう、意識がある状態で思い知らせているという悪辣さが窺える。
傲慢という名も伊達ではないらしい。
「ただ先程も言った通り、この【絶対服従】は強力な分、条件は厳しい。その鈴の音を聞いた生き物に命令しなければなりませんから……」
「つまりは鈴の音を聞いていても、その命令自体を聞かなければ問題ないってことだろ?」
「そうです」
「なら対応は簡単だな。喉を潰すなり、口を塞ぐなり、とにかく口を使わせなきゃいい」
「……ぶ、物騒ですねぇ。ま、貴方はそもそも効きませんがね」
「わかってるよ」
フェルトは神器持ちであるため、自身に干渉する【絶対服従】は受けない。
「だが、他の連中を防ぐためには、対応策は準備しておいた方がいいだろう」
「まあそうですね。耳栓を用意したり、後はサイレントの魔法とか」
「おおっ! そういえば魔法で音を消すこともできるな。思い付かなかった」
「……元現代世界人ならではですかね。魔法の対策も頭に入れたらどうです? 仮にもこの世界で十五年、生きてるんですよ?」
「思い付くわけねえだろ。俺、魔法使えないし……」
それはそうだとイミエルは笑ったが、そもそもそこは運だと言ったのはこの女神である。
イラッときたフェルトは、再び握り拳を作ると、
「わわわっ!? な、殴らないで下さい! ちゃんと痛いんですよ!」
「いや、ちょっとムカつくと思って……ん?」
するとフェルトはあることを確認する。
「なあ? 【絶対服従】の命令を受けてる人間を【識別】できるのか?」
フェルトが持つ『大罪の神器』は、お互いを対象とする能力を受けない、つまりは【絶対服従】を受けている人間は『傲慢の左足』の所有者として判断され、【識別】を受け付けないのかが知りたかった。
「できますよ。おそらく『傲慢の左足』の影響を受け、こんな命令をされていると【識別】されると思います」
「……ほう」
それなら洗脳されている人間を割り出すことも可能だと思った。
「あくまで干渉を受けないのは神器持ちであって、かけられた人間は関係ありません」
「そっか。それなら多少はマシか」
「そうですね。貴方なら【絶対服従】を解くことも簡単でしょう」
「なに?」
フェルトは思い当たる節があるか考えると、その答えはすぐに出た。
「……なるほど。【記憶の強奪】か」
「はい。先程も言った通り、あくまで干渉を受けないのは神器持ち。つまりは命令された方の脳内の【絶対服従】の命令という記憶を奪ってしまえば、【絶対服従】は解けます」
「そりゃあ良いこと聞いたぜ」
「それともうひとつ、【絶対服従】による命令が実行不可能となった場合も【絶対服従】が解けます」
「なるほどな。割と欠点も多いな」
「ただ……」
「ただ?」
「先程の肉人形の件ですが、人格崩壊、つまりは記憶がめちゃくちゃにされている場合は、効くかどうかは定かではありません」
「……」
おそらく効く可能性は極めて低いだろう。
人間の性格は遺伝によるものも含め、記憶によって人格ってものは決まる。
記憶喪失になった人間がまるっきり別人に変わり果てるということが、それを物語っているだろう。
だからその肉人形にされてしまった人達を治療をするならば、やはり記憶喪失者の治療法とそう変わりない。
その人間の記憶を呼び覚ますように、キッカケを探さなければならないだろう。
「まあわかった、覚えておく。それでイミエル、俺は【絶対服従】が効かないわけだが、ということはその発動条件のひとつである鈴の音も、俺には聞こえないってことだよな?」
「効きませんからそうなりますね。その鈴の音は本当に鳴っている音ではなく、その神器持ちの周りの人間の脳内に響くって感じかな?」
「直接頭にってわけね」
「はい」
するとフェルトは少し困った様子で頭をかいた。
「ということは、向こうに同じ『大罪の神器』の持ち主だとバレないようにしなきゃいけないわけだ。大変だな」
「あー……ですね。フェルトさんには彼女の話しているものが命令のものなのか、そうでないのか、鈴の音が聞こえないので判断が難しいですね。しかしボロが出ても問題ないのでは? 彼女、こんなこと言うのはアレですが、考えが子供……ですよ?」
「そんなことは俺もわかってる。問題なのはその側近、アスベル・カルバドスだ」
「はあ……?」
事情をあまり詳しくないイミエルは、ちょっと間抜けな返事をした。
なので、イミエルにも事情を話した――。
「――な、なるほど。だから私、ぶたれたんですね」
「ああ、わかったか? 俺がキレた理由」
フェルトはポキポキと指を鳴らして脅してみせると、イミエルはあわあわと怯える。
「わ、わかりました! 本当にごめんなさいでした! し、しかし、となると貴方は相当警戒されますね?」
「だよな。今のところのアスベルの俺への印象は、正義感が強く、解決能力も高い神眼持ち、だろうからな。クーデターなんて考えてるアスベルにとっては、自分達の計画がバレないよう、俺への対応はかなり慎重なものになるだろう」
「ですが貴方を仲間にしようと誘われたんですよね?」
「ああ。おそらくはラフィの『傲慢の左足』をアテにしてるんだろ。効かないことを知ってるのは、俺とお前だけだからな」
「しかしアスベルという方、かなり慎重な性格とのこと。神眼持ちと呼ばれる貴方にそんな楽観的な考えなどしますかね?」
「だから試したかったんじゃねえの? 聖都の外でさ」
「どういうことですか?」
「さっき話したろ? 俺はアスベルと一度会い、聖女と会ってほしいと言われた。だが聖都ではなく、あくまで場を用意すると言われただけだ。つまり俺に聖都の様子を窺わせるようなことを回避しつつ、俺に【絶対服従】が効くのかを試すことができるってわけだ」
「なるほど」
アスベルからすれば、エメローラを含めた貴族嬢を救い、更には別の国まで救ってみせたフェルトは厄介な存在であると同時に、神眼という、アスベルからすればラフィと同じ物を所有している人物でもある。
仲間に引き込むことができれば、これほど心強いこともないだろう。
鬼に金棒とはこのことだろう。
「アスベルにとって俺は激薬なんだろうな。対応の仕方次第では、吉とも凶とも出る存在。『傲慢の左足』なんて甘い汁を啜ったアスベルからすれば、味方にはどうしてもしたいだろうが……」
「自分達のことを告発され、貴方にやられたブラックギルドや大臣さんの二の舞にはなりたくない、ですか」
「ああ。だから俺に【絶対服従】が効くかどうか試したいんだろう。だが、効かないってのがバレるのはマズイな」
「ええ。何かしらの方法で聖都の今の状況証拠を隠される可能性がありますね」
「ああ」
フェルトはその場合、【識別】で見れば一発だと考えたが、そもそも聖都オルガシオンまでは遠く、更に今の今まで上手くいかなかったオルディバルが、いくらエメローラ達を救った英雄とはいえ、学生に騎士を寄越してくれるとは考えにくい。
しかも事は聖女を疑うことは、下手に罪人だと言われ、国を追われることにもなりかねない。
つまりフェルトが聖都オルガシオンに向かい、調査することは難しいということになる。
それなのに、フェルトが効かないということがわかり、アスベルが事の発覚を恐れ、証拠の隠滅をされては今まで通りのイタチごっこが続くことになる。
「ヘヴンにも言ったが、俺自身もラフィとの接触は控えた方がいいな」
「その方がいいかもしれませんね。しかしそうなると、どうやってアスベルという人の計画を知らせるつもりです? これだけの状況証拠でも十分、何か企んでいるのは明白ですから、今の聖都に殴り込めば、証拠なんてわんさか出てきそうですが……」
「そこだよなぁ……」
本当はフェルト自身と王宮騎士が聖都オルガシオンへ向かい、『強欲の義眼』で事を暴きながら、聖都を制圧するのが望ましいが、オルディバルが尻込みしている理由を知っており、『傲慢の左足』になす術が無かった以上、それは難しい。
そして相手は聖女という立場。
だからと言って『強欲の義眼』のことを話すわけにもいかない。
「だああああっ!! クソッ! 何か方法はあるはずだ……」
本来、『傲慢の左足』などが無ければ、ネフィが正当な聖女としてヴァース村を含めた聖女の巡礼が行われており、アスベルも下手なクーデターなど考えもしないだろう。
だが、そのネフィがヘイヴンに聞いた通りに陥れられたと考えると、どうにかしてやりたいとフェルトは思う。
「……おい、もうひとつの方はどうなんだ?」
【絶対服従】ばかり警戒しているが、もうひとつの方も厄介ならば、考えなくてはならない。
とはいえ、【絶対服従】が強力な分、向こうは『大罪の神器』ということを知らないことから、確認していない可能性も高いわけだが、
「ああ、もうひとつの方は【傲慢の一撃】ですよ」
「何だよそれ?」
「この能力については正直、おまけみたいなもので、そこまで警戒しなくても構いません。自分よりも弱い存在、もしくは【絶対服従】の対象者がその『傲慢の左足』に触れた際、絶命するというものです」
「おい、十分強力じゃねえか」
「ですが、これも条件付きです。フェルトさんの『強欲の義眼』に比べれば、大したことはありません。しかもフェルトさんはこれも効きません」
「対象を取るし、しかも俺はラフィより弱くない」
「はい」
『傲慢の左足』は随分と使い方を選ぶようだが、どちらも使い方によっては強力だ。
特に【絶対服従】は言わずもがなである。
だが確かにイミエルの言う通り、【傲慢の一撃】に関しては放置でもいいだろう。
向こうがわざわざラフィの足を触らせるなんて真似はさせてないだろう。
「だがこうして考えると『傲慢の左足』は、俺の『強欲の義眼』との相性が最悪だな。こっちは全部対処できる」
「ただその神器持ちが聖女であることを棚に上げるラフィですけどね」
「はあ……言うな」
「……」
どう対処すべきか悩むフェルトにイミエルは、現世について話す。
「そういえばフェルトさんって、今どこに居るんですか?」
「はあっ!? お前馬鹿か!? 狭間の空間にいるってことは、教会だろうが!」
「ですよね? だとすれば聖堂騎士が訪れることもありますよね?」
「あん!? ……まあ、そうだろうが、急にどうした?」
「私はこの辺りくらいなら、どこに誰がいるのかわかりますよ」
話が見えてこないとフェルトは首を傾げる。
「貴方が祈りを捧げ、ここに意識が飛んでいる際、どうやらこちらに来てるみたいですよ」
「……まさか」
「はい。貴方が問題視しているアスベルという男性がこちらへ向かってますよ。複数人の部下も連れているようです」
「!?」
フェルトが狭間の空間にいる間は、向こうの時間は止まっている。
つまりイミエルは、フェルトが教会で祈りを捧げていた時、もう既にアスベルが教会へ向かっていたと話すのだった。
「……ラフィは一緒か?」
「いえ。夜でもありますし、外出は控えさせてるのでは?」
「そっか」
フェルトはこの状況を何とか活かせないかと考え込む。
するとイミエルはとある人物は同行していると語る。
「ああ、でもネフィは同行しているみたいですよ」
「!? なに?」
フェルトはアスベルがどうして、教会にネフィを連れてきたのかを考えると、
「……やっぱりそうか」
「やっぱりとは?」
「いや、ちょっとな」
フェルトは再び考え込む。
幸い、狭間の空間は現世の時間に影響を与えない。
考える時間はいくらでもあった。
そして――、
「よし!」
「何か思い付きました?」
「ああ。こうなりゃ、とことん俺を利用してやるさ」
「……俺を利用?」
そのフェルトの表情は、どこか得意げな表情をしていた。




