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大罪の神器  作者: Teko
序章編
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04 女神からのお願い4

 

「――では次に、『大罪の神器』の特性について語りますね」


 『強欲の義眼』の能力だけでもお腹いっぱいだが、ここからが割と重要だ。

 他の神器の能力もそうだが、『大罪の神器』の共通する能力等があることも、なんとなくわかる。

 同じ環境、同じ材料で作られた神器に、それらが備わると考えられる。


「先ずは一部を除いた『大罪の神器』は所有者を選びます。神器に認められなかった場合、その者は死にます」


 『大罪の神器』って物騒な名前をしてるだけあって、棺桶に片足突っ込まなきゃいけないのは恐ろしい。


「一部って?」


 するとイミエルはテーブルの上の『強欲の義眼』をコロコロと人差し指で転がして遊ぶ。


「これのように私が干渉し、所有者の条件を(いじ)れば問題ありません。これの所有者は貴方のみとします」


 それなら安心だ。


「死後は変えますが」


 死んだ後は、自由にしてくれていいだろう。


「仮にさ。俺が装備している義眼に誤って触れた場合はどうなんだ?」


 所有者を選定する時、おそらくは触れることという、簡単な条件なはず。

 仮に所有者の決まっている人間の神器に触れた場合、どうなるかは気になる。


「所有者がいる場合でしたら、普通に触れる分には問題ありません。触れることを条件に発動する神器もありますから……」


 義手とか義足がそうだろう。


「ですが奪う意思があって触れる場合は、その奪おうとする者が選定を受けるという意思を汲み取る可能性がありますから、その場合は触れた者が死ぬでしょう」


 要するには、その神器を奪うような行動、意思を持たない限りは触れても問題無しとのこと。


「ちなみに触れた人間の方に神器が移りたいと望むようなことはあるのか?」


「おそらくは無いかと」


 おそらく、か。

 でもこちらはイミエルが干渉してるから、万が一もないから安心できる。


「ちなみに所有者となるための試練の受け方は?」


「その神器に触れる、または装備するです。なのでその気が無いのであれば直で触れることはおすすめしません。大罪の神器が選定に入るかもしれません」


 逆に言えば、直で触らなければ持ち運びは可能ということ。

 それなら『大罪の神器』が怨霊の意思以外でバラけ、回収を依頼する理由にも納得がいく。


「その選定基準は?」


「さあ? 立てられる憶測となると、大罪の神器はその名を冠する感情の強い持ち主を選ぶかも知れませんが……まあ住み心地の良い宿主を選ぶか、上手く自分を使い熟す者を選ぶか……まあ、そんなところじゃないです?」


 おそらく『大罪の神器』にあるのは『意思のようなもの』だろう。

 呪具だった時なら、どんな人間でもと考えられるが、神器となってくると話は変わってくる。

 元が呪具で大罪の名があるせいか、選ばれなかったら死というのにも納得してしまう。


「なあ、それなら『大罪の神器』の所有者が素手で持った場合、選定に入るのか?」


「ああ、それは次の特性の話に入りますね。所有者のことを『神器持ち』としましょう。神器持ちは別の神器の所有も可能です」


「要するには、ふたつ以上の装備が可能……?」


「はい」


 おいおい、とその脅威に驚愕する。

 『強欲の義眼』だけでも十分強いのに、これと同格の神器を装備できるとなると、完全な化け物の完成だ。


「それはその神器の能力も勿論、使えるんだよな?」


「それは勿論。ただデメリットもありますよ」


「デメリット?」


「『大罪の神器』は義手や義足などです。つまりはそこを引き千切らないと装備できません」


 『大罪の神器』は確かに強力だし、手足を引き千切ってでも装備したいかもしれないが、ひとつだけで十分だとも考えるかもと思った。

 少なくとも、全てを見透せる眼を貰える身としては、『強欲の義眼(これ)』だけで十分だ。


「さて、ここからは貴方が回収にあたって、必要な特性の情報です」


 先に説明された特性は、直接関与はしないことだ。

 所有者を選ぶ選定は、『強欲の義眼』を受け取れる時点で回避されているし、『強欲の義眼』を装備してる段階で、他の『大罪の神器』を持つことに支障が無いからだ。


「三つ目。『大罪の神器』の能力の使用なのですが――」


 あれだけの強力な能力の発動条件や能力は聞いたが、それによるエネルギー消費を聞いていなかった。

 魔法がある世界ってことだから、きっと過剰に魔力が必要なのだろうと考えていると、


「無尽蔵に発動可能です」


「はあっ!?」


 使用回数の制限が無いことに驚愕。


「ええっ!? ば、馬鹿なのか!? 『強欲の義眼』の【識別】についてはまあ、なんとなく魔力消費が少なそうと思うよ。でも、【記憶の強奪】は……」


「いえいえ。そもそも魔力を使いません」


「はあっ!?」


 魔力を使わないなら何を動力源にするのか、混乱する頭の中で考えていると、


「『大罪の神器』は名の通り、その感情により成長し、負の感情を取り込むことができます。つまるところ、その負の感情がエネルギーになってるんです」


「な、なるほど……」


 納得の答えが返ってきた。

 『大罪の神器』は確かに人間の怨念から作られ、そこから負の感情(それら)をエネルギーに神器にまで上り詰めた。

 それを動力と言われても不思議ではない。


「人間のみならず、人種、生物は常に負の感情を吐き散らします。つまり、エネルギーにはこと欠かさないのですよ」


 知的生物は常に何かしらのしがらみくらいあるだろう。

 欲を持たないってことはない。


「つまり『大罪の神器』が能力を使えなくするには……」


「生物が絶滅でもしない限り、あり得ません」


 古代人はとんでもない化け物を作り上げたわけだ。

 イミエルが失敗してもいいから、回収を依頼する理由にも頷けるものだった。


「四つ目。神器持ちは他の『大罪の神器』の能力を受けません」


「……はあ。…………はあっ!?」


 俺は一瞬、生返事をしてしまったがそれは良くないだろうと驚く。


「おい! ちょっと待て! 『大罪の神器』の能力が神器持ちに効かないんじゃ、俺が『強欲の義眼(これ)』を持って転生する意味が無いだろ!?」


「そんなことありませんよ。『大罪の神器』が全て、誰かが装備しているとは限りません。どこかの蔵に眠っていたり、はたまた海の底か、山の奥地か、雪の深くか……」


「そんな楽観的な意見を聞きたいわけじゃねえ!」


 イミエルも誰かが装備されるかもしれないことが前提で、回収を依頼したはずだ。

 そんな子供騙しみたいな理屈は通用しない。


 するとイミエルはため息混じりに尋ねる。


「はあ、何か見落としてませんか?」


「あん?」


「神器持ちは『大罪の神器』の能力を受けない。貴方は……?」


「……あっ」


 俺も神器持ちになるのだと気付いた。


「そうか。俺も効かないのか……」


「そうです。確かに貴方の言い分もわかります。『大罪の神器』の能力は非常に強力で、『強欲の義眼』の能力を聞いたから出た発言でしょう。しかし、貴方もその強力な能力の干渉を受けないのは、この上ないメリットではないですか?」


 『強欲の義眼』の【記憶の強奪】のような、相手に何もさせずに勝てるような能力が効かないというのは、めちゃくちゃ強力なメリットだ。


「ただし、ひとつ注意。効かないのは、あくまで対象とする能力で、間接的に与える能力は効くのでお気をつけて」


「どゆこと?」


「要するには『強欲の義眼』のような相手を対象とする能力や神器持ちに状態異常を引き起こす能力等は効かないですが、空間や物などに干渉するような能力は効くということ」


「なるほど」


 確かに設置型の能力等で危害を加えられる能力は効くってことかと理解。


「なので暴食と怠惰にそのような能力があるので、特にお気をつけを……」


「そ、そうなのか? ちなみに他の神器の能力は?」


「さあ?」


「さあっ!?」


 ここまで『強欲の義眼』と『大罪の神器』について詳しく語っているイミエルから出る言葉とは思えず、信じられないと驚いた。


「言いましたよね? 神器化したことで、私からの干渉は非常に難しいと。『強欲の義眼』を手にしたから、これの能力と『大罪の神器』の特性については理解していますが、その他の神器については呪具だった時の能力しか知りません」


 イミエルの言い分には納得の一言だった。


 それと、呪具だった時、か。

 つまり神器になった段階の能力は知らないわけだ。

 この言い方だと、『強欲の義眼』も呪具だった時の能力は違ってたわけだ。


「なので呪具だった時の能力を下手に教えて、先入観に囚われるより、話さない方が無難だと思ったわけです」


「じゃあ、暴食と怠惰ってのは……」


「呪具だった時の能力では既にそういう能力であり、神器化しても似たような能力、もしくは強化されるのではないかなと思っただけです」


「それも下手な先入観を与えないか?」


「まあ、何にしても警戒しろという忠告です」


 物はいいようだな。


 とにかく効かないことに胡座をかくなってことなのだろう。


「……ちょっと待て。てことは、神器持ちと戦う場合、自分自身の実力のみで戦えってことか?」


「おっ! 気付きましたね。その通りです」


「いやいやいやいや。俺、一般男子高校生! 剣とか振ったことない! オッケー?」


「いやいやいやいや。だから転生させるんでしょ? 記憶を持ったまま、『大罪の神器』と共に……」


「なに……?」


 彼は少し考え込むと、ひとつの答えに辿り着く。


 なるほど、元々記憶を持ったまま転生させる意図は理解してた、成長速度を早めるためだと。

 それを更に高めるために、『強欲の義眼』だったんだ。


「つまりは『強欲の義眼』で【識別】を使い、見切りの能力などを身につけさせて、能力が効かずとも戦えるようになれってことね」


「はい」


「しかしな、【識別】を使うと下手したら死ぬんだろ? 計画、破綻してないか?」


「だ・か・ら、前世の記憶を持たせるんですよ。異世界人さん?」


 こっちの世界では考えつかない方法で、そこを掻い潜れと言われているようなものだ。


「ホント、この詐欺女神は……。はあ、わかったよ」


 なるようになるかと思ったのも束の間、


「それでは五つ目。『大罪の神器』は死ななければ外れません」


「……なに?」


 聞き捨てならないことを言われた。

 それは彼にとって、一番の難題とも捉えられるものだった。


「つまり何だ? 俺は最低でも六人は殺せってことか?」


 勿論、状況によってはそれより少なくなるだろうが、俺はこの女神様に殺人をしろと言われたんだ。

 彼は常識ある一般男子高校生だ、いくら危険な力を回収するためとはいえ、殺人をしろというのには応じたくない。


「さっきも言いましたが――」


「そんな都合の良いことはない。おそらくは必ず誰かに装備されてるもんだろう」


 また海やら山やら言われる前に、それらを否定。

 そんな屁理屈であやされたりしない。


「……確かに貴方は異世界、現代世界人でありますし、そこの良識人であることも承知しています。しかし、貴方はこれから転生します。残酷ですが、きっと貴方の常識は変わるはずです」


 朱に交われば赤くなる。

 転生して、別世界の別人になれば、前世の記憶があろうと、その世界に順応していく。

 そのための転生かとイミエルの言い分がわかってくる。


「……詐欺師な挙句、性格も悪いんだな」


「詐欺は心外ですが、性格は……そうですね。悪いかもしれませんね」


 そう言ってイミエルは困ったように微笑んだ。


 彼はわかっている。

 本意でそんなことを言っているわけではないことくらい。

 だが、それでも言っておかないと、自分を保てない気がした。


「まあとりあえず納得してやるよ」


「ありがとうございます」


「それで質問なんだが……」


「はい?」


「『大罪の神器』は義手とかなんだろ? 仮にそこの部分が斬り落とされた場合、どうなる?」


 俺の場合は眼球だからどうこうって可能性はかなり低いが、回収するにあたり、それで持ち去らないのかが気になった。


「その神器が持ち主へと飛んでいきます。伊達に神器ではありませんので……」


 空飛ぶ腕や足を想像すると、ちょっとしたホラー映像だった。


「怖っ。つまり本当に絶命しない限り、離れることはないって……、そうだ。『大罪の神器』は破壊は可能か?」


 一応、物ではあるんだ、破壊が可能ならそれに越したことはない。

 ただ、神格化したということだから期待は薄いが、


「破壊は、難しいかと……」


 イミエルも少し困った様子で答えた。

 どうやらイミエルも判断するにも、それだけの情報が無いようだ。

 まあイミエルの言う通り、難しいと考えておくべきだろう。


「以上が『大罪の神器』の特性になります。質問はありますか?」


 聞きたいことは粗方聞いたと思うが、言いたいことは山ほどある。

 だが、それもイミエルに言っても意味のないことだ。

 ただの八つ当たりほどみっともないこともない。


「いや、ないな。あったとしても、後で聞くよ。教会で祈り捧げりゃ、会話できるんだろ?」


「はい。意識のみを私のところに飛ばしてですが」


 それであの世に旅立たないことをついでに祈ろう。


「それでは転生の準備をしましょう」


 話が長過ぎて、すっかりそこを忘れていた。

 長い挙句、濃い話だったからな。


「おおっ!?」


 そう言ったイミエルは、彼を魔法陣で囲った。


「先ずは前世の記憶補助、と。後は少し運命を(いじ)りますね」


 (いじ)ると言われて魔法陣で囲われると、不安を煽られるな。


「おい、あんまり変なことするなよ」


「わかってますよ。とりあえずは『強欲の義眼』を装備できるようにしなければ……」


「まあ、そうだな」


「左目に『強欲の義眼』を装備する方向でいきますね。しばらくは片目しか使えませんが、ご了承下さい」


「おう! って、ええっ!?」


 イミエルの今のセリフを聞くに、まるで生まれてから片目がない状態ということに聞こえる。


「何をそんなに驚いてるんです? 生まれた時から義眼持ちの赤子なんて、物騒でしょう?」


 産んだ親としてもそんな赤子は勘弁だろう。

 完全に忌み子扱いされるだろうしな。


「だとしたら、どうやって『強欲の義眼』を手に入れればいいんだ?」


「この世界には一年に一度、『祝福の日』という祭日があり、教会や神殿などで祈りを捧げる日があります」


 その祈り自体は参加自由だそうだが、七歳までは神に生まれてきたことを感謝する日として、親同伴で強制参加らしい。


「その七歳の時に神託として、貴方の目の前にこの神器を授けます」


 なんか女神らしいこと言われたが、その神託で渡すものは元は呪具なのだが、そのあたりはツッコまないのが正解なんだろう。


「まあそんな渡され方されたら、俺の物だって言ってるようなもんか」


「その場にいる誰もがそう思うでしょうね。めちゃくちゃ後光とか差しましょうか?」


「いらん」


 そんな干渉ができるなら、少しでもチート能力を寄越せと思ったが、呑み込んだ。


「なので円滑に義眼を装備できるように、片目が無い状態で生まれるように(いじ)ります」


 かなり物騒なことを言われたが、『強欲の義眼』を手に入れるためには仕方ないことだろう。


「あー、そのへんを(いじ)るついでに、外見のリクエストはありますか? 性別は男のままでいいですか?」


 魔力などの能力等は干渉できないようだが、容姿は可能なようなのだが、前世が男だっただけに、女になるのは気が引ける。


「性別は男のままでいい。容姿のリクエストは、ある程度の身長とイケメン補正をつけてくれ」


 俺はそのあたりを真っ直ぐ、素直に即答した。


「……即答でしたね」


「まあ、女になるのは若干考えたが、女は大変そうだ」


 男社会より女社会の方が、面倒で怖いイメージがあるし、その他も考えると断然、男の方が楽だ。

 それに『大罪の神器』の回収を考えると、男の方が動きやすいだろう。


「それに見た目が九割って言うからな。イケメン補正は必ずつけてくれ。だが出来ればほどよくが理想だな」


 あからさまなイケメンだと、これも『大罪の神器』の回収に悪影響が出そうだ。

 変に目立たず、それでいて相手からの印象を良くしようと考えると、それなりが理想。

 何事もほどほどということだ。


「まあ一応、その補正は付けときますが、イケメン度はランダムになるのであしからず……」


「ほーい」


「後は種族はどうします? その理想を叶えるなら、人間以外ならエルフとかどうです?」


 運命を(いじ)れるということだ、そのあたりの生まれも変えられるのか。


「いや、人間でいい。どうせ人間の方が人口があるんだろ?」


「まあそうですね。寿命は貴方の世界の人間と変わりませんが、長い目を見るなら……」


「そういう意味でも人間でいい!」


 『大罪の神器』の回収にエルフの寿命分、格闘しろってのは勘弁してほしい。

 とはいえ、人間のその寿命を全うしなかったから、光球(こう)なってるわけだが。


「わかりました……」


 イミエルは分かりやすいほど、しゅーんとしながら魔法陣を(いじ)っている。

 変なことしないか、やはり不安だ。


「後は家とかはどうします? 貴族ですか? 平民ですか?」


 そこまでの運命(いじ)れるなら、魔法の方の才能も是非(いじ)って欲しいもんだと思うが、そこはもう考えないことにしよう。


 貴族なら、それなりの才能や情報網を見込めるだろうが、前世の記憶がある現代人としては、面倒な貴族社会はごめんなのが本音。

 平民なら、今までの俺に近しい環境になるだろうが、向こうの社会情勢と貴族とのパワーバランス次第では、キツイ人生になるだろうか。


 出した結論は、


「平民でいい」


「わかりました」


 やはり気ままに生きることや片目が無い状態で生まれることを考慮すると、貴族より平民の方がマシだろうという考え。

 それに文明はかなり進んでいると考えると、社会情勢もマシと判断。


「……よし、出来ました。これで良しですね」


 転生する準備が出来たようだ。

 何だか緊張してきた。


「ではこれより転生を始めますが、心の準備はよろしいですか?」


「あと数年待てって言ったら待つのか?」


「待てますよ。私、ここで何万年女神やってると思ってるんです?」


 千単位を超えてたとは驚きだ。

 確かにそんな女神が数年くらいなら、簡単に待てるだろう。


「待ちましょうか?」


「……冗談で言っただけだ。やってくれ」


 するとここでイミエルが何やらもじもじし始める。


「あ、あの……」


「ん?」


「たまにでいいので、『大罪の神器』の相談以外でも、連絡くれませんか?」


 何やら遠距離恋愛してる寂しがり屋の彼女みたいな発言をし始めた詐欺女神。


「何でそうなる?」


「い、言ったでしょ? 私、ここで退屈してるんです! 寂しいんです! 人の記憶を覗き見るのにも飽き飽きなんですぅ!」


 いくら違う人生を見ることができるとしても、それを何万年も続けてたら、飽きもするだろう。


 考えただけで気が滅入るな。

 だが、そのおかげでイミエルは博識なわけだが、


「……わかったよ。気が向いたらな」


「絶対! 絶対ですよ!」


「はいはい」


 いつからこの女神様の彼氏になったんだかと、その反応に困った。


 そんなことを考えながらも、彼を囲っていた魔法陣は光り輝く。

 どうやら転生が始まったようだ。


「……では私が言うのも難ですが、良い人生を送って下さいね」


「まったくだ。お前さんが言うセリフじゃないな。この詐欺女神」


 彼は皮肉混じりにそう吐き捨てると、意識が遠のいた。


 そして――残された女神イミエルはこう呟き、見送った。


「――今度こそ……」

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