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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
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08 前祭パレード

 

「ほおー……」


 フェルトは、町の大通りを埋め尽くす人混みを見て感心する。

 聖女の人気もしくは注目度だろうか、ひとめ見ようと人々が殺到している。


 フェルトにとっては、現代世界(むこう)で慣れた光景のはずだが、何分ヴァース村での生活が長かったせいか、人混みには慣れなくなっている。


「しかし、多いなぁ」


「無理もないよ。聖女様の凱旋パレードだよ。ひとめ見ようと各地から人が来てるんだから……」


 フェルト達は聖女様を拝んでおこうと、パレードにやって来ていた。

 ただ、人混みは大いに予想できたため、バラバラに見ることにしようと、凱旋パレードの移動地点を点々と分かれることにした。

 フェルト、クレア、ヘイヴンはパレードの中間地点あたりで構えていた。


「聞いてたとはいえ、随分と気の早いことだ。聖女祭までまだ一週間だろ?」


「まあまあ、これは暗殺の類とかを避ける意味もあるそうだよ」


 実際、このパレードの告知は前日に行われており、ヘイヴンの言うことには納得いくのだが、そもそも聖女祭自体、しなければよいのではと頭に浮かんだ。


「それにこの間も話したけど、聖女の巡礼の念蜜な準備もあって、早めに来たって言ってるじゃない」


「だったな」


 だがもうひとつの理由もわかっているフェルト。


 それは更に先日、フェルトに接触してきていた聖堂騎士アスベル。

 仲間に引き込もうと考えているあたり、自分を説得する意味も込めて、早めに来たのではないかと推測が立てられる。


 おそらくアスベルはフェルトを簡単に説得できるものではないと、その交渉のカードに聖女を切ろうとしているのではないだろうかと、推測される。


 そんな予想が立てられる中、クレアはまだ来ないのかなとそのルートの確認に夢中になってる中、フェルトとヘイヴンの密談が行われる。


「それで? アスベルの件はどうなった?」


「こちらで独自的に調べているが、やはり中々……」


「陛下には言わなかったのか?」


「……フレンドの眼のことを僕は知っているけれど、陛下がそれをどこまで信用してくれるのかわからない。それに陛下は聖女、カルバドス氏とも面識があり、この聖女祭ではご一緒する機会も多い。確信の無い下手な情報はかえって良くない」


 確かにフェルトやヘイヴンにとっては確信的な情報であっても、オルディバル達からは『強欲の義眼』で見た証拠の無い情報は、かえって疑心暗鬼を生む。

 しかも、聖女とは直接的ではないとはいえ、聖堂騎士から何かしらのいちゃもんをつけられ、罪に問われる可能性も高い。


 ヘイヴンはあらゆる視点を考慮した上で、慎重に情報を集めようとしてくれているようだ。


「なあ、今回アスベルは何が狙いだと思う? 俺以外」


「……今回の聖女祭に関しては、フレンドを丸め込む以外は無いと考えていいかもしれない」


「というと?」


「カルバドス氏はかなり慎重な性格だとは話したね? これから聖女の巡礼を行おうって時に下手に何かしようと行動する方が悪目立ちする」


「……確かに」


「ただ、聖都への奴隷商の行き来を許しているあたりは、王都にとって良くないことを企んでいるのは事実だろうね」


「……クーデターとか?」


「……おそらく」


 おそらくと口にするあたりは、聖都への内部調査はできていないようだ。

 以前よりそういう調査隊が問題無しと語るカラクリも気になるところ。


「だから僕の見解としては、とりあえず今回は泳がしてみた方がいいと思う。フレンドのおかげでカルバドス氏のバックに違法奴隷商がついていることがわかった。なら、どちらかが尻尾を出した時に捕らえればいい」


「それでアスベルが俺を丸め込もうとした時、その尻尾を出すように促せってか?」


「できればそうして欲しいが、一応君は平民で民間人だからね」


「ご配慮どーも」


 危険なことなど今更であると、フェルトはテキトーに返事をした。


「でもさ、今がチャンスでもあるんだろ?」


「何がだい?」


「今、聖都には聖堂騎士も少ないんじゃないか? 秘密裏に調査するなら……」


「それをやってないとでも?」


「!」


 この口ぶりから、どうやらオルディバルの調査隊は本当に色んなパターンで派遣していたようだ。


「陛下は勿論、聖堂騎士が留守になる聖女の巡礼の際にも調査隊を送り込んだが、結果は同じだった」


「問題無しと?」


「ああ。だが、しばらくしてだがな」


「しばらくして、ね」


 その『しばらく』の間に何がされたのかが気になるところ。


「てことは、その調査隊自体の身辺調査も行われたんだよな?」


 その帰ってきた調査隊に何かしらの魔法がかけられている可能性も考えただろうとのことから出た質問に、


「勿論。だが、何も出なかった」


「ふーん。つまり洗脳の類ではないと……」


「それもおそらくだな」


「おそらく?」


「魔法でなくとも話術などで人心を捕らえたり、精神的に追い詰め、洗脳できる(すべ)を持つものもいるだろう」


「なるほど。それなら【鑑定】しても気付かないだろうな」


 それはわかるフェルト。


 確かに現代世界(むこう)でも、その人間の立場などを利用し、知らぬ間に言うことを聞かなければならないような感覚に陥らせたり、言葉巧みに人の行動を操る人間もいる。


 詐欺師や宗教なんかがわかりやすいだろう。


 そういう意味では聖女は、どちらかといえば宗教に近いだろう。

 実際、この国は聖女の巡礼による地脈の制御によって、平和を維持しているという状況。

 そんな聖女を神聖視し、それにあやかるために縋ろうと考える人間がいても不思議ではない。


 現にエドワード・オルドケイア王子殿下は、オルディバル曰く、聖女に心酔しているとのこと。

 聖女自身が関与しているのか、それともアスベルが聖女を操作しているのかまでは定かではないが、少なくとも暗躍しているのはアスベルだろう。


「だからその調査隊の人間にも監視を置いているようだが、特に不審な動きもなくてね」


「だがそうするよう、命じられた可能性もあるってことか……」


 ヘイヴンは困った表情でお手上げという仕草をとった。


 そうやって数珠繋ぎをしていくと、何でも怪しくなってきてしまう。

 正直、フェルトの場合、『強欲の義眼』を使えば簡単に答えを出すこともできるのだが、いかんせんそういうわけにもいかない。


 頭痛等は勿論だが、頼り過ぎると自身で考える能力が低下する。

 そしてそんな道具の恐ろしさは、身につけているフェルト自身が痛感するところ。

 要するには使い所が大切という話だ。


「まあとにかく決定的な何かが無い限りは、動くにしてもリスクの方が大きい。カルバドス氏が暗躍している人物なのなら、聖女様を人質にとられる可能性だってあるわけだからね」


「まあな」


 明確どころか、聖都オルガシオン、聖女、聖堂騎士アスベルのウワサはどれも曖昧なことが多く、その情報を的確に知ってそうなオルディバルを始めとする人物達も、軒並み曖昧な返答ばかり。

 不信感ばかりが募り、何か喉のあたりに濃い何かが残っているような、気持ち悪い感覚がある。

 アスベルが上手く情報を操作するにしても、穴が少ない気もする。


 そんな話をしていたフェルト達に、クレアは振り向く。


「来たよ!」


 そう言われたフェルト達は遠くからの歓声を聞いた。

 どうやら聖女様が来られたようだ。


「聖女様!」

「我らが聖女様!」


 聖女が乗っていたのは、地龍に引かれたパレードフロート。

 聖女の印象を強く与えるためか、白を基調とした豪華な装飾が施されたものだった。


 そこから前聖女ユフィそっくりの銀髪の少女が無邪気に手を振っている。


「あれが聖女様……?」


「ああ。あのお方こそ、現聖女ラフィ・リムーベル様その人さ」


「ふーん」


 フェルトは前聖女ユフィの方が、神聖感があったような感覚を覚える。

 専用のパレードフロートから身を乗り出し、無邪気に手を振る姿はさながら、声をかけられて喜ぶ子供に見えたからだ。


「ほら! ボク達も声援を送ろうよ!」


 クレアは何故か、あんなガキ臭い聖女ラフィに手を振っている。


「……」


「どうしたんだい? フレンド」


「いや、何かただ担ぎ上げられてるだけに見えてな」


「まあ確かに、あんな可愛いらしい無邪気なご様子を見ればそう見えるかもしれないが、実際、儀式の際には別人のようになられるよ」


「お前もクレア同様、聖女ラフィのその儀式を見たのか?」


「勿論さ。とても神々しかったね。今までの歴代の聖女様とは格が違うね」


「ほう」


 クレアが喜んで歓迎する理由もわかったのだが、情報通なヘイヴンがここまで褒めることにも驚いた。


 というのも、


「とはいえ、僕らでは聖力を測ることはできないから、そういうところでしか判断もできないのだがね」


 聖女が持つとされる聖力は、【鑑定】できないという話だ。

 同じ聖力を持つ者でなければわからないという。

 だからそこの真偽に関しては本人達、もしくは神から与えられた力ということもあり、神のみぞ知るなのだろう。


「ふーん。はべらかしてる聖堂騎士とかこんな派手なパレードをしたがったりとか、正直、そんなところ想像もできないけどな」


 手を振るラフィの両隣には、お顔立ちが整ったアスベルと同じ制服を着ている人達がいる。

 聖堂騎士がイケメン揃いであるということを納得する光景だった。


「人には二面性があるというものさ。彼女の場合、その振り幅が広いだけさ」


「振り幅ねぇ……」


 それにしては広過ぎる気がする。


 ヘイヴンに聞いても女性を立てる発言しかしないので、そのあたりの追求はもう無意味だろう。


「じゃあ聞くけど、聖堂騎士になれる条件って?」


「カルバドス氏のような家柄の者もいるが、基本は聖女様の推薦で決められるよ」


「……マジ? つまりはあの聖女がイケメンなら採用! ってなっても周りは否定しないってことか?」


「まあ彼女の例だけ見るとそうなるが、前聖女様方は行き場を失った孤児などを引き取る名目に使ったりしたんだよ」


「へぇ……」


 孤児などは育つ環境によっては、犯罪者になりやすい。

 それを未然に防ぎつつ、教育を施すというのは、本当に聖女っぽい善人の印象が強くなる。

 それを考えれば、前聖女ユフィの印象も改めて良い印象に変わる。


「でもあの聖堂騎士達はそんな感じではなさそうだな」


「まあ聖女ラフィ様は、僕らと歳が同じで若い。まだそんな考えには至らないのではないかな? それに聖女の巡礼でお忙しいのだ、できれば最初から優秀な騎士を揃えたかったのではないかな?」


 推測はいくらでも立つが、やはり聖女ラフィについてはあまり良い印象はない。


 聖女の巡礼を理由にするならば、何故ヴァース村には来なかったのかということになる。

 実際、オルディバルから来ない理由は面倒臭いと発言していたからと聞いている。


 だからか、聖堂騎士の選んでいる基準がどうしてもイケメンであることが絶対条件に見えてくる。


 そんな会話をしながらも、ラフィの乗ったパレードフロートは進んでくる。


「さて……」


 フェルトは折角だから、試そうと考える。


 聖力は本来、【鑑定】では判断ができない力。

 それは神に近い力であり、【鑑定】の使用者が人間であるからなど、色んな憶測が飛んでいるが、神格化した『強欲の義眼』であれば、おそらく見ることが可能だろう。


 前聖女ユフィの時には、特に視れるか試そうとは思わなかったが、ラフィが凄まじい聖力を持つというのであれば、見てみようと考えた。


 ――どれほどのものか……【識別】


 フェルトは楽しそうに手を振るラフィに狙いを定めると、


「!?」


 驚愕の光景を目にすることになった。

 そしてそれを『見た』瞬間、全ての違和感がフェルトの中で合致していく。


 そして――失望したように俯いたフェルトは、


「おい、ヘヴン」


「? どうしたんだい、フレンド。そんな怖い声だして」


 怒りを露わにする声でヘイヴンに呼びかけた。


「ちょっと話がある。付き合え」


「は? そりゃないさ。折角聖女ラフィ様が来られたというのに……」


「……そんなことどうだっていい。いいから来い」


 お祭りの雰囲気をぶち壊す不穏な空気を垂れ流すフェルトの豹変ぷりに、クレアとヘイヴンも萎縮する。


「きゅ、急にどうしたの?」


 そう尋ねたクレアだったが、この表情には見覚えがあった。

 以前、ユースクリア王朝跡地での白フードの男性との接触時にしていた顔だと。


「……何か見えたのかい?」


「!」


 そのヘイヴンの問いかけにクレアは驚き、フェルトは無言で俯いた。


「見えたって、どういう……?」


 あるかもしれないと推測をヘイヴンと話していたクレアだったが、ヘイヴンがその神眼の能力があるということを明確化した言い方に問いかける。


「気にしなくていい」


 関係ないと突っぱねるフェルトだが、


「気になるよ!」


「!」


 クレアは、ハシッとフェルトの手を掴んだ。

 まるでどこか飛んでいきそうなのを繋ぎ止めるように。


「無理には聞かない。ボクにも心当たりはあるから……」


 見えるという単語、フェルトは義眼、しかも神眼と呼ばれる物を身につけていることから、自分と重なるところがあるクレア。

 自身も魔眼を持つが故に心配になる。


「でも気にはなるんだ。……前回のこともある。無茶しないでほしいの」


「……」


 するとフェルトは軽く微笑みながら、頭を撫でた。


「悪い。ちょっと感じ悪かったな。不安にもなるか。でも大丈夫だ。ちょっと気になることがあるから、ヘヴンと話をするだけだ」


「ホントに?」


「ああ。ただ……」


 フェルトは再び厳しい眼光をラフィに向けた。


「忠告しておく。あの聖女には近付くな」


「えっ?」


「できればこういうイベントであっても、参加するな」


「……あの聖女様に何かあるってことなの?」


「ああ」


 フェルトは、自分の推測が正しければラフィに近付くことすら危険と考えている。


「だったらフレンド。クレア嬢をみんなと合流させよう。話はそれからだ」


「わかった。俺としてもこんな胸糞悪いパレードなんて観ていたくないからな」


 そう言ってフェルト達は、この場を後にするのだが、先頭を歩くフェルトを見ながら、クレアは横にいるヘイヴンにこそっと会話する。


「ケルベルト君」


「何だい?」


「あの顔、以前話した白フードの男性を見た時と同じ顔だった」


「……へえ」


「……フェルト君に何が見えているのかわからないけど、絶対危険なことだと思うの」


「そうだね。あの時も確か、死の芸術家(デス・アーティスト)のメンバーであるシギィよりも警戒してたって話だったからね」


「うん。だから無茶させないでほしい」


 ヘイヴンは少し考えてみたが、フレンドのことだから、おそらく簡単に首を突っ込みそうな気がすると思った。


 だが、


「わかったよ、クレア嬢。どういう話になるかにもよるけど、少なくとも僕はフレンドの味方さ。だからそんなに心配しないでおくれ」


 クレアを紳士的に宥めることにした。


「うん、わかった。どうせボクは止められるだろうし、お願いするね。ケルベルト君」


「勿論さ!」


「おい! 早く行くぞ」


 フェルトがそう呼びかけると、ふたりは少し離されたフェルトの元へ駆け出す。


 ――ヘイヴンは、神眼の正体に少しずつ近付いているような感覚があった。

 先程のクレアの白フードの男性の話、以前ユースクリア王朝跡地での会話の推察、そして今回の聖女を見ての反応。


 だがまだ確実にする情報がない。


 だがヘイヴンは諦めることなく、根気よくフェルトと付き合おうと考える。

 それはきっとフェルトに迫る危険を少しでも回避するために必要だと考えるからだ。


 ヘイヴンはクレアの心配の通りだと考えている。

 フェルトは人喰いや前回の件を考えても、『そういうこと』に取り憑かれているような気がした。


 勿論、自分から首を突っ込んでいる節もあるので、そのあたりの判断を慎重にしたいと思った。


 フェルトの『友人』として。

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