07 聖女祭準備
――聖女祭の準備は着々と進んでいる。
町の飾り付けは進み、商人の出入りも頻繁なようだ。
その証拠に、町にはあまり見かけないような人相をちらほら見かける。
「リーウェン様ぁ♡」
「ちょっとチェンナさん。離れてくれないかなぁ?」
「何故貴女に指図されなくてはいけないんです、クレアさん!」
初めての聖女祭ということもあり、町を散策し、どんな催し物があるのか、調べているのだが、
「頼むから俺を挟んで喧嘩するのはやめてくれないか?」
その案内役が何故かチェンナとクレアだったりする。
「ほら! リーウェン様が迷惑だと言ってますわよ!」
「それはボクのセリフだね! そんなに引っ付いてちゃ、歩くのにも邪魔だろ!」
そう言ってふたりはフェルトの腕を片方ずつ掴んでいる。
最初こそ、こんなこと前世でもなかったなと悪い気はしなかったが、両側からやいやい言われると、そんな浮かれ気分も萎えていく。
「だああっ!! ふたりとも邪魔だっての!」
引き離すように振り解いた。
このふたり、正確にはチェンナの使用人も同伴だが、何故この面子で案内をされているかというと、同じ寮のユーザはギルヴァートに捕まり、グエルとアルスは変に気を遣って、辞退したように見えた。
見えたというのは、おそらくはふたりから圧があったのではないかと思われる。
「案内してくれるなら、ちゃんとしてくれないか?」
「わたくしはちゃーんとしてますわ」
「ボクだって!」
「あー……はいはい」
フェルトは、ふとヘイヴンのことを感心した。
こういう時、アイツならさらっと対処するんだろうなぁ……。
このまま主導権を握られてはいかないと、フェルトは無理矢理にでも話を聖女祭に移す。
「それで? 聖女祭って何するんだ?」
「うーんと、聖女祭は三日間行われるんだけど、基本的には商人の出店みたいなのがいっぱい出たり、イベントが行われたりすみたい。出店では結構、珍しい品とか取り扱ってる商人とかも来るみたいだよ」
「結構大きな祭りなんだな」
三日も行われるなら、商人にとっては良い稼ぎができるだろう。
だが詐欺みたいなのも出回らないか心配なところでもある。
「それで聖女様自体は何をするかっていうと、先ず初日は国王陛下にご挨拶したり、社交会があるかな? ボクも出席したことあるからわかるよ」
「ふーん」
面食い我儘聖女がしたいと言った祭りの割には、意外と真っ当なイベントもあるんだと感心した。
「それで二日目は、地脈の魔力を正す儀式が行われるの」
「三日間あるのに、ここで聖女の巡礼がはじまるのか?」
「みたいだね。いや、でもボクさ、聖女の巡礼の儀式、去年かな? 初めて見たんだけど、凄かったね!」
「そうですわね。わたくしも見ましたけれど、あんなにも神々しい儀式でしたのね」
ふたりは王都育ちではないためか、聖女祭に来た際に行われた儀式のことを振り返っているようだ。
フェルトは前聖女ユフィの儀式を幼い頃から見たことがある。
確かに銀髪が神々しき、輝いて揺れ動くのは見ていたが、ふたりのオーバーな反応ほど感動するものではなかった。
厳かに静かに、しかし確かに地脈の魔力を調整しているようで、まるで蛍が周りを飛んでいるかのような金色の魔力をゆらりと宿していたのを見ている。
「ちなみにどんな感じだ?」
「それはもう! ばあっと光が広がったかと思うと……」
「それが一気に収縮されて、一本の眩ゆい光の柱ができるのですわ! 正に地脈の魔力を整地しているのを体現しているようでしたわ」
「は、はあ……」
フェルトはやはり前聖女ユフィとは違うものなのだと、不思議そうに首を傾げていると、
「あれ? でもフェルト君は故郷が聖女の巡礼の地じゃなかったっけ? 見たことあるんじゃない?」
フェルトがヴァース村出身ということを知っているクレアからの当然の質問だった。
「いや。今の聖女様の儀式を見たことはねえよ。何せここ数年来てないからな。だが、前聖女様であるユフィ様の儀式なら見たことあるが、そんな派手な演出はなかったぞ?」
「へえー、そうなんだ。……でもそういえばローラも似たようなこと言ってたな」
「そうなのか?」
「うん。ユフィ様とは全然違うって」
「ふーん」
フェルトは聖力の差によって違うのかなぁと、無理やり納得することにした。
「そして三日目、聖女様は自身が考案のイベントを観るみたい。メインイベントは『武闘会』かな?」
「武闘会?」
「ああっ! それならわたくしも観戦しましたわ! イケメンの殿方が勇ましく魔物を退治する様は素敵でしたわぁ……」
「……」
恍惚な表情で感想を述べるチェンナに、フェルトは若干引いている。
それは武闘会なのかと。
だが聖女は面食いと聞いているので、そのイベントを考案したということには納得した。
「聖堂騎士をはじめ、腕利きのイケメンさん達が、用意した魔物を討伐するイベントなんだって」
「だってってことは、お前は見たことないのか?」
「うん、まあね」
「何で対人戦じゃないんだ?」
「さあ? 聖女様の趣味じゃない? このイベントだってそんなもんでしょ?」
「はは……」
クレアの呆れた言い方とその返答には、ガッチリとマッチするものだった。
聖女の趣味を反映したイベントであると、そもそも前置きがあった。
「ああ、ここですわ」
「ん?」
町中を歩くフェルト達がたどり着いたのは、商業区にある闘技場だった。
冒険者ギルドにも近いようで、普段は冒険者の訓練などにも使われるようだ。
「ここでその大会が行われますの。ほら……」
チェンナが指差すところには、冒険者らしき人物達が大きな布を被った何かを運んでいる。
「見世物用の魔物か……」
「じゃないかな?」
それにしても何とも中途半端というか、気持ち悪い日程だとフェルトは思ったので、
「何で最終日が聖女の巡礼の儀式じゃないんだ?」
「もしかしたら、旅支度のためじゃない? 聖女の巡礼は転移魔法を使わない半年もかけた儀式だよ? そのための旅支度を聖堂騎士が行なって、その間に聖女様には英気を養ってもらおうって腹じゃない?」
「なるほど」
それなら辻褄は合いそうだと、フェルトは納得した。
「それで? その肝心の聖女様はいつ頃来るんだ?」
「ローラの話によれば、聖女祭の一週間前くらいかなって言ってた。だからパレードの準備とかも忙しいって……」
「パ、パレード?」
「そうそう。前祭みたいなかたちでやるんだって」
現代世界でいうところのスポーツ選手とかがする凱旋パレードのイメージが過った。
相当目立ちたがりな聖女なんだろう。
「えっと……日程的には、一週間後くらいに来て、パレードを行なって……」
「その後は陛下達と聖女の巡礼の道筋とその警備について話あったり、街道の確認をしたりするみたい。今年は特にさ、人喰いのウワサも絶えないし……」
そもそも人喰いのウワサが立ってからは、街道の警備自体も万全だそうだが、聖女に万が一があるわけにはいかないから、念を押しての確認に、余裕を持った日程で望むのだろう。
「それで聖女祭が三日間行われて、その後に出立じゃないかな?」
「というかクレア。お前、やたら詳しいけど、そんなに情報が知れ渡ってるのはマズくないか?」
先程からペラペラと聖女の情報を口にするクレアに、ずっと疑問を持っていた。
それだけ情報が開示されていると、聖女を他国の人間が狙い、オルドケイア全域に影響を与えようという輩が現れても不思議ではないと考える。
「前回の聖女祭の時を反映したのと、ボクはローラからも聞いてるからね。一般的にはこの情報は漏れてないよ」
とはいえ、やはり情報の開示はあまりよろしくはないと考えたフェルトは、
「はは、さいですか」
苦笑いした。
「ていうか最近のローラは聖女様に対する愚痴ばかりでね。嫌でもそういう話をされるのさ」
「珍しいな、あの姫殿下が愚痴を零すなんて……」
砂漠を歩く際にも文句を言わなかったエメローラが、聖女に関しては不満たらたらだということには驚く。
「無理もないんじゃないかな? 元々前までの聖女様方はそんな催しをやってほしいなんて要望はなかったし、規模も規模だから用意する側は大変だよ」
確かに、いくら祭りで経済が潤う可能性があるとしても、それ以上にやらなければならないことは多い。
それを統括、管理する側が大変なことは頷ける。
「それに最近付いたローラのお目付役は融通も効かないらしくてね」
「あー……そういえば真面目そうな騎士さんがついてたな」
エメローラはあの誘拐以来、解雇されたヴォルノーチェ兄妹に代わり、大人の騎士が二名ほどついているのを確認している。
「陛下の過保護もわかるんだけど、ほとんどピッタリくっついてくるらしく、ボクとのお茶の機会でさえ、お側を離れないとかいう始末でね。少しはプライベートを寄越せって、怒鳴ってたよ」
「……そ、相当溜まってんだな」
自業自得とはいえ、フェルトはあまりに不憫だと思った。
「ま、そういうことだから、色んな不満をボクにぶつけてるのさ」
「そりゃあ、ご苦労様」
「別にいいさ。それだけボクには心を開いてくれてるって証拠だしさ」
愚痴を素直に零せる相手というのがいるだけでも、エメローラにとっては救いだろう。
「まあでもフェルト君の懸念も尤もさ。確かに聖女様の予定がバレるのはマズイからね。でも警備は万全だよ。元々人喰いもウワサされてたんだ、街道の強化はされてたし、ボクらの件もあって、町中の警備体制も見直されてるよ。冒険者ギルドにもその手の依頼を増やしたって、ローラも言ってた」
「そっか」
するとチェンナは周りの変化の話から、自分の近辺の報告をする。
「そういえば! わたくし達の寮でも新しい使用人が増えましたわ」
スパイとして潜り込んでいた笑顔の娯楽提供者の連中の穴埋めだろうか。
「おいおい。それ大丈夫なのか?」
「大丈夫みたいだよ。ちゃんと身辺調査がされた上で雇ってるみたい」
以前より厳しくされているのだろうか。
ふたりは安全だとわかっているような口ぶりで、その入ってきた新人達について語る。
「アリスちゃんに限っては中々不憫だったみたいだね」
「不憫って?」
「……仕事が失敗し過ぎて、色んなところを転々としてたみたい」
「仕方ないんじゃありませんこと。あんなにドジばかりする人、初めて見ましたわ」
チェンナにここまで言わせるということは、相当できないメイドなのだろうか。
「どんなドジ踏んでる娘なんだ?」
「何もないところでつまづいたり、掃除をすれば何かしら破壊するし、皿を洗えば割り、洗濯物を洗えば、転んで汚し、お茶汲みをすれば量が極端だったり、後は……」
「ああー……もういいもういい。何となーくわかった。とにかく仕事ができないメイドさんなんだな」
要領を得ない、メイドの仕事の合わない人物なのだろう。
それでもメイドの仕事をするのは、他に選択肢がなかったのだろうか。
「でももうひとりのメイドさん、ハルマさんはできる人だね」
「ですわね。アリスの失敗のフォローをぜーんぶやってましたもの」
「ふたりでセットなんじゃないかって思ったほどだねー」
それはハルマってメイドの方が不憫なのではと、フェルトは思った。
「でもハルマさんのこと、ちょっと避けてる娘もいたね」
「何で?」
「何でも急に没落した貴族の使用人だったみたいでね。呪われてるんじゃないかって、ウワサされてるの」
そんな根も葉もないウワサで人を判断するのはどうかと思うが、あの事件があって以降、寮の貴族嬢達は変にシビアになっているだろう。
「まあ無理もありませんわ。社交会でもとても評判の良かった方だっただけに、あの急な落ちっぷりを見せられると、どうしてもウワサは立ちますわ」
貴族に対しては割と真っ当な評価をするチェンナに驚く。
「どうされまして?」
「いや、お前のことだから何も知らないのかと……」
「いやですわ、リーウェン様。わたくし、これでもあのお母様に叩き込まれているのですよ。それにリーウェン様のおかげで、色々わかりましたし……」
チェンナはチェンナなりに成長したのだろうが、フェルトは自分のおかげだとは思ってほしくないと、顔が引き攣る。
「リーウェン様に相応しい女になってみせますわ!」
「あー……別にならなくても大丈夫ですよ」
「それは今のわたくしの方が良いと!?」
「――ポジティブ過ぎやしませんかね!?」
やんわり躱したつもりだったが、ハッキリ言わなければわからないらしいのだが、
「ハイハイ、フェルト君が嫌がってるのがわからないようじゃあ、ダメダメですねー」
クレアが割り込んで来る。
そしてそれを勿論、良しと思うはずもないチェンナは頬を膨らませながら、不機嫌な顔をする。
「貴女には関係ありませんわ!」
「大いにあります!」
やいやい揉め始めたふたりを横目にチェンナの専属メイドが語る。
「心配には及びません、リーウェン様。おふたりのこのご様子を見て頂いてわかる通り、ハルマさんにそんなウワサのようなことはありません」
「お、おう」
フェルトはそこを心配しているのではないと、的外れな返答に動揺すると、
「そしてリーウェン様が心配なされている、以前のスパイのようなこともありませんよ。おふたりとも私達と打ち解けていますし、色んな話もしますよ」
今度は心配していた方の指摘を受けた。
「そっか」
だがチェンナの専属メイドがこう言うのなら、大丈夫なのだろう。
その色んな話の中には、ハルマがそういうウワサが立っていることから、きっと生い立ちみたいな話もしたのだろう。
「ですがまあ、大体はリーウェン様のお話ばかりですが」
「は?」
「やはりリーウェン様の勇姿を忘れられることはなく、特にルドラー大臣を追い詰めたところなんて……」
「は、はは……」
女子貴族寮では当分、自分の話題で持ちきりになってしまうのだなぁと、この三人の反応からフェルトは愕然とした。
「――びええええええーーーーっ!!!!」
突然大きな泣き声が聞こえ、思わず四人はびくんっとその声の方向を向いた。
するとそこには、大泣きする少年とあわあわした様子で酷く動揺しているアンジュの姿があった。
「ああっ!? な、泣かないでください! 泣きたいのはこちらですぅ……」
「――ママぁああああーーっ!!!!」
「あぁああああ!?」
見ていられなくなったフェルト達が駆け寄る。
「どうしたんです?」
「見てわかる通り、迷子の対応を……って、フェルト君!?」
名前で君付けしているのが気になったのか、クレアとチェンナがジトッとフェルトを見る。
ガキの頃、世話になったんだから、そんな目で見るなよ。
そう思ったフェルトは、気さくに話しかける。
「お久しぶりです、アンジュさん。それで? 何でアンタがここに?」
アンジュが特別な任務などを行なう、特殊騎士部隊所属だということは、以前ヴァース村に来た時に知っているフェルト。
だからこんなところで迷子サービスセンターみたいなことをやっていることに疑問を持った。
「見てわかりませんか? 迷子の対応――」
「――ママぁああああーーーーっ!!!!」
「ああっ!? だ、だから何でそんな大泣きするんですか!? 私が何かしましたか?」
話をしようにも迷子の子供が遮ってしまう。
しかも何故か、アンジュを見ては泣き出してしまう。
それを見たクレアはアンジュ同様、その少年に目線を合わせるため、屈んで尋ねる。
「ママ、いなくなったの?」
すると少年はスンっと、あっさり泣き止み、こくんと頷いた。
「そっか。でもボク? 男の子なんだから泣いてばかりじゃ、何もわからないぞ?」
「……うん」
泣き止んだのを安心してか、アンジュが話しかける。
「そのお姉ちゃんの言う通りですよ。泣いてばかりでは――」
「ううっ……ぁああああーーっ!!!!」
何故かアンジュが話しかけた途端、少年は泣き出した。
それを見たアンジュが当然のツッコミをする。
「何故ですか!?」
「……アンジュさんって、もしかして子供には好かれないタイプですか?」
フェルトは、正直アンジュの性格はとても明るく素直だという印象から、逆に子供に好かれるものとばかり思っていたのだが、どうにも違うらしい。
「そうみたいなんですよぉ〜。特にこれくらいの子供からは好かれないようで、よく大泣きされるんですぅ〜」
その少年は、まだ四、五歳ほどに見えた。
これくらいの子供は何かと敏感だと聞く。
アンジュから何かしらの気配でも感じるのだろうか。
「特にモンスター・ディザスターの任務を終えたあたりくらいから、よく泣かれるようになりまして……」
本当に子供は何かしらの気配を感じ取っているのではないかと、匂わせるような言動。
「そりゃあ残念でしたね」
「そのくせ何故か、迷子にはよく遭遇するんです……。彼で五人目です」
ここまでくると気の毒だと、フェルト達は苦笑いを浮かべると、
「オッケー。とりあえずその子の親、探しますか」
――数分後。
「――ありがとうございました!」
大泣きしていた少年の母親と無事合流。
チェンナの時もそうだが、『強欲の義眼』を使えば、迷子探しなど朝飯前だ。
母親はぺこぺこ何度もお辞儀しながら、フェルト達の元を離れていくが、その少年はこちらをジトっと見ながら母親にしがみついている。
クレアが軽く手を振ると、朗らかな表情で手を振り返すが、アンジュが手を振ると、母親に顔をうずめていた。
「……アンジュさん、何か取り憑いてんじゃないですか?」
「こ、怖いこと言わないで下さい! 私、日頃の行いはいいですよ」
そこは関係ないんじゃないかと思ったフェルトは、やっと本題に入れると、ひと息吐く。
「それで? 何でアンジュさんはここに? ディアンさん達は?」
「隊長達は調査任務中ですよ。私は聖女祭が近付いてきてますから、そのための警備に駆り出されてます」
「えっ? クビになったの?」
「――人聞き悪いこと言わないで下さい!」
あっさりと否定したあたりは、違うようだ。
「じゃあ何で?」
するとアンジュは、めちゃくちゃわかりやすく目が泳ぎ始める。
「い、いや、まあ、色々あるんですよー。適材適所、みたいな?」
「いやいや、アンジュさんにとって適材適所だって判断されたから、特殊騎士部隊なんてとこにいるんでしょ? それなのに何でここにいるのって言ってんだけど?」
「そ、それは……」
するとクレアが軽く小首を傾げながら尋ねた。
「もしかして機密情報を漏らした、とか?」
「………………」
図星を突かれた様子のアンジュは、フェルト達と目を合わせることをやめた。
「ア、アンジュさん……」
「し、仕方なかったんです! 被害者の方を思えば、その、つい……」
どうやら何かしらの情報を、とある被害者に提供してしまったのをディアンにバレてしまったようだ。
確かにアンジュはかなり人が良さそうであり、良心に訴えかければ、簡単に話してくれそうだ。
ということでフェルトは、そんな良心を利用してやろうと、悪戯猫みたいな目でこう言った。
「人喰いの情報とかもあるってことですよね?」
「それは勿論! ――ふぐっ!?」
反射的に答えてしまうようで、アンジュは思わず口を塞ぐ。
この人、チョロい。
「い、言えませんよ! 人喰いのことについてはまだ調査中ですが、その被害者、特にフェルト君には話しちゃいけないって……」
「ふーん。名指しで言われるほどなんだぁー」
「し、しまった!?」
おそらく貴族嬢救出で、ディアンは解決能力があるフェルトにそんな情報を渡してしまうと、行動を起こしてしまうと危惧しているのだろう。
しかし、叩けば埃が出るとは正にこのこと。
フェルトとしては有難いことだが、同時に心配になってもいる。
「それに言っちゃいけないってことは、ある程度の情報も入手したってことかな?」
「ど、どうしてそのことを!?」
そもそもヘイヴンが人喰いの情報を持っているという時点で、ディアンが調べられていないわけがないだろう。
ヘイヴンは自業自得でもあるのだが、屁理屈によって話してくれないので、簡単に話してくれそうな方から聞き出そうとする。
するとフェルトがこういう心理戦が得意なのを知り、アンジュのポンコツぷりを見たクレアが、呆れたため息を吐きながら助け舟を出す。
「アンジュさん……貴女はもう喋らない方がいいですよ。フェルト君にぜーんぶ吐いてしまいそうです。また隊長さんに怒られたいんですか?」
「へえっ!? い、いえ、そんなことは……」
「……余計なこと言うなよな」
「あのねぇ……」
するとアンジュはその助け舟に乗っかり、
「わ、私はこれにて失礼します」
ビュッとこの場を後にしたが、何故か再び戻ってきた。
「あ、そうそう。私は聖女祭が終わるまで、王都で警備任務についてますので、何か困ったことがあれば、いつでも声をかけてくださいね」
真面目なアンジュらしい気遣いに、フェルトは皮肉で返答。
「あー……はい。その時は、大泣きしてる子供の声を頼りに探してみます」
「で、できればその方法で探して欲しくはありませんが、本当にそれで見つけられそうで反論できません」
そうしょんぼり落ち込みながら、その場を去っていった。
「まったく。フェルト君、少しは手加減してあげないと、アンジュさん、可哀想でしょ?」
「いや、あの人がチョロいのが悪いだろ」
フェルトはアンジュが実力があることは、子供の頃の人喰い戦を生き残った実績から知っており、その実力を買われ、特殊騎士部隊にいるのだろうと考えるが、それ以外は中々ポンコツではないかと、苦笑いしながら見送った。




