05 謁見3
「せ、聖女のことというのは……?」
オルディバルはあまり聞かれたくないことを突かれたように、困った表情を見せる。
「去年、というより前聖女様がお亡くなりになられてから、一度もヴァース村へと来て頂いたことがない。いくらウチが元冒険者の多い集落だと言っても、戦えない人だっているんだから、ちゃんと聖女の巡礼をしてほしいんですけど? それにこのことは国にとっても重要なことじゃないんですか?」
聖女の巡礼は地脈の魔力の流れを正常化し、魔力の乱れによる災害や魔物の暴走などを抑えるための儀式のはず。
「むう……。た、確かにその影響で以前、モンスター・ディザスターが発生したわけだからな」
フェルトは、雷鳴の活躍があった事件だと思い出す。
「モンスター・ディザスターって?」
「確か、魔力の乱れに生じて魔物達が大量発生、暴走状態になる現象のことですよね?」
「その通りだ、フェルト・リーウェン。二年前は特にそれが大規模で発生してしまったからな……」
しかもその一年前に人喰いの事件がフェルトの故郷で起きている。
「でもモンスター・ディザスター、起きてねえよな?」
「そうですね。聖女様が最低限のところは巡礼されましたから、あれほどの規模のものは発生してませんが……」
「うむ。まあ、以前よりは魔物が凶暴化していることは否定できんな」
ヘイヴンの発言によれば、おそらく王都近郊や聖都などの重要視されるところは、ちゃんと行なっているらしい。
「まあそのモンスター・ディザスターを起こさないためにも、他の、それこそユクシリア大陸とこみたいな流行病を起こさないためにも、聖女様にゃあ、ちゃんと仕事をするように言ってもらいたいんです」
聖女の巡礼は大変なのだろうが、今までやれてきたことをやれないというのは、継承される事柄としては成り立っていないだろう。
「「「……」」」
そこまで言ってもオルディバルをはじめとする、オルディバル側は困った表情で渋っている。
「何でそんな顔を……」
フェルトは自分達の言っていることは、特に的を外してはいないだろうと、不思議そうに尋ねようとすると、ヘイヴンが肩を叩く。
「フレンド。陛下には陛下のご事情があるのさ」
「……お前、なんか知ってそうだな」
「知ってるから止めてるのさ。陛下もそこに関しては悩まれておいでなのだよ」
「あん?」
フェルトは何を言ってんだと、ヘイヴンに少し不機嫌そうに尋ねると、オルディバルが困っている事情を話す。
「フェルト・リーウェン。あー……何だ。情けない話なのだが、今回の聖女様は前聖女様であるユフィ殿と違い、その……中々に気難しい方でな……」
「はあ……」
本当に困っているようで、大きなため息を吐きながら理由を語る。
「君の故郷に限らず、辺境の地での巡礼は行われていないのだ。彼女の体力などを考慮してな」
「確か、俺達と同じ歳でしたっけ?」
「ああ」
「いや、だとしてもやりようはあるでしょ? 転移魔法を用意するとか……」
「いや、フレンド。道中の地脈を辿るように行なう儀式でもあるんだ。乗り物の類は大丈夫らしいが、さすがに転移魔法などは無理だ」
「なるほど……」
フェルトは、どうやら自分が考えてる以上に聖女の巡礼というのは大変なようだと気付く。
「それでもこの国の在り方とか学んでるはずだろ? それを考えれば、聖女様もやらなきゃって思うもんじゃないか?」
聖女はその巡礼の意味を理解できるよう、教育が施されていると思われる。
それによりオルドケイア大陸は、安定化されているという歴史がある。
その役目をわかっていれば、体力づくり等の努力もされているのではないかとフェルトは考えた。
「……あまりこんなことを言いたくはないが、今年の聖女様はとても我儘な方でな。そんな疲れることをしたくないそうだ……」
「……は?」
だが、答えはあまりにも失望するものだった。
「え、えっとぉ……要するには疲れるから面倒臭いってことで、俺の故郷みたいな辺境の地を訪れないと?」
「あ、ああ……」
「いやいやいやいや!! そんなテキトーな理由が通るのかよ!? あんた国のトップ! 陛下だろ!? そんなもん、勅命でも言い放てばいいじゃねえか!」
フェルトは思わず、国のトップに暴言を吐き捨てる。
だが、これは仕方のないことだった。
オルディバル国王陛下にも聖女にも、今みたいな言い訳をされれば、怒りもする。
今まで守られてきた伝統とこの大陸において重要視される事柄を面倒臭いという理由だけでやらないことには失望しかなく、それを容認しているオルディバルにも問題があると思ったからだ。
「フレンド、陛下相手だよ」
「そうだぞ! 無礼な発言は慎め!」
フェルトの発言に物申すヘイヴンと大臣だが、
「ざけんな! 国のトップの在り方じゃねえだろ! 文句言われたって仕方ねえだろうが、こんなこと! それとも何だ? 聖女の方が立場が上ってか?」
オルディバルは自身が悪いのをわかってか、ヘイヴンと大臣を抑え、語る。
「フェルト・リーウェンの言う通りだ。本来、そんな理由がまかり通っていいわけがないし、国民のことを思うなら、聖女様に巡礼を正しく行なってもらうのが一番だろう」
「わかってんじゃねえか。……それともやっぱり権力は向こうの方が上なのか?」
「いや、そう言うわけでもない。知っているとは思うが、聖女様は平民だ。さすがに私より上ということはない」
「だったら何で!?」
全部が間違っており、立場も上なら何とかなるだろうにと問い詰めると、やはりオルディバル側は困った顔を浮かべる。
「……聖女様は言うことを聞かないなら、聖女の巡礼をしないと言ってきたのだ」
「は? 要するには自分がこのオルドケイアにとって重要な人物だから、それを利用して脅迫してるってことか?」
「「「……」」」
オルディバル側の三人が黙る中、俺の言葉にオルディバルは頷いた。
「……呆れた。それ、本当に聖女様なのかよ」
「コラコラ、フレンド。安易にそんなことを口にしてはいけないよ」
「でもなぁ……」
「聖女様だってひとりの蝶々ちゃんさ。聖女という肩書きに重圧を感じ、我儘になることは仕方のないことさ。ましてや母を亡くした、僕らと同じ十五の蝶々ちゃん。もっと優しくしてあげるべきだろ?」
その言い分はわからないでもないフェルトだが、
「それをわかって、疲れるだの、面倒臭いだの言ってる聖女様にそんな繊細な神経をお持ちだとは考えにくいけどな」
皮肉混じりにハンっと笑いながら返答した。
するとオルディバルは他にも理由があると語る。
「その彼女の我儘もあってか知らずか、聖都の立ち入りもかなり制限されていることも問題でな。聖女様と交渉したくてもできない状況にある」
「……そんなもん、国王陛下が謁見するとか何とか言えば入れるだろ」
権力はオルディバルの方が上なのだからと考える。
「勿論、そうしたさ。だが……」
「だが?」
「……何故か聖女様の我儘を通すかたちで話が進んでしまったのだ……」
「は?」
もう意味がわからなかった。
オルディバルの『進んでしまった』という発言は、まるで他人が話を進めたように聞こえたからだ。
「いやいやいや、陛下! ちゃんと話したんだよな?」
「そ、そうなのだが……それらを決めた記憶が無いのだ……」
「はあ!? さっきからデタラメばっかり……」
また怒鳴り散らそうとするフェルトを大臣とフェルマが止める。
「落ち着け、フェルト・リーウェン。それは本当のことなんだ」
「はあ!?」
「お、俺や大臣も同行していたが、聖都に入ってからの記憶が飛び飛びなんだ……」
「はあ……?」
様子がおかしいと怒る気力を削がれたフェルト。
「聖都は以前より、聖女が代替わりした際に入国制限を設けられていた。その申請理由としては、聖女様を守ることや聖女様の教育のためとされており、我々も了承したのだ」
「まあ、それだけ聞けば納得の理由だな」
「だが、日を跨ぐほどに妙なウワサが立つようになってな」
「ほう」
「奴隷商などの立ち入りが行われているのではないかとウワサされたのだ」
「!?」
オルドケイア大陸での奴隷はいるものの、それはあくまで犯罪者などの罰則などであり、違法取引を行なう奴隷商は、原則禁止である。
「それで陛下達はそのウワサの審議を確かめるべく、訪れたのだが……特に異常は見られなかった。ということですよね?」
「う、うむ。その通りだ、ケルベルト」
「でも異常は見られなかったけど、陛下達自身には異常があったんじゃないですか」
オルディバル達は記憶が一部飛んでいると語っていることから、その『異常が無かった』は信用できないのではないかと思った。
それはオルディバル達もわかっていたようで、
「フェルト・リーウェンの懸念は尤も。だから、正式なかたちでの別動の調査隊派遣や秘密裏に動ける諜報員も派遣したのだが……」
「全員、特に異常は無いと返ってきた」
「……」
何だか真相が霧に隠れているように思えてきた。
何かあるのは間違いなさそうだが、どんな方法を使っても調査した結果が一律して『異常無し』と返ってくる。
少しどころか、かなり不気味だ。
「更に向こうには私の息子がいる」
「息子?」
「ああ。第一王子のエドワード・オルドケイア様だ」
「へえ……」
「聖都の方に留学していてな。最初こそ、真面目に勉強をしていたのだが……」
何かここでも変化があったらしい。
「私が訪れ、再会したときには、随分と聖女様にご執心の様子でな。とにかく話が通じるような状態ではなかったのだ……」
そう語るオルディバルは、何故ああなってしまったのかと、失墜するような表情を見せた。
フェルトはここまでの話をまとめ、オルディバルが聖女の言いなりの理由を語る。
「つまり陛下は、異常が無いと調査されている聖都に首を突っ込みづらく、この国を左右する聖女と王子の言い分を通すしか無い状況に追い込まれてしまってるってこと?」
「……」
その通りだと、詫びるようにゆっくり頷いた。
でも話を聞く限りは異常はありそうだが、全部異常無しで返ってくる。
調べれば調べるほど、向こうは何もないのにと、嫌悪感が募り、それを利用するかたちで、オルディバルを追い詰めているようだ。
立場があることやエドワードのこともあり、下手に強く出られないのだろう。
「しかし、今年の聖女様は双子だろ? 両方ともそんな性格だなんて、最悪だな」
「「「「……」」」」
何か事情を知ってそうなオルディバル側とヘイヴンは、急に無言になった。
「えっ? なに? そこも何かあるわけ?」
「いや、まあ色々あるのだが……と、とにかく、フェルト・リーウェン。善処はしよう。何とか説得できないか試みてみよう……」
これ以上は話したくないのか、無理やり話を切られてしまった。
「……」
フェルトは色々納得いかないまま、オルディバルとの謁見は終了した。
***
そんな謁見から数日後の夜。
「ほい、お待たせ」
「「「「「おおおおっ!!」」」」」
兼ねてより行おうと言っていた、救出祝いの祝勝会が行われた。
参加しているのは、救出に向かった組の面々。
救出された貴族嬢やメイド達は思い出させるかもしれないということを考慮し、呼ばなかった。
そしてガルマも欠席させた。
あの事件の影響で、色々あったガルマに対し、祝勝会というのも皮肉だと考えたからだ。
だが、
「僕も誘ってもらえるだなんて、意外だったよ」
ヘイヴンは誘った。
この男の活躍あっての救出だったことを考慮すると呼ばざるを得なかった。
「ま、一応な」
フェルトはそう言いながら、料理を並べる。
フェルトはこちらに転生してからの趣味として、料理にハマっていたりする。
娯楽が少なく、現代世界での料理を再現できないかということから、始めた趣味。
フェルトは元々料理もできる上、『強欲の義眼』による【識別】も可能なことから、現代世界での料理に適した食材を見分けることが可能なことから、再現が可能だったりする。
ちなみに味見役にも困ることはなく、
「今日のも美味えよ! フェルト!」
「おう。たーんと食えよ」
基本、ユーザやアルスが味見役をするのだが、グエルは――どうしてもと言うならばとツンデレを披露しながら食すこともある。
そんな料理の数々はグリフォン隊の先輩達にも好評なようで、
「う、美味い!! 何だ、この料理は!?」
「本当に美味しいわ! ちょっとフェルト・リーウェン! ウチでシェフでもやらない?」
「……ま、まあ大したもんだよ」
「本当ね。私達も結構色んなものを食べたけど、こんなの初めて……」
「先輩方にも好評で何よりです」
エイク、ミント、ジェイク、キイリン全員から絶賛の声を貰った。
「でも何だか悪いわね。貴方達が主役の祝勝会なのに、その当人が料理を作るなんてね」
ミント達は誰かの家に呼んで、お抱えのシェフにご馳走を作ってもらう予定だったらしい。
だが、フェルト達が貴族の家にお呼ばれするのを拒否したことから、平民の男性寮での主催となった。
「別にいいですよ。俺としても料理を他の人達に振る舞う良い機会ですし、それに先輩方がいなかったら、そもそも飛空艇に乗り込むこともできなかったんです。あとは心配させたお詫びも含めています」
そう言って、ミントの前にプリンを置いて見せたフェルト。
「な、何よ……これ!」
ぷるぷると震える謎の物体に興味深々のミント。
フェルトは同じ女性であるキイリンの目の前にも置いて、食べるよう促す。
「女性は甘いもん好きでしょ? 上手くいってると思いますが試作のお菓子です。どうぞ」
ふたりはそう言われたので、カラメルを含めてプリンをひとすくいし、口に運ぶと、
「「!?」」
ふたりの目が爛々に輝いた。
「な、何これ!?」
「甘〜い!!」
「おっ? ちゃんと美味しいですか?」
「美味しい! 美味しい!」
「おい、フェルト! 俺、その黄色いの、知らないぞ」
「あー……はいはい。お前らの分もちゃんとあるって……」
この後、ミントとキイリンにプリンのレシピを教えたフェルト。
何でもシェフに作ってもらうと張り切っていた。
「しかし、フレンド。これほどの料理の腕前なら料理人でも目指したらどうだい?」
「おう! それは俺も思った。絶対向いてる」
「はは。そりゃどうも」
フェルトからすれば、あくまで前世の記憶から模倣した料理。
さすがに自分が自作したとは言い難く、そんな盗作のような真似などできるはずがなく、できるわけねぇだろと内心、思っていたりした。
そんな風に盛り上がる祝勝会の中、フェルトは自分で作った料理を食しながら文句を言う。
「しかし、国王陛下の対応があんなんだとはなぁ」
「まだ言ってるのかい? フレンド」
「だってよぉ……」
フェルトはオルディバルとの謁見以来、納得がいかないとぶつくさ言っていたりする。
「仕方ないじゃないか。聖女様はこの国とって大切なお方、多少の我儘は目を瞑らないとね。それに……男として女性の我儘は聞くものさ」
「あー……ハイハイ、そーですね」
聖女という言葉を聞いたエイクが、そういえばと語る。
「お前達、帰ってくるタイミングが良かったな。もう少し遅れてたら、『聖女祭』に間に合わなかったろうからな」
「聖女祭?」
聞き慣れない単語に首を傾げるフェルトに、ミントがコップの氷をカラカラ鳴らしながら語る。
「聖女様を迎えるためのお祭りで、聖女の巡礼を行なう前に英気を養ってもらおうっていうことで、王都で主催されることになったのよ」
「へえー」
フェルトは、そういえば町中で色々飾り付けをされていたことを思い出す。
「王都ではそんなことをやってたんですね。俺の故郷の村でも小規模ではあったんですが、そんなことやってましたね」
村の中心の広場で大鍋を囲って、馳走を振る舞っていたことを思い出す。
聖女に感謝し、喜んでもらおうとしていたことだという。
そんな懐かしむフェルトを横目に、アルスから衝撃のひとことが飛んでくる。
「まあ、聖女祭が行われ始めたのは、一昨年からだけどね」
「――ぶっ!?」
フェルトは飲んでいた水を吹き出す。
「は、はあ!? 一昨年!? 聖女の巡礼が行われてた当初からされてたもんじゃねえの!?」
王都だからてっきりと思っていたフェルトが驚愕する中、畳み掛けるように、その聖女祭の真意が明らかになっていく。
「いや、前聖女様まではそんなことなどせず、むしろ粛々と静かに行われていたことさ。君の村のように歓迎するところはあっただろうが、少なくとも聖女からそれらを求めるようなことはなかったさ」
求めるという単語に嫌な予感が過る。
先日のオルディバルの困った表情が嫌でも浮かんだ。
「この聖女祭は現聖女様であるラフィ様が考案されたことさ」
やっぱりと思ったフェルトの表情は引き攣っている。
「何でも、これから聖女の巡礼という苦行を行なうのだから、盛大に労ってほしいって国王陛下に駄々こねたらしいわよ」
「……マジかよ」
「それで二年前くらいから始められたのか?」
「そうだね。当時は国王陛下もモンスター・ディザスターが起きたこともあり、あっさり受け入れたよ」
ご機嫌取りはそこから始まっていたのだと、フェルトがほとほと呆れているが、
「だがまあ、実際やってみると良かったことが多かったけどな」
「何でですか?」
「祭りが行われれば、多方面から人が集まってくるでしょ? だから経済的にも良かったことなのよ」
「なるほど」
聖女という宣伝効果もあり、国の経済を回す要因のひとつとなったというわけかと納得した。
多少の危険はあるだろうが、そのあたりは警備を増員し、対応したのだろう。
「とはいえ、今年の聖女様はなーんかやりたい放題なのよねぇ」
どうやらミント達も不満があるようだ。
「国王陛下も頭を抱えてましたしね」
フェルトは実際見たことをそのまま語ると、
「でしょうね。聖女の立場を利用して言いたい放題らしいから……」
貴族界隈では、しっかりとウワサされているようだった。
そんなウワサの中に、こんな話もあるとミントが語る。
「聖女様には専属の騎士がいるんだけど、その騎士達は全員イケメンだったり、ダンディだったりする人ばっかり雇ってるんだって。いいご身分よね」
「そうそう。由緒ある聖堂騎士様の歴史を汚すようなことらしいわね。何でも、顔さえよければ無理やり聖堂騎士にしてるなんてウワサもあったわ」
「随分と無茶苦茶だなぁ……」
そんなウワサ、知らなかったとユーザとグエルも驚く。
「その上、王子殿下まではべらかしてるってウワサだし、あんな聖女のどこか魅力的なのかしら」
「コラコラ、ミント。聖女様の悪口は……」
「わかってるわよ! でも、そんなことも言いたくなるわよ……。あんな面食い!」
我儘放題の面食い聖女とは、聖女という名前からは途方もないほどかけ離れた存在だと、苦笑いを浮かべたフェルト。
「そうよね。幼い頃に王子殿下とはご挨拶させて頂いたけれど、とてもしっかりしてらっしゃる性格だったという印象があっただけに、聖女様にご執心というウワサは衝撃だったわ」
どうやらここにいる貴族の面々はエドワードと会ったことがあるようで、そのウワサは偽りではないかと思ったほどだったらしい。
「でも実際、聖都に閉じこもっているところを見ると、本当に聖女様のことを気に入ったようだね」
「戻ってないのか?」
「ああ。留学されてから一度も」
「ほえー」
前聖女であるユフィを見たことがあるフェルトからすれば、その容姿を受け継いでいるならば、確かにエドワードがお熱になる理由も頷ける気がした。
「とにかく今回の聖女様達は色々と問題ありなんだよ。ユフィ様の時は本当に良かった……」
ジェイクの発言に、んっ? と思ったフェルト。
「達って、ふたりともそんな性格なのか?」
「バカっ! ジェイク!」
「あっ……!」
マズイ事を口走ったと、ジェイクは自分の口を塞いだ。
フェルトは、先日のオルディバルと似たような反応をしたことに不信感を抱いた。
「何かそのあたりも知ってるんです?」
「い、いや……知らないならいいのよ」
平民側であるフェルトは勿論、アルス、ユーザ、グエルも首を傾げる。
フェルトとしては、故郷に聖女の巡礼をしてほしいため、情報はできる限りほしいところ。
そのフェルトは強行手段に出る。
「そっか。お持ち帰り用にプリンを用意してたんですが、要りませんか……」
「なっ!? あ、あんた! それを人質に取るなんて卑怯よ!」
「はあ? 俺が作ったものなんで、どうしようが俺の自由でーす」
すると女性の味方であるヘイヴンが、仕方ないとため息を吐いて自白する。
「フレンド、あまりこんなことを言いたくないから、大まかに説明するよ」
「おう」
ヘイヴンにしては珍しい前振りだと思った。
「聖女様は双子だということは知ってるね?」
「ああ。俺の村でもウワサされてたからな」
「そのうちのおひとりであるネフィ様は、とあることから――奴隷になっている」
「……はあっ!?」
聖女が奴隷になっていると知り、平民側は驚愕する。
「せ、聖女様が奴隷!? そ、そんなこと――」
「シーッ! それを知ってるの、一部の貴族だけなんだから、あまり大きな声で言わないの!」
「……あまり公にできないのは、君達自身の反応でもわかるだろう? 絶対口外してはいけないよ」
するとアルスとグエルはユーザの口を塞ぎ、こくこくと頷いた。
確かに、この国の要ともされる聖女のひとりが奴隷にされている事実は、国家機密レベルなのだろう。
「でも一部の貴族が知ってるって……」
「リーウェン君! それ以上はマズイって!」
止めるグエルだが、ヘイヴンはフェルトの性格をわかってか、ある程度白状してくれる。
「その裁判に参加した貴族が知っているということさ。ここにいるその子息方はその裁判、親が見ていたのさ」
「なるほど……」
おそらく内容までは知らずとも、親が部屋で呟いてたのを立ち聞きしたという感じだろうか。
大人であっても、驚愕する内容であることから、この国の未来を懸念する独り言でも聞かれたのだろう。
ただヘイヴンは詳しい内容まで知ってそうだが、『とあること』と内容を濁していることから、これ以上はペラペラと喋りもしないだろう。
それにヘイヴン本人としても、女性が奴隷になった経緯など喋りたくもないだろう。
「これで国王陛下もお困りの理由がわかったかい?」
「ああ。片方のラフィ、だっけ? そっちの聖女様は我儘面食い聖女であり、適当に聖女の巡礼を行い、ネフィって聖女様は奴隷だから、表立って聖女の巡礼ができない。で、いいのか?」
「そんなあたりだ」
奴隷になってしまった経緯は気になるが、とにかく聖女も聖都も色々問題がありそうだと思った。
しかもそれについて調べようとするが、オルディバルの話曰く、すべて問題無しで返ってくる。
問題を解決しようにも、その問題を浮き彫りにできない状況ではどうしようもないようだ。
すると、コンコンとノックが鳴った。
「随分と楽しそうだな」
「!? ギ、ギルヴァート先生!?」
ヘイヴン以外、ガタッと立ち上がったが、ギルヴァートはため息を吐く。
「別に咎めるためにそんなことを口にしたわけではない。楽しむのは結構だが、あまり遅くなり過ぎるなよということだ」
「は、はい。それは勿論。先生もせっかくですから、参加されますか?」
「いや、遠慮しておく。俺はそういうのはあまり得意ではない」
一同はそうだろうなと思った。
「それじゃあ、何用で?」
ギルヴァートが祝勝会みたいなものが苦手なら、何故声をかけたのか気になった。
すると、そのギルヴァートは少しギロっとフェルトを睨む。
「フェルト・リーウェン……」
「えっ!? お、俺ぇ? 俺また何かしました? 補習授業も終わったでしょ?」
フェルトとグエルは何とか終わったが、ユーザは未だにヒィヒィ言っている。
「……それはこっちが聞きたい。お前こそ、こんな知り合いがいたとは知らなかったぞ」
「は?」
するとギルヴァートは予想外の客人がいると語る。
「聖堂騎士がお前と話をしたいそうだ」




